NVIDIAがゲーマー向けAIアシスタント「Project G-Assist」を実験的にリリースした。対応するGeForce RTX GPU上でローカルに動作し、PC設定の最適化やパフォーマンス分析、周辺機器制御などを音声やテキストによる自然言語で指示できる。ただし、現状は実験的な段階であり、パフォーマンスへの影響も指摘されている。
G-Assistとは? ゲーム体験を変えるAIアシスタント
Project G-Assistは、NVIDIAが提供する統合ソフトウェア「NVIDIA App」を通じて利用可能な、新しいAIアシスタント機能だ。その目的は、近年ますます複雑化するPCのハードウェア・ソフトウェア設定(NVIDIAによれば、その組み合わせは1兆通りを超える可能性があるという)を簡略化し、ユーザーがより簡単に最適なパフォーマンスを引き出せるように支援することにある。
G-Assistは、音声またはテキストによる対話形式で操作できる。ユーザーは以下のような多様なタスクをAIに指示できる。
- PC設定とゲームの最適化:
- 特定のゲームタイトルを指定し、推奨設定を適用(例: 「Cyberpunk 2077のグラフィックを最適化して」)。
- パフォーマンス優先、画質優先、またはそのバランスといった好みに応じた最適化
- GPUのオーバークロックとその解除。
- フレームレート上限(FRL: Frame Rate Limiter)の設定や解除。
- モニターのリフレッシュレート設定変更(例: 「モニターを144Hzに設定して」)。
- 電力効率モードの設定。
- パフォーマンスの監視と分析:
- 現在のフレームレート(FPS: Frames Per Second)、PC遅延、GPU/CPU使用率、GPU温度、消費電力などをリアルタイムで報告(例: 「今のGPU温度は?」)。
- 各種パフォーマンス指標(FPS、遅延、使用率、温度、電力など)のグラフ表示(例: 「CPUとGPUの使用率をグラフにして」)。
- パフォーマンス分析によるボトルネック特定と改善提案
- 応答性(レイテンシ)や電力消費、カクつきに関する分析と改善提案。
- 情報提供とシステム操作:
- DLSS(Deep Learning Super Sampling)やG-SYNCといったNVIDIA技術に関する質問応答(例: 「DLSSフレーム生成はどう機能するの?」)。
- インストールされているGPUモデルやドライババージョンの確認。
- ゲームの起動
- ShadowPlayによるゲームプレイ録画の保存や開始/停止。
- NVIDIA Appのパフォーマンスオーバーレイ表示切り替え。
- 最新GPUドライバの確認とアップデート。
- 対応周辺機器の制御:
- Logitech G、Corsair、MSI、Nanoleaf製の対応デバイスのライティング設定変更(例: 「キーボードのライトを緑にして」)。
- 対応デバイスのファンプロファイル変更。
これらの機能は、NVIDIAが提供するリストにある特定のプロンプト(指示文)によって呼び出される。現時点では英語のみの対応となっている。
GPUで動くローカルAI – その仕組みと要件
G-Assistの最大の特徴は、インターネット接続や有料サブスクリプションを必要とせず、ユーザー自身のPCに搭載されたGeForce RTX GPU上で直接動作する点である。これは、クラウドベースの大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)とは一線を画すアプローチだ。
NVIDIAによると、G-Assistは「特別に調整された小規模言語モデル(SLM: Small Language Model)」を採用している。具体的には、Llamaベースの80億パラメータを持つモデルを使用しており、これをGeForce RTXハードウェア上でローカルに実行できるように最適化されている。このSLMは、広範な会話能力を持つ汎用AIではなく、PCの制御やゲーム関連の特定タスクを実行することに特化している。
ローカルで実行されるため、応答性が高く、オフライン環境でも利用できる利点がある。一方で、G-Assistを利用するには一定のシステム要件を満たす必要がある。
- OS: Windows 10 または Windows 11
- GPU: GeForce RTX 30、40、または50シリーズのデスクトップGPU。VRAM(ビデオメモリ)容量が12GB以上であることが必須。
- この要件により、RTX 3060 Ti、RTX 3070、RTX 4060 Ti 8GBモデルといった人気のあるミドルレンジGPUや、今後登場する可能性のある一部のGPU(Tom’s HardwareはRTX 5060/5060 Tiを指摘)では利用できない可能性がある。
- GeForce RTXラップトップGPUへの対応は今後のアップデートで予定されているが、十分な性能を持つモデルは限られそうだ。
- CPU: Intel Pentium Gシリーズ、Core i3/i5/i7以上、またはAMD FX、Ryzen 3/5/7/9、Threadripper以上。
- ディスク容量: 約9.5GBの空き容量が必要(システムアシスタント用に6.5GB、音声コマンド用に3GB)。
- ドライバ: GeForce 572.83以降のドライバ。
- 言語: 英語(リリース時点)。
パフォーマンスへの影響と現状の課題
G-AssistはGPU上で動作するため、その処理にはGPUリソースが割り当てられる。NVIDIAは、G-Assistが呼び出された際(デフォルトではAlt+Gキー)、特にゲームプレイ中などGPU負荷が高い状況では、「レンダリングレートまたは推論完了速度が数秒間、短時間低下する可能性がある」と説明している。タスク完了後は、GPUは再びゲームやアプリケーションに全パフォーマンスを割り当てる。
しかし、Ars TechnicaによるRTX 4070でのテストでは、G-Assistの処理中にGPU使用率が顕著に上昇し、『Baldur’s Gate 3』のようなゲームではフレームレートが約20%低下したと報告されている。プレイ不能になるほどではないものの、特にGPU性能が限界に近い状況では、G-Assistの使用がフレームレート維持をさらに困難にする可能性がある。ゲーム外での動作は比較的速いものの、常用するには非常に強力なGPUが必要になるだろうと同メディアは結論付けている。
さらに、Ars Technicaは現状のG-Assistについて「遅く、バグが多い」とも評価しており、「ほとんどのシステム設定やゲーム設定は、まだ自分で調整する方が速い」と指摘している。NVIDIA自身もこのリリースを「実験的(experimental)」バージョンと位置付けており、完成された機能というよりは、将来に向けた技術デモンストレーションの色合いが濃い。
昨年NVIDIAがデモしたバージョンでは、プレイ中のゲーム内容をAIが認識し、攻略のヒントを提示するような高度な連携が示唆されていたが、今回リリースされたバージョンでのゲーム固有の連携機能は、『Ark: Survival Evolved』などごく一部のタイトルに限定されている。
拡張性と将来展望 – コミュニティと共に進化
G-Assistは、単なるNVIDIA製ツールにとどまらず、外部開発者による機能拡張を念頭に設計されている。NVIDIAは、開発者が新しい機能を追加するためのプラグインを作成できる仕組みを用意し、そのためのサンプルコードや手順をGitHubリポジトリで公開した。
公開されているサンプルプラグインには、Spotifyの音楽再生や音量を制御するものや、GoogleのクラウドAIであるGeminiと連携し、より複雑な会話やWeb検索を行うもの(無料のGoogle AI Studio APIキーが必要)などが含まれる。これにより、例えば「Apex Legendsでソロプレイ時におすすめのレジェンドは?」といった質問をG-Assist経由でGeminiに尋ねることが可能になる。
さらにNVIDIAは、ChatGPTを利用してプラグインのコード(JSON形式の設定ファイルとPythonスクリプト)を生成できる「プラグインビルダー」の利用手順も公開。これにより、プログラミング経験が少ないユーザーでも比較的容易にカスタム機能を追加できる道筋を示している。開発者は作成したプラグインをNVIDIAに提出し、審査を経て公式に配布される可能性もある。
また、NVIDIAはG-Assistの基盤技術である「NVIDIA ACE(Avatar Cloud Engine)」をMSI(AI Robot)、Logitech(Streamlabs Intelligent AI Assistant)、HP(Omen Gaming Hub)といったISV(独立系ソフトウェアベンダー)やOEM(相手先ブランド製造)にも提供しており、各社が独自のAIアシスタント開発を進めている。
将来的には、CrewAI、Flowise、LangFlowといったローコード/ノーコードAI開発ツールからもG-Assistの機能が利用可能になり、より広範なAIコミュニティがG-Assistを統合したアプリケーションやワークフローを構築できるようになる見込みである。
NVIDIAは、ユーザーからのフィードバックがG-Assistの将来を形作る上で重要であるとしており、NVIDIA App内のフィードバック機能を通じて意見を募っている。この実験的なAIアシスタントが、今後どのように進化し、ゲーマーのPC体験を実際に変えていくのか、注目される。
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