2026年1月12日、Meta(旧Facebook)のCEO、Mark Zuckerberg氏は、同社のAIインフラストラクチャ戦略を根本から再構築する新部門「Meta Compute」の設立を公式に発表した。

Threadsへの投稿によると、この新イニシアチブは単なるサーバー増強計画ではない。今後10年間で「数十ギガワット」、長期的には「数百ギガワット以上」という、国家レベルの電力消費を伴う超巨大インフラ構築を目指すものである。

さらに注目すべきは、この物理的拡張を支えるための人事戦略だ。Goldman Sachsの元幹部であり、Trump政権下で大統領副補佐官を務めたDina Powell McCormick氏が、Metaの社長兼副会長(President and Vice Chairman)として招聘された。

本稿では、Metaが直面するAI開発の現状、エネルギー問題、そしてテクノロジーと地政学が交差するこの巨大プロジェクトの全貌を見てみたい。

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Meta Compute:組織構造の再編と役割分担

Zuckerberg氏がThreadsで明らかにした構想によれば、Meta Computeは従来のITインフラ部門の枠を超え、エネルギー調達、サプライチェーン、そして国家間パートナーシップまでを包括する戦略的組織となる。その指揮系統は、以下の3名のキーパーソンによって構成される。

Santosh Janardhan:技術実装と運用の守護神

Metaのグローバルインフラ責任者であるSantosh Janardhan氏は、引き続き「技術的アーキテクチャ、ソフトウェアスタック、シリコンプログラム、開発者の生産性、およびグローバルデータセンターフリートとネットワークの構築・運用」を統括する。2009年からMetaに在籍する彼は、同社のエンジニアリングの要であり、物理的なデータセンターの稼働と最適化という「実行部隊」を率いることになる。

Daniel Gross:未来戦略とサプライチェーンの設計者

一方、2025年にMetaに加わったDaniel Gross氏(元Safe Superintelligence共同創業者)は、新たな役割を担う。彼は「長期的なキャパシティ戦略、サプライヤーとのパートナーシップ、業界分析、計画、ビジネスモデリング」を担当する新グループを率いる。
SiliconANGLEやThe Registerの分析によれば、Grossの役割は、単なる調達にとどまらず、将来のコンピューティング需要を予測し、必要なチップやサーバーを確保するためのエコシステム全体を設計することにある。Janardhanが「現在と短期」の実行を担うとすれば、Grossは「未来と長期」の戦略を担う形だ。

Dina Powell McCormick:国家・金融資本との架け橋

今回の発表で最も異彩を放つのが、Dina Powell McCormick氏の起用である。彼女の役割は、「政府やソブリン(主権国家・政府系ファンド)と提携し、Metaのインフラを構築、展開、投資、資金調達すること」にある。
これは、AIインフラ競争がもはや一企業のバランスシートだけで完結する規模を超え、国家レベルの許認可や、政府系ファンド(SWF)のような巨大資本との連携が不可欠なフェーズに突入したことを示唆している。

「ギガワット級」の衝撃とエネルギーの現実

Zuckerberg氏が言及した「数十ギガワット」という数字は、IT業界の常識を逸脱している。1ギガワット(GW)は10億ワットに相当し、これは原子力発電所1基分の出力に匹敵する場合もある。

米国電力網への負荷と原子力への回帰

現状、米国のデータセンターの電力需要は急増しており、ある予測では2030年までに50GWを超える可能性があるとされる。Meta単独で「数十GW」を目指すという宣言は、既存の電力網(グリッド)に依存するだけでは達成不可能であることを意味する。

これまでの報道を見てみてると、Metaはこの巨大な電力需要を満たすため、原子力エネルギーへのシフトを鮮明にしていることが明らかになる。

  • TerraPower、Okloとの契約: 次世代の原子炉(おそらくSMR:小型モジュール炉)に関する契約。
  • Vistraとの提携: 既存の原子力発電所からの電力供給。
  • Constellation Energyとの既存コミットメント: これらを合わせると、すでに約6.6GW分の原子力電力が契約済みであるという。

インフラ投資の規模

Metaの2025年度の設備投資額(CapEx)は720億ドル(約10兆円以上)に達すると予測されており、その大半がAIインフラに向けられている。これだけの巨額投資を正当化し、さらに拡大するためには、McCormick氏のような金融・政治のプロフェッショナルによる「資金調達」と「規制緩和への働きかけ」が不可欠となる構造が見て取れる。

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Zuckerberg氏が急ぐ背景:Llama 4の不振と焦燥

Metaがこれほど性急かつ大規模なインフラ拡張に舵を切った背景には、同社のAI開発における「誤算」が存在すると分析できる。

モデル性能の停滞

2025年にリリースしたMetaの最新オープンソースモデル「Llama 4」に対する市場の反応は芳しくなかった。GoogleやOpenAIの最先端モデルと比較して能力が劣ると評価されており、社内の機械学習の権威であるYann LeCunの去就や、OpenAIとの人材獲得競争における苦戦も伝えられている。

「量」で「質」を凌駕する戦略

ソフトウェア(モデルアーキテクチャ)でのブレイクスルーが停滞する中、Zuckerberg氏は「圧倒的な計算能力(コンピュート)」という物理的な力技で局面を打開しようとしているように見える。
報道によれば、Zuckerberg氏はオープンソース戦略から一部転換し、「Avocado」や「Mango」というコードネームの独自(プロプライエタリ)モデル開発に動いているとも言われる。これら次世代モデルのトレーニングには、Llamaシリーズとは比較にならないほどの計算リソースが必要となるため、インフラの垂直統合とエネルギー確保が急務となったのだ。

AIインフラの「国家戦略化」

今回のMeta Compute設立と人事から読み取れるのは、AIインフラストラクチャが、純粋なテクノロジー領域から、エネルギー政策および地政学的な領域へと完全に移行したという事実である。

  1. エネルギーの私有化と自立: Metaは電力会社からの受動的な供給を待つのではなく、原子力ベンチャーへの直接投資を通じて、自社のための発電能力を確保しようとしている。これは、テック企業が実質的なエネルギー事業者になることを意味する。
  2. 政治力による突破: データセンター建設は、水資源の枯渇や地域電力網の圧迫といった問題から、各地で反発を招いている。Trump政権とのパイプを持つMcCormickの起用は、こうした地域の政治的・規制的障壁を、連邦レベルあるいは国際レベルの政治力学で突破しようとする意図が透けて見える。
  3. コンピュートの戦略物資化: Zuckerberg氏が述べた「インフラ構築の方法が戦略的優位性になる」という言葉は、AIモデルそのもの以上に、それを生み出す「工場(データセンター)」の規模と効率が勝敗を決するという認識への転換を示している。

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シリコンバレーからワシントン、そして発電所へ

Meta Computeの始動は、Metaが単なるSNS企業やメタバース企業から、巨大な物理インフラとエネルギーを運用する重厚長大産業へと変貌しようとしている証左である。

「数千億ドル規模の投資」「原子力発電所の確保」「ホワイトハウス経験者の登用」。これら一連の動きは、AI覇権争いが、アルゴリズムの優劣を競うフェーズから、物理的リソース(電力・土地・チップ)と政治的リソース(資金・規制)を総動員する総力戦へ移行したことを明確に告げている。Llama 4での躓きを、圧倒的な物量と政治力で挽回できるのか。Zuckerbergの賭けの代償は、米国のエネルギー地図をも書き換える規模になりつつある。


Sources