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習近平主席、AI自立に向け半導体・ソフトウェア開発を最重要課題に―米中技術戦略の新展開

Y Kobayashi

2025年4月27日

中国の習近平国家主席が、人工知能(AI)分野における「自立自強」の考えを改めて強く打ち出した。米国の技術的制約が強まる中、核心技術とされる先端半導体(チップ)と基盤ソフトウェアの国産化を最重要課題と位置づけ、国家総力戦で開発を推し進める方針を明確にしたのである。これは、AI分野での世界的な主導権獲得を目指す中国の強い意志を示すものだ。

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政治局会議で示された「AI国家戦略」の核心

中国国営の新華社通信によると、習近平国家主席は金曜日(4月26日)に開催された中国共産党中央政治局の集団学習会において、AI開発に関する重要演説を行った。この場で習氏は、AI分野における中国の現状認識として「ギャップ」が存在することを認めつつ、「基礎研究を引き続き強化し、先端チップや基盤ソフトウェアなどの核心技術の難関突破に力を集中させ、自主的で制御可能、かつ協調的なAIの基礎ソフトウェア・ハードウェアシステムを構築しなければならない」と強調した。

これは、生成AI(文章や画像を自動生成するAI)の分野で、2022年11月のChatGPT登場以降、米国企業が先行する状況がある中で、中国がキャッチアップし、さらに追い越すためには、基盤となる技術、特に高性能な半導体チップとそれを動かすソフトウェアを自国で開発・生産できる能力が不可欠であるという認識を示している。習氏は「自立自強」という言葉を用い、他国に依存しない技術力の確立を国家目標として掲げた。

背景にある米中技術覇権争いと米国の制裁

習氏の発言の背景には、激化する米中間の技術覇権争いがある。Biden政権からTrump現政権に至るまで、米国政府は安全保障上の懸念を理由に、高性能なAIチップや関連技術の中国への輸出を厳しく制限してきた。具体的には、特定のAI向け半導体の輸出に新たなライセンス要件を課しており、これは米国の半導体大手NVIDIAやAMDのビジネスにも影響を与えているとされる。

米国側の公式な理由は、中国がこれらの先端技術を軍事転用することを防ぐためであるが、同時に米国の技術的優位性を維持する狙いもあると見られている。このような米国の「デカップリング(切り離し)」あるいは「デリスキング(リスク低減)」戦略に対し、中国は国内での技術開発能力を高めることで対抗しようとしている。

興味深い動きとして、米国の制裁対象となっているNVIDIAのJensen Huang CEOは今月北京を訪問し、「引き続き中国市場を深く開拓し、米中貿易協力の促進に積極的な役割を果たしたい」と述べたと新華社は報じている。これは、制裁下においても、グローバル企業にとって中国市場がいかに重要であるかを示唆している。

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中国AI開発の現在地:躍進するスタートアップと残された「ギャップ」

米国の制裁は中国のAI開発を停滞させるのではないか、という見方もあった。特にChatGPTの登場以降、中国は米国に遅れを取っているとの認識が広がっていた。しかし、一部の専門家は、中国がこの1年で米国とのAI開発ギャップを縮めていると指摘する。

その象徴的な例が、中国のAIスタートアップDeepSeekだ。同社は今年1月、比較的性能の低いチップを使用し、競合する米国のモデルよりも低コストで開発したとされる高性能なAI推論モデル「R1」を発表し、世界的な注目を集めた。これは、制裁下でも中国企業が工夫次第で高いレベルのAI開発を進められる可能性を示唆している。インフラストラクチャソフトウェアのエンジニアリング分野でも、中国は進歩を見せているという。

しかし、習近平氏自身が認めるように、中国のAI産業には依然として「ギャップ」が存在する。特に、AIモデルの学習や実行に不可欠な最先端の半導体チップの設計・製造能力や、それを支える基盤ソフトウェア(OSや開発ツールなど)においては、まだ米国などに追いついていないのが現状である。だからこそ、習氏は「核心技術の難関突破」と「基礎研究の強化」を訴えているのだ。

国家主導の開発体制:「新挙国体制」と政策支援

この「ギャップ」を埋め、AI開発を加速させるために、習氏は「新挙国体制」を活用すべきだと述べた。これは、国家が目標を設定し、政府、企業、研究機関などが一体となって資源を集中投下する開発モデルを指すと考えられる。

具体的には、政府調達、知的財産権保護、税制優遇、研究開発支援、人材育成といった分野で政策的な支援を行う方針が示された。さらに、インフラ開放なども検討される可能性がある。国家が強力なリーダーシップを発揮し、AI開発に必要な環境を整備することで、「自立自強」を実現しようという戦略である。

安全性確保へ:AI規制と国際協調の模索

AI技術の急速な発展は、利便性をもたらす一方で、安全性や倫理、プライバシーに関する懸念も生んでいる。特に中国のAI開発に対しては、収集された個人データが中国当局に渡るのではないかという懸念が一部の国で指摘されている。

こうした状況を踏まえ、習氏はAIに関する規制や法律の整備を加速させ、「リスク警告と緊急対応システム」を構築し、「AIが安全で、信頼でき、制御可能であることを保証する」必要性も強調した。

一方で、習氏は昨年、AIが「豊かな国や富裕層のゲーム」であってはならないと述べ、AIに関する国際的なガバナンスと協力の必要性も訴えている。国内での開発加速と並行して、国際的なルール作りにも関与していく姿勢を示唆していると言えるだろう。

今回の習近平氏の発言は、中国がAIを国家の最重要戦略分野と位置づけ、米国の制裁という逆風の中で、むしろそれをバネにして技術的自立を達成しようとする強い決意の表れである。先端半導体と基盤ソフトウェアという難関を突破できるかどうかが、今後の中国のAI戦略、ひいては世界の技術覇権の行方を左右する鍵となるだろう。


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