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重力は「情報圧縮」のために存在する?シミュレーション仮説を裏付ける新理論

Y Kobayashi

2025年5月1日

ポーツマス大学のMelvin Vopson博士が発表した最新の研究は、物理学の根幹に関わる「重力」に対する我々の認識を大きく変える物だ。博士は、重力とは宇宙が情報を圧縮・最適化しようとする計算プロセスの一部であるのではという大胆な理論を提唱しており、私たちが住むこの宇宙が、実は高度なシミュレーションであるというSFのような仮説に、科学的な裏付けを与えるかもしれない。

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重力の本質は「情報圧縮」か?

Albert Einsteinの一般相対性理論によれば、重力は質量が時空を歪めることによって生じる。しかし、なぜ質量が時空を歪め、物体が互いに引き合うのか、その根源的な理由は完全には解明されていない。Vopson博士はこの長年の謎に対し、「情報物理学」という新しい視点からアプローチしている。

博士が提唱する「情報力学第二法則」は、従来の熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)とは対照的に、情報システムのエントロピー(情報の乱雑さや不確定性の度合い)は時間とともに減少するか、一定に保たれる傾向があるとするものだ。

この法則に基づくと、宇宙に存在する物質や物体は、それ自体が持つ情報を最小化するように振る舞うと考えられる。Vopson博士は、重力による物体の引き寄せ合いは、まさにこの「情報エントロピー」を最小化するためのプロセスであると主張する。

宇宙の計算効率化としての重力

博士は、宇宙空間を微小な「基本セル」がピクセル状に敷き詰められたものとして捉えている。各セルは、物質が存在すれば「1」、存在しなければ「0」というバイナリ情報を記録するデータストレージとして機能するという。これは、デジタルコンピューターゲームやVR(仮想現実)が世界を構築する仕組みと酷似したものだ。

もし複数の粒子が同じセル(あるいは近接するセル)に存在する場合、宇宙(あるいはそれを動かす計算システム)は、それらを一つのより大きな粒子にまとめ、一つのセルで表現する方が計算効率が良い。「複数のオブジェクトの位置や運動量を追跡・計算するよりも、単一のオブジェクトを扱う方がはるかに計算的に効率的です」と博士は説明する。

つまり、重力によって物質が引き寄せられ、惑星や恒星、銀河が形成される現象は、宇宙が自身の情報量を圧縮し、計算負荷を軽減しようとする「最適化プロセス」の現れである可能性があるというのだ。これはコンピューターがデータをZIPファイルのように圧縮してストレージ容量を節約し、処理速度を向上させることに似ている。

宇宙シミュレーション仮説への新たな視点

「私たちの宇宙が巨大なコンピューターのように機能している、あるいは現実がシミュレーションによって構築されているという考え方に、今回の私の発見は合致します」とVopson博士は述べている。「コンピューターがスペースを節約し、より効率的に動作しようとするのと同じように、宇宙も同様のことをしているのかもしれません。これは重力について考える新しい方法です。単なる引力としてだけでなく、宇宙が秩序を保とうとするときに起こる現象として捉えるです」。

この理論は、Vopson博士が以前に発表した「情報には質量がある(質量・エネルギー・情報等価原理)」という研究や、「宇宙の基本粒子はDNAのように自己に関する情報を保存している」という考え方に基づいている。これらの先行研究が、情報が物理的な実体であり、宇宙の根源的な構成要素であるという今回の主張の土台となっている。

他の理論との関係と今後の展望

重力をエントロピー的な力として説明しようとする試みは、Erik Verlinde博士による「エントロピック重力理論」などが存在する。Vopson博士の研究も同様の結論(重力が基本的な力ではなく創発的な現象である)に至るが、そのメカニズムの根拠が異なる。Verlinde理論がホログラフィック原理と熱力学的なエントロピー増大に焦点を当てるのに対し、Vopson博士の理論は情報力学第二法則による情報エントロピーの「最小化」を駆動力とする点で独自性のあるものだ。

Vopson博士の研究は、ブラックホールの熱力学、ダークマターやダークエネルギーの謎、さらには重力と量子情報理論の関係性といった、現代物理学の未解決問題にも新たな光を当てる可能性がある。

もちろん、宇宙が本当に計算機的な構造物であるかどうかは、まだ未解決の問題である。しかし、重力のエントロピー的な性質、特に情報圧縮という側面は、情報が物理的現実の基本的な構成要素であり、データ圧縮が宇宙の物理プロセスを駆動しているという説得力のある証拠を提供する。

今後の研究では、この理論的枠組みをさらに洗練させ、相対論的、量子的重力理論への適用可能性を探求し、実験的な検証方法を模索することが重要となるだろう。


論文

参考文献

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