2025年6月5日の発売が目前に迫る任天堂の次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」。これまで断片的な情報や憶測が飛び交っていたが、ついにその心臓部であるカスタムNVIDIA製SoC「T239」の詳細な技術仕様が、テクノロジー分析で有名なDigital Foundryによって明らかにされた。今回の明らかになったSwitch 2のスペックは、携帯モードとドックモードでの性能バランス、そして新機能とリソース管理という点で非常に興味深いものとなっている。
ついにベールを脱いだSwitch 2の心臓部「NVIDIA T239」とは?

Nintendo Switch 2の性能を左右する最も重要なコンポーネントは、NVIDIAと任天堂が共同開発したカスタムSoC(System-on-a-Chip)「T239」だ。これは、初代Switchに搭載されていた「Tegra X1」から大幅な進化を遂げている。
Digital Foundryによると、T239の主な構成は以下の通りだ。
- CPU: Arm Cortex-A78C(8コア、64bit Armv8命令セット対応)。このうち6コアがゲーム開発者向けに解放され、残りの2コアがシステム(OS)用に予約されている。
- GPU: NVIDIAのAmpereアーキテクチャを採用。これは、GeForce RTX 30シリーズにも使われている技術であり、レイトレーシングやDLSS(Deep Learning Super Sampling)といった最新のグラフィック技術への対応を可能にする。CUDAコア数は1536基と、初代Switchの256基から飛躍的に増加している。
- メモリインターフェース: 128-bit LPDDR5X
特筆すべきは、CPUのキャッシュ構成だ。各コアは64KBのL1インストラクションキャッシュと64KBのL1データキャッシュを備え、さらに各コアに256KBのL2キャッシュ、そして全8コアで共有する4MBのL3キャッシュが搭載されていると報じられている。これにより、データアクセスの高速化が期待できる。
CPU性能の謎:携帯モードでクロックアップ?その真相に迫る

CPUのクロック周波数に関しては、やや不可解な情報が伝えられている。Digital Foundryによると、以下の通りだ。
- 携帯モード時: 1101MHz (または1100MHz)
- ドックモード時: 998MHz
- 最大クロック(理論値): 1.7GHz
通常、ドックモードでは冷却性能や電力供給に余裕があるため、より高いクロックで動作するのが一般的である。しかし、Switch 2では携帯モードの方がCPUクロックが高いという、一見すると逆転する現象が起きている。Digital Foundryはこの理由について明確な説明はしていないが、携帯モードではメモリ帯域幅がドックモード時よりも低下するため(後述)、CPU性能を若干引き上げることで全体のバランスを取ろうとしているのではないか、という推測がなされている。
また、最大1.7GHzというクロックは、特定の条件下(例えばゲームのローディング中など、GPU負荷が低い場面)で一時的にブーストされる可能性も考えられる。初代Switchでも、ロード時間短縮のために同様のブースト機能が後日アップデートで追加された経緯がある。
Ampereアーキテクチャ採用GPUの実力:TFLOPS、レイトレ、DLSS対応の全容
Switch 2のグラフィック性能は、NVIDIA Ampereアーキテクチャの採用により大幅に向上する。
- GPUクロック周波数:
- 携帯モード時: 561MHz
- ドックモード時: 1007MHz
- 最大クロック(理論値): 1.4GHz
このクロック周波数と1536基のCUDAコアから計算される単精度浮動小数点演算性能(FP32)は、以下のようになる。
- 携帯モード時: 約1.71 TFLOPS
- ドックモード時: 約3.072 TFLOPS
これは、初代Switch(携帯モード約0.4 TFLOPS、ドックモード約0.8 TFLOPS)と比較して、携帯モードで4倍以上、ドックモードで約3.8倍の向上となる。ただし、TFLOPSはあくまで理論上の性能指標であり、実際のゲームパフォーマンスはメモリ帯域幅やアーキテクチャの効率など、様々な要因に左右される点に注意が必要だ。
さらに、Ampereアーキテクチャの恩恵として、リアルタイムレイトレーシングへの対応が明言されている。Digital Foundryによれば、その性能は携帯モードで約10Gigarays/sec、ドックモードで約20Gigarays/secとされている。これにより、よりリアルな光の表現や反射、影の描写が可能になるが、リソースを大きく消費するため、どのような形でゲームに活かされるかは今後のタイトル次第と言えるだろう。
そして、ゲーマーにとって最も注目すべき機能の一つがNVIDIA DLSS (Deep Learning Super Sampling)のサポートだ。DLSSは、AIを活用して低解像度の映像を高解像度化するアップスケーリング技術で、フレームレートの向上と画質の維持を両立させる。Switch 2では、DLAA(Deep Learning Anti-Aliasing:ネイティブ解像度でDLSSをアンチエイリアスとして使用)、そしてDLSS 1x, 2x, 3xといった複数のモードが提供されるとのことだ。これらはPC版のDLSSにおけるQuality, Balanced, Performanceモードに相当するのではないかと推測されている。
大幅増量の12GB LPDDR5Xメモリ、開発者が実際に使える容量は?
メモリ容量と帯域幅も、ゲームの快適性を大きく左右する要素だ。Switch 2は、初代Switchの4GB LPDDR4から大幅に増強されている。
- 搭載メモリ: 12GB LPDDR5X (6GBモジュール x2構成)
- メモリ帯域幅:
- 携帯モード時: 68GB/s
- ドックモード時: 102GB/s
この12GBのメモリのうち、開発者がゲーム用に利用できるのは9GBで、残りの3GBはOS(オペレーティングシステム)用に予約されると報じられている。初代Switchでは、4GB中3.2GBが開発者向けだったため、OS予約分が増加していることになる。これは、後述するGameChatなどの新機能や、より高度なシステム機能のために割り当てられているものと考えられる。
ストレージと高速化技術:256GB UFSと専用解凍エンジン「FDE」の恩恵
内蔵ストレージも進化しており、ロード時間の短縮が期待される。
- 内蔵ストレージ: 256GB UFS (Universal Flash Storage)
- 拡張ストレージ: microSD Expressカードスロット (最大2TBまで対応)
初代SwitchのeMMCと比較して高速なUFS規格を採用することで、ゲームデータの読み込み速度が向上する。さらに注目すべきは、Switch 2に搭載される専用ファイル解凍エンジン(FDE: File Decompression Engine)だ。これはLZ4圧縮形式のデータをハードウェアレベルで高速に解凍するもので、CPUに負荷をかけることなくアセットの展開を行えるため、ロード時間のさらなる短縮と、処理中の電力効率改善に貢献するとされている。
microSD Expressへの対応も大きなポイントだ。これは従来のmicroSDカードよりも高速な転送速度を実現する規格であり、大容量化するゲームデータへの対応と快適なプレイ体験の維持に不可欠と言えるだろう。
美麗7.9インチ120Hz VRRディスプレイ、ただし注意点も

携帯モードでの視覚体験も向上する。
- ディスプレイ: 7.9インチ LCD
- 解像度: 1920×1080ピクセル (フルHD)
- 特徴: 広色域、HDR10サポート、VRR (Variable Refresh Rate) 最大120Hz対応
ディスプレイサイズは初代Switchの6.2インチ(通常モデル)から大幅に大型化し、解像度もフルHDに向上。さらに、HDR10と最大120HzのVRRに対応することで、より滑らかで美しい映像表現が期待できる。
ただし、一点注意が必要だ。Digital Foundryによると、VRR機能はSwitch 2本体のディスプレイでのみ有効であり、現状、HDMI経由でテレビやモニターに接続した際にはVRRはサポートされないとのことだ。これは、ドックに内蔵されているDisplayPort to HDMI変換チップが標準的なHDMI VRRに対応していないためではないかと推測されている。この点は、今後のアップデートで改善される可能性もゼロではないが、現時点では留意しておくべきだろう。
また、タッチスクリーンは初代同様、10点マルチタッチ静電容量式であることも確認されている。
通信機能と注目の新機能「ゲームチャット」のリソース問題

通信機能も最新規格に対応している。
- 無線LAN: Wi-Fi 6
- Bluetooth: (バージョン詳細は不明だが、Joy-Con 2との接続やオーディオ出力に使用)
- 有線LAN: ドックに搭載
Wi-Fi 6への対応により、オンラインゲームやダウンロードコンテンツの通信がより安定し、高速化することが期待される。
新機能として注目されるのが「ゲームチャット」である。これは、最大4人のフレンドとゲームプレイやウェブカメラ映像をストリーミングしながらボイスチャットを楽しめる機能とされている。しかし、Digital Foundryはこのゲームチャットがシステムリソースに大きな影響を与える可能性を指摘しており、任天堂が開発者向けにゲームチャットのAPIレイテンシやL3キャッシュミスをシミュレートするテストツールを提供していることも明らかにしている。このことから、ゲームチャット利用時のパフォーマンスについては、実際のゲームタイトルでどのように最適化されるかが注目される。
Nintendo Switch 2 仕様詳細まとめ
これまでに明らかになったNintendo Switch 2の主要スペックを、初代Nintendo Switch(参考)と比較しながら表にまとめた。
項目 | Nintendo Switch 2 | Nintendo Switch (参考) |
---|---|---|
SoC | NVIDIA T239 (カスタム) | NVIDIA Tegra X1 (カスタム) |
CPU | ARM Cortex-A78C (8コア、64bit) – 開発者利用: 6コア – OS予約: 2コア | ARM Cortex-A57 (4コア) – 開発者利用: 3コア – OS予約: 1コア |
CPUクロック | 携帯モード: 1101MHz ドックモード: 998MHz 最大: 1.7GHz (理論値) | 1020MHz (ドック/携帯) |
GPU | NVIDIA Ampereアーキテクチャ (1536 CUDAコア) | NVIDIA Maxwellアーキテクチャ (256 CUDAコア) |
GPUクロック | 携帯モード: 561MHz ドックモード: 1007MHz 最大: 1.4GHz (理論値) | 携帯モード: 最大460MHz ドックモード: 768MHz |
演算性能(FP32目安) | 携帯モード: 約1.71TFLOPS ドックモード: 約3.072TFLOPS | 携帯モード: 約0.4TFLOPS ドックモード: 約0.8TFLOPS |
レイトレーシング | 対応 (携帯時: 10 Gigarays/s, ドック時: 20 Gigarays/s) | 非対応 |
アップスケーリング | NVIDIA DLSS (DLAA, 1x, 2x, 3xモード) | 非対応 |
メモリ | 12GB LPDDR5X – 開発者利用: 9GB – OS予約: 3GB | 4GB LPDDR4 – 開発者利用: 3.2GB – OS予約: 0.8GB |
メモリ帯域幅 | 携帯モード: 68GB/s ドックモード: 102GB/s | 携帯モード: 21.3GB/s ドックモード: 25.6GB/s |
内蔵ストレージ | 256GB UFS | 32GB eMMC (一部モデル64GB) |
拡張ストレージ | microSD Expressカード (最大2TB) | microSDHC/SDXCカード |
FDE | 専用ファイル解凍エンジン (LZ4対応) | なし |
ディスプレイ | 7.9インチ LCD, 1920×1080, HDR10, VRR (最大120Hz, 携帯モードのみ) | 6.2インチ LCD, 1280×720 (Lite除く) (有機ELモデルは7.0インチ有機EL) |
TV出力 | 最大4K/60fps (HDMI経由), HDR10 (VRRは現状非対応) | 最大1080p/60fps (HDMI経由) |
無線通信 | Wi-Fi 6, Bluetooth | Wi-Fi 5 (802.11ac), Bluetooth 4.1 |
ゲームチャット | 対応 (システムリソースへの影響懸念あり) | – |
ゲームカード | Nintendo Switch 2 及び Nintendo Switch ゲームカード対応 | Nintendo Switch ゲームカード |
発売日 | 2025年6月5日 (一部地域を除く) | 2017年3月3日 |
スペックから見えるSwitch 2の可能性と課題
今回明らかになったNintendo Switch 2のスペックは、携帯ゲーム機としては非常に高性能であり、多くのゲーマーの期待に応えるポテンシャルを秘めていると言えるだろう。特にAmpereアーキテクチャによるグラフィック性能の向上とDLSSのサポートは、これまで携帯機では難しかった高品質なAAAタイトルの移植や、よりリッチな表現の新作タイトルを可能にするかもしれない。
一方で、CPUクロックのドックモードと携帯モードの逆転現象や、ゲームチャットのリソース消費、HDMI経由でのVRR非対応といった点は、今後の最適化やアップデートでどのように扱われていくのか注目される課題でもある。
最終的に、これらのスペックがどのようなゲーム体験に結びつくのかは、6月5日の発売と、その後に続くソフトウェアラインナップによって明らかになるだろう。任天堂がこの新しいハードウェアでどのような「遊び」を提供してくれるのか、今から期待される。
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