OpenAIが、機密性の高い社内情報の取り扱いに関する規則に違反したとして、社員3人を解雇した。10月1日にWall Street Journal(WSJ)が報じ、翌2日にはThe RegisterがOpenAIに解雇の事実を確認した。同社はその直前の9月22日、外部の安全評価者に対し、AIの訓練から展開に至るまで詳しく検証できるよう、必要な情報へのアクセスを認める方針を公表している。安全性を検証するために外部へ情報を提供することと、規則違反となる情報共有を、OpenAIはどこで線引きしているのか。公開されている通報方針と、実際に行われた独立調査を照らし合わせると、その境界が見えてくる。
解雇理由はOpenAIの判断、具体的な共有先は不明
The Registerの独自取材によると、解雇されたのは安全性研究者2人とプログラム管理者1人だ。OpenAIの広報担当者は、3人が定められた手順に従わずに機密性の高い情報を扱い、社内規則に違反するとともに、業務上必要な信頼を損なったと説明した。情報の取り扱いが不適切だったという判断は、OpenAI自身の社内調査に基づく。
WSJは関係者の話として、外部のAI安全組織への機密情報の共有などが疑われていると報じた。The Registerへの回答でOpenAIは、情報共有以外にも問題となる行為が調査で見つかったと説明している。ただし、具体的にどのような行為があったのか、情報を受け取った組織がどこなのかは明らかにしていない。
OpenAIは、安全性への懸念を表明したこと自体が解雇理由ではないとも説明している。現時点では、安全性に関する問題提起への報復だったと断定できる根拠は示されていない。一方で、会社側の説明だけで処分が妥当だったと外部から確認できるわけでもない。どの資料を共有し、どの権限や手続きを逸脱したと判断されたのかが公表されていないためだ。
Hugging Faceへの侵入など、最近起きたAIエージェント関連の事案に関する資料が共有されたかどうかも明らかになっていない。社員による情報共有の疑惑と、AIが外部システムへアクセスした事案は、別の出来事として扱う必要がある。
外部評価、懸念の通報、無断共有はそれぞれ別
OpenAIは1月12日に公表した懸念通報方針の説明で、社員が問題や懸念を報告することと、企業秘密を無断で開示することを区別している。一方で、企業秘密の開示を禁じる規定についても、法律などで保護された情報開示の権利を妨げるものではないとしている。「機密情報だから外部へ通報できない」と一律に扱う方針ではない。
OpenAIが公開している文書では、正式な第三者評価への情報提供、善意による懸念の通報、第三者への無断開示は、それぞれ異なる条件のもとで扱われている。
下表は、1月12日版の通報方針PDFと9月22日の外部評価原則を、情報の受け手、共有する際の条件、保護と制限という3つの観点から整理したものだ。比較しているのは2026年10月3日時点で公開されている会社方針であり、今回解雇された3人に実際に適用された契約や手続きを再現するものではない。
| 行為 | 主な受け手・経路 | 公開文書が示す条件 | 保護と制限 |
|---|---|---|---|
| 正式な第三者評価への情報提供 | 合意した外部評価者 | 評価範囲を定め、法律・安全・知的財産上の制約に応じてアクセスを認める | 評価者の独立性を保ちつつ、守秘措置を求める |
| 善意による懸念の通報 | 社内の担当部署や匿名窓口、外部当局 | 不正行為やAI安全上の懸念を善意で報告する | 報復を禁止。外部当局への通報に会社への事前通知は不要 |
| 第三者への無断開示 | 許可を得ずに情報を渡した相手 | メディアへのリークなどを不正行為の例として挙げる | 企業秘密の開示は禁止。ただし、保護対象となる情報開示の権利には留保を置く |
通報方針の4ページでは無断開示の例を挙げ、5〜6ページでは報復の禁止と外部への通報について定めている。ここでいう外部当局には、規制機関や法執行機関、議会などが含まれる。民間のAI安全・評価団体への情報提供を、この規定だけを根拠に当局への通報と同じものとして扱うことはできない。逆に、民間団体へ情報を渡したという事実だけで、共有が無断だったのか、保護対象だったのかを判断することもできない。
社内で懸念を伝えるための経路も用意されている。通常の研究・開発上の議論で解消できないAI安全上の問題は、Compliance部門や、匿名で利用できる「Integrity Line」へ報告できる。公開方針が目指しているのは、問題を報告する権利を守りながら、機密情報を扱う際のルールも維持することだ。今回の処分を考えるうえでは、単に「外部へ話したか」ではなく、何を、どの権限に基づき、どの手続きに沿って共有したのかが重要になる。
METRの調査で分かる、外部評価者に認められたアクセス
外部の評価者がOpenAIの機密情報に触れること自体は、すでに実例がある。AI評価団体METRが8月26日に公表したHugging Face事案の独立調査報告では、METRの2人と、同団体から委託を受けて参加したRedwood Researchの1人が、OpenAIの施設内で計6日間調査した。当初は2日間の予定だったが、追加資料を分析するために再び施設を訪れている。
METRによると、OpenAIは約120万件の掲示板エントリーと、約1,300件のエージェント実行記録を提供した。一方、主に関与した研究モデル「HPIM」へ直接問い合わせたり、OpenAIのシステム内に保存された関連データへ直接アクセスしたりすることは認められなかった。必要に応じて追加データを要求することはでき、OpenAIは複数回にわたって資料を追加提供したという。
調査では、関与したモデルや与えられた指示、行動、推論、モデル間の協調などについて7つの問いを設定した。対象期間は6月26日から7月13日だったが、実際に詳しく調べたデータは主に7月7日以降に集中していた。安全策そのものの有効性や、OpenAIによる社内調査の進め方、予定されている再発防止策の有効性については、調査対象外だったと明記されている。
この線引きには重要な意味がある。外部の研究者が調査に参加したからといって、調査対象になっていない部分まで含めてOpenAIの安全性が検証されたわけではない。報告書を読む際には、「誰が調べたのか」だけでなく、「何を調べることができたのか」も確認する必要がある。
なお、この調査は9月に公表された外部評価原則より前に行われている。また、METRやRedwood Researchが今回の情報共有疑惑で情報を受け取った組織だと示す証拠もない。正式な調査協力の実例と、今回明らかにされていない情報の共有先を結び付けることはできない。
評価者の独立性を守りながら、機密も保護する
9月22日に公表された外部評価原則では、機密情報を守るため、会社が管理する端末や施設内に限定してアクセスを認める方法を想定する一方、評価結果については外部評価者が独立して判断できることも求めている。OpenAIが示しているのは、単に外部へのアクセスを増やす仕組みではない。調査対象をあらかじめ定めたうえで、評価者自身が結果を判断し、説明できる仕組みである。
機密保護と評価者の独立性が衝突しやすいのは、当初の調査範囲にはなかった問題が途中で見つかった場合だ。同社の原則では、重大なリスクが新たに見つかった場合、追加調査が必要かどうかを検討する手続きを設けるよう提案している。正式な評価であっても、最初に設定した問いだけに調査を限定すれば、予期していなかった問題を見落とす可能性があるためだ。
もう一つの論点が、報告書をどこまで公開できるかである。企業側は機密情報に当たる部分の削除を求められる一方、評価者は、重要な情報が削除された事実や、それが調査結果にどのような影響を与えたかを示せるべきだとしている。すべての情報を公開できなくても、結論がどの情報に基づき、何を検証できなかったのかを読者へ伝える余地を残す考え方だ。METRが報告書の中でアクセス範囲や調査対象の限界を明記したことは、その具体例といえる。
ただし、9月に公表された文書は、第三者評価のあり方についてOpenAIが示した原則であり、すべての評価契約にそのまま適用されていると確認できるものではない。今回の処分についても、誰に情報共有を承認する権限があったのか、社員が別の正式な経路で懸念を伝えていたのか、会社が具体的にどの行為を規則違反と判断したのかは明らかになっていない。
OpenAIに求められる説明は、機密資料そのものをすべて公開することとは限らない。どのような情報共有が認められ、今回どの手続きへの違反があったと判断したのかを、保護される懸念通報と区別して説明できるかが重要になる。
同時に、外部評価では、資料へのアクセスや報告書の公開に加えられた制限が、調査結果にどのような影響を与えたのかを評価者自身が示せるかも問われる。この二つが確認できて初めて、社員が問題を報告する権利と、機密を守りながら外部から安全性を検証する仕組みが、実際の運用でも両立しているのかを判断できる。
