三菱重工業は2026年10月8日、海上自衛隊向け潜水艦「しょうげい」の命名・進水式を神戸造船所で実施した。「そうりゅう」型の後継に当たる「たいげい」型の7番艦で、今後は艤装工事を進め、2027年度中に防衛省へ引き渡す予定だ。三菱重工の発表によると、今回の進水は船体の建造が一つの節目を迎えたことを意味する。その背景には、リチウムイオン電池の採用に加え、同型艦の建造を重ねる中で進められてきたディーゼル主機の改良がある。通常動力型の潜水艦にとって、大量の電力を蓄えることと、充電のために海面付近へ近づく時間を短縮することは、密接に関係する設計課題だ。

海上自衛隊が公表しているたいげい型の主要諸元は、基準排水量約3,000トン、全長84.0メートル、全幅9.1メートル、乗員約70人。推進方式には1軸のディーゼル電気推進を採用している。こうした艦級の主要諸元と、これまでに建造された同型艦の機関や船体構造を比較すると、船体の大きさだけでは分からない技術的な改良が見えてくる。

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潜航を支えるリチウムイオン電池と、充電に必要な空気

たいげい型は、潜航中に蓄電池の電力で推進用の電動機を動かす。三菱重工は、2026年3月に引き渡した5番艦「ちょうげい」について、リチウムイオン蓄電池の電力を動力源として潜航する通常動力型潜水艦と説明している。ディーゼルエンジンで発電機を動かし、燃料のエネルギーを電力に変えて蓄電池へ充電する。その電力で推進用の電動機を回す仕組みだ。

ただし、ディーゼルエンジンを動かすには空気が必要になる。充電時には船体を浮上させるほか、海面近くまで上昇してスノーケルと呼ばれる管を海上に出し、空気を取り込む方法がある。つまり、潜水艦の蓄電池は、深く潜航したまま無制限に充電できるわけではない。蓄えた電力で潜航し、充電が必要になれば空気を取り込める深さまで戻る。この制約が、通常動力型潜水艦の運用に大きく関わっている。

そこで重要になるのが、リチウムイオン電池の性能だ。潜航中に使用できる電力量だけでなく、充電に必要な時間にも関係する。2021年版防衛白書では、たいげい型の特徴として、リチウムイオン電池を用いた推進システムにより、スノーケルを使用した充電時間の短縮を図ったと説明している。単に蓄電池の種類を変更したのではなく、充電のために海面付近で行動する時間を短くすることも設計上の狙いとなっている。

スノーケルの使用中は、吸気のために海面とのつながりを保たなければならない。その時間を短縮できれば、深く潜航した状態で行動できる時間を確保しやすくなる。潜水艦にとって隠密性は重要な要素であり、充電に要する時間もその性能を考えるうえでの一つの指標となる。ただし、防衛白書には、実際に充電時間が何分短縮されたのか、どの程度の速度で何時間潜航できるのかといった具体的な数値は示されていない。

潜水艦へのリチウムイオン電池の採用には、長年の研究開発があった。GSユアサは2017年2月の発表で、1990年代から潜水艦用リチウムイオン電池の開発に取り組んできたと説明している。また、滋賀県草津市に建設した専用工場で、同年3月から量産を開始する計画も明らかにした。一般向けの電池をそのまま潜水艦に搭載するのではなく、潜水艦に求められる品質や性能を満たすため、専用の開発・生産体制を整えてきたということだ。

リチウムイオン電池の搭載も、たいげい型で初めて始まったわけではない。海上自衛隊は「おうりゅう」をリチウムイオン電池搭載潜水艦として紹介しており、川崎重工も2021年に引き渡したそうりゅう型12番艦「とうりゅう」への採用を公表している。今回のしょうげいの進水は、こうした技術を採用した潜水艦の建造が継続していることを示す節目でもある。

同じ3,000トン級でも、ディーゼル主機は新型へ更新

たいげい型の2番艦「はくげい」と4番艦「らいげい」は、どちらもリチウムイオン電池を採用している。しかし、川崎重工が公表した引き渡し時の資料を比較すると、搭載するディーゼル主機の型式が異なることが分かる。

以下は、2023年3月20日に引き渡された「はくげい」と、2025年3月6日に引き渡された「らいげい」の主要諸元を比較したものだ。

公表された主要諸元 はくげい(2番艦) らいげい(4番艦)
引き渡し日 2023年3月20日 2025年3月6日
全長 84.0メートル 84.0メートル
全幅 9.1メートル 9.1メートル
深さ 10.4メートル 10.4メートル
基準排水量 3,000トン 3,000トン
ディーゼル主機 川崎12V 25/25SB型・2基 川崎12V 25/31型・2基
推進電動機・推進軸 1基・1軸 1基・1軸

はくげいとらいげいは、全長・全幅・深さ・基準排水量が同じである一方、ディーゼル主機は「12V 25/25SB型」から「12V 25/31型」へ変更されている。

この比較は、各艦の引き渡し時に公表された設計上の主要諸元に基づくもので、同一条件で航行性能を測定した結果ではない。それでも、同じ3,000トン級の艦型を建造する中で、機関の改良が進められてきたことが分かる。

川崎重工は、らいげいに搭載された主機について、従来型より能力が向上したと説明している。また、翌2026年に三菱重工が引き渡したちょうげいにも、新型主機が搭載されたことが公表されている。リチウムイオン電池は同型艦に共通する特徴だが、発電を担う機関まで同じ仕様が使われ続けているわけではない。

充電時間は、蓄電池が受け入れられる電力量だけでなく、発電機が供給できる電力や充電制御にも左右される。蓄電池に十分な容量があっても、電力の供給能力が不足していれば、短時間で充電することはできない。

したがって、蓄電池の性能とディーゼル主機の改良を併せて評価することには意味がある。ただし、主機の型式が変わったという事実だけでは、発電出力が何%向上したのか、充電時間がどれほど短くなったのかを算出することはできない。

なお、三菱重工による今回のしょうげいの進水発表には、同艦の主機型式や蓄電池容量の詳細は記載されていない。上記の比較は、たいげい型の建造を通じて進められてきた改良を示すものであり、しょうげい固有の性能を断定する根拠にはならない。

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静粛性を高める「浮甲板構造」と、新型ソーナー

たいげい型では、艦内で発生した振動が船体を通じて海中へ伝わるのを抑える工夫も施されている。

2021年版防衛白書で紹介されている「浮甲板構造」は、甲板を船殻から浮かせるように支持し、艦内で生じる振動を吸収する仕組みだ。船外へ放射される雑音を減らすとともに、外部からの衝撃を和らげ、乗員や機器を保護する役割もあると説明されている。

潜水艦は電動機で推進すれば、それだけで静粛性が確保されるわけではない。艦内で発生した振動が船体へ伝われば、周囲の海水にも音として放射される可能性がある。浮甲板構造は、こうした振動の伝達を抑えるためのものだ。

蓄電池と電動機による推進システムが動力面から静粛性に関わるのに対し、浮甲板構造は船体を通じた振動の伝達を抑える。両者は異なる仕組みで、潜水艦の隠密性を支えている。

一方、周囲の状況を把握するためのソーナーにも改良が加えられている。ソーナーは、水中を伝わる音を利用して周囲の物体や船舶などを探知する装置だ。

防衛白書では、たいげい型に新型ソーナーシステムを採用し、従来より探知能力を向上させたと説明している。また、三菱重工も、ちょうげいについて、そうりゅう型より探知能力を高めたソーナーと、静粛性を改善した船体構造を採用したとしている。

潜水艦自身が発する雑音は、周囲から届く音を聞き取る際の妨げにもなり得る。そのため、自艦の騒音を抑えることと、相手の音を捉える能力を高めることは、密接に関係している。

もっとも、公表されている情報だけでは、実際の探知距離や騒音の低減量を具体的な数値で示すことはできない。確認できるのは、推進システム、船体構造、探知装置のそれぞれについて、性能向上を目指した改良が進められてきたということだ。

また、乗員の居住環境にも変更が加えられている。三菱重工はちょうげいについて、女性用寝室を確保するための仕切りや、シャワー室の通路にカーテンを設置するなど、女性自衛官の勤務に対応した設備を採用したと説明している。

限られた船内空間には、機器や兵装だけでなく、乗員が長期間勤務するための生活設備も収める必要がある。潜水艦の設計では、こうした居住性も重要な要素となる。

VLS搭載潜水艦や原子力推進も検討、将来の潜水艦はどう変わるのか

今後の潜水艦開発では、搭載する兵装や推進方式も検討課題となっている。

2026年版防衛白書に掲載された防衛力整備計画では、垂直ミサイル発射システム(VLS)を備え、スタンド・オフ・ミサイルを搭載できる潜水艦の取得を目指し、開発を進める方針が示されている。

スタンド・オフ・ミサイルとは、相手の脅威が及ぶ範囲の外から攻撃するためのミサイルだ。

ただし、これは今回進水したしょうげいにVLSを搭載するという発表ではない。海上自衛隊が公表しているたいげい型の主要兵装は水中発射管であり、将来のVLS搭載潜水艦とは区別する必要がある。

原子力推進についても、将来の選択肢の一つとして検討が続けられている。

小泉進次郎防衛相は2026年9月11日の記者会見で、原子力潜水艦を選択肢から排除せずに検討する一方、結論をあらかじめ決めているわけではないと説明した。

原子力推進の一般的な利点として、長時間の潜航や長期間の行動が可能になることを挙げる一方、原子力機関の価格や船体の大型化、維持・整備、運用に必要な専門技術などを課題として指摘している。

現在の通常動力型潜水艦で充電による制約を小さくしていくことと、原子力など別の推進方式を検討することは、いずれも潜水艦にどのような任務を担わせるかという問題に関わっている。

ただし、潜航可能な時間が長ければ、それだけで優れた潜水艦になるわけではない。静粛性や整備の負担、運用に必要な人員や技術体制なども考慮する必要がある。リチウムイオン電池の改良だけで、原子力推進を採用すべきかどうかの結論が出るものでもない。

今回進水したしょうげいは、今後、機関や電気系統、兵装などの艤装工事を進め、2027年度中、すなわち2028年3月末までに防衛省へ引き渡される予定だ。

進水は船体の建造における重要な節目だが、潜水艦として完成するまでには、各種機器を搭載・調整し、艦全体の機能を仕上げる工程が残されている。

たいげい型では、リチウムイオン電池による充電時間の短縮、ディーゼル主機の更新、浮甲板構造による振動対策、新型ソーナーによる探知能力の向上など、さまざまな改良が積み重ねられてきた。

しょうげいの進水は、こうした技術を採用した新たな潜水艦が完成へ近づいたことを意味する。今後は艤装工事を経て予定どおり引き渡されるかに加え、将来のVLS搭載潜水艦や新たな推進方式の検討がどのように進むのかにも注目したい。

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