米・NEO Semiconductorが、メモリ業界に大きな変革をもたらす可能性を秘めた新たな3D X-DRAM技術、「1T1C(1トランジスタ・1キャパシタ)」および「3T0C(3トランジスタ・0キャパシタ)」ベースのセル構造を発表した。 このIGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛・酸化物)技術を駆使した新DRAMは、最大512Gbという驚異的な大容量、450秒を超えるリテンションタイム、そして超低消費電力を実現するとされ、AI、インメモリコンピューティング、次世代DRAMおよびHBM(High Bandwidth Memory)市場への最適化を謳う。 2026年には概念実証(PoC)テストチップの製造が予定されており、次世代メモリの覇権争いに新たな風を吹き込む存在として注目される。
IGZOが鍵を握る。3D NANDプロセスでDRAMの壁を破る新発想
NEO Semiconductorが今回発表した1T1Cおよび3T0C 3D X-DRAMの核心は、ディスプレイ技術で実績のあるIGZO材料の採用と、3D NANDフラッシュメモリに類似した3次元積層構造にある。 これにより、従来のDRAMが直面していた微細化の限界を打破し、劇的な高密度化とコスト効率の両立を目指す。
「1T1Cおよび3T0C 3D X-DRAMの導入により、我々はメモリ技術で可能なことの定義を書き換えています」と語るのは、NEO Semiconductorの創業者兼CEOであるAndy Hsu氏だ。同氏はさらに、「このイノベーションは、今日のDRAMのスケーリングの限界を押し広げ、NEOを次世代メモリのフロントランナーとして位置づけるものです」と自信を覗かせる。
特筆すべきは、この新技術が既存の3D NAND製造プロセスを一部変更するだけで対応可能とされている点だ。 これにより、製造ラインへの迅速な統合と高い歩留まり、そして結果としてコスト効率の高い量産が期待できるとしている。
容量10倍、リテンション450秒超、そして高速アクセスを実現
NEO Semiconductorがシミュレーションで示した性能は、まさに次世代と呼ぶにふさわしいものだ。
- 圧倒的な大容量: 最大512Gbの密度を実現。 これは、現在市販されている一般的なDRAMモジュールと比較して、実に10倍の容量に相当する(512Gbは64GBに換算)。
- 驚異的なリテンションタイム: IGZOチャネル技術の恩恵により、1T1Cおよび3T0CセルのTCAD(技術コンピュータ支援設計)シミュレーションでは、最大450秒、あるいはそれを超えるリテンションタイムが確認されており、従来のDRAMが頻繁に必要としていたリフレッシュ動作を大幅に削減し、それに伴う消費電力を劇的に低減できる可能性を示唆している。
- 高速な読み書き性能: シミュレーションでは、10ナノ秒という高速な読み書き速度も実証されている。
- 超高帯域幅と低消費電力: 独自のメモリアレイアーキテクチャとハイブリッドボンディング技術の採用により、メモリ帯域幅を大幅に向上させつつ、消費電力を削減することを目指している。
これらの特徴は、特にAI処理、エッジコンピューティング、そしてデータをメモリ内で直接処理するインメモリコンピューティングといった、高性能かつ低消費電力が求められる最先端のワークロードにとって、大きな福音となる可能性がある。
多様なニーズに応える3D X-DRAMファミリー
NEO Semiconductorは、今回の発表により、3D X-DRAM技術プラットフォームを3つのバリエーションに拡充した。
- 1T1C (1トランジスタ・1キャパシタ): 高密度DRAMのコアソリューションであり、主流のDRAMおよびHBMのロードマップと完全に互換性があるとされている。 また、この1T1C設計こそ、NEOの以前の革新技術(例えば、AI/HPCマシン向けのカスタム性が高い3D X-AI技術)よりも、真の「DRAMキラー」となる可能性が高そうだ。
- 3T0C (3トランジスタ・0キャパシタ): 電流センシング動作に最適化されており、AIやインメモリコンピューティングに理想的とされている。
- 1T0C (1トランジスタ・0キャパシタ): フローティングボディセル構造を採用し、高密度DRAM、インメモリコンピューティング、ハイブリッドメモリおよびロジックアーキテクチャに適している。
NEO Semiconductorは、2025年5月18日から21日に米国カリフォルニア州モンテレーで開催される第17回IEEE国際メモリワークショップ(IMW)に参加し、これらの技術についてさらなる情報を公開する予定である。
次世代メモリ市場への挑戦と展望
NEO Semiconductorが提示する3D X-DRAMの性能と製造容易性は、確かに魅力的だ。しかし、次世代メモリ市場での競争は熾烈を極めている。FeRAM(強誘電体メモリ)をベースとしたDRAM+のような新技術や、SK hynixのような既存の大手メモリメーカーも、標準DRAMの大容量化を着々と進めている。
NEO Semiconductorの3D X-DRAMが、これらの競合技術や既存技術の進化に対して、どれだけのアドバンテージを実証できるか。2026年に予定されている概念実証テストチップの結果が、その試金石となるであろう。 特に、512Gbモジュールという具体的な目標値は、業界内外の注目を集めるには十分なインパクトを持つ。 この技術が本当にDRAMの「スケーリングの限界」を打ち破り、AI時代に求められるメモリ性能と電力効率の新たなスタンダードを築くことができるのかに注目だ。
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