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Intel 18Aの性能はTSMC・Samsungの2nmプロセス超え?TechInsights評価でトップに

Y Kobayashi

2025年4月15日

Intelの次世代プロセス「Intel 18A」が、性能面で競合をリードする可能性を示す評価結果が登場した。独立系調査会社TechInsightsの分析によると、Intel 18AはTSMCやSamsungの同世代プロセス候補を上回る性能スコアを記録。長年ファウンドリ事業で苦戦してきたIntelにとって、大きな転換点となるかもしれない。

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TechInsights評価に見る「Intel 18A」の性能指標

半導体プロセスの競争は、ナノメートル(nm)スケールの微細化競争から、実際の性能や電力効率をどう高めるかという、より複雑な段階に入っている。その中で注目されるのが、Intelの意欲的なプロセス「Intel 18A」である。

台湾メディア3C Newsが報じたTechInsightsの調査・計算によると、2nm級とされる主要プロセス候補の性能比較において、Intel 18Aは明確なリードを示した。TechInsightsが独自に設定した評価スケールにおいて、Intel 18Aのスコアは2.53。これに対し、ファウンドリ最大手のTSMCが開発中の「N2」は2.27、Samsungの「SF2」は2.19と評価された。

  • Intel 18A: 2.53
  • TSMC N2: 2.27
  • Samsung SF2: 2.19

この数値は、あくまで特定の評価基準に基づくものではあるが、Intel 18Aが少なくとも現時点での分析において、2nm級プロセスの中でトップクラスの性能ポテンシャルを持つことを示唆している。KeyBanc Capital Marketsのアナリスト、John Vinh氏もレポートで、Intel 18AのKPI(重要業績評価指標)、特に歩留まり(Yield)と欠陥密度(Defect Density)が良好な傾向にあり、許容可能な水準に達していると指摘しており、性能評価の信憑性を補強する材料となっている。

性能を支える革新技術:RibbonFETとPowerVia

では、なぜIntel 18Aはこれほど高い性能を発揮する可能性を秘めているのだろうか?その鍵を握るのが、Intelが導入する二つの革新的な技術、「RibbonFET」と「PowerVia」である。

RibbonFET: これはGate-All-Around(GAA)と呼ばれるトランジスタ構造の一種だ。従来のFinFET構造が進化したもので、電流が流れるチャネル(リボン状のナノシート)の周囲すべてをゲート電極で囲む。これにより、ゲートがチャネルをより精密に制御できるようになり、リーク電流(漏れ電流)を抑えつつ、より高速なスイッチング動作、すなわち性能向上を実現する。

PowerVia: こちらは業界初となる「バックサイド・パワーデリバリー・ネットワーク(BSPDN)」、つまりチップの裏面から電力を供給する技術だ。従来のチップでは、信号線と電力供給線が同じチップ表面(フロントサイド)に混在していた。PowerViaでは、電力供給線をチップの裏面に配置することで、表面の配線層を信号線専用に使うことができる。これにより、以下のようなメリットが生まれる。

  • 配線抵抗の低減: 電力供給経路が短縮・最適化され、電力損失が減る。TechPowerUpによると、これにより固有抵抗(IRドロップ)が大幅に低減するという。
  • 信号線配線の最適化: 表面の配線層が信号線に専念できるため、より効率的な配線が可能になり、信号遅延の削減に貢献する。
  • トランジスタ密度の向上: 電力供給線を裏面に移すことで、チップ表面のスペース効率が向上し、トランジスタ密度やセル利用率が5~10%向上する。
  • 性能向上: 電力供給の安定化と配線効率の向上により、ISO(同一消費電力)条件下での性能が最大4%向上するとされる。

Intel自身の発表によれば、これらの技術革新により、Intel 18Aは前世代の「Intel 3」プロセスと比較して、1ワットあたりの性能が15%向上し、トランジスタ密度は30%向上するという。まさに、性能と効率の両面で大きな飛躍を遂げるプロセスと言えるだろう。

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製造進捗とSRAMスケーリングの壁突破

Intel 18Aの優位性は、設計上の理論値だけにとどまらない。製造面でも着実な進捗が見られる。

2025年3月には、IntelのエンジニアリングリードであるPankaj Marria氏がLinkedInで、アリゾナ州の工場でIntel 18Aを使用した最初の生産バッチが成功裏に完了したことを報告している。これは、Intelが「リスク生産」と呼ぶ段階であり、2025年後半からの量産開始に向けた最終ストレステストの段階に入ったことを意味する。

さらに、Intel 18AはSRAM(キャッシュメモリなどに使われる高速メモリ)のスケーリングに関しても進歩を見せている。これまで微細化が頭打ちになったと考えられていたSRAMセルだが、Intel 18Aでは、高性能SRAMセルがIntel 3の0.03 µm²から0.023 µm²へ、高密度SRAMセルは0.021 µm²へと縮小している。これはそれぞれ0.77倍、0.88倍の縮小率に相当する。

PowerVia技術もSRAMの微細化に貢献している。「around-the-array」と呼ばれるアプローチで、電力供給ビア(貫通電極)をI/Oや制御回路周辺に配置することで、メモリアレイ本体への電圧降下や干渉を防ぎつつ、ビットセル領域をフロントサイドの電源配線から解放した。その結果、38.1 Mbit/mm²という高いマクロビット密度を実現しており、これはTSMC N2にも匹敵するレベルとなっている。

これらの製造面での進捗やSRAMスケーリングの実現は、Intel 18Aが製品として高い競争力を持つ可能性を示している。最初の搭載製品として期待されるCPU「Core Ultra 300シリーズ “Panther Lake”」は、John Vinh氏のレポートによれば、2025年後半に予定通り登場する見込みだ。

業界へのインパクトと今後の展望

Intel 18Aの性能優位性が確かなものとなれば、半導体業界の勢力図に変化をもたらす可能性がある。

  • Intel自身の復活: 長年TSMCやSamsungに先行を許してきたIntelにとって、最先端プロセスでのリーダーシップ奪還は悲願である。18Aの成功は、PC向けCPUだけでなく、サーバー向けや、さらにはファウンドリサービス(IFS)事業の拡大にも繋がるだろう。
  • ファウンドリ市場の競争激化: 高性能なプロセスを求めるNVIDIA、Broadcom、AMDといった大手チップ設計企業にとって、TSMC、Samsungに加えてIntelという新たな選択肢が現実味を帯びてくる。実際に、ReutersはNVIDIAとBroadcomがIntel 18Aのテストランを実施中であり、AMDも評価中であると報じている。
  • 新たなアプリケーション: KeyBancのJohn Vinh氏は、Intelが任天堂の次世代ゲーム機「Switch 3」(仮称)向けのGPU製造を18Aプロセスで受注する可能性まで示唆している。これが実現すれば、Intelのファウンドリ能力を強く印象付けることになるだろう。(ただし、2025年4月に発表されたSwitch 2はNVIDIA製のカスタムプロセッサを採用しており、Switch 3の情報は現時点では推測の域を出ない点に注意が必要だ。)

もちろん、TechInsightsの評価は一つの側面であり、実際の製品における性能、消費電力、そして量産時の歩留まりとコストが最終的な競争力を左右する。しかし、Intel 18Aが性能面で強力な候補として浮上してきたことは間違いない。RibbonFETとPowerViaという野心的な技術を武器に、Intelが再び半導体製造の最前線で輝きを取り戻せるのか、注目したいところだ。


Sources

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