Metaが数年来開発と中止を繰り返してきたスマートウォッチ計画が、ついに日の目を見るかもしれない。中国メーカーとの提携で復活したこのプロジェクトは、9月の発表が噂されている。他社製品の単なる模倣品ではない、カメラを搭載したこの野心的な一手は、ウェアラブル市場の勢力図を塗り替えるのだろうか。
復活した「不死鳥」プロジェクト、9月にヴェールを脱ぐか
一度は完全に中止されたと考えられていたMetaのスマートウォッチプロジェクトが、再び息を吹き返した。DigiTimesが報じたところによると、Metaはこの野心的なウェアラブルデバイスの開発を再開し、9月17日から開催される年次開発者会議「Meta Connect」での発表を視野に入れているという。
この復活劇の鍵を握るのが、中国のODM(Original Design Manufacturer)大手、Huaqin(華勤通訊技術)との新たな提携だ。 HuaqinはSamsungやHuawei、Xiaomiといったトップブランドのスマートフォンやスマートウォッチの製造実績を持つ、世界有数のメーカーである。 この提携は、Metaが今回のプロジェクトに本腰を入れていることの何よりの証拠と言えるだろう。
しかし、発表の確実性については慎重な姿勢が求められる。 過去に何度も浮上しては消えていった経緯を踏まえれば、Connectでの発表が単なる「予告」に留まる、あるいは再び延期される可能性も否定できないのが現状だ。
カメラは「飛び道具」か、それとも「必然」か
このスマートウォッチを既存製品と一線を画す存在たらしめるのが、カメラの搭載だ。 2022年にリークされた初期プロトタイプ、コードネーム「Milan」の画像では、Fitbit Versaを彷彿とさせる筐体の前面と背面にカメラが確認されている。 さらに、ケースをバンドから取り外せる特殊な機構も備えており、手持ちでの撮影を想定していたことがうかがえる。

だがこのカメラは、単なる写真撮影機能に留まらない。MetaのAI戦略と密接に結びついた機能、例えばRay-Ban Metaスマートグラスで実装されているような視覚情報に基づくAI検索や、リアルタイム翻訳などの中核を担うと見ている。
しかし、過去を振り返れば、初代Samsung Gearなどカメラを搭載したスマートウォッチが市場に受け入れられなかった歴史もある。 Metaは、手首のカメラが単なる「奇抜な機能」ではなく、ユーザーにとって「なくてはならない機能」であることを証明できるのか。その手腕が問われることになる。
Wear OSではない「独自OS」という選択
興味深いことに、このスマートウォッチはGoogleのWear OSではなく、カスタムされたAndroid OSで動作すると報じられている。 この選択は、Metaのエコシステム、すなわちQuestヘッドセットやRay-Banスマートグラス、そして同社のソーシャルメディアプラットフォームとの、より深くシームレスな連携を可能にするための戦略的な判断だろう。
一方で、一部ではApple WatchやSamsung Galaxy Watchのような高度な健康追跡機能は、限定的になるのではないかとの見方もある。 Metaの焦点はあくまでヘルスケアではなく、XR(クロスリアリティ)とAI体験の拡張にあるのかもしれない。
これは単なる腕時計ではない。Metaの描く「AIウェアラブル生態系」
このスマートウォッチを単体の製品として見るのは、本質を見誤るだろう。注目すべきは、Metaが構築しようとしている「AIウェアラブル生態系」における、その戦略的な位置づけである。
このデバイスは、すでに市場で成功を収めているRay-Ban Metaスマートグラス、そして将来登場するであろう本格的なARグラス「Orion」と連携するハブとして機能することが期待される。 最近、同社が論文発表したsEMG(表面筋電図)技術を用いたリストバンドは、指の微細な動きを意図しただけでデバイスを操作できる、まさにSFのような技術だ。 このスマートウォッチが、そうした次世代入力インターフェースの礎となる可能性は十分にある。
Metaの狙いは、私たちの「手首」を、スマートフォンに次ぐ次世代コンピューティングプラットフォームの入り口へと昇華させることにあるのではないだろうか。
巨人がひしめく市場と「プライバシー」という名の試練
とはいえ、その道のりは平坦ではない。スマートウォッチ市場は、AppleとSamsungという巨人が圧倒的なシェアを握る鉄壁の牙城だ。 特に、iPhoneとApple Watchの強固なエコシステムに慣れたユーザーを振り向かせるには、カメラ機能がいかに魅力的であっても、相当な困難が伴うだろう。
そして、Metaが決して避けて通れないのが「プライバシー」という根源的な課題だ。 常に身につけるデバイスにカメラが搭載されることへの抵抗感は根強い。過去にはスマートグラスへの顔認識機能搭載が検討されたとの報道もあり、ユーザーの懸念を払拭するための透明性と慎重な姿勢がこれまで以上に求められる。
Metaがこの野心的な製品で成功を収めるかどうかは、技術的な革新性だけでなく、ユーザーからの信頼をいかにして勝ち取れるかにかかっている。9月のMeta Connectが、その試金石となるだろう。
Sources
- DigiTimes Asia: Exclusive: Meta turns to China for a second shot at smartwatches
