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なぜSwitch 2はサードパーティ製ドックが使えないのか?USB-Cの独自暗号化と任天堂の「壁」による支配

Y Kobayashi

2025年7月6日

待望のNintendo Switch 2を手にした多くのユーザーが、ある不可解な現象に直面している。それは、汎用であるはずのUSB-Cポートが、市販のサードパーティ製ドックやハブのほとんどを受け付けないという事実だ。先代では可能だった運用が難しくなったことで、不便に感じているユーザーも少なくないだろう。だがどうやら、これは単なる技術的な相性問題ではないようだ。The Vergeによると、複数のアクセサリメーカーへの取材と技術的検証から、任天堂が独自の暗号化技術を導入し、意図的に互換性を制限している実態が明らかになったというのだ。

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標準を逸脱した「壁」:Switch 2で何が起きているのか

USB-C規格は本来、あらゆるデバイスを「ユニバーサル」に接続するための約束だったはずだ。スマートフォンからラップトップまで、一本のケーブルで充電もデータ転送も、そして映像出力もこなす。ユーザーはこの利便性を当然のものとして享受してきた。

しかし、Nintendo Switch 2においては、その常識は通用しない。The Vergeの報道によると、複数のアクセサリメーカーが、Switch 2は新しい暗号化スキームと専用の認証チップを搭載していると証言している。これにより、公式ドック以外のほとんどのサードパーティ製ドックやハブとの接続が意図的にブロックされているのだ。

この動きは、かつて初代Switchで問題となった、一部の粗悪なサードパーティ製ドックが本体を故障させる問題とは質が異なる。今回は、事故を防ぐというレベルを超え、任天堂自身がエコシステムの門を固く閉ざした格好だ。

技術的証拠が語る「独自プロトコル」の実態

この疑惑は、単なる憶測ではない。技術的な検証がその裏付けとなっている。

Power-Zテスターが暴いた「秘密の会話」

The VergeのSean Hollister氏がUSB-Cの通信を解析できる「Power-Zテスター」を用いて検証したところ、驚くべき事実が判明した。Switch 2と公式ドックは、映像出力を開始する前に、標準プロトコルから逸脱した30以上の独自メッセージを交換していたのだ。

USB-Cデバイスは通常、標準化された一連の命令セットに基づいて通信する。しかし、Switch 2はまるで、任天堂にしか解読できない暗号で話しているかのようだ。

USB規格の策定がいかにオープン性と相互運用性を重視してきたかは広く知られている。今回の任天堂のやり方は、その理念に真っ向から逆行するものだ。これは単なる電力要件の変更(当初GamesRadarが報じた20Vへの引き上げ)といった単純な話ではない。通信プロトコルの根幹に、意図的な「壁」が築かれているのである。

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沈黙するサードパーティと唯一の「例外」

任天堂によるこの厳格な管理は、アクセサリ市場に深刻な影響を与えている。

大手メーカーも開発を中断

Steam Deck用ドックで名を馳せたJsaux社は、Switch 2用ドックの開発計画を一時停止せざるを得なくなったと明言している。ポータブルなドックや、Xreal Oneのようなビデオグラスで手軽に大画面プレイを楽しみたいユーザーにとって、選択肢は事実上、奪われたに等しい。

唯一の互換ドック「Antank S3 Max」の謎

現在、市場で唯一Switch 2との互換性が確認されているサードパーティ製品が「Antank S3 Max」(別名:SiWiQU TV Dock Station)だ。この製品は、任天堂の独自プロトコルをリバースエンジニアリングによって模倣し、「秘密の会話」を再現することで認証を突破していると見られる。

しかし、この互換性も盤石とは言えない。Antank社の担当者自身が、「任天堂による将来のファームウェアアップデートで認証キーが変更される可能性」を認めている。その際は自社製品のファームウェアアップデートで追随する構えだが、これはメーカーと任天堂との終わりのない「いたちごっこ」の始まりを意味する。

任天堂の思惑:ユーザー保護か、市場支配か

任天堂のこの決断の裏には、どのような狙いがあるのだろうか。

一つには、初代Switchでの経験を踏まえた「ユーザー保護」という大義名分が考えられる。認証されていない低品質なアクセサリによる本体の故障リスクを未然に防ぐ、という主張には一定の理がある。

しかし、その手法はあまりに極端ではないだろうか。今回の措置は、良質なサードパーティ製品まで市場から一掃してしまう。結果として、ユーザーは9,350円もするにも関わらず頻繁に在庫が切れ、一部ではイーサネット接続の問題も報告されている公式ドックに選択肢を狭められる。

注目すべきは、これがApple社の「MFi認証」に代表されるような、自社のエコシステムを完全にコントロールし、ライセンス料やアクセサリ販売で収益を最大化しようとする「壁に囲まれた庭」戦略と酷似している点だ。これはユーザー保護という建前を盾にした、巧妙な市場支配戦略であると言われても仕方がないだろう。

任天堂は今のところ、この件に関して公式なコメントを発表していない。アクセサリメーカーは今後もこの「壁」を乗り越えようと努力を続けるだろうが、それは常に任天堂の一存で無に帰す可能性のある、不安定な試みに過ぎない。Switch 2のUSB-Cポート問題は、単なる一つの技術仕様の問題ではない。企業のビジネスモデル、知的財産保護、そしてオープンスタンダードの理念が激しく衝突する、現代テクノロジー業界の縮図そのものなのである。


Sources

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