Intelの将来を左右するとも言われるファウンドリ(半導体受託製造)事業。その最先端プロセスである18A(1.8nm相当)および14A(1.4nm相当)の外部顧客からの受注が、現時点では「重要ではない」規模に留まっていることが、同社のDavid Zinsner CFO(最高財務責任者)によって明らかにされた。 この発言は、ボストンで開催されたJ.P. Morganグローバル・テクノロジー・メディア・アンド・コミュニケーションズ・カンファレンスでのものであり、Intelが直面する厳しい現実と、2027年頃の黒字化に向けた戦略の一端が示された形だ。
最先端プロセス18A/14Aの現在地:期待と現実のギャップ
Intelは長年、自社製品の設計・製造を一貫して手がけてきたが、近年はTSMCやSamsungといった競合に対抗すべく、外部企業からの製造委託を受けるファウンドリ事業への本格参入を目指している。その切り札となるのが、18Aやさらにその先の14Aといった最先端の製造プロセスである。
しかし、David Zinsner CFOは「テストチップの段階でいくつかの顧客が離脱することもある。確定的な受注量は現時点では確かに重要ではない」と述べ、外部顧客の獲得が計画通りに進んでいない可能性を示唆した。 18Aプロセスについては、まずIntel自身の製品、具体的には今年後半に市場投入予定のクライアントPC向けプロセッサー「Panther Lake」で採用され、これがファウンドリ事業としての「最初の勝利」になると位置づけられている。 内部での採用実績をもって、外部顧客への信頼性をアピールする戦略のようだ。「まずは自社製品で実力を証明し、それから顧客の関心が高まるのを見ていく必要がある」とDavid Zinsner氏は語っており、いわば「提供者である自分自身で使ってからリリースする」ことの重要性を強調している。
一方で、AIチップの巨人NVIDIAやカスタムチップメーカーのBroadcomがIntelの製造プロセスでテストチップを製造中であるとの報道も4月にはあったが、今回のCFOの発言は、これらのテストが必ずしも大規模な量産契約に直結していない現状を浮き彫りにしている。 18Aは外部顧客にとっては、Intelの実力を測る「概念実証(proof-of-concept)」としての意味合いが強い可能性がある。
真の勝負どころは、14Aプロセスとなりそうだ。David Zinsner CFOは「18Aと比較して、14Aではより多くの外部からのボリュームが必要になる」と明言している。 その理由の一つとして、14Aで導入が計画されているHigh-NA(開口数)EUVリソグラフィ装置の存在がある。 このASML製の最先端装置は、より微細な回路形成を可能にする一方で、非常に高価である。 そのため、投資を回収し利益を生み出すには、Intel社内需要だけでは不十分で、大規模な外部顧客の獲得が不可欠となるのだ。
2027年黒字化へのシナリオ:険しい道のりと多角的な戦略
Intelファウンドリ事業は、現在、四半期ごとに数十億ドルの損失を計上しており、まさに先行投資の段階にある。 そんな中、David Zinsner CFOは、ファウンドリ事業が2027年頃に損益分岐点に達するとの見通しを改めて示した。 これを実現するためには、「外部顧客から年間で数十億ドル規模の収益が必要になる」としている。
この外部収益は、18Aや14Aといった最先端プロセスだけでなく、より多角的な要素で構成される見込みである。具体的には、先端パッケージング技術、Intel 16のような成熟したプロセスノード、そしてUMCやTower Semiconductorといった企業との提携による収益も含まれるとDavid Zinsner氏は説明している。 つまり、最先端プロセス一本足打法ではなく、幅広いポートフォリオで収益機会を追求する戦略と言える。
興味深いのは、Intel自身も必要に応じて外部のファウンドリ(主にTSMC)を利用し続けるという点である。 「最高の製品を顧客に提供するため」であり、また「IntelファウンドリがIntel製品部門の全てのウェハを巡って競争する健全な力学」を生み出すためだとDavid Zinsner氏は語っている。 これは、自社ファウンドリに過度な負荷をかけず、コスト効率と技術的優位性を天秤にかける柔軟な姿勢の表れとも解釈できる。実際、次世代デスクトップCPU「Nova Lake」ではTSMCの2nmプロセスを利用するとの情報もある。
新CEO Lip-Bu Tan氏の改革とIntelの針路
今年3月に就任した新CEO、Lip-Bu Tan氏の手腕も注目される。David Zinsner CFOは、Lip-Bu Tan氏が「大規模な変更を考えているわけではない」としつつ、「現時点で最大の問題は実行力の欠如だと感じている」と指摘した。 Lip-Bu Tan氏は、経営陣の直属レポートラインを15〜17人に増やすなど、組織のフラット化を断行。 これにより、現場の声を迅速に吸い上げ、意思決定のスピードと質を向上させる狙いがあると見られる。 また、ノンコア資産の売却(Altera部門の株式一部売却など)による事業の選択と集中も進めている。
世界的な半導体サプライチェーンにおいて、多くの企業が特定ファウンドリへの依存を避け、セカンドソースを求める動きが加速している。 この流れは、Intelファウンドリにとって大きなチャンスとなり得る。「顧客はセカンドソースを求めている。その機会を我々は掴みたい」とDavid Zinsner氏は意欲を見せている。
しかし、道のりは平坦ではない。TSMCの牙城は高く、Samsungも虎視眈々とシェア拡大を狙っている。Intelがファウンドリ市場で確固たる地位を築くには、技術的な優位性はもちろんのこと、顧客との強固な信頼関係、そして何よりも計画を着実に「実行」していく力が問われることになるだろう。今回のCFOの発言は、Intelが抱える課題の大きさを改めて認識させると同時に、その克服に向けた強い意志を示したものと言える。果たして、Intelはファウンドリ事業という新たな収益の柱を確立し、再び半導体業界の盟主として輝きを取り戻すことができるのだろうか?
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