米国防総省の研究技術次官室が推進する「マイクロエレクトロニクス・コモンズ(Microelectronics Commons)」プログラムにおいて、技術的成果が発表された。防衛・航空宇宙産業の世界的企業である米Northrop Grummanは、南カリフォルニアを拠点とする防衛関連マイクロエレクトロニクスの研究開発ハブ「CA DREAMS(California Defense Ready Electronics and Microdevices Superhub)」と連携し、Wバンド(75〜110GHz)という高い周波数帯域で動作する窒化ガリウム(GaN)ベースのマイクロ波チップを開発した。
このプロジェクトにおいて注目すべき事項は、同技術の開発サイクルの短縮にある。通常、このような高周波帯域に対応する次世代半導体の開発において、基礎研究、設計、試作、実用化の検証といった各段階で数年単位の歳月を要する。本プロジェクトでは初期のコンセプト設計の段階を経てプロトタイプを完成させ、市場投入が可能な実用レベルに到達するまでの全工程を6ヶ月未満で完了させている。これは、カリフォルニア州レドンドビーチに位置するNorthrop Grummanの製造施設における長年のノウハウと、産官学が一体となったCA DREAMSのハブ機能が機能した結果である。
現代の無線インフラストラクチャや防衛システムが直面している課題の一つは、データ通信量の増加と利用可能な帯域幅の枯渇問題である。Wバンドに代表されるミリ波帯は、従来の低周波帯のシステムと比較して広い帯域幅を提供するため、遅延の少ない大容量データの伝送や、高解像度のセンシングを可能にする。この周波数帯の開拓と技術の成熟は、将来のネットワーク基盤を構築する上で避けて通れない要請となっている。
熱と電力の限界を超える窒化ガリウム(GaN)のポテンシャル
Wバンドのような高周波数帯域を本格的に実用化するためには、物理的および工学的な多数のハードルを越える必要がある。周波数が高くなるほど信号は空間で急速に減衰しやすくなり、十分な通信距離やレーダーの探知範囲を確保するためには、送信側で高いエネルギーを出力し続けなければならない。従来のシリコンベースの半導体では、高出力化に伴う発熱や電力損失に耐え切れず、システム全体の大型化や冷却機構への過剰な依存を招いてしまう弱点があった。
この問題を解決する素材として導入されているのが窒化ガリウム(GaN)である。GaNは、シリコンと比較してバンドギャップが広く、高温や高電圧の環境下でも安定して動作する物理的特性を備えている。本プロジェクトでNorthrop Grummanが開発したGaNチップが、システム内で強力な信号増幅を担う。エネルギー効率を維持しながら無線信号を強くクリアに送信することが可能になり、過去のシステムで必要であった大型で電力を大量に消費するコンポーネントを小型かつ低コストなモジュールへと置き換える道を開いた。
電子戦(EW)システムにおける戦術的な優位性の確保において、GaNの採用は重要な意味を持つ。特にアクティブ・電子走査アレイ(AESA)レーダーにおいて、GaNベースの送受信モジュールは従来型よりも長距離の探知と高い解像度を実現する。これにより、ステルス機や小型ドローンの早期発見能力が底上げされ、対空防衛網の精度が向上する。
GaNAmpとAmmP3:並行して進む2つのアプローチ
CA DREAMSの枠組みの中で、Northrop Grummanは主に2つの技術的課題に対して同時並行でアプローチを行っている。一つは「GaNAmp」プロジェクトであり、これはGaNパワーアンプの製造プロセスそのものを最適化し、米国内の複数の主要ファウンドリ(HRL、Teledyne、Monde/Transphormなど)を通じてスケーラブルな供給体制を構築することを目的としている。素材の精製、デバイスの合成、集積回路の構築、サブシステムの組み上げという全工程を垂直かつ迅速に連携させる手法が採用された。これにより、通常のチップ製造ラインでは6〜8ヶ月かかるプロセスを4ヶ月未満に短縮することに成功している。
もう一つの柱である「AmmP3」プロジェクトは、高周波帯におけるシステム設計の複雑さを解消することに焦点を当てている。ミリ波帯通信システムの構築には専門知識が求められ、各組織がゼロから設計を行うことは開発の遅れの原因となっていた。AmmP3は、フェーズドアレイ技術を活用して信号のエネルギーを特定の方向に集中させる手法を確立し、開発者向けに統一された「ツールキット」を提供することを目指している。エネルギー消費を抑えながら高周波数帯での動作を可能にする設計を各チームが活用できるようになり、標準的な開発サイクルは従来の36ヶ月から18ヶ月へと半減した。
本年度の取り組みでは、GaN技術と耐放射線設計を施したデジタル集積回路の統合が新たに開始されている。耐放射線化の成功は、高周波技術の適用範囲を地上の通信ネットワークから宇宙空間での衛星通信へと拡張する布石となる。
デュアルユース技術としての波及効果とサプライチェーンの再構築
今回発表されたWバンド対応GaNチップは、防衛分野での活用に加え、民生用の次世代インフラにとっても大きな意味を持つ。次世代の5Gおよび将来の6Gネットワーク環境下では、自律走行車、遠隔医療、スマートシティの運用等、多くのデータを低遅延で処理する要件が増加する。Wバンドの帯域を活用できるコンポーネントが安定して供給されることは、これらの産業基盤を支える上で欠かせない条件となる。
防衛通信の観点においては、高周波数の信号は直進性が高く空気中での減衰が早いため、物理的に傍受が困難になるというセキュリティ上の利点が存在する。広帯域で多くのデータを送信できる利便性に加え、外部からのアクセスが困難になる性質は、サイバー空間や電磁波領域での競争が激化する現代において高い戦略的価値を持つ。
現在、高周波帯域の通信インフラや高度な半導体製造を巡っては、中国をはじめとする諸外国との激しい技術覇権争いが進行している。軍事と民生の両面で要となるGaN技術の自国生産能力を確保し、サプライチェーンの海外依存から脱却することは、米国の国家安全保障における最重要課題の一つである。
本プロジェクトの成功が示す側面は、米国内における半導体エコシステムの再構築の進展である。CA DREAMSが提供する「MOSIS 2.0」プロトタイピング環境などを通じて、大学等の研究機関で得られた成果が即座に産業界の製造ラインに乗り、政府の支援を受けて短期間で実運用環境へと移行するモデルが機能し始めている。産官学の垣根を越えたこの開発モデルは、単独の技術革新を上回る意義を持ち、長期的な技術開発プロセスそのもののあり方を変える可能性を秘めている。