Valveが2026年に向けて新型Steam MachineVRヘッドセット「Steam Frame」を発表し、PCゲーム市場が再び活気づく中、多くのゲーマーが最も待ち望むであろうデバイスの名はそこになかった。そう、「Steam Deck 2」である。ValveのソフトウェアエンジニアであるPierre-Loup Griffais氏はインタビューで、後継機の登場がまだ先になることを示唆し、その理由として「単なる性能向上」では不十分であるという、同社の極めて高い基準を明らかにした。単に20%30%、あるいは50%高速化しただけでは、次世代を名乗る資格はない。Valveは、半導体技術そのものに「世代を画する」ほどの飛躍を求めているのだ。

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「性能50%増」では不十分。後継機に課された厳格な条件

2022年2月の発売から約4年が経過しようとしているSteam Deckは、携帯ゲーミングPCという新たな市場を切り拓いた立役者だ。しかし、その心臓部であるAMDのカスタムAPU(Zen 2アーキテクチャCPU + RDNA 2アーキテクチャGPU)は、最新のAAAタイトルを快適にプレイするには力不足が目立つ場面も増えてきた。市場にはASUSの「ROG Ally X」をはじめ、より強力なAPUを搭載した競合製品が次々と登場している。

このような状況を受け、後継機への期待が高まるのは当然の流れだ。しかし、ValveのGriffais氏はゲームメディアIGNとのインタビューで、その期待に釘を刺す。

「我々が確実にしたいのは、それが独立した製品として意味をなす、価値ある性能向上であるということです。同じバッテリー寿命で20%、30%、あるいは50%性能が向上したというレベルには興味がありません。我々は、それよりももっと明確に一線を画する何かを求めているのです。」

この発言の核心は、Valveが単なるスペックシート上の数字競争に追従するつもりがない、という明確な意思表示にある。50%という具体的な数字を挙げ、それでもなお「不十分」だとする姿勢は、同社が後継機に課すハードルがいかに高いかを示している。さらにGriffais氏は、性能向上と表裏一体の関係にある「バッテリー寿命」を同等以上に重視していることを強調した。

現行のSoC(System on a Chip)市場を見渡しても、Valveの要求を満たす選択肢は存在しない、と彼は続ける。 これは、携帯ゲーミングPCが抱える根本的なジレンマ、すなわち「性能」と「電力効率(バッテリー寿命)」、そして「価格」の三律背反を浮き彫りにする。

携帯ゲーミングPCのジレンマ:ワットパフォーマンスという壁

Valveがなぜここまで慎重な姿勢を崩さないのか。その理由を理解するには、携帯デバイスにおける「ワットパフォーマンス(消費電力1ワットあたりの性能)」の重要性を知る必要がある。

現行機と競合機の性能差、そして代償

現行のSteam Deckが搭載するAPUは、4コアのZen 2 CPUと8CU(コンピュートユニット)のRDNA 2 GPUを統合したものだ。 一方、最新の競合機である「ROG Xbox Ally X」などが採用するAMD Ryzen Z2 Extremeは、8コアのZen 5 CPUと16CUのRDNA 3.5 GPUを搭載しており、アーキテクチャ世代も新しく、理論性能ではSteam Deckを遥かに凌駕する。

しかし、この高性能には代償が伴う。これらのデバイスは、性能を最大限に引き出す「ターボモード」などで動作させると消費電力が跳ね上がり、バッテリーは1時間から2時間程度で尽きてしまうことも珍しくない。 ROG Xbox Ally XはSteam Deckより50%大きいバッテリーを搭載しているが、それでもこの課題を完全に克服するには至っていない。

Valveが求めているのは、こうした力業による性能向上ではない。Griffais氏の言う「同じバッテリー寿命で」という条件は、まさにこのワットパフォーマンスの大幅な改善を意味する。消費電力を現行レベルに抑えつつ、性能を50%以上、あるいはそれ以上に引き上げる。これこそがValveの定義する「真の世代交代」であり、現行のSoCでは達成不可能な領域なのだ。

価格というもう一つの制約

見過ごされがちなもう一つの重要な要素が「価格」だ。初代Steam Deckは399ドルからという衝撃的な価格で市場に登場し、後のOLEDモデルも549ドルと比較的手頃な価格設定を維持している。 対照的に、高性能な競合機は1,000ドルに迫る価格帯で販売されているのが現状だ。

Valveは、一部のハイエンドユーザーだけでなく、より幅広いPCゲーマーに製品を届けることを重視してきた。Steam Deck 2でもこの哲学が維持されるとすれば、高性能でありながら、多くのユーザーが許容できる価格帯に収める必要がある。AMDのAPUラインナップには、ノートPC向けGPUに匹敵する性能を持つ「Strix Halo」のようなモンスターチップも存在するが、そのコストと消費電力は携帯デバイスの枠を大きく超えてしまうだろう。

性能、バッテリー、価格。この3つの要素を高い次元でバランスさせることのできる半導体が登場するまで、Valveは動かない。これが同社の揺るぎない方針であると考えられる。

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Steam Deck 2はいつ登場するのか?半導体ロードマップからの展望

では、Valveの眼鏡にかなう半導体はいつ登場するのだろうか。具体的な時期は明言されていないが、半導体業界のロードマップから、その輪郭をある程度推測することは可能だ。

著名なリーカーであるKeplerL2は、Steam Deck 2の登場が2028年になる可能性を指摘している。 この時期は、AMDが次々世代のアーキテクチャである「Zen 6」CPUと「RDNA 5」GPUを市場に投入すると予測されるタイミングと重なる。

アーキテクチャの進化は、ワットパフォーマンスを飛躍的に向上させる可能性を秘めている。より微細なプロセスルール(製造技術)への移行、電力効率を重視した内部設計の刷新などが実現すれば、同じ消費電力で遥かに高い性能を発揮できるようになる。Valveが待っているのは、単にクロック周波数を上げたりコア数を増やしたりしただけのチップではなく、こうしたアーキテクチャレベルでのブレークスルーなのだろう。

複数の情報源やアナリストの見解を総合すると、現実的な登場時期は早くとも2027年後半、あるいは2028年以降になるという見方が有力だ。 この頃には、Sonyが開発中と噂される次世代PlayStation携帯機との直接対決になる可能性もあり、携帯ゲーム市場は新たな局面を迎えるかもしれない。

スペック競争のその先へ:Valveが目指す「体験」の創出

一連のGriffais氏の発言から透けて見えるのは、スペックシート上の数値を追い求めるのではなく、あくまでユーザーの「ゲーミング体験」全体を重視するという、Valveの一貫した哲学だ。

初代Steam Deckが成功を収めた最大の要因は、当時最速の携帯機だったからではない。膨大なSteamライブラリという既存の資産を活かせる互換性、カスタマイズ性の高いSteamOS、そして何よりも圧倒的なコストパフォーマンス。これらの要素が複合的に絡み合い、「PCゲームをどこにでも持ち運べる」という優れた体験を生み出した。

Steam Deck 2もまた、この哲学の延長線上に存在するはずだ。単にフレームレートが高いだけのデバイスではなく、十分なバッテリー寿命を持ち、手に取りやすい価格で、Steamのエコシステムとシームレスに連携する。Valveは、これらすべての条件が満たされる完璧なタイミングを、忍耐強く待ち続けている。

同社が当面、2026年発売予定のSteam MachineやSteam Frame VRといった新ハードウェアに注力するのも、理にかなった戦略と言える。 これらの製品でリビングルームやVR空間におけるSteamエコシステムを強化しつつ、来るべき「真の次世代携帯機」の登場に備えているのではないだろうか。

ゲーマーにとってはもどかしい待ち時間かもしれない。しかし、この沈黙の期間は、Valveが次なる革命のために深く潜行している証でもある。そして、再び浮上するその時には、単なる後継機ではなく、携帯ゲーミングの常識を再び覆すほどのインパクトを持ったデバイスが登場するに違いない。筆者は、Valveのこの忍耐強い戦略こそが、過度なスペック競争に陥りがちな市場に一石を投じ、長期的な発展を促す健全なアプローチであると考える。


Sources