MIT、IBM、Red Hatの研究チームは、画像からCADプログラムを作るAIが出した「惜しい失敗」を、次の学習データへ変える手法GIFTを開発した。GenCAD-Codeを使った主評価では、形状の一致度を表す平均IoUが0.698から0.782へ上がった。推論時に10候補を生成して選ぶ従来モデルの性能へ、GIFTは約2候補でほぼ追いついたという。ただし、計算が消えたわけではない。約100万件の候補を事前に作り、CADカーネルで選別する費用を先に払うことで、利用時の探索を軽くした研究である。
GIFTは新しいCADアプリでも基盤モデルでもない。前身のCAD-Coderを出発点に、モデルが推論で見つけた正解と失敗を教師あり学習へ戻すデータ拡張フレームワークだ。MITは2026年7月16日に研究成果を公表し、研究はInternational Conference on Machine Learningで発表されたとしている。
同じ形を作る別コードを正解に加える
画像から編集可能なCADを作るには、3D形状を出すだけでは足りない。GIFTの基盤となったCAD-Coderは、単一画像と固定プロンプトを受け取り、CadQueryのPythonコードを生成する。コードを実行すれば、パラメーターを持つB-RepやSTEP形式の立体を構築できる。設計者が後から寸法や処理手順を変えられる点が、固定されたメッシュを直接出す方式との違いになる。
従来の教師あり学習には、画像と正解コードを一対一で結ぶ弱点がある。同じ立体でも、押し出しや切削を組み合わせる手順は一つではない。ところが参照コードが一つしかなければ、幾何的に正しい別コードまで誤答として扱われる。GIFTは生成コードをOpenCASCADEで実行し、正解形状とのIoUを測ることで、文字列ではなく出来上がった形を判定する。
学習信号は二系統ある。GIFT-REJECTは、IoUが0.9以上0.99未満の候補を高品質な別解として残し、元画像に対する追加の正解コードにする。完全一致を一つ選んで終えるより、同じ形へ至るプログラムの分布を広く学べる。
GIFT-FAILが扱うのは、IoUが0.5以上0.9未満の実行可能な失敗である。失敗コードを正解として覚えさせるのではない。そのコードから不完全な3D形状を作って画像へ戻し、「誤った形状の画像」と元の正解コードを組にする。モデルは形状の欠けやずれを含む入力から正しいコードを復元するよう学ぶ。成功例の多様化と、失敗からの回復を別の教師信号にした設計だ。
0.698から0.782へ、推論候補5分の1の内訳
GenCAD-Codeのテストでは、通常の教師あり微調整(SFT)の平均IoUは0.698だった。一般的なデータ拡張を加えても0.710にとどまる。一方、高品質な別解を使うGIFT-REJECTは0.742、失敗形状を使うGIFT-FAILは0.761、両方を組み合わせたGIFTは0.782へ達した。
| 学習方法 | 平均IoU |
|---|---|
| SFT | 0.698 |
| SFT+一般的なデータ拡張 | 0.710 |
| GIFT-REJECT | 0.742 |
| GIFT-FAIL | 0.761 |
| GIFT | 0.782 |
0.698から0.782への上昇幅は0.084で、相対改善率は約12%になる。二つの仕組みを合わせた結果がそれぞれを上回るため、正しい別解を増やすことと、回復可能な失敗を狙って学ぶことは補完関係にある。
「推論計算を約80%削減」という数字は、処理時間や総GPU時間を直接測った値ではない。論文の推論スケーリング表では、SFTは10候補を生成して最良を選ぶとIoU 0.807に達する。GIFTは2候補で0.802、3候補で0.809だった。10候補とほぼ同等の水準へ約2候補で届くため、研究チームは候補数ベースで約80%少ない計算と表現している。
この差は単発生成にも表れた。1候補と10候補の成績差を示す「amortization gap」は、SFTの15.5%からGIFTの5.2%へ縮小した。何度も試して正解を探すモデルから、少ない試行で高品質なコードを出しやすいモデルへ近づいた、と捉えるのが正確だ。
100万候補を先に作るオフライン計算
利用時の候補を減らせた代わりに、GIFTは計算負担を学習前のデータ作成へ移している。研究チームは約80,000枚の学習画像を起点に、1画像あたり8候補から128候補までの5段階と29種類の生成設定を組み合わせ、約100万件の生候補を作った。CADカーネルで形状を実行・比較し、別解と回復可能な失敗を選び出した結果、微調整用データは元の約16.3万組から約37万組へ増えた。
微調整には80GBのA100を8基使い、最大10エポックを設定した。論文によれば実際の収束は3〜4エポックだった。したがって、80%削減は約100万候補の生成、CAD実行、IoU計算を含む総コストの削減率ではない。オフラインで一度支払い、その成果をモデルの重みに保存して、繰り返し使う推論を安くする。利用回数が多いほど前払いを回収しやすい。
この分離には実装上の利点がある。CADコードの評価にはCPUで動く幾何カーネルが必要で、オンライン強化学習の各ステップへ組み込むとGPUが結果待ちになりやすい。GIFTは候補探索と検証を先にまとめ、その後は通常の教師あり微調整へ戻す。追加の人手によるラベル付けや専用アーキテクチャを求めず、決定論的な検証器を使える問題なら、既存モデルへ組み込みやすい。
ただし、正解形状を照合できなければ同じ循環は作れない。GIFTがモデルだけで自律的に設計を発見したのではなく、既知の正解CADとOpenCASCADEが採点者として働いている。
高いIoUが保証しない製造可能性
IoU 0.782が示すのは、GenCAD-Codeの評価手順に沿った形状の重なりである。評価では生成形状と正解形状を中心化し、尺度を正規化したうえで慣性主軸を合わせ、軸の入れ替えの中から最も高いIoUを採る。絶対寸法や座標系の違いを除いて形そのものを比べるには合理的だ。しかし数値が高くても、寸法と向きが正しいとは限らない。材料や荷重耐性も評価の対象外である。
現実画像400枚を使った予備評価では、標準テストより絶対IoUが大幅に低下した。コードが実行可能な割合も、GIFTの96.75%に対してSFTは97.60%だった。GIFTはコード生成そのものの失敗を1.18%から0.60%へ減らしたが、OpenCASCADEでの実行失敗は1.18%から2.45%へ増えている。実行可能性と形状精度は別の指標であり、実画像では片方の改善がもう片方を保証しない。
研究チームも、GIFTには決定論的な幾何カーネルと正解CADプログラムが必要だと認めている。正解のない写真や新規設計をその場で採点し、学習し続ける仕組みではない。製造しやすさや実使用時の性能は将来の拡張対象に置かれている。
GIFTの成果は、CAD生成AIがすでに推論中に見つけている有用な候補を、使い捨てずにモデルへ戻せることを示した。実務へ進む条件は、尺度を保った画像で精度を測り、寸法公差や製造制約、物理性能まで自動検証できる採点器を用意することだ。そこまで接続できれば、失敗は再試行のコストから、次の設計を改善する資産へ変わる。
