フランスのMistral AIは2026年10月29日、AIモデル「Mistral Large 4」(通称「Le Chonk」)の改良版について、学習済みの重みを公開した。10月6日にAPIのプレビュー提供を開始したモデルに約3週間の追加学習を施したもので、利用者が自社の計算環境にモデルを導入できるようになった。同社は発表の中で「改良したMistral Large 4の重みを本日公開する」と明らかにしている。
Mistralは、追加学習によってコード処理の性能が向上し、出力トークン数も削減できたと報告している。ただし、第三者による総合評価やAPI利用費用を比較すると、中国の競合モデルに対する優位性は必ずしも一様ではない。外部APIを利用するか、自社でGPUや電力、運用体制を確保するかという選択も含め、どのような業務でMistral Large 4を採用する利点があるのかを見極める必要がある。
3週間の追加学習で変わったコード処理性能
Mistralによると、追加の強化学習を施した改良版は、ターミナル操作を伴う課題を評価する「Terminal-Bench 4.0」で41%のスコアを記録した。10月6日のプレビュー発表時には28.3%だったため、約13ポイントの改善となる。同社は出力トークン数も30%削減したと報告しているが、課題の達成率と生成トークン数は異なる指標であり、分けて評価する必要がある。
データを表で見る
| スコア (%) | |
|---|---|
| 10月6日プレビュー | 28.3 |
| 10月29日改良版 | 41 |
同じ課題を処理する際の出力トークン数が減れば、APIの利用料金や応答時間を抑えられる可能性がある。ただし、Mistralが報告した30%という削減率は出力トークン数に関するものであり、すべての業務で料金や処理時間が同じ割合で減るわけではない。実際の効果は、入力と出力のトークン数、処理内容、利用する推論設定などによって変わる。
別のコード評価指標「Coding Agent Index」では、48%を記録した。Mistralは、中国の「GLM-5.3」と実質的に同等の成績を収めながら、課題当たりの平均トークン数を47%削減できたと説明している。ただし、この47%もトークン数の比較であり、そのまま費用の削減率を意味するものではない。また、10月6日の発表に掲載された49.8%という旧指標と今回の48%は評価条件が異なるため、性能の時系列比較には使用できない。
Mistralはさらに、Cognitionによる非公開のコード評価「FrontierCode 2.0」で19.7%を記録し、同社が発表した比較では重みを公開しているモデルの中で最高の成績を収めたとしている。一方、Artificial Analysisが公表した同名試験の結果には異なる数値が掲載されている。両者が同一条件で評価したかは確認できないため、異なる資料の数値を単純に比較して順位を判断することはできない。
推論の深さは「low」「medium」「high」の3段階から選択でき、初期設定は「high」となっている。「low」は従来の「None」に代わる設定で、課題の難易度や用途に応じて推論に割り当てる処理量を調整できる。ただし、推論設定を下げた場合にトークン数や費用がどの程度減るかについて、今回の発表では一律の削減率は示されていない。
総合評価とAPI利用費用で見る競合モデルとの差
コード処理の評価が高くても、幅広い課題を対象とした総合評価で同じ順位になるとは限らない。AIモデル評価事業者Artificial Analysisの「Intelligence Index v5」は、9つの評価試験を用い、知識業務、コード、科学、一般の4分野をそれぞれ25%の重みで集計する仕組みだ。コード分野の2試験は、合わせて総合得点の4分の1を占める。
以下の表は、Artificial Analysisが公開しているMistral Large 4、GLM-5.3、DeepSeek V4.1 Flash 1017の各モデルページから、2026年10月29日時点のIntelligence Index v5の得点と、加重平均API課題費用をまとめたものだ。推論設定は各ページの公表値に従っている。
| モデルと推論設定 | Intelligence Index v5 | 加重平均API課題費用 |
|---|---|---|
| Mistral Large 4 high | 26点 | 2.06ドル |
| GLM-5.3 max | 32点 | 5.01ドル |
| DeepSeek V4.1 Flash 1017 max | 32点 | 0.60ドル |
総合得点はMistral Large 4 highが26点であるのに対し、中国の2モデルはいずれも32点となっている。一方、課題当たりのAPI費用はMistral Large 4がGLM-5.3を下回るものの、DeepSeek V4.1 Flash 1017より高い。ただし、「high」と「max」はモデルごとに異なる推論設定であり、同じ計算予算で比較した結果とは限らない。また、ここで示した課題費用はAPIのトークン単価だけでなく、生成トークン数やキャッシュの利用状況、評価課題の構成などを反映した加重平均値だ。数値は今後変動する可能性があり、自社環境でモデルを動かす場合の費用も含まれていない。
GLM-5.3との比較では、Mistral Large 4は総合得点で下回る一方、測定された課題当たりのAPI費用は低い。これに対し、DeepSeek V4.1 Flash 1017との比較では、総合得点と課題費用のいずれにおいても、今回の測定結果からMistral Large 4の優位性は確認できない。こうした違いは、コード処理での性能向上が必ずしも総合評価の高さにつながらないことを示している。ただし、コード以外のどの試験が得点差に大きく影響したのかまでは、今回の比較では分析されていない。
また、Intelligence Index v5と旧版のv4では評価方法が異なるため、得点を直接比較することはできない。モデル選定では総合得点だけでなく、評価対象や推論設定を確認したうえで、実際に利用する業務に近い課題を試すことが重要になる。
APIのトークン単価も、課題当たりの費用とは分けて考える必要がある。Mistral Large 4の現行料金は100万トークン当たり、入力が0.70ドル、キャッシュ済み入力が0.07ドル、出力が2.10ドルだ。実際の支払額は入出力のトークン数やキャッシュの利用状況によって変わる。また、Artificial AnalysisがMistral Large 4 highについて示した毎秒161.3トークンという数値は、生成開始後の出力速度を表しており、最初の応答が返るまでの待ち時間を含めた処理全体の速度ではない。
約1兆パラメーターの巨大モデルを自社環境で動かすには
公開されたMistral Large 4は、約1兆パラメーターを持つMixture of Experts(MoE)型のモデルだ。Mistralの技術文書では、総パラメーター数は1.05兆と記載されている。MoEは多数の専門部分(エキスパート)を備え、入力されたトークンごとに必要な一部だけを選んで計算する仕組みである。Mistral Large 4では128のエキスパートから4つを選択し、共有エキスパート1つと組み合わせて使用する。
推論時に計算へ参加するアクティブパラメーター数は、埋め込み層と出力層を除くと490億、これらを含めると520億とされる。この違いはパラメーターの集計範囲によるものであり、モデルの構成が異なるわけではない。ただし、推論時に使うパラメーターが約520億だからといって、その分の重みだけをGPUメモリーに載せればモデル全体を運用できるわけではない。
推論フレームワーク「SGLang」の文書には、動作検証済みの構成として、FP8形式ではNVIDIA B300を8基、NVFP4形式ではGB300を4基使用する例が示されている。ただし、これは検証された構成であり、最低動作要件を意味するものではない。モデルカードでは、NVFP4形式の別チェックポイントに加え、vLLMやSGLangを使った推論にも対応すると説明している。GPUメモリーが不足する場合には、コンテキスト長や同時処理数を減らすことが推奨されている。
Mistral Large 4はテキストと画像を入力として受け取り、テキストを出力するマルチモーダルモデルでもある。画像を処理する視覚エンコーダーは16億パラメーターで、最大100万トークンのコンテキスト長にも対応する。ただし、100万トークンという仕様上の上限は、その長さの入力に対して常に高い精度を維持できることを保証するものではない。長文資料や画像を扱う業務でも、実際の入力データを使って必要な精度が得られるかを検証する必要がある。
利用方法には、MistralのAPIやStudioに加え、Microsoft Foundryでのプライベート配置、自社環境への配置がある。モデルの重みが公開されたことで、データやモデルの管理方法を選べるようになった一方、自社で運用する場合はGPUや電力の確保、システムの維持管理、担当者の配置といった負担が生じる。
サイバー防御能力と悪用への拒否率は異なる指標
Mistralは、サイバー分野の能力を評価する「Cyber Index」で51%を記録したと報告している。これとは別に、悪意あるサイバー関連の要求に対する平均拒否率が96.6%だったことも公表した。この拒否率はJailbreakBench、StrongREJECT、AgentHarmに含まれる該当プロンプトへの応答を平均したものであり、現実のあらゆる攻撃を96.6%の確率で防げるという意味ではない。サイバー分野の課題を処理する能力と、悪用につながる要求を拒否する能力は、別々に評価する必要がある。
Mistral自身も、モデルが実際のサイバー攻撃を支援する可能性を認めており、保護策を継続的に更新する方針を示している。また、専門的なサイバー用途に対応したモデルは審査済みのパートナー向けに提供されるもので、今回一般公開されたモデルの重みと同一視することはできない。欧州で開発されたモデルであることも、それだけで安全性や各種規制への適合が保証されるわけではない。
商用利用は可能だが、モデル提供事業には別ライセンスが必要
公開されたモデルの重みには、MITライセンスを修正した「Mistral Ecosystem Open-Weight License」が適用される。このライセンスでは、モデルの利用、改変、追加学習、商用利用を認めている。ただし、利用者またはその関連会社がModel-as-a-Service(MaaS)事業を営む場合には、商業目的でモデルを利用する前に別途ライセンスを取得する必要がある。
ライセンスではMaaSを、第三者が入力、パラメーター、学習データを実質的に管理できる形で、モデルの推論や追加学習へのアクセスを提供するサービスと定義している。一方、特定の機能や実行環境にモデルを組み込んだエンドユーザー向け製品は、この定義の対象外となる。他社がホストするモデルへのアクセスを単に中継するサービスも対象外とされている。また、社内利用やMistralの公式製品を通じた利用には、MaaS事業向けの別ライセンスを定めた第2項は適用されない。
自社のコード開発業務などにMistral Large 4を導入する場合、まず実際の課題を使って完了率と生成トークン数を測定し、APIの利用料金と自社環境で必要になる計算資源・運用費用を比較することが重要だ。顧客にモデルへのアクセスを提供する事業者は、性能や費用に加えて、自社のサービス形態がライセンス上のMaaSに該当するかも確認しなければならない。今回の重み公開によって運用の選択肢は広がったが、採用の価値はモデルの規模やベンチマークの得点だけでなく、実際の業務で得られる成果と総運用コストによって決まる。



