英紙Financial Times(FT)は2026年11月上旬、米政府当局者が同年上半期に米情報機関からの情報をもとに作成したメモに、NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏と、シンガポールの顧客企業Megaspeedの幹部Alice Huang氏との関係が記されていたと、関係者の話として報じた。ホワイトハウス、米中央情報局(CIA)、NVIDIAはいずれもメモへのコメントを拒否しており、内容は独立に確認されていない。米紙The New York Times(NYT)も10月29日に米情報機関の見方を報じ、11月4日には米下院の3委員長がJensen Huang氏に非公開での説明を求めた。疑惑の真偽は公開資料からは判断できないが、米当局の規則やNVIDIAの米証券取引委員会(SEC)提出書類、シンガポール警察の回答を時系列で整理すると、H200の中国向け輸出許可と東南アジア企業を巡る捜査・起訴が並行して進んでいたことや、NVIDIAの情報開示の限界が見えてくる。

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FTとNYTが報じた米政府の見方と、当事者による否定

FTによると、問題のメモには、Jensen Huang氏とAlice Huang氏が恋愛関係にあったと記されていたという。さらにFTは、米情報機関がAlice Huang氏について、中国国家安全省(MSS)にスパイとして勧誘された人物とみていると、関係者の話として伝えた。このメモは、Trump大統領が北京で習近平国家主席との首脳会談に臨む直前、少数の政府高官に共有されたとされる。ただし、これらの情報は独立に裏付けられておらず、ホワイトハウスとCIAはコメントを拒否した。FTによれば、NVIDIAもメモに関するコメントを控え、Alice Huang氏には連絡がつかず、在米中国大使館からも回答は得られなかった。

一方、NYTが10月29日に報じた内容は、米政府が情報を把握した時期についてFTの報道と異なっている。NYTは、米情報機関がAlice Huang氏を北京に情報を流していた人物と判断し、Trump大統領も約1年前に説明を受けていたものの、対応しなかったと伝えた。FTが報じたメモの作成時期は2026年上半期であるのに対し、NYTが伝えた大統領への説明はその約1年前となる。両紙が報じた情報の時期には違いがあり、同じ文書や情報を指しているかどうかは不明だ。なお、Alice Huang氏とJensen Huang氏に血縁関係はないとされる。

当事者側は報道内容を否定している。NVIDIAは声明で、Jensen Huang氏は毎年数千人もの顧客企業の幹部と会話しており、Alice Huang氏とのやり取りも「珍しいことでも予想外のことでもない」と説明した。また、米政府が何らかの脅威を認識していれば、同社に知らせてくるはずだとの認識も示している。中国外交部の郭嘉昆報道官も10月30日の定例会見で、報道を「根拠のない、中国への中傷」として退けた。

シンガポール内務省は、米紙の10月30日付記事に対する訂正声明を発表し、同国政府や当局者が懸念を表明した事実はなく、Alice Huang氏に対するそのような調査も行っていないと否定した。ただし、同省が否定したのはAlice Huang氏個人に対する調査であり、Megaspeedへの捜査そのものではない。同じ声明の付属資料で、シンガポール警察はMegaspeedに対する捜査が継続中であると回答している。今回の疑惑は匿名の関係者に基づく報道であり、その真偽を公開情報だけで判断することはできない。一方、輸出許可や捜査の経緯、NVIDIAが公表した財務情報については、一次資料から確認できる。

一次資料から追うH200の対中輸出許可と東南アジア企業を巡る捜査・起訴

Tom Cotton上院議員は2025年10月13日、Howard Lutnick商務長官に宛てた書簡で、Megaspeedに対する調査を要請した。書簡では、Megaspeedを中国企業7Roadから分離した企業と説明し、7Roadについては「中国政府が所有するクラウド企業」と記している。一方、FTはMegaspeedについて、2023年に中国のゲーム会社から分離した企業と報じており、分離元の企業の業種に関する説明は両者で異なっている。

H200の対中輸出政策が転換したのは、2025年12月8日の大統領発表がきっかけだった。米商務省産業安全保障局(BIS)によると、Trump大統領は同日、H200と同等品を中国の承認済み顧客に輸出できるようにすると表明した。これを受け、BISは2026年1月15日に最終規則(Federal Register 2026-00789)を公示し、同日付で発効させた。H200と同等品以下の性能を持つ半導体について、中国とマカオ向けの輸出審査方針を従来の「原則不許可」から「個別審査」に変更したもので、米国内に十分な供給があること、中国向け製品の生産によって米国内の利用者向けに確保されたファウンドリの生産能力が減少しないこと、米国内で独立した第三者による試験を受けることなどを条件としている。NVIDIAが提出した10-K(年次報告書)によれば、米政府は2026年2月、特定の中国顧客に少量のH200を出荷するためのライセンスを付与した。

その一方で、米司法省は2026年3月19日、米国上場のサーバーメーカーの共同創業者Yih-Shyan Liaw氏ら3人を起訴したと発表した。司法省の発表ではサーバーメーカーの社名は伏せられているが、起訴内容によると、3人は2024〜2025年に東南アジアの企業「Company-1」を通じて約25億ドル(約3,958億円)相当のサーバーを購入させ、その多くを中国へ転用した共謀の罪に問われている。円換算には2026年11月6日の欧州中央銀行の参照レートである1ドル=158.33円を使用しており、以下も同じ基準とする。なお、25億ドルはCompany-1による購入総額であり、転用額として具体的に示されたのは、2025年4月下旬から5月中旬にかけての少なくとも約5億1,000万ドル(約807億円)に限られる。これらは起訴状に記された容疑であり、裁判で事実と認定されたものではない。

シンガポール警察は2026年10月30日の回答で、Megaspeedへの捜査が続いていることを認めたが、詳細についてはコメントを控えた。また、これとは別に、2025年2月から2026年7月にかけてサーバー供給業者に対する詐欺事件で4人と4社を起訴したと説明しているものの、個人名や企業名は明らかにしていない。同警察は、外国が一方的に課す輸出規制を執行することはないとする一方、シンガポール国内の法律に違反した企業や個人には厳正に対処する姿勢を示している。

以下は、関連する一次資料から確認できる主な出来事を時系列で整理したものだ。

日付 出来事 一次資料
2025年10月13日 Cotton上院議員がLutnick商務長官にMegaspeedの調査を要請 Cotton議員の書簡
2025年11月19日 NVIDIAが地域別売上の集計基準を本社所在地基準に変更した10-Qを提出 NVIDIA 10-Q
2025年12月8日 Trump大統領がH200と同等品を中国の承認済み顧客へ輸出可能にすると発表 BISの発表
2026年1月15日 BISの最終規則が公示・発効。H200級半導体の中国・マカオ向け輸出を個別審査へ変更 Federal Register 2026-00789
2026年2月 米政府が特定の中国顧客向けに少量のH200の輸出ライセンスを付与 NVIDIA 10-K
2026年2月25日 NVIDIAが10-Kを提出。ライセンス制度に基づく売上はまだ発生していないと説明 NVIDIA 10-K
2026年3月19日 米司法省がCompany-1を通じたサーバー転用の共謀容疑で3人の起訴を発表 米司法省の発表
2026年8月26日 NVIDIAが10-Qを提出。H200の出荷は許可量の一部にとどまり、4億ドルの費用を計上したと開示 NVIDIA 10-Q
2026年10月30日 シンガポール警察がMegaspeedに対する捜査の継続を認める シンガポール内務省の声明・付属資料
2026年11月4日 米下院の3委員長がJensen Huang氏に11月18日の非公開説明を要請 下院3委員長の書簡
2026年11月17日 NVIDIAの第3四半期決算説明会(予定) NVIDIAの告知

時系列で見ると、Cotton議員がMegaspeedの調査を求めた2025年10月13日以降、2026年1月15日のBIS規則発効、同年2月のH200輸出ライセンス付与を経て、10月30日のシンガポール警察による捜査継続の確認、11月4日の下院書簡に至るまで、H200の対中輸出許可と東南アジア企業を巡る捜査・起訴が並行して進んでいたことが分かる。ただし、NVIDIAの10-Kにはライセンスの付与時期が月単位でしか記されていない。また、米司法省はCompany-1の社名を明かしておらず、Megaspeedと同一企業だと特定したわけではない。この年表から確認できるのは各事象の前後関係であり、輸出許可の変更がサーバーの転用を招いたといった因果関係まで示すものではない。

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H200の対中出荷は許可量の一部にとどまり、Data Center売上の1%未満

NVIDIAは2026年8月26日に提出した10-Q(2026年7月26日終了四半期)で、中国政府側の制限により、輸出ライセンスを取得したH200の全量を販売できていないと説明した。H200の需要が減少したことを受け、2027年度上半期には過剰在庫と購入義務に関連する4億ドル(約633億円)の費用を計上している。その後に行われたH200の出荷も許可量の一部にとどまり、直近四半期のData Center売上の1%未満だったという。同四半期のData Center売上は890億ドル(約14兆914億円)に達しており、許可されたH200の出荷が業績全体に占める割合は小さい。

同社が2月25日に10-Kを提出した時点では、新たな輸出許可制度に基づく売上はまだ発生しておらず、中国への輸入が認められるかどうかも不透明だった。半年後に提出した10-Qでは、2027年度第2四半期末の時点で、中国のデータセンター向けコンピューティング市場から「事実上締め出されている」と説明している。つまり、米政府による輸出許可制度は始まったものの、中国政府側の制限もあり、許可を受けたH200の販売は限定的な規模にとどまっている。これはNVIDIA自身の財務報告書から確認できる事実だ。

さらに、中国向けH200の輸出には、販売数量とは別に追加の費用負担も生じている。BISの規則は米国内で独立した第三者による試験を受けることを条件の一つとしており、NVIDIAに付与されたライセンスでも、顧客への出荷前に米国内で検査することが求められている。このため、許可制度に基づいて中国へ輸出されるH200は、検査のためにいったん米国へ輸入する必要がある。NVIDIAの10-Kと10-Qによれば、この輸入時には25%の関税が課される。同社は関税を顧客に転嫁できておらず、今後中国向けの販売が可能になった場合も、転嫁できるとは見込んでいない。

ただし、H200の輸出量や売上規模だけでは、米議会が問題視している疑惑の実態は判断できない。下院の3委員長が説明を求めているのは、外国の敵対勢力による諜報活動に対するNVIDIAの安全対策と、Jensen Huang氏とAlice Huang氏とのやり取りである。一方、Cotton議員が求めたのは、Megaspeedを経由した製品転用の調査だった。いずれも、正式な輸出許可に基づくH200の出荷実績とは別に検証すべき問題である。

NVIDIAの地域別売上からシンガポールの項目が消えた理由と、開示の限界

NVIDIAの2025年1月期の10-Kでは、請求先所在地を基準に集計したシンガポールの売上高が236億8,400万ドル(約3兆7,499億円)に達し、総売上の18%を占めていた。ただし、同社は脚注で、顧客が請求処理を一か所に集約するためにシンガポールを利用しており、製品は「ほぼ常に別の場所へ出荷される」と説明していた。実際にシンガポールへ出荷された製品は、同年度の総売上の2%未満だったという。つまり、請求先として計上された売上高と、実際に製品が届けられた地域の売上高には大きな違いがあった。

NVIDIAは2025年11月19日に提出した10-Q(2025年10月26日終了四半期)から、この地域別売上の集計方法を変更した。従来の請求先所在地ではなく、直接顧客の本社所在地を基準に分類する方式へ切り替え、過去の会計期間についても比較できるよう数値を組み替えた。新たな地域区分は「米国」「台湾」「中国(香港を含む)」「その他」の4区分となり、シンガポールは独立した項目として表示されなくなった。同社は変更の理由について、売上の地理的な実態をより適切に反映するためだと説明している。ただし、注記では、製品の最終顧客や実際の出荷先が、直接顧客の本社所在地と異なる場合があることも明記している。

この違いは、米国に本社を置く企業がシンガポールの拠点に請求を集約しているケースを考えると分かりやすい。従来の請求先基準では売上がシンガポールに計上される一方、新しい本社所在地基準では米国に計上される。同じ取引であっても、集計方法が変われば地域別の数字は大きく変化する。しかし、どちらの方式も請求先や直接顧客の本社所在地を示すものであり、製品が最終的にどこへ運ばれ、誰に使用されるかを明らかにするものではない。

NVIDIAは10-Qで、顧客を「直接顧客」と「間接顧客」に区分している。直接顧客にはNVIDIAから製品を購入するODM、OEM、クラウド事業者、販売代理店などが含まれ、間接顧客はこれらの企業を通じて製品を購入する事業者を指す。地域別売上は直接顧客の本社所在地を基準としているため、間接顧客の所在地は表に反映されない。このため、Megaspeedが直接顧客と間接顧客のどちらに該当し、売上がどの地域に計上されているかは、公開資料からは確認できない。

重要なのは、シンガポールの項目がなくなったことと、同国に関連する取引がなくなったことは、まったく別の問題だという点だ。NVIDIAが2025年11月の10-Qから地域別売上の基準を変更した結果、2025年1月期に総売上の18%を占めていたシンガポールは独立した項目として表示されなくなった。しかし、新旧いずれの集計方法でも最終顧客や出荷先を特定することはできず、Megaspeedの取引上の位置付けも開示されていない。なお、NVIDIAは台湾に本社を置く顧客のData Center売上について、最終顧客が米国と欧州に所在する割合の推計を別途示している。

以下は、NVIDIAの10-Kに記載された2025年1月期の売上高について、従来の請求先基準と、本社所在地基準による組み替え後の数値を比較したものだ。

地域(2025年1月期、単位:百万ドル) 請求先基準(2025年1月期の10-K) 本社所在地基準(2026年1月期の10-Kによる組み替え値)
米国 61,257 77,482
シンガポール 23,684 項目なし
台湾 20,573 23,600
中国(香港を含む) 17,108 25,048
その他 7,875 4,367
合計 130,497 130,497

集計基準の変更により、2025年1月期の中国(香港を含む)に計上された売上高は、請求先基準の171億800万ドル(総売上の13.1%)から、本社所在地基準では250億4,800万ドル(同19.2%)へと組み替えられた。円換算では、それぞれ約2兆7,087億円と約3兆9,658億円に相当する。構成比は両基準で同じ総売上1,304億9,700万ドルを分母として編集部が計算し、小数第2位を四捨五入したものだ。約79億ドルの差額はあくまで集計基準の変更によって生じたものであり、中国向けの売上が実際に増えたわけではない。また、どちらの数値も中国国内への出荷額や、最終顧客の所在地を示すものではない。

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11月11日の回答期限と18日の非公開説明、依然として残る疑問

米下院外交委員長のBrian J. Mast氏、下院対中特別委員長のJohn Moolenaar氏、下院情報特別委員長のEric A. "Rick" Crawford氏は、11月4日付の書簡で、Jensen Huang氏に対して11月18日の合同非公開説明への出席を求めた。場所はRayburn下院議員会館の2172号室で、11月11日までに要請を受け入れるか、第119議会の会期中に代替日を提示するよう求めている。書簡では「米国の国家安全保障がどこまで危険にさらされたのかを、議会が確かめることが欠かせない」と強調した。ただし、今回の書簡はあくまで出席要請であり、法的な強制力を伴う召喚状ではない。

上院でも関連する動きが出ている。FTによれば、デラウェア州選出の民主党上院議員Chris Coons氏は週末、Xへの投稿で調査を開始すると表明した。FTはまた、同氏が2027年1月から上院外交委員長に就く見通しだと伝えている。こうした動きは、疑惑が企業間の取引関係にとどまらず、米国の国家安全保障や輸出管理を巡る議会の関心事となっていることを物語る。

NVIDIA側は、Megaspeedを巡る疑惑について社内調査を行い、不正の証拠は見つからなかったと説明している。FTによれば、同社は2026年10月にも、問題となった疑惑は前年に調査済みで、否定されたと述べた。Jensen Huang氏自身もインタビューで、Megaspeedとの取引は通常のものであり、同社に配備されたGPUを調査して「1台ずつ数えた」と説明している。ただし、今回確認できた公開資料には、社内調査の具体的な範囲や方法、GPUの確認結果は記載されていない。したがって、NVIDIAによる調査の妥当性を外部から独立して検証することは難しい。

今後の日程では、NVIDIAが11月17日の米太平洋時間午後2時(日本時間18日午前7時)に予定している第3四半期決算説明会が注目される。これは下院が非公開説明を求めた日の前日にあたる。また、シンガポール警察によるMegaspeedへの捜査は、少なくとも10月30日時点で継続していた。今後、捜査結果や議会への説明を通じて、これまで公表されていなかった情報が明らかになるかが焦点となる。

現時点で公開資料から確認できるのは、輸出許可や捜査に関する出来事の時系列と、NVIDIAが財務報告書で開示した数値や注記までだ。同社が実施したとする社内調査やGPUの確認結果は公開されておらず、地域別売上のデータからも製品の最終的な流通経路を追跡することはできない。疑惑の真偽や製品の流通、情報管理の実態を判断するには、追加の証拠が必要となる。まずは11月11日までにNVIDIAが下院の要請にどう回答するか、18日の非公開説明が実際に行われるか、そしてシンガポール警察の捜査がどのような進展を見せるかが、今後の重要な判断材料となる。