チャットAIの先駆者OpenAIが、初の独自データセンター建設と数十億ドル規模のストレージハードウェア購入を検討していることが複数の報道で明らかになった。5エクサバイト(5億テラバイト相当)という巨大容量のデータ管理施設を構築し、主要パートナーであるMicrosoftへの依存度を下げる戦略とみられる。
OpenAIの大規模データセンター計画の全容
The Informationによれば、OpenAIは膨大なAI研究開発データを管理するため、5エクサバイト規模のストレージインフラ調達を検討しているとのことだ。この容量は約5億テラバイトに相当し、同社が一躍世界最大級のストレージ顧客となる可能性を示している。この設備を収容するため、同社初となる専用データセンターの建設も視野に入れている。
報道によれば、新データセンターの候補地はテキサス州アビリーンの近郊で、「Stargateプロジェクト」の第一フェーズ建設地に近接する場所が検討されている。Stargateは、SoftBank、Oracle、投資ファンドMGXとOpenAIの共同事業で、今後4年間で最大5000億ドル相当のAIインフラを米国内に構築する野心的計画だ。この構想はTrump米大統領も支持していると伝えられている。
OpenAIの経営陣は社内スタッフに対し、年末までに研究用コンピューティングリソースを大幅に増強する意向を伝えており、これはChatGPTなどのサービス実行用インフラとは別枠で計画されている。同社はクラウドサーバーを含む総データセンター容量を現在の3倍となる2ギガワットまで拡大する意向だ。
Microsoft依存からの脱却と両社関係の変化
OpenAIとMicrosoftの関係は重大な転換点を迎えている。Microsoftは2023年以降、OpenAIに総額130億ドルを投資し、独占的クラウドプロバイダーとしての地位を築いてきた。しかし、2024年1月に両社の契約は修正され、OpenAIは他のクラウドコンピューティングサービスも利用可能となった。現在はMicrosoftが新規容量に対する先買権を持つ形式に変更されている。
一方でMicrosoftは、データセンター投資の見直しを進めている。TD Cowenのアナリストらによれば、同社は米国と欧州での新規データセンタープロジェクトを中止し、米国内で数百メガワット規模のデータセンター容量のリースをキャンセルしたとされる。この背景には、AIを支えるコンピュートクラスターの「供給過剰」と需要予測の下方修正があるという。
ただし、Microsoftは完全にデータセンター投資を停止したわけではない。当会計年度(2025年6月30日まで)には800億ドルをデータセンターに投資する計画で、その半分は米国内に向けられる。Forrester のシニアアナリスト、Alvin Nguyen氏は「将来的にMicrosoftがOpenAIベースではないAI機能で再び存在感を示す可能性が高い」と指摘している。
膨大なデータ管理の課題と業界への影響
OpenAIが独自ストレージ施設構築を検討する背景には、複数のクラウドプロバイダー間でのデータ移動コスト削減という経済的理由も存在する。同社はMicrosoftに加え、OracleやCoreWeaveのサーバーも利用し始めており、これらのプロバイダー間でデータを移動させるコストは、自社施設で一元管理するよりも高額になる可能性がある。
ストレージをクラウドで管理するか自社で運用するかのコスト分析は、あらゆる企業にとって重要な検討事項だ。特にAIに関連するクラウドストレージは非常に高コストであり、データ量と移動が増えるにつれて費用は急増する。Moor Insights & StrategyのMatt Kimball氏は「最高のパフォーマンス、セキュリティ、運用効率を最低コストで提供する方向に進むことは賢明だ」と述べている。
しかし、ソフトウェア企業であるOpenAIがデータセンター運営に乗り出すことには課題も多い。Kimball氏は「データセンター環境の構築、電力供給、管理には、通常ソフトウェア企業のDNAに含まれない多くの要素がある」と指摘する。GPUやCPUなどのコンピューティングアーキテクチャに精通していても、それが施設管理や日常的なデータセンター運営のノウハウに直結するわけではない。
データセンター市場の再編と今後の展望
OpenAIの独自データセンター構想とMicrosoftの投資見直しは、データセンター市場全体を再編する可能性がある。Alibabaグループの蔡崇信会長は購入フィーバーに続くデータセンター建設の潜在的なバブルについて警告しているが、多くの専門家はこれらの動きが市場の根本的な再構築を示唆していると見ている。
Nguyen氏は「これは単なる減速ではなく、需要は依然として高く、エネルギーとスペースの供給がそれに追いついていない状況だ。AIを将来的に誰が運営するかという再ポジショニングが起こるだろう」と説明する。
Microsoftの撤退により、Google、Meta、AWSなどの他の大手企業が市場シェア拡大に向けて積極的に動くことが予想される。しかし、市場の選択肢が減少すれば、自然な需給バランスによりコストが上昇する恐れもある。
OpenAIがこれらの大規模投資をどう資金調達するかも注目点だ。同社は昨年66億ドルを調達し、現在は企業評価額340億ドルで400億ドルの資金調達ラウンドを検討中と報じられている。
なお、OpenAIの独自データセンター構想は最終決定ではなく、クラウドプロバイダーとの交渉を有利に進めるための戦術である可能性も指摘されている。しかし、この決断が実現すれば、AIインフラとそのコスト、必要な電力と冷却についての「潜在的なリセットの瞬間」となる可能性があるとNguyen氏は述べている。
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