所有しているゲームディスクが傷つき、実機も老朽化していく。そうなって初めて、「なぜゲームのデータを手元に残せるようにしておかなかったのか」と後悔するユーザーは多い。Xbox・GameCube・Wiiといった2000年代のハードが採用したディスクフォーマットは独自規格で、市販のPCドライブでは読み取れなかった。対応するには特定のKreon改造ドライブを入手するか、改造した実機を使うしかなく、個人での保存はハードルの高い作業だった。
2026年2月、コミュニティ開発者RibSharkが公開したファームウェア改造「OmniDrive」はその状況を変えた。MediaTek MT1959チップセットを搭載した市販のBlu-rayドライブに書き込むだけで、4世代のゲームディスクをリッピングできるようになる。専用ハードウェアを調達する必要はない。
なぜ今まで不可能だったか——独自フォーマットとドライブの壁
PC用Blu-rayドライブは、BD-ROM・DVD・CD-ROMといったコンシューマー規格に準拠した光学媒体を読み取るよう設計されている。Xboxが使うXGD(Xbox Game Disc)、GameCubeのNROM、WiiのRVL-ROMはいずれもこの規格とは異なる独自フォーマットだ。ディスク上のデータ配置やセクタ構造が通常と違うため、標準ファームウェアのドライブはそもそもディスクを認識できないか、読み取れてもデータとして意味をなさないゴミしか返さない。
2000年代から使われてきた解決策が「Kreonドライブ」だった。これはLG製の特定モデルにコミュニティが改造ファームウェアを書き込んだもので、Xbox 360やWiiのXGD/RVL-ROMをPCから読み取る手段として長く機能した。しかし対応する実機台数は減り続け、新品入手は困難になっている。
MT1959チップセットがこの状況を変える入り口になった。このチップはASUSやLGが製造するBlu-rayドライブに広く採用されており、UHD(4K Blu-ray)のリッピング目的でMakeMKVコミュニティで以前から注目されていた。RibSharkはこのチップが持つ低レベルのディスクアクセス機能に着目し、通常ファームウェアでは無効化されているコマンドセットを有効化する改造ファームウェアとしてOmniDriveを開発した。有効化されたコマンドにより、ドライブはXGD・NROM・RVL-ROMの独自セクタ構造を正確に読み取れるようになる。
互換性の確認はMakeMKVの起動画面で行える。ドライブ情報にMT1959の記載があればOmniDriveの書き込み対象になる。
OmniDriveが対応する機種と対応しない機種
OmniDriveが完全対応する機種はXbox(XGD1)、Xbox 360(XGD2・XGD3)、GameCube(NROM)、Wii(RVL-ROM)の4世代だ。これらはドライブから暗号化キーも含めてデータを取り出せるため、ゲームとして動作するイメージを作れる。
Xbox One・Xbox Seriesが採用するXGD4、PS3・PS4・PS5の光学ディスクについては、ドライブ自体はディスクを認識して読み取れる。ただしこれらはハード側でディスクキーを厳重に管理しており、PCドライブからそのキーを取得する手段がない。データを読んでも暗号化されたままであり、ゲームとして使えるバックアップにはならない。OmniDriveの限界というより、プラットフォームの設計そのものによる制約だ。
Wii Uは現時点で「部分対応」の状態にある。ディスク(WUP-ROM)のRAWデータは読み取れるが、Wii Uが採用したスクランブルアルゴリズムがまだ解明されていない。データは取り出せても、ゲームとして再生できる形式には変換できない段階だ。DreamcastのGD-ROMも同様で、低密度エリアのみ読み取り可能だが、GD-ROMの高密度エリアには非対応のままとなっている。
対応ドライブは主に2系統に分かれる。デスクトップ向けではASUS BW-16D1HTを筆頭に、LG WH14NS40・BH16NS40・BH16NS55・WH16NS60など多数のモデルが対象だ。スリム型ではLG BU40N・BU50N・BP50NB40、ASUS SBW-06D5H-U、Buffalo BRUHD-PU3-BKなどが対応する。それぞれに専用のファームウェアビルドが用意されており、スリム型向けはLG BU40N 1.00ベース、デスクトップ向けはASUS BW-16D1HT 3.02ベースになっている。
導入の流れとリスク
フラッシュに使うツールはMakeMKVに同梱されている「sdftool」だ。コマンドラインから実行し、接続されたドライブを検出してファームウェアを書き込む。MPF(Multidisc Preservation Framework)バージョン3.7.0以降もOmniDriveに対応しており、ゲームディスクのダンプ作業はこちらで行う。
注意点として、ファームウェアのビルドは自分でコンパイルする必要がある。GitHubのリリースページには著作権上の理由からコンパイル済みバイナリは掲載されていない。Redump WikiやMakeMKVコミュニティフォーラムの手順書がビルド方法を解説しており、初めて試す場合はこちらを参照するのが適切だ。
もうひとつのリスクは書き込みミスだ。スリム型向けのファームウェアをデスクトップドライブに書き込んだ場合、ドライブは起動しなくなる。いわゆる「文鎮化」で、修復は困難になる。型番と接続方法を必ず照合してから作業を進めること。
RetroRGBのBobはASUS BW-16D1HTでの実機検証を公開している。OmniDrive導入後にPS2ゲーム(DVD-ROM規格、標準ドライブで読み取り可能)のダンプと4K Blu-rayのリッピングがいずれも問題なく動作することを確認した。OmniDriveのインストールが既存の読み取り機能を損なわないことが実証された形だ。ゲームのバックアップとUHDリッピングを1台で賄える点は実用上の利点になる。
OmniDriveを使って保存したゲームデータは、個人所有ディスクのバックアップという位置づけになるが、著作権法の扱いは国と地域によって異なる。日本では私的複製が一定の条件で認められている一方、技術的保護手段の回避については解釈が分かれる部分もある。米国でもDMCAの適用範囲に関する議論が続いており、利用に際しては自国の法的状況を確認することが望ましい。
Redump公式認定と、ゲーム保存コミュニティの変化
ゲームディスクのデジタル保存を組織的に進めるプロジェクト「Redump」は、世界中のボランティアが実機ディスクをリッピングしてデータをデータベースに登録する活動を続けている。このプロジェクトへの新規ダンプ投稿には「公式認定ドライブ」が必要で、OmniDriveはその認定を取得し、旧来のカスタムASUS BW-16D1HTファームウェアを置き換える標準ドライブとして位置づけられた。ダンプツールの「Redumper」もビルド705以降でOmniDriveに対応している。
これはコミュニティにとって実質的な意味を持つ変化だ。従来はKreon系やカスタム改造ドライブを個別に調達・管理する必要があり、入手困難なモデルを探す手間もあった。OmniDriveは入手しやすいASUSやLGのドライブを対象にしており、コミュニティへの参加ハードルを下げる。
PC向けBlu-rayドライブの価格が近年上昇傾向にあるとTechSpotが報じており、ドライブ本体の調達コストが課題として残る面はある。ただし、対象機種を持つユーザーであれば既存のドライブをそのまま流用できるケースも多く、追加コストなしに対応できる場合がある。
GameCube・Wii・Xboxといったハードの実機は今後も減り続ける。光学ドライブは消耗品であり、ディスク自体も経年劣化を免れない。OmniDriveのような個人レベルで使えるリッピングツールは、実機に頼らずにゲームを保存する手段として、保存コミュニティの外にいる一般ユーザーにとっても現実的な選択肢になり始めている。Wii Uのスクランブル解明など未解決の課題は残るが、対応ハードが着実に広がれば今後のアップデートで状況は変わる可能性がある。