Raspberry Piの基板上にあるRAMチップを大容量のものへ交換しても、増えた容量をそのまま使えるとは限らない。同社の技術者は公式フォーラムで、製品ごとに出荷時のRAM容量を固定していると説明した。背景には、低容量モデルのRAMを載せ替え、メーカーが検証していないチップを搭載した製品を純正の高容量モデルとして販売されることへの懸念がある。
ただし、この制限を「RAMが故障したら交換修理できない」という意味に受け取るのも正しくない。同じフォーラムでは別の技術者が、元のRAMと部品型番が同じであれば、十分な技術を持つ人による交換修理は可能と説明している。
一方、容量が同じでも型番の異なるRAMでは動作しない場合がある。大容量への換装、同じ容量の別部品への交換、同一型番を使った修理は、それぞれ分けて考える必要がある。
2GBのCM5に4GBを載せても2GBのまま
発端となったのは、Compute Module 5(CM5)のRAMを2GBから4GBへ換装しようとした利用者からの相談だった。
2026年6月25日の投稿によると、4GBのRAMチップへ載せ替えても、OS上のツールに表示された容量は2GBのままだった。正常に動作している別の4GB版CM5から取り外したRAMチップを使っても、結果は変わらなかったという。
投稿者は、メモリ容量の識別に関係するとみられる抵抗も変更し、古いファームウェアを入れた別のSPIフラッシュへの交換も試したと記している。ただし、これは1人の利用者による個別の作業報告であり、すべてのCM5で同じ結果になることを検証したものではない。
その翌日、Raspberry Piの技術者でフォーラム管理者のPhilE氏は、製品を出荷時のRAM容量に固定していると説明した。
低容量モデルに出所や品質の分からない大容量RAMを載せ、高容量の正規品として販売できれば、転売する側には利益が生じる可能性がある。しかし、そのような改造後の構成をRaspberry Pi側は検証していない。動作が不安定になれば、最終的に購入者からRaspberry Piへサポートの問い合わせが寄せられる可能性もある。
PhilE氏は、こうした不正な販売を防ぎ、未検証構成によるサポート負担を避けることを、容量変更を制限する理由として挙げた。
ただし、この説明は改造品が実際にどの程度流通しているのか、あるいはそれによる故障や問い合わせが何件発生したのかを示した統計ではない。「未検証の部品を使った製品が正規品として販売されることを防ぎたい」というメーカー側の判断と、不正販売が実際にどの程度起きているかは分けて考える必要がある。
また、この発言自体は6月のフォーラム投稿によるものであり、9月になって新しい制限が導入されたという話でもない。
RAM容量の固定と、交換部品の適合性は別の問題
制限はRAM容量だけではない。
PhilE氏は、複数のメーカーから調達したRAMに対応するため、使用するチップに関する別の情報も製品側へ記録するようになったと説明している。このため、元と同じ容量のRAMへ交換しても、部品型番などが異なれば正常に動作しない場合がある。
同じスレッドで、別のRaspberry Pi技術者であるtimg236氏は、元のRAMと部品型番まで同じチップであれば、十分な技術があれば交換修理できると明言している。
つまり、RAMチップを物理的にはんだ付けできるかどうかと、ファームウェアがそのRAMを正しく認識・初期化できるかどうかは別の問題だ。
交換するRAMによって、状況は次のように分かれる。
| 交換するRAM | 技術者の説明から分かること |
|---|---|
| 元より大容量のRAM | 出荷時の容量に固定されているため、容量を増やすことはできない |
| 同じ容量だが異なる部品型番 | 記録されている部品情報と一致せず、動作しない場合がある |
| 元と同じ部品型番 | 十分な技術があれば交換修理は可能と説明されている |
Raspberry Piは、大容量化を目的とした換装は制限する一方、同一型番のRAMを使った修理までは妨げないと説明している。また、容量が同じでも別型番のRAMでは動作しない可能性がある。
ただし、この表は公式フォーラムでの技術者の説明を整理したものであり、あらゆる基板とRAMの組み合わせについて動作を保証するものではない。同一型番への交換がメーカー保証の対象になるという意味でもない。
こうした仕組みは、交換後の構成がRaspberry Pi側で検証された範囲に収まっているかどうかを重視したものと考えられる。
RAMの供給元が増えていることは、Raspberry Pi自身の資料からも分かる。
同社の製品変更通知「PCN 46」には、Pi 5向けRAMとしてRayson、Winbond、CXMT、Longsysなど複数メーカーの製品が、型番や容量とともに記載されている。いずれもRaspberry Piが認定した部品だ。
つまり、メーカー自身も特定の1社のRAMだけを使っているわけではない。
PCN 46では、新たに採用する部品について、従来品と仕様や性能が近いことを試験で確認したうえで製造に使うと説明している。それに合わせたファームウェアも用意される。
利用者が容量やパッケージだけを見て別のRAMへ交換する場合と、メーカーが部品ごとに互換性を確認して正式採用する場合では、検証の有無が大きく異なる。ここが、出所や動作条件の分からないRAMへ利用者や転売業者が載せ替える場合との違いだ。
古いファームウェアに戻せば解決するとは限らない
古いブートローダーやファームウェアに戻せば容量制限を回避できるのではないか、という見方もある。
しかし、Raspberry PiのGitHubにある古いEEPROMに関する報告は、RAM換装の成功例でも、容量固定を回避した例でもない。
その報告は、同じ8GBのPi 5が2024年9月23日以降の日付のEEPROMでは起動に失敗し、9月10日版では起動したという、1台の端末における起動可否の記録だ。RAMを交換したという記述はなく、容量制限がいつ導入されたのか、あるいは古いファームウェアで解除できるのかを示す証拠にはならない。
一方、実際に2GBから4GBへの換装を試した6月のCM5の相談では、投稿者は古いファームウェアを入れた別のSPIフラッシュも試している。それでも、期待した4GBとして認識されることはなかったという。
古いファームウェアへ戻すことには、別の問題もある。
PCN 46では、新たに追加されたPi 5向けRAMを搭載する製品リビジョンについて、2026年5月5日以降のファームウェアが必要と明記している。
仮に古いファームウェアで特定の改造基板が動作したとしても、それを現在流通している別の基板へそのまま適用すれば、新しく採用されたRAMを正しく初期化できなくなる可能性がある。
したがって、ファームウェアの新旧を単純な「容量制限の解除方法」と考えることはできない。
また、Raspberry Piの技術者は、RAMに関する情報をどこへ、どの形式で保存しているのかまでは明らかにしていない。そのため、情報が特定の書き換え不能領域に保存されていると断定したり、すべての旧ファームウェアで制限を回避できると考えたりする根拠もない。
容量による価格差と、修理しやすさへの影響
低容量モデルを高容量モデルへ改造して販売する動機は、容量による価格差が大きくなるほど生じやすくなる。
Raspberry Piは2026年4月、メモリ調達コストの上昇を理由に価格改定を発表した。Pi 4とPi 5では、4GBモデルの値上げ幅が25ドル、8GBモデルは50ドル。CM5では2GBモデルが12.50ドル、8GBモデルは50ドルだった。
ただし、これらは当時発表された値上げ額であり、現在の販売価格や、改造品を販売した場合の利益を示した数字ではない。
また、この価格改定がRAM容量固定の仕組みを導入した直接の理由だったと断定することもできない。制限が導入された時期との前後関係を確認せず、価格上昇と結び付けるのは避けるべきだ。
一方で、この仕組みには修理時に使える部品の選択肢を狭める側面もある。
故障した基板に、同じ容量のRAMが手元にあったとしても、部品型番や製品側に記録されている情報と一致しなければ使えない可能性がある。
修理を試みる場合には、容量だけで互換性を判断せず、元のRAMに記載された部品型番と、基板やファームウェアとの組み合わせを確認することが重要になる。
より大きなRAM容量が必要なのであれば、購入後のチップ換装を前提にするのではなく、最初から必要な容量を搭載した純正モデルを選ぶ方が確実だ。
Raspberry Piが設けているのは、低容量モデルを未検証の部品で高容量化し、それを正規の高容量モデルとして流通させることを防ぐための仕組みだ。
その一方で、元と同じ部品型番を使った高度な交換修理まで一律に禁止しているわけではない。
ただし、採用するRAMメーカーが増えたことで、交換可能かどうかは容量だけでは判断しにくくなっている。今後、Raspberry Piが交換可能な部品の条件や、改造された製品を見分ける方法をどこまで明らかにするかは、購入者保護と修理のしやすさを両立するうえで重要な論点になりそうだ。
