米国の5機関は、インターネットに露出したSiemens S7 PLC(プログラマブルロジックコントローラ)を狙い、公開情報を基にAIで生成したPythonスクリプトを使う活動を「能動的な脅威」として警告した。共同サイバーセキュリティ勧告AA26-231Aは、攻撃者が正規の通信ライブラリも利用し、監視ソフトに見せかけたツールからPLCのデータブロックを読み書きすると説明する。
米機関は、現在の活動が持続的な偵察や手法の試験・改良である可能性が高いと評価する。読み取りは、将来の書き込み操作に向けた準備に使われ得るという。安全インターロックの変更、設備破壊、上下水道の停止が今回の活動で発生したという記載はない。AIがPLCを自律的に破壊したとの警告でもない。
実務上の問題は、AIそのものよりも、外部公開された制御機器と既知の設定不備、既存の通信機能が一つの攻撃経路に重なる点にある。AA26-231Aは新しい単一CVEを告知した文書ではなく、露出したOT環境で成立する攻撃の連鎖を示した。
米5機関がS7の5シリーズを名指し
AA26-231Aは、国家安全保障局(NSA)など米5機関が共同で発出した。対象としてSiemens S7-200、S7-300、S7-400、S7-1200、S7-1500の5シリーズを挙げ、S7-1500にはFシリーズの安全制御CPUも含めた。最も狙われている米国の分野は、重要製造とエネルギー、上下水道である。化学、食品・農業、商業施設も含まれ、防衛産業基盤で使われるS7も標的になり得るとしている。
ただし、5シリーズが標的に列挙されたことは、すべての機器が同じ条件で侵害できるという意味ではない。米機関はCensysやZoomEyeなどのインターネット検索サービスを通じ、外部公開されたPLCや古いソフトウェアを使うPLCを探す活動を確認した。ネットワークの分離不足も探索対象になる。侵害できるかどうかは、既知の重大な脆弱性や弱い認証を含む個々の構成に左右される。
Siemensは8月21日、製品情報SSB-104599をV1.3へ更新し、AA26-231AとS7-400を含むS7ファミリーへの参照を追加した。Siemensが挙げる対策は、最新版への更新、不十分な保護のネットワークからの切断またはファイアウォール追加、強固で固有のパスワード、製品別文書に沿った運用である。
AIが短くしたのは攻撃コードの試作工程
米機関によると、攻撃者は公開情報をAIに与え、snap7.dll/python-snap7系の公開ライブラリを組み込むPythonスクリプトを生成した。ツールは正規のOT監視ソフトに見せかけ、PLCのデータブロックへ読み書きする。読み取りで環境を把握し、書き込みによる妨害へ備えるという段階的な手口である。
python-snap7は、Siemens S7 PLCと通信する正規のオープンソースPythonライブラリだ。データブロックや各メモリ領域を読み書きする機能を提供するため、制御環境の開発や運用にも使える。脆弱性やマルウェアそのものではなく、その正規機能が攻撃用ツールへ転用されている。
AIは、公開された機種情報や脆弱性情報を集め、既存ライブラリを使うスクリプトを反復して作るために必要な技能と時間を引き下げた。AA26-231Aは、AIが未知の脆弱性を発見したとも、全S7を無条件に侵害できるとも述べていない。防御側はAI利用の有無に加え、PLCへ到達する公開経路と、読み書きを許すアクセス条件を確認しなければならない。
つまりAIは、PLCへ到達する条件を消したわけではない。公開機器を見つけた後、機種や設定に合わせてコードを直す工程を速めた。ネットワーク分離とアクセス制御が効く理由は、攻撃者がスクリプトを作れても、対象へ接続できなければ読み書きへ進めないからである。
「能動的な脅威」と「破壊確認」の間
米機関は、現在の活動を対象分野での持続的な偵察、特定PLCに対する攻撃能力の開発、将来の操業妨害に向けた事前配置の可能性が高い活動と評価した。想定される影響には、重要工程の停止や人員の安全事故がある。設備損傷と長期停止に加え、機密の操業データ流出や連鎖影響、法令順守違反も挙げた。ただし、これは条件付きの潜在影響であり、今回のキャンペーンで物理的被害や操業停止が確認されたことを示す一覧ではない。
4月公開、7月22日更新のAA26-097Aは、イラン系APTがインターネットに公開された複数メーカーのPLCへ、メーカー純正の設定ソフトから接続した活動を記録している。S7-1200も標的の一つで、Rockwell、Schneider、Siemensを含む広い活動では複数分野の操業中断と金銭的損失が発生したとした。2023年11月以降のCyberAv3ngersによる類似活動では、UnitronicsのPLC/HMIが少なくとも75台侵害され、正規のラダー論理を悪意あるコードに置き換える活動も観測された。
しかし、これらは今回のAI生成スクリプト活動の被害実績ではない。AA26-097Aのイラン系APTとAA26-231Aの未帰属の攻撃者が同じ主体だとは公表されていない。過去の被害や侵害台数を現在のキャンペーンへ重ねると、勧告が示す「能動的な脅威」と、確認済みの破壊を取り違えることになる。
パッチと並行して公開経路を閉じる
AA26-231Aは、全S7資産とファームウェアの棚卸し、重要パッチの適用、PLCをインターネットから外すことを優先対策に置いた。特にTCP 102番の外部公開を遮断し、アクセス制御を見直すよう求める。更新は本番投入前に開発環境で試す必要がある。
運用監視では、S7commの異常な通信、サービスやプロトコルの変更、ラダー論理の整合性を確認する。TIA PortalやSTEP 7を置くエンジニアリング端末は、接続先のPLCと資産台帳上で対応づける。承認済み端末以外からの接続、変更時間外の書き込み、作業指示書を伴わない設定変更があれば、通常の保守通信として流してはならない。
第三者の保守会社やシステムインテグレーターが遠隔接続する現場では、資産所有者がPLCの外部公開に気づいていない場合もある。委託先の回線やゲートウェイまで含めて経路を確認する必要がある。承認されていない読み取りは、将来の書き込み操作に向けた環境把握である可能性があるためだ。
CISAなどが2025年5月に公表したOT向け対策文書も、公開インターネットに接続されたOT機器はポート検索で見つけやすく、認証・認可が現代の脅威に耐えにくいと指摘していた。今回の入口も同じ露出経路である。パッチ適用の計画と並行して、インターネットからPLCを切り離せているかを確認することが、現在公表されている条件に最も直接的に対応する。



