太陽光発電には避けられない弱点がある。夜は発電できず、天候に左右され、送電網の混雑という壁もある。この限界を「軌道上で常時発電し、地上の欲しい場所へ無線で送る」という発想で乗り越えようとする宇宙太陽光発電が、2026年4月にサンフランシスコで開かれたパネル討論を機に、具体的な契約の話へと動き始めた。

Virtus Solisは契約条件への署名を、Overview EnergyMetaとの容量予約契約を、Reach Powerは地上での実運用と2027年のNASA実証計画を、それぞれ明らかにしたと、PowerMagが2026年7月9日付で報じた。ただし同じNASAがまとめた独立試算には、前提条件次第で約20倍のばらつきがある。業界が語る強気な目標は、その試算の中でも最も楽観的な部分とようやく重なる水準だ。

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SF Climate Week 2026で、3社が商業フェーズへ動いた

500MW1GW、地上実装済みの無線送電という3つの異なる進捗が、2026年4月21日にサンフランシスコで開かれたイベント「Energy from Space」で語られた。SF Climate Week 2026の一環としてYPE(Young Professionals in Energy)SFベイエリア支部とSpace Frontier Foundationが主催し、Reach Powerが協賛したこのパネルには、Virtus SolisのJohn Bucknell最高経営責任者(CEO)、Overview EnergyのAbdullah Al-Shakarchi最高商業責任者(CCO)、Reach PowerのChris Davlantes最高経営責任者(CEO)が登壇した。この内容をPowerMagが2026年7月9日付で報じた。

元SpaceXエンジニアのBucknell氏は、宇宙太陽光発電(Space-Based Solar Power、SBSP)の初回展開契約について、500MW規模の契約条件に署名した(signed terms)と述べた。契約相手や金額は明らかにされていないが、24カ月以内にパイロット運用を目指すという。パネルの6日後にあたる4月27日、Overview EnergyはMetaとの間で最大1GWの容量予約契約締結を正式に発表した。2028年に軌道上実証、2030年に商用供給を開始する計画だ。

Reach Powerが語ったのは、この2社とは性格の異なる進捗だった。同社の地上向け無線送電システムはすでに稼働しており、ロボティクスや防衛、遠隔操作向けに国防総省が実際の顧客になっている。軌道上での宇宙太陽光発電としては2027年にNASAとの中継機打ち上げを計画している段階で、Virtus SolisやOverview Energyのような商業供給契約はまだ結んでいない。

500MWの契約条件署名、1GWの容量予約、地上実装済みの無線送電という三者三様の進捗が同じ壇上で語られたこと自体は、この分野が実証一辺倒の段階を抜けつつある兆候だ。ただし契約の「重さ」は一様ではない。公式発表として最も具体的なのはOverview EnergyとMetaの最大1GW容量予約契約(早期アクセス権を与えるもので、最終的な電力供給契約とは説明されていない)で、Virtus Solisは契約条件への署名、Reach Powerは地上技術の商用化がそれぞれ先行している段階にある。

衛星が地上へ電力を送る仕組み

宇宙太陽光発電の基本原理は単純だ。地球の周回軌道上に太陽電池パネルを広げた衛星を配置し、地球の影に入りにくい軌道を選べば大気や雲、夜間の影響をほとんど受けずに発電し続けられる。ただしNASAの参照設計でも年間の発電可能時間は設計方式によって差があり、常にどの方式でも途切れないわけではない。地上の太陽光パネルは日照時間内でも天候次第で出力が大きく変動するのに対し、軌道上では太陽光をほぼ安定して受け続けられる点が優位性になる。

発電した電力はマイクロ波かレーザーに変換し、地上の受電施設まで無線で送る。Overview Energyは2025年11月、高度5,000メートルを飛行するセスナ・カラバン機に搭載したレーザー発振器から地上の固定太陽電池へ送電する実証に成功し、移動する送信源から地上への送電技術を実機の飛行体で確認した数少ない事例になった。地上側では「レクテナ」と呼ぶマイクロ波受電アンテナを広い敷地に敷き詰め、受けた電波を電力に変換して送電網へ流し込む。この受電設備の規模は数キロ四方に及ぶとされ、発電衛星本体と同じくらい建設のハードルになる。

地上の受電施設に必要な土地面積は、同規模の太陽光発電所と比べても遜色ない広さになるとみられる。衛星の打ち上げに加え、受電側の用地確保と建設コストも事業計画に組み込む必要がある。マイクロ波とレーザーはそれぞれ一長一短があり、レーザーは指向性が高くビームを絞り込みやすい半面、大気や雲による減衰の影響を受けやすい。Overview Energyがセスナ機実証でレーザーを選んだ背景には、この指向性の高さを生かした精密な送電制御を検証する狙いがあったとみられる。

この方式の利点を、Overview EnergyのAl-Shakarchi氏はパネルでこう説明した。「宇宙太陽光発電の真の力は、地理的に送電先を切り替えられる点にある。1基の衛星がサンフランシスコ、サンティアゴ、スペイン、テキサスへ動的に送電できる」。地上の送電網が混雑・被災していても、同じ衛星から別の受電拠点へ振り向けられるという発想であり、地上に固定された発電所にはない柔軟性だ。

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NASAの試算には、20倍を超えるばらつきがあった

契約の勢いとは裏腹に、コストの実態を示す数字は業界とNASAとでまったく違う顔を見せる。PowerMagによれば、宇宙太陽光発電業界全体のLCOE(均等化発電原価。発電設備の建設から運用・廃棄までの総コストを発電量で均し、1キロワット時あたりの単価に換算した指標)目標は50〜100ドル/MWh水準とされる。一方、NASA OTPS(技術・政策・戦略室)が2024年1月にまとめた独立試算は、前提条件によって驚くほど幅のある結果を示している。

NASA OTPSの報告書は、2種類の参照設計(革新的な展開型ヘリオスタット群と、成熟した平面アレイ)について複数のシナリオを試算している。現行技術の延長線上にある基準シナリオでのLCOEは0.61〜1.59ドル/kWh(610〜1,590ドル/MWh)。打ち上げコストなど条件を1つずつ変える感応度分析では0.20〜0.50ドル/kWh(200〜500ドル/MWh)まで下がる。そして打ち上げコスト1回5000万ドル、太陽電池効率50%、サービス機・デブリ除去機の低価格化、量産による学習曲線改善、機器寿命15年、電気推進による軌道移動という6条件をすべて満たした複合シナリオでは、0.03〜0.08ドル/kWh(30〜80ドル/MWh)まで下がるという。同じ設計内で基準シナリオと複合シナリオを比べると、革新的な展開型ヘリオスタット群で約20倍(0.61÷0.03)、成熟した平面アレイで約20倍(1.59÷0.08)の開きがある。

業界が語る50〜100ドル/MWhという水準に最も近いのは、この複合シナリオの30〜80ドル/MWhだ。つまり業界目標は、NASAが夢物語と切り捨てている数字ではなく、NASA自身が「6条件がすべて揃えば」という留保つきで認める最良ケースに位置している。焦点は、この6条件、とりわけ打ち上げコストを1回5000万ドル程度まで下げることが、今どこまで現実的かに移る。NASA報告書はこの比較対象として、NRELが予測する2050年時点の地上の再生可能エネルギー(地熱、水力、蓄電付き太陽光、陸上風力)および原子力のLCOE、0.02〜0.05ドル/kWh(20〜50ドル/MWh)も示しており、複合シナリオが実現してもこの水準より安くはならない可能性が残る。

送電効率についても、比較材料がある。NASA報告書は自らの参照設計について、衛星から放射されたエネルギーが地上の受電設備に届くまでの区間で、アンテナ放射90%、大気透過98%、ビーム捕捉95%という効率を明示しており、これらを掛け合わせると約84%になる。Bucknell氏がパネルで語った送電効率85%はこの区間を指す主張とみられ、NASAの前提とほぼ同水準だ。ただし衛星内部のDC-RF変換(NASAの前提で70%)や地上側のDC変換まで含めた総合効率は別の数字になり、Virtus Solisは独自の衛星方式を採用しているため単純比較はできない上、この数字を裏付ける独立検証も今のところ存在しない。契約の熱量と数字の精査は、いまのところ別々の速度で進んでいる。

1968年の提唱から半世紀、なぜ「今」なのか

宇宙太陽光発電の構想自体は新しくない。航空宇宙工学者のPeter Glaserが1968年に科学誌Scienceで発表し、1970年代にはNASAとエネルギー省が共同で実現可能性を検討した。当時の資料は、経済的に成立するには打ち上げコストを1キログラムあたり50ドル未満に抑える必要があるとし、専用の大型使い捨てロケット(HLLV)を1機あたり300回飛行させれば約30ドル(1979年当時のドル)まで下げられると試算していた。ただし輸送費の不確実性は大きく、同じ資料も採算性を確定的には結論していない。

ところが同じ資料は、当時計画されていたスペースシャトルを利用する場合の打ち上げコストを1キログラムあたり850ドルと見積もっており、専用ロケット前提の30〜50ドルとは17倍から28倍もの開きがあった。SPSの経済性には専用の大型ロケットが不可欠だったが、そのロケットは結局建造されず、構想は半世紀近く研究レベルにとどまった。

潮目が変わったのは2023年、Caltechが軌道上実証機SSPD-1でマイクロ波の軌道上送電に成功したときだ。太陽電池の性能評価(ALBA)とマイクロ波無線送電(MAPLE)は別々のペイロードで、電力はホスト衛星から供給されており、発電から送電までを一体化した実証ではない。展開機構の一部には不具合も生じ、実証は完全な成功とは言えなかったが、軌道上でのマイクロ波無線送電に世界で初めて成功した意味は大きい。この実証から3年足らずで、米新興3社が同時に契約や実証計画を語る段階まで進んだことになる。

半世紀止まっていた構想がこの数年で動き出した最大の要因は、再使用ロケットの実用化による打ち上げコストの低下だ。1970年代の試算が前提とした「専用ロケットで1kgあたり30〜50ドル」という水準そのものは今なお実現していないが、再使用ロケットの登場によって実際に飛ばせる手段のコストが下がってきたことが、契約が先行する今の展開を支えている。

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日本もJAXAと経産省が動くが、目標の位置づけは一様ではない

日本でも官民が動いている。経済産業省の支援を受けた一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(JSS)は、2026年度中に地上受電設備の実証を計画しており、世界初の実証を目指すとしている。

ただし、日本の目標は一枚岩ではない。三菱重工業は2011年の技報で、火力発電所1基分に相当する400MW級のシステムを2030年頃に商用運用するという目標を示していた。これは15年前の技術文書であり、現時点でこの目標が現行のロードマップとして維持されているかどうかは確認できない。一方、JAXAはかつて1GW級システムの実現を2030年代、供給コストを1キロワット時8円とする試算を示していたが、現在は実現目標を「21世紀後半以降」に後退させ、コスト試算自体は行っていないと説明している。

この8円/kWhという過去の試算を1ドル150円(2026年7月時点)で換算すると53ドル/MWh相当になり、当時ですら業界が今掲げる50〜100ドル/MWhのレンジに近い数字だった。だがJAXAが現在この試算自体を提示していない以上、この換算はあくまで参考値にとどまる。

米新興企業が契約という形で前のめりに進む一方、日本の公的機関は自らの見通しをむしろ慎重な方向に修正してきたことになる。JAXAを含む国内の研究機関はマイクロ波送電の要素技術で長い研究蓄積を持ち、Caltechの実証以前から地上実験レベルの送電効率検証を重ねてきた経緯がある。JSSが2026年度に計画する地上受電設備の実証は、この蓄積を実装段階に近づける一歩になる。

実現までに揃うべき3つの条件

宇宙太陽光発電が構想から事業に変わるかどうかは、3つの条件が同時に揃うかにかかっている。第一に打ち上げコストのさらなる低下だ。NASAの複合シナリオが前提とする「1回5000万ドル」という水準に、実際の打ち上げ費用がどこまで近づけるかが最初の関門になる。

第二に軌道上での大型構造物の組立技術で、Caltechの実証で明らかになった展開機構の課題を、Virtus SolisやOverview Energyが実機規模で解決できるかが問われる。第三に衛星内部のDC-RF変換を含めた総合送電効率の第三者検証で、Bucknell氏が語った85%という数字がビーム伝送区間の主張にとどまるのか、DC-RF変換損失まで含めても成立するのかが、独立機関の測定で明らかになるかどうかだ。打ち上げコスト、組立技術、総合送電効率という3条件のうち、どれか一つでも未解決のままなら契約に見合う供給は始まらない。

Overview Energyが2028年に予定する軌道上実証と、Reach Powerが2027年に計画するNASAとの中継機打ち上げは、少なくとも送電効率の実地検証に関わる最初の機会になる。両社の発表には軌道上での大型構造物組立を試験範囲とする記述はなく、この課題がいつ実地で試されるかは今のところ明らかではない。JSSが2026年度に計画する地上受電実証も、送電効率の検証という同じ一角を担う位置づけだ。ここで実測データが出そろえば、業界目標がNASAの複合シナリオに本当に届くのか、それとも基準シナリオに近い高コストにとどまるのかが、初めて数字で判断できるようになる。

契約の数だけを見れば、宇宙太陽光発電はすでに事業化フェーズにある。だが500MW1GWという契約がどのような単価で結ばれているかは公表されておらず、その単価がNASAの複合シナリオ(30〜80ドル/MWh)に近いのか、基準シナリオ(610〜1,590ドル/MWh)に近いのかは、2026年から2028年にかけて予定される実証結果が答えを出す。