テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

Intel Arc Pro B60/B50を発表:最大24GB VRAM、AI市場に価格破壊か?

Y Kobayashi

2025年5月20日

Intelは台湾で開催されたComputex 2025の舞台で、待望のプロフェッショナル向けディスクリートGPUの新ラインナップ「Arc Pro Bシリーズ」を発表した。AIワークステーション市場とプロフェッショナルビジュアライゼーション市場に照準を合わせたこれらの新製品は、最新の「Battlemage」アーキテクチャ(Xe2-HPG)を搭載し、大容量VRAMと戦略的な価格設定で市場に新風を吹き込む可能性を秘めている。

スポンサーリンク

Computex 2025の目玉:Intel Arc Pro「Battlemage」GPU、プロ市場へ本格参入

Intelが満を持して投入するArc Pro Bシリーズは、同社のディスクリートGPU戦略における重要な一歩と言える。特にAI分野での推論処理能力と、コンテンツ制作現場でのグラフィックス性能向上に重点を置いて開発されており、NVIDIAやAMDが牙城を築くプロフェッショナル市場への本格的な挑戦状と捉えることができる。

今回発表されたのは、AIおよびハイエンドワークステーション向けの「Arc Pro B60」と、コストパフォーマンスに優れたメインストリームワークステーション向けの「Arc Pro B50」の2モデルである。両モデルともに、Intelの第2世代Xeアーキテクチャである「Battlemage」をベースとしたBMG-G21 GPUダイを採用していると見られている。

主力モデル「Arc Pro B60」- 24GB VRAMでAIワークステーションを革新

今回の発表で特に注目されるのが、AI推論ワークロードや大規模データセットを扱うプロフェッショナル向けに設計された「Arc Pro B60」である。

Arc Pro B60 詳細スペック

Arc Pro B60は、BMG-G21 GPUダイのフルスペック構成と目されており、その主な仕様は以下の通りである。

  • Xeコア数: 20基
  • XMXエンジン数: 160基
  • VRAM: 24GB GDDR6
  • メモリバス幅: 192-bit
  • メモリ帯域幅: 456 GB/s (19 Gbps GDDR6メモリ採用時)
  • ピークINT8 TOPS: 197 TOPS
  • TBP (Total Board Power): 120W ~ 200W(パートナー設計により変動)
  • PCIeインターフェース: PCIe 5.0 x8

特筆すべきは、このクラスの製品としては非常に大容量な24GBのVRAMを搭載している点である。これにより、より大きなAIモデルや複雑なシーンデータを扱うことが可能になる。

AI性能と競合比較:LLMで優位性を示す

Intelは、Arc Pro B60が特にAI推論ワークロードにおいて高いパフォーマンスを発揮すると強調している。ベンチマーク結果(Intel提示)によれば、DeepSeek R1やLlama3といった大規模言語モデル(LLM)の処理において、競合のNVIDIA RTX 2000 Ada (16GB VRAM) や GeForce RTX 5060 Ti (16GB VRAM) を最大で2.7倍上回る性能を示す場面もあるとしている。これは、B60が持つ24GBというVRAM容量が、メモリを大量に消費するLLMにおいて大きなアドバンテージとなるためと考えられる。

価格と想定される用途

Arc Pro B60の単体GPUとしての想定価格は約500ドルとされている。この価格帯で24GBのVRAMを提供する製品は現時点では珍しく、AI開発者やデータサイエンティスト、高度な3Dレンダリングやシミュレーションを行うクリエイターにとって、魅力的な選択肢となるであろう。主に、後述する「Project Battlematrix」構想に基づいたAIワークステーションシステムの一部として提供される見込みである。

スポンサーリンク

コスパと効率を追求「Arc Pro B50」- 16GB VRAMを$299で実現

もう一方の「Arc Pro B50」は、優れたコストパフォーマンスと電力効率を両立させたモデルとして位置づけられている。

Arc Pro B50 詳細スペック

Arc Pro B50は、BMG-G21 GPUダイを一部カットダウンした構成と見られ、その主な仕様は以下の通りである。

  • Xeコア数: 16基
  • XMXエンジン数: 128基
  • VRAM: 16GB GDDR6
  • メモリバス幅: 128-bit
  • メモリ帯域幅: 224 GB/s
  • ピークINT8 TOPS: 170 TOPS
  • TBP (Total Board Power): 70W
  • PCIeインターフェース: PCIe 5.0 x8

Arc Pro B50の最大の特徴は、299ドルという戦略的な価格設定でありながら、16GBという大容量VRAMを搭載している点である。 また、TBPが70Wと低く抑えられており、外部補助電源コネクタを必要としないコンパクトなデュアルスロットデザインが可能である。これにより、スリム型やスモールフォームファクタ(SFF)のワークステーションにも容易に搭載できる。

プロフェッショナルビジュアライゼーション性能と競合比較

Intelは、Arc Pro B50がプロフェッショナルビジュアライゼーションやコンテンツ制作ワークロードにおいても高い性能を発揮すると主張している。同社のベンチマークによれば、競合のNVIDIA RTX A1000 (8GB VRAM) や前世代のArc Pro A50 (6GB VRAM) と比較して、グラフィックス処理やAI推論タスクで大幅な性能向上を実現しているとのことである。特に、前世代のA50と比較して最大3.4倍、RTX A1000に対しても多くの項目で優位性を示している。

価格と想定される用途

前述の通り、Arc Pro B50の希望小売価格は299ドルと、非常に競争力のある設定である。この価格で16GBのVRAMと最新アーキテクチャのGPUが手に入るとなれば、中規模のCAD/CAM作業、ビデオ編集、3Dモデリングなどを行うクリエイターやエンジニアにとって、まさに「価格破壊」とも言えるインパクトを持つ可能性がある。ISV認証を受けたプロフェッショナル向けドライバも提供され、安定した動作が期待される。

AI推論をスケールアップ「Project Battlematrix」構想

Intelは個々のGPUだけでなく、より大規模なAIソリューションの構築を目指す「Project Battlematrix」構想も明らかにしている。

最大8GPU、192GB VRAMによる大規模モデル対応

Project Battlematrixは、Intel Xeonプロセッサを搭載したワークステーションプラットフォーム上で、最大8基のArc Pro GPU(例えばArc Pro B60)を連携させることを可能にする。これにより、システム全体で最大192GBという膨大なVRAM容量と、1280基のXMXエンジン(B60 x 8の場合)を実現し、700億パラメータを超えるような非常に大規模なAIモデルの処理を目指す。デモでは、実際に8基のGPUを搭載したシステムで675億パラメータのDeepseekモデルを動作させる様子も公開された。

XeonプラットフォームとLinuxベースのソフトウェアスタック

この構想は、PCIe Gen5プロトコルをサポートするIntel Xeonエコシステムを基盤とし、最適化されたLinuxベースのソフトウェアスタック(ドライバ、ライブラリ、ツール、フレームワークを含むコンテナ化ソリューション)と共に提供される計画である。これにより、AI開発者は迅速かつ容易に開発・推論環境を構築できるようになるとしている。

パートナーエコシステムとシステム価格帯

Project Battlematrixワークステーションは、Intelのパートナー企業を通じて提供され、システム価格は5,000ドルから10,000ドルの範囲になると想定されている。

スポンサーリンク

パートナー企業による多様なカード展開 – MaxsunのデュアルGPUモデルも登場

IntelはArc Pro Bシリーズの展開において、AMDやNVIDIAのプロ向けカードとは異なり、ボードパートナー各社によるカスタムデザイン製品を積極的に推進する方針である。ASRock、Sparkle、GUNNIR (Gunnir)、Senao、Lanner、Onixといったパートナー名が挙げられている。

特に注目されるのが、Maxsunが発表した「Intel Arc Pro B60 Dual 48G Turbo」である。これは、1枚のカード上に2基のArc Pro B60 GPUを搭載し、合計で48GBのGDDR6メモリ(24GB x2)を実現するデュアルGPUソリューションである。各GPUは独立してPCIe 5.0 x8インターフェース(PCIe分岐が必要)でホストシステムと接続される。このような野心的な製品が登場することは、Intelのパートナー戦略の柔軟性を示していると言える。Maxsunのこのカードは、TDP 400Wで、12VHPWR電源コネクタを1基搭載するとのことである。

発売時期とソフトウェアロードマップ

Intel Arc Pro B50およびB60は、2025年第3四半期にまずOEMパートナーのワークステーションシステムに搭載される形で市場に登場する予定である。個人ユーザー向けの単体GPUとしての販売は、ソフトウェアの最適化が進んだ後の第4四半期以降になる可能性があると示唆されている。

ソフトウェア面では、Q3にISV認証と最初の推論最適化コンテナの提供を開始し、Q4にはSRIOV(Single Root I/O Virtualization)、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)、管理機能といったエンタープライズ向けの機能が追加されるロードマップが示されている。

IntelのGPU戦略は新たな局面へ

Intel Arc Pro Bシリーズ、特にArc Pro B50の299ドルという価格と16GB VRAM、そしてArc Pro B60の500ドル前後での24GB VRAMというスペックは、プロフェッショナルGPU市場、とりわけAI推論やコンテンツ制作の分野において、既存の勢力図を塗り替えるポテンシャルを秘めていると言える。

これまでNVIDIAが圧倒的なシェアを誇ってきたこの市場において、Intelが大容量VRAMとコストパフォーマンスを武器にどこまで食い込めるのか、非常に興味深い点である。特に、比較的手頃な価格でAI開発環境を構築したいと考える中小企業や個人開発者、教育機関などにとっては、新たな選択肢として大いに歓迎されるだろう。

もちろん、ハードウェアの性能だけでなく、ソフトウェアエコシステム、ドライバの安定性、そして幅広いアプリケーションでの互換性といった要素も、プロフェッショナル市場での成功には不可欠である。Intelが今後、これらの課題にどのように取り組み、製品の魅力を高めていくのか、その手腕が注目される。

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする