AIサーバーの性能競争は長らくGPUとメモリの帯域幅を中心に語られてきた。しかし、NVIDIA Vera RubinプラットフォームにHBM4が実装され、GPUへのメモリ供給が毎秒2.8TBに達した今、次の問題が浮上している。学習データや推論用の重みファイルをそのGPUへ届けるストレージ側の速度が、系全体の足を引っ張りはじめているのだ。

PCIe 5.0世代のエンタープライズSSDが達成できる順次読み取りは、Samsung自身の前世代機PM1753で最大14,500 MB/s程度だった。一方、GPUが要求するデータの粒度と頻度はモデル規模に比例して膨らんでいる。ストレージの転送速度がGPU側の処理速度に追いつかなければ、高価なアクセラレータが待機状態に入る。この差を埋める手段がPCIe 6.0への移行だ。Samsungは2026年7月8日、その最初の量産品「PM1763」を市場に投入した。

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第9世代V-NANDと4nmコントローラが引き出した数値

PM1763の根幹を支えるのは2つの新開発コンポーネントだ。NANDはSamsungの第9世代V-NAND、コントローラは新開発の4nmプロセスで製造した自社製チップ。いずれも前世代から刷新されており、性能と消費電力の両面に影響する。

性能の頂点は16TBモデルが示す。順次読み取り28,400 MB/s、書き込み21,900 MB/s。いずれも同社の社内ベンチマークで、条件は未公表だ。前世代PM1753比で2倍以上に達するとSamsungは説明する。具体的な応用として同社が挙げるのが、40GBの大規模言語モデルを約1.4秒で転送できるという数値だ。ただしこの転送時間は同社の内部測定値であり、独立した第三者による検証は行われていない。

容量ラインナップは4TB8TB16TBの3種。NVMe 2.1とOCP 2.6に準拠しており、ハイパースケールデータセンターの調達基準を満たす構成になっている。OCP(Open Compute Project)規格への対応は、Meta、Microsoft、Googleといった主要ハイパースケーラーが採用基準に組み込んでいるため、実質的な大口調達の入口条件を意味する。

AIクラスター向けの冷却設計とセキュリティ機能

PM1763の熱設計は、液冷サーバーを前提に構築されている。チップに直接冷媒を当てる「Direct-to-Chip(D2C)」冷却方式に対応しており、高負荷の長時間動作でもピーク性能を持続できるとする。前世代比で1.8倍以上の能効改善(同社公称)の背景には、4nmコントローラによる消費電力削減だけでなく、この冷却機構との組み合わせがある。高密度AIクラスターでは空冷では排熱が追いつかなくなっており、液冷対応はもはや付加価値ではなく調達要件の一つになりつつある。

セキュリティ面では、後量子暗号(PQC)アルゴリズムへの対応が加わった。将来の量子コンピュータが現行の暗号を解読できる水準に達した場合でも、保存データを保護する狙いだ。加えてTDISP(TEE Device Interface Security Protocol)をサポートし、仮想化環境でのデータパスを暗号で保護する。AIモデルの学習データや重みファイルが企業秘密の核心を担うようになった現在、ストレージレベルでのセキュリティ強化は顧客の調達要件に直結する。PQCへの対応は将来の規制動向を先読みした設計であり、政府、金融向け調達においても評価される要素だ。

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Vera Rubin向けの位置づけと競合構図

PM1763はNVIDIAのVera Rubinサーバー向けに最適化されていると、Samsungは明示している。Vera RubinはNVIDIAが次世代AIインフラとして位置づけるプラットフォームであり、そのエコシステムを構成するストレージ部品として採用が見込まれる。この「特定プラットフォーム向け」の訴求は、汎用品として売るよりも調達決定者への訴求力が高い。データセンター事業者がNVIDIAのスタックを選べば、Samsungのストレージが自然に選択肢に入る構図だ。

競争相手はすでに存在する。MicronはPCIe 6.0 SSD「9650」を2026年初頭から量産しており、最大約28 GB/sの順次読み取りと書き込み約14 GB/sを達成する。順次読み取りでは両者は横並びに近いが、書き込み速度ではSamsungの21,900 MB/sがMicronの約14 GB/sを上回る。ただし、独立したベンチマークや実稼働データでMicronが先行している側面もあり、実環境での優劣はまだ確定していない。

Phison X3コントローラを採用した第三勢力のPCIe 6.0製品も市場に出始めており、2026年後半にかけて選択肢は広がる見通しだ。SamsungとMicronの二強体制に第三のプレイヤーが加わることで、調達交渉のレバレッジはデータセンター側に移る。供給多様化を優先するハイパースケーラーにとって、この流れは歓迎できる変化だ。

価格と採用の行方

量産の発表がなされた一方で、PM1763の出荷価格はまだ公開されていない。前世代のPM1753を含むエンタープライズSSDは、型番ごとに企業間交渉で価格が決まることが多く、公開価格が存在しないケースも珍しくない。価格が明示されない段階で調達の現実的なハードルを評価するのは難しいのが実情だ。価格競争力は、Micronとの差別化における最後の変数となる。

次に押さえておくべきは、主要クラウドベンダーやデータセンターインテグレーターからの採用報告だ。SamsungがVera Rubin向けと名指しした以上、NVIDIA DGXシステムや関連アーキテクチャへの搭載が具体化するかどうかが、PM1763の市場評価を大きく左右する。Micron 9650との実環境での性能比較が独立した機関から出てくるタイミング、そしてPhison X3搭載製品の量産時期が、PCIe 6.0世代の競争構図を決める観測点となる。