中国の3D NANDメーカーYMTC(長江存儲)が、ドイツでMicronに対する販売差止命令を勝ち取った。法律専門媒体ip frayによると、ミュンヘン第一地方裁判所は2026年9月18日、YMTCのドイツ実用新案2件をMicronが侵害したと認めた。YMTCは2023年から米国、中国、英国、欧州統一特許裁判所(UPC)へと訴えを広げてきたが、今回の差止は、提訴から347日で判決が出たミュンヘンの訴訟から出た。しかも使われたのは特許ではなく、実体審査を経ずに登録される実用新案である。この「速い経路」の勝利が紛争全体の中でどこまで効くのかは、延期された3件、米国での審判、権利の残り期間を合わせて見なければ判断できない。

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ミュンヘン地裁が命じたこと、命じなかったこと

判決を出したのは、ミュンヘン第一地方裁判所(Landgericht München I)の第7民事部で、裁判長はOliver Schön氏と報じられている。侵害が認められたのは2件のドイツ実用新案(Gebrauchsmuster)だ。1件はDE202020006166U1「三次元記憶装置の階段構造」(事件番号7 O 12615/25)、もう1件はDE202021004551U1「3D NANDのワード線コンタクト用バリア層」(同7 O 12614/25)である。どちらも3D NANDの積層構造と配線に関わる権利で、Google Patents上の権利者はYangtze Memory Technologies Co Ltdになっている。

差止の範囲は、ドイツ国内での侵害品の販売だとTechNodeやIT之家は伝えている。ただし、どのMicron製品が対象になるのか、型番まで示した報道はない。執行に必要な担保の額や、YMTCが執行を始めたかどうかも分かっていない。

同じ日に審理された残り3件は、判断が先送りされた。対象はDE202018007011U1(多層スタックの三次元記憶装置)、DE202022003278U1(三次元記憶装置)、欧州特許EP3931868(半導体プラグを堆積させた三次元メモリ装置)で、いずれも期日延期となった。YMTCが持ち込んだ5件のうち、差止に結びついたのは2件だけである。

Micronの反応は早かった。IT之家などによれば、同社は判決に同意せず、すでに控訴し、別の手続きで権利の有効性を争っていると表明した。中国の快科技は、Micronが対象の権利について「実質審査を経ていないドイツの実用新案で、厳格に審査された特許ではない」と強調し、自社の保有特許は6万2000件を超えると述べたと報じている。TechNodeは、2023年11月に紛争が本格化して以来、YMTCにとって初の実体的な差止勝訴だとIT之家を引いて伝えた。

なぜ実用新案が先に効いたのか

特許と実用新案の違いは、登録の前に審査官が中身を見るかどうかにある。特許は、新規性や進歩性を審査官が確かめてから付与される。ドイツの実用新案は実体審査を経ずに登録され、保護期間は出願日から始まり、出願日が属する月の末日から10年後に満了する。

審査を待たずに権利が立ち上がるため、権利者は早い段階で侵害訴訟に持ち込める。その代わり、権利が本当に有効かという問いは登録の時点では確かめられず、後から相手方に争われる余地が残る。Micronが「厳格に審査された特許ではない」と繰り返すのは、この構造を突いている。

ip frayによれば、今回の2件は特許出願から派生させた実用新案だという。審査中の特許出願の内容を、審査を待たない権利として切り出した形になる。Google Patentsが示す出願日は2020年3月23日と2021年12月22日だ。

時間の差は数字に表れる。Micronの10-Q(四半期報告書)によると、YMTCがミュンヘン地裁に5件の訴えを起こしたのは2025年10月6日で、判決日の2026年9月18日までは347日だった。これに対し、YMTCが2023年11月に米カリフォルニア州北部地区連邦地裁(N.D. Cal.)へ起こした最初の訴訟は、IPR(当事者系レビュー。米特許審判部で特許の有効性を争う手続き)の審理を待って止まっていると、ip frayは2025年10月に伝えている。米国で判決が出ないうちに、2年近く後に始めたドイツの訴訟が先に結果を出した。

ip frayはもう一つの事情も挙げる。欧州特許をめぐっては、UPCの移行期間が2030年に終了する予定だが延長されうるともされ、移行期間が終わればUPCが専属管轄を持つようになるため、ドイツ国内で出願した権利を使う戦略の比重が増すという見方だ。欧州特許EP3931868が延期組に入り、実用新案2件が先に差止に届いた今回の結果は、国内の権利を並行して持つ意味を示した事例として読める。

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米国で一部請求項が退けられた階段構造特許との違い

判決の直前、米国では別の「階段構造」の権利がMicronに退けられていた。対象はYMTCの米国特許12,010,838で、Micronが申し立てた付与後異議(PGR2025-00021)の審理対象は請求項1、3〜7、12〜20だった。PTAB(米特許審判部)は2026年9月上旬、これらの請求項を特許性なしと判断したと報じられている。cloudnews.techはこれをMicronのPTABでの7勝目と数えた。同特許は、N.D. Cal.事件(3:23-cv-05792-RFL)でYMTCが主張している権利の一つである。

名前が似ているため、ドイツの判決と米国の判断は同じ権利の表裏に見えやすい。ところが、Google Patentsの日付を並べると系統が違う。

権利 名称の対象 基準日 直近の結果
US12010838B2 三次元メモリの階段構造 優先日2017年8月28日 請求項1、3〜7、12〜20が特許性なしと判断されたと報道(2026年9月上旬)
DE202020006166U1 三次元記憶装置の階段構造 出願日2020年3月23日 ミュンヘン地裁で侵害認定、差止(2026年9月18日)

2017年の優先日を持つ米国特許と、2020年に出願された実用新案とでは、出発点になった出願が別である。9月上旬に米PTABが請求項を特許性なしと判断したと報じられたYMTCの米国特許12,010,838(優先日2017年8月28日)と、ミュンヘンで侵害が認められた実用新案DE202020006166U1(出願日2020年3月23日)は、どちらも階段構造を扱うが、別の権利ファミリーとみられる。この照合はGoogle Patentsの日付とファミリー表示に基づくもので、公式のファミリー調査ではない。技術的に近い内容を含む可能性も残る。

それでも、この区別は議論の前提を変える。PTABの判断はドイツの実用新案の有効性を直接左右しないし、米国特許全体を無効にしたわけでもない。判断が及ぶのは申し立てられた請求項に限られる。TrendForceは、Micronが2024年以降に20件を超える無効審判を申し立てたと伝えている。Micronが米国で積み上げる勝ちと、YMTCがドイツで得た差止は、別々の権利の上で並行して進んでいる。

7か所の法廷に広がった紛争の地図

Micron自身の開示から、紛争の広がりを数えられる。2026年5月28日終了四半期の10-Qに並ぶYMTCの提訴を法廷ごとに足し上げると、次のようになる。

法廷 提訴日(中国は送達日) 訴状 主張権利 確認できた段階
米N.D. Cal. 2023年11月9日、2024年7月12日 2 19 IPRの審理待ちで停止と報道
北京知識産権法院 2024年1月22日(送達) 3 3 不明
上海知識産権法院 2024年9月11日(送達) 5 5 不明
米テキサス州東部地区連邦地裁(E.D. Tex.) 2025年10月6日 1 8 不明
英高等法院(ロンドン) 2025年10月6日 1 3 不明
UPCデュッセルドルフ地方部 2025年10月6日 3 3 不明
ミュンヘン第一地方裁判所 2025年10月6日 5 5 2件で差止、3件は期日延期(2026年9月18日)
合計 20 46

Micronの10-Qによれば、YMTCは2023年以降、米国2か所、中国2か所、英国、UPC、ドイツの計7か所の裁判所に訴状20件を出し、延べ46件の主張権利(重複を含みうる。特許だけでなくドイツ実用新案・欧州特許も含む)を主張している。合計はN.D. Cal.の8件と11件、北京の3件、上海の5件、テキサスの8件、ロンドンの3件、UPCの3件、ミュンヘンの5件を足したものだ。同じ権利が複数の訴えで主張されていれば重複して数えられるため、延べ数として読む必要がある。

2024年のN.D. Cal.の訴えは3D NANDに加えてDDR5 DRAMも対象にし、テキサスではLPDRAMの特許1件も主張されている。表中の「不明」は、結果が出ていないことを意味しない。

表から見えるのは、YMTCが2025年10月6日の1日で4つの法廷に訴えを同時に広げたことだ。Micronの開示に並ぶ7法廷のうち、一審で差止命令まで出たと報じられているのはミュンヘン地裁の2件で、N.D. Cal.事件はIPRの審理待ちで止まっている。

法廷の外側でも、Micronは手続き上の勝ちを重ねている。Micronが2025年10月7日にN.D. Cal.へ起こした非侵害確認訴訟は、前日にYMTCがテキサスで提訴していたことから、先に起こされた訴訟を優先する原則に基づいて却下されたとBloomberg Lawが2026年3月に報じた。YMTCがMicronとロビー会社DCI Groupを相手にワシントンD.C.の連邦地裁へ起こした訴訟は、組織的な世論工作を主張したものだが、Carl J. Nichols判事が2026年8月13日付の意見で、問題の公表物は商業的言論に当たらないとして退けた。

YMTCは2022年に米商務省のEntity List(輸出規制の対象リスト)に加えられ、2026年2月時点でも同リストに残る。それでも米国の連邦地裁で訴訟を続けている。米国で訴えられないから欧州へ移った、という構図ではない。米国の訴訟が審判手続きで止まる間に、ドイツの手続きが先に進んだというのが実情に近い。

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差止はどこまで効くのか

今回の判決は一審であり、Micronはミュンヘン上級地方裁判所(Oberlandesgericht München)に差止の執行停止を求められる。ip frayのFlorian Mueller氏は、控訴審が差止を止めない限り、執行は近く始まる可能性が高いとみる。一方で、執行に必要な担保の額も、差止が及ぶ製品も、確認できる報道にはまだ出ていない。

時間の制約もある。ドイツ実用新案法(GebrMG)第23条1項は、保護期間が出願日に始まり、出願日の属する月の末日から10年後に終わると定める。この規定を当てはめると、差止の根拠となった2件の存続は最長で2030年3月末と2031年12月末までで、判決日から約3.5年と約5.3年しか残らない。これは更新料が納められ、Google Patentsの出願日が法的な出願日と一致する場合の上限だ。抹消や控訴審の判断で、権利や差止がそれより早く効力を失う可能性もある。

供給への影響は、現時点では媒体の見立てにとどまる。Tom's Hardwareは、差止がMicronのドイツへの供給を制限しうると伝えた。ただし差止の範囲はドイツ国内の販売と報じられており、日本でMicron製のSSDやメモリを買う消費者や企業に、この判決が直接の法的効果を持つわけではない。国内のNAND価格や供給に波及するという材料も、現時点では確認できない。

差止がMicronにとって実際の重荷になるかは、三つの条件で決まる。上級地裁が執行を止めないこと、YMTCが担保を積んで執行に踏み切ること、そして別の手続きで実用新案2件の有効性が維持されることだ。三つがそろえば、YMTCは米国で請求項を一つずつ失いながらも、欧州で交渉の材料を持つことになる。延期された3件の次の期日が、その最初の手がかりになる。