Stability AIは2026年5月20日、音楽・効果音生成モデルの新世代となる「Stable Audio 3.0」を公開した。今回の中心は、最長6分20秒のステレオ音声生成と、3モデルのオープンウェイト提供である。従来のオープンなStable Audio系モデルが短いサンプルや効果音寄りだったのに対し、Stable Audio 3.0は、楽曲として扱える長さ、編集、微調整、ローカル実行を一つの系統にまとめようとしている。
モデルファミリーは4種類で構成される。小型の「Stable Audio 3 Small SFX」は効果音向け、「Stable Audio 3 Small」は音楽向けで、どちらも最長120秒の生成を想定する。中位の「Stable Audio 3 Medium」は最長380秒、つまり6分20秒までの生成に対応し、GitHub上の公式READMEでは1.4Bパラメータ、CUDA GPU向けの高品質・高速推論モデルとされている。最上位の「Stable Audio 3 Large」は2.7Bパラメータで、同じく最長380秒に対応するが、オープンウェイトではなくStability AI APIや企業向けのセルフホスト提供が前提である。
今回の発表は、「長い曲を作れる」という一点だけでは捉えきれない。Stable Audio 3.0は、ユーザーが必要な長さを秒単位で指定できる可変長生成、音声の一部を置き換えるインペインティング、既存クリップを伸ばす継続生成、LoRAによるスタイル適応を組み合わせている。AI音楽生成を、単発のプロンプト入力から、開発者や制作者が自分の制作フローに組み込める部品へ近づける発表だと見るべきである。
オープンウェイトは3モデル、最上位LargeはAPIと企業向けに残る

Stability AIは、Small SFX、Small、MediumをオープンウェイトとしてHugging Faceで提供するとしている。一方でLargeは、APIまたは企業向けの自社環境運用が対象であり、同じStable Audio 3.0でも公開範囲は分かれる。したがって今回の発表を「全モデルがオープン化された」と読むのは正確ではない。
公開モデルの役割も分かれている。公式GitHub READMEでは、Small-MusicとSmall-SFXはいずれもSAME-Smallオートエンコーダーを使い、CPUで動作し、最長120秒の生成に対応するとされる。これは、モバイル端末や一般的なノートPCで短い楽曲や効果音を扱うための枠である。MediumはSAME-Largeを使うGPU向けモデルで、最長380秒まで伸びる。Largeは最高品質のAPI専用モデルとして、音楽プラットフォームや大量生成を必要とするクリエイティブアプリ向けに位置付けられている。
速度面でも、Stability AIはかなり強い数字を出している。公式READMEの性能表では、Smallは120秒の生成をH200 GPUで0.45秒、Mac CPUで5.92秒、Mac CoreMLで3.09秒で処理し、ピークVRAMは2.40GBとされる。Mediumは380秒の生成をH200で1.31秒、TensorRT利用時は0.43秒、ピークVRAMは6.52GBとされている。研究論文も、H200上では2秒未満、MacBook Pro M4でも数秒程度で音楽や効果音を生成できると説明している。
この数字は、音楽制作そのものよりも、試行回数の意味を変える。数分の音声生成が分単位で待たされる処理であれば、制作者はプロンプトを慎重に絞る必要がある。しかし秒単位で返るなら、BPM、楽器、雰囲気、構成、効果音の長さを変えながら、何度も試すワークフローが現実的になる。オープンウェイトの価値も、単にモデルを所有できることではなく、この反復をローカルや自社環境で設計できる点にある。
可変長生成は「長い曲」よりも無駄な生成を減らす仕組み
Stable Audio 3.0の技術的な核は、SAMEと呼ばれるセマンティック・アコースティック・オートエンコーダーと、潜在拡散トランスフォーマーの組み合わせである。SAMEは44.1kHzのステレオ音声を256次元の連続潜在表現へ圧縮し、4096倍の時間方向ダウンサンプリングを行う。生成モデルは、この圧縮された潜在表現を、テキストプロンプトと指定された長さに合わせて作り、最後に音声波形へ戻す。
この構成で効いてくるのが可変長生成である。従来型の実装では、短い効果音が必要な場合でも長いシーケンスを一度生成し、あとから切り落とすような非効率が起きやすい。Stable Audio 3.0は、必要な長さに応じて生成する設計を前面に出している。短いUI効果音、30秒の動画用BGM、2分のデモトラック、6分超の長尺素材を同じ仕組みで扱えることが、今回の実用上の差分である。
編集機能も同じ方向を向いている。Stable Audio 3.0は、テキストから音声を作るだけでなく、既存音声をもとにスタイルを変えるaudio-to-audio、指定区間だけを再生成するインペインティング、曲の末尾から続きを作る継続生成に対応する。READMEには、複数の非連続区間を同時に指定して再生成する例も示されている。完成した曲を一度出して終わりではなく、問題のある小節や効果音だけを直す発想に近い。
LoRA対応も、音楽生成モデルとしては重要な意味を持つ。公式ドキュメントでは、20から50クリップ程度の音声と説明文を最小限の出発点とし、Mediumでは通常約6.5GB、軽量設定では約5.5GBのVRAMでLoRA学習できる目安が示されている。Stability AIは、SmallとMediumの重みとあわせてLoRAトレーニング文書を公開しており、企業向けにはガイド付きの微調整支援も用意するとしている。つまり、ユーザーが特定ジャンル、効果音ライブラリ、ブランドサウンドへ寄せる余地を公式に用意した形だ。
ライセンス済みデータの主張は、提携先よりデータセットの内訳を見る必要がある
Stability AIは、Stable Audio 3.0がライセンス済みデータで訓練されたことを強く打ち出している。研究論文によれば、MediumとLargeはAudioSparxのライセンス音源とFreesoundのCreative Commons音源を組み合わせて訓練されている。AudioSparx側は806,284件の音声で、楽曲、楽器、効果音、テキストメタデータを含む。Freesound側は、音楽関連タグを検出し、著作権付きコンテンツが含まれないよう外部のコンテンツ検出を通したうえで、266,324件のCC0、194,840件のCC-BY、11,454件のCC-Sampling+録音が残ったと説明されている。
ここで注意すべきは、レーベル提携と訓練データを混同しないことだ。Stability AIは2025年後半にUniversal Music GroupおよびWarner Music Groupとの提携を発表しているが、BillboardはStable Audio 3.0の研究論文の詳細に基づき、両社は現在の訓練データセットには含まれていないと報じている。Stable Audio 3.0の「ライセンス済み」という主張は、現時点ではAudioSparxやFreesoundのデータ処理に立脚して読むのが妥当である。
ライセンス条件も、開発者にとっては性能と同じくらい重要だ。Stability AIの発表では、生成物はStability AI Community LicenseまたはEnterprise Licenseのもとで配布・商用利用できるとされる。同社のライセンスページでは、Community Licenseは年間収益が100万ドル未満の個人や組織向けで、100万ドルを超える組織はEnterprise Licenseの対象になる。発表ではEnterprise Licenseに法的補償が含まれるとも説明されている。
この設計は、SunoやUdioなどをめぐる訴訟が続くAI音楽市場で、企業導入の不安を下げるためのものだ。ただし「ライセンス済みデータで訓練した」と「すべての利用リスクが消える」は同義ではない。特に商用サービスに組み込む企業は、Community Licenseの収益しきい値、Enterprise Licenseの条件、生成物の用途、既存音源との類似性チェックを別々に見る必要がある。
Stable Audio 3.0はプロ向け製品群への土台
Stable Audio 3.0は、一般ユーザー向けの音楽生成機能というより、Stability AIが音楽領域で再び開発者と企業を引き寄せるための基盤に近い。公式発表では、同社がプロミュージシャン向けの新製品群を開発中であることも明かされた。TechCrunchは、Universal AudioやFenderでデジタル部門を経験したEthan Kaplanが、Stability AIのプロ向け音楽製品を率いると報じている。
この人事とStable Audio 3.0の仕様はつながっている。プロ向けの音楽AIで必要なのは、単に「それらしい曲が出る」ことではない。制作現場では、曲の長さ、編集可能性、権利関係、ローカル運用、スタイル適応、既存素材との連携が問われる。Stable Audio 3.0は、可変長生成、インペインティング、LoRA、オープンウェイト、API専用Largeを一つの製品階層に置くことで、個人開発者から大規模プラットフォームまでを同じ技術線上に並べている。
一方で、残る制約もはっきりしている。公式モデル概要は、Stable Audio 3.0が音声や声の生成向けではないこと、英語の説明文で訓練されており他言語では性能が落ちることを明記している。日本語の自然文プロンプトで同等の制御性が得られると考えるのは早い。また、最上位Largeはオープンウェイトではないため、最高品質を自社の自由な改変対象として扱えるわけでもない。
Stable Audio 3.0の意味は、AI音楽生成が「短いサンプルを作る実験」から、「数分の素材を、権利・編集・配布条件込みで扱う制作インフラ」へ近づいた点にある。Stability AIがこの領域で勝てるかは、生成品質だけでなく、公開モデルを使う開発者コミュニティと、法務を通して導入する企業の両方に、どれだけ扱いやすい条件を示せるかにかかっている。
