Raspberry Piは2026年10月1日、Raspberry Pi 4とRaspberry Pi 5の2GBモデルを、それぞれ12.50ドル値上げした。Pi 4は55ドルから67.50ドルへ、Pi 5は65ドルから77.50ドルへ上がる。4月の価格改定では据え置いていた低容量モデルにも、メモリ価格上昇の影響が及んだ。
CEOのEben Upton氏は、メモリ価格が上昇を続けるなか、2GB版の価格をこれ以上維持することは難しくなったと説明している。Raspberry Piはこれまで、メモリ容量を細かく分けたり、安価に確保した部品在庫を活用したりして低価格を維持してきた。しかし、その余地も小さくなっている。過去の価格改定と直近の決算を重ねると、今回2GB版まで値上げが広がった背景が見えてくる。
35ドルは発売価格ではなく、2020年に値下げされた価格
Pi 4の2GBモデルは、2020年の35ドルから2026年10月の67.50ドルへ、名目価格で約93%上昇した。ただし、35ドルは発売時の価格ではない。2019年6月の発売時には、1GB版が35ドル、2GB版が45ドルだった。
その2GB版を35ドルへ値下げしたのが、2020年2月の価格改定である。当時はRAM価格が前年から下落しており、より多くのメモリを従来と同じ35ドルで提供できるようになった。現在とは逆に、部品価格の下落を製品価格へ反映できた時期だった。
| Raspberry Piの発表日 | Pi 4・2GBの公式価格 | 改定の内容・理由 |
|---|---|---|
| 2019年6月24日 | 45ドル | 発売時の2GB版価格 |
| 2020年2月27日 | 35ドル | RAM価格の下落を受け10ドル値下げ |
| 2021年10月20日 | 45ドル | 半導体不足を受け10ドル値上げ |
| 2026年2月2日 | 55ドル | 2GBモデル共通で10ドル値上げ |
| 2026年4月1日 | 55ドル | Pi 4・Pi 5の1GB・2GB版は据え置き |
| 2026年10月1日 | 67.50ドル | 2GB版を12.50ドル値上げ |
上昇率は「(67.50÷35−1)×100=約92.9%」で求めた。一方、2019年の発売価格45ドルを基準にすると50%の上昇になる。同じ製品でも、どの時点を基準にするかで数字の印象は大きく変わる。
また、この表は基板単体のドル建て名目価格を比較したもので、物価上昇は調整していない。税金、送料、輸入費用や周辺機器を含めた総額とも異なり、為替の影響を受ける日本国内の実売価格とも分けて考える必要がある。
今回の値上げ幅はPi 4、Pi 5ともに12.50ドルだ。一方、1GB版はPi 4が35ドル、Pi 5が45ドルのまま据え置かれる。「35ドルのRaspberry Pi」がなくなったわけではない。35ドルで選べるメモリ容量が、現在は1GBになったということだ。
Compute Moduleの2GB版は4月にすでに値上げ
10月の発表では、2GBのCompute Module 4とCompute Module 5は価格据え置きとなっている。これだけを見ると、今回2GBの通常基板だけが値上げされたように見える。
しかし、4月1日の価格改定では、Compute Module 4、Compute Module 4S、Compute Module 5の2GBモデルがすでに12.50ドル値上げされている。
つまり、同じ2GB製品でも値上げされた時期が異なる。4月にはPi 4とPi 5の1GB・2GB版を据え置く一方、Compute Moduleの2GB版を先に値上げした。10月は通常基板の2GB版を引き上げ、Compute Moduleには追加の値上げを行わなかった。
今回値上げされなかったからといって、Compute Moduleがメモリ価格上昇の影響を受けていないわけではない。
4月には、高容量のPi 4とPi 5も大きく値上げされた。4GB版は25ドル、8GB版は50ドルの上乗せだった。それでも維持していた1GB・2GBの低価格帯のうち、今回は2GB版の価格を引き上げることになった。高容量モデルから始まったメモリ価格上昇の影響が、より少ないメモリを搭載する製品にも広がってきた形だ。
安く調達したメモリ在庫の効果も、ほぼなくなった
Raspberry Piは、メモリ価格や供給環境が厳しいなかでも業績を伸ばしている。9月24日に公表した2026年上期決算によると、6月30日までの売上高は前年同期比90%増の2億5,690万ドル、粗利益は79%増の5,940万ドルだった。いずれも未監査の数字である。
ただし、粗利益の「金額」と「利益率」は同じようには伸びていない。会社全体の粗利益率は前年同期の25%から23%へ低下した。一方、SBCとCompute Moduleの1台当たり粗利益は8.0ドルから12.2ドルへ53%増えている。
後者は対象となる製品群全体の1台当たり指標であり、今回値上げされた2GBモデルだけの利益ではない。また、会社全体の粗利益率を示す数字でもない。利益額が増えたというだけで、値上げによって利益率まで上昇したと考えることはできない。
決算資料の「Gross profit per board」では、2025年に安価に確保したメモリ在庫と、その後の製品値上げが1台当たり粗利益を押し上げたと説明している。
しかし、その効果は長く続かない。期首に保有していた低コストの在庫はほぼ使い切り、現在保有する在庫のコストは市場価格に近づいたという。6月には、1台当たり粗利益も10.8ドルまで下がっていた。
安く仕入れた部品を使って値上げ後の製品を作れば、その間は1台当たりの利益が大きくなる。しかし、その在庫を使い切り、高い価格で仕入れた部品へ置き換われば、販売価格が同じでも利益は小さくなる。
在庫を積み上げることで、部品価格の上昇が製品の採算へ表れる時期を遅らせることはできる。しかし、部品そのものの値上がりをなくすことはできない。この時間差を考えると、上期に利益が大きく伸びる一方、その後も製品価格の引き上げが続いている理由を理解しやすい。
メモリ価格の上昇幅も大きい。Upton氏は4月、Pi 4やPi 5などで使うLPDDR4 DRAMの調達価格が、過去1年間で7倍になったと説明していた。ただし、これは4月時点での説明であり、10月時点の価格が1年前の7倍だという意味ではない。
2月の発表では、AIインフラの拡大により、メモリ工場の生産能力を巡る競争が激しくなっていることも値上がりの背景として挙げている。
それでもRaspberry Piは、2026年の生産目標を達成するために必要なメモリについて、すでに保有しているか発注済みだとしている。必要量を確保できることと、以前と同じ安い価格で調達できることは別の問題だ。
また、決算で説明された低価格在庫の減少は製品群全体についての話であり、2GB版向けの在庫が10月にちょうど尽きたと確認されたわけではない。今回の値上げについて、会社が直接挙げている理由は、メモリ価格が引き続き上昇していることである。
コストを抑えた設計でも、メモリ価格の上昇は吸収しきれない
Raspberry Piは、部品を安く調達するだけで低価格を実現してきたわけではない。2024年8月に50ドルで発売したPi 5の2GB版では、メモリ容量を減らすだけでなく、プロセッサー側の設計も見直した。
搭載するBCM2712のD0版では、ほかの用途向けに用意され、Pi 5では使用していなかった回路を取り除いた。利用者が使う機能を維持しながら、チップを小さくするための変更だ。
RAMを4GBから2GBへ減らしたことと合わせ、当時60ドルだった4GB版より10ドル安い50ドルを実現した。ただし、この10ドルの差をすべてプロセッサーの設計変更だけで生み出したという意味ではない。
その2GB版も、2025年12月には55ドルへ、2026年2月には65ドル、そして今回77.50ドルへ値上がりした。2024年の発売時50ドルから比べると55%の上昇となる。
製品設計によって削減したコストと、その後に上昇するメモリの調達価格は別の問題だ。プロセッサーを小さくしてコストを抑えても、製品に必要なRAMそのものをなくすことはできない。
Raspberry Piは、より細かな容量の選択肢を増やす取り組みも続けている。2025年12月には45ドルのPi 5・1GB版を追加し、2026年4月には83.75ドルのPi 4・3GB版を投入した。
現在、Pi 5では1GB版の45ドルと2GB版の77.50ドルに32.50ドルの価格差がある。用途に1GBで足りるなら、必要以上のメモリを買わないことで負担を大きく抑えられる。
ただし、必要なRAM容量は、動かすソフトウェアや同時に処理する内容によって変わる。Raspberry Pi OSを軽量に保つ取り組みによって、少ないメモリでも利用できる用途は広がるが、あらゆる処理を1GBでこなせるわけではない。
Upton氏も10月の発表で、用途によってはPi 3世代が適している場合があるとして、必要以上の性能やメモリを買わないよう勧めている。高性能なモデルを一律に選ぶのではなく、必要な処理に合った世代とメモリ容量を選ぶことが、以前より購入価格へ大きく影響するようになっている。
値下げの意向はあるが、メモリ価格が下がる時期は見えない
Upton氏は、メモリ価格が落ち着けば、これまでの値上げを元に戻したいという意向も示している。ただし、具体的な時期は明らかにしていない。
2020年にPi 4・2GB版を45ドルから35ドルへ値下げした例があるように、RAMの調達価格が下がれば、その分を製品価格へ反映できる可能性はある。問題は、メモリ価格がいつ下がるかだ。
メモリメーカーMicronの9月30日公表の決算説明資料では、早期に需給が緩むことを前提にしていない。「Market outlook」では、2027年と2028年のメモリ・ストレージ市場について、2026年よりさらに厳しい需給環境を見込み、DRAMの供給制約も両年にわたって続くとの見方を示している。HBMの出荷量は通常のDRAMより速く伸びる見通しで、需給がいつ均衡するかについても明確な時期を示していない。
これはメモリ業界全体に対するMicronの予測であり、Raspberry Piが使うLPDDR4の価格や、将来のRaspberry Pi製品の販売価格を直接予測するものではない。
それでも、「新しい工場が完成すればすぐにメモリが安くなる」と考えるのは早い。Micronは同じ資料で、新しいDRAMやNAND工場について、生産開始後も供給への本格的な寄与には数四半期を要すると説明している。工場を建設する時間だけでなく、実際の生産量を増やしていくための時間も必要になる。
当面Raspberry Piを購入するなら、認定販売店向けに示されている価格と、自分の用途に必要なRAM容量を確認することが重要になる。35ドルのPi 4・1GB版で足りるのか、2GB以上が必要なのかによって、今回の値上げの影響は大きく変わる。
再び安価にメモリを調達できるようになり、そのコスト低下が公式価格へ反映されれば、より多くのメモリを低価格で選べる状況に戻る可能性はある。値下げを期待する根拠になるのは、メモリ市場でその条件が実際に整い始めてからだ。
