中国の電気自動車(EV)メーカーXPENG(小鵬汽車)は、2025年11月5日に開催した「XPeng AI Day」にて、次世代人型ロボット「IRON」を発表した。業界初となる全固体電池の搭載、人間を極限まで模倣した身体構造、そして強力なAI頭脳を特徴とし、2026年後半の量産開始を目指す。Teslaの「Optimus」としのぎを削る人型ロボット開発競争において、XPENGが一歩リードする可能性を示す発表だ。
極限の人間らしさを追求した、第二世代「IRON」
XPENGが「最も人間に近いヒューマノイドロボット」と位置づける第二世代「IRON」は、その外観と動作の両面で、従来のロボットとは一線を画す。発表会のデモンストレーションでは、モデルのような滑らかな「キャットウォーク」を披露し、その流麗な動きは、中に人間が入っているのではないかと錯覚させるほどであった。
この驚異的な身体能力の根幹をなすのが、「極めて人間らしい」という設計思想だ。 IRONは、柔軟性を持つ人間のような背骨、収縮・弛緩する生体模倣の合成筋肉、そして全身を覆う柔軟な人工皮膚といった、生体模倣の「骨・筋肉・皮膚」構造を持つ。
物理的なスペックは、身長178cm、体重70kgと、成人男性に近い体格だ。 全身に搭載されたアクティブジョイントの数は、公式発表によれば82箇所にのぼり、これにより人間のような自然で複雑な動きを可能にしている。
革命的エネルギー源:業界初の全固体電池
IRONが技術的に最も注目される点の一つが、動力源として全固体電池を業界で初めて採用したことだ。
全固体電池は、現在主流のリチウムイオン電池が抱える液体電解質に起因する発火リスクがなく、安全性が格段に高い。さらに、エネルギー密度が極めて高いという利点を持つ。XPENGによると、IRONに搭載される全固体電池のエネルギー密度は500Wh/kg以上に達するという。 これは、Tesla Optimusが使用するとされるバッテリーの約2倍の容量を、同じサイズと重量で実現できることを意味する。
この高密度エネルギー源は、ロボットの小型化・軽量化に直接貢献し、長時間の稼働を可能にするだけでなく、デザインの自由度も高める。まさに、人型ロボットの普及に向けたゲームチェンジャーとなりうる技術である。
驚異の身体能力を支えるハードウェア
人間らしさは、エネルギー源だけで実現できるものではない。IRONの身体には、それを具現化するための高度なメカニズムが凝縮されている。
- 精密な「手」: 人間とのインタラクションにおいて最も重要な部位である手には、片腕に22の自由度が与えられている。 これにより、小さな道具を掴む繊細な作業から、大きな箱を持ち上げる力強い動作まで、幅広いタスクに対応できる。この手は、業界最小クラスの「ハーモニックジョイント」を用いることで、人間とほぼ同じ1:1のサイズを実現している。
- 強力な「頭脳」: IRONの知能を司るのは、XPENGが自社開発した3つの「Turing AIチップ」である。 これらを統合した演算能力は、最大で3,000TOPS(1秒間に3,000兆回の演算性能)に達する。 この強力なプロセッシングパワーが、後述する高度なAIモデルのリアルタイム処理を可能にする。
- 人間のような「顔」: 頭部には湾曲した有機ELディスプレイが搭載され、「顔」として機能する。 このディスプレイは、対話の内容に応じて表情を変化させ、人間とのより円滑なコミュニケーションを補助する。
Tesla「Optimus」との熾烈な開発競争
人型ロボット開発の分野では、Teslaの「Optimus」が常に注目の的であった。しかし、XPENGのIRONは、少なくとも公表されているスペックにおいて、Optimusに匹敵、あるいは凌駕する部分さえ見られる。
| スペック | XPENG IRON (第2世代) | Tesla Optimus (Gen 2) |
|---|---|---|
| バッテリー | 全固体電池 (500Wh/kg以上) | リチウムイオン電池 (詳細非公開) |
| 手の自由度 | 各22 | 各11 (指) |
| 全身の自由度 | 82 | 28 |
| AIチップ/演算能力 | 3x Turing AI (最大3,000TOPS) | Tesla FSD Computer (詳細非公開) |
| 量産計画 | 2026年後半 | 未定 |
最も大きな違いは、量産計画の具体性だ。XPENGが「2026年後半の量産開始」という明確な目標を掲げたのに対し、TeslaのOptimusの具体的な量産時期は依然として不透明なままである。 このまま計画が進めば、高性能な人型ロボットの市場投入において、XPengがTeslaを先行する可能性は十分に考えられる。
筆者は、両社のアプローチの違いにも注目している。XPengが「極めて人間らしい」外観と動作を追求し、人間社会への融和を目指しているのに対し、Teslaはより工場での作業など、特定のタスクに特化した実用性を重視しているように見える。どちらのアプローチが市場に受け入れられるか、今後の展開が非常に興味深い。
商業化への道筋とXPengが描く未来
XPENGはIRONの商業化について、具体的なロードマップを提示している。初期段階では、ガイドツアー、ショッピングアドバイザー、交通誘導といった商業施設でのサービス提供から開始する計画だ。 すでに、鉄鋼大手の宝山鋼鉄(Baosteel)がパートナーとなり、工場内での設備点検といった産業分野への応用を模索している。
さらに、XPENGはグローバルな開発者向けにIRONのSDK(ソフトウェア開発キット)を公開し、アプリケーションエコシステムの構築を目指すとしている。 これは、単にロボット本体を販売するだけでなく、その上で動作する多様なサービスやアプリケーションを生み出すプラットフォーム戦略と言えるだろう。
物理AIとプライバシーの「第4法則」
今回の発表は、XPENGが単なるEVメーカーから「グローバルなフィジカルAI企業」へと進化する、という強い意志表明でもある。

IRONの頭脳には、同社が開発した物理世界基盤モデル「VLT(Vision-Language-Thinking)」「VLA(Vision-Language-Action)」「VLM(Vision-Language-Model)」が搭載されている。 これは、視覚情報、言語、そして行動を統合的に処理し、ロボットが自律的に思考・判断するための核心技術だ。注目すべきは、このAIシステムがロボットだけでなく、同社が開発する自動運転車(Robotaxi)や空飛ぶクルマにも共通して適用される点であり、XPENGの壮大な「物理AI」構想の中核を担っている。
一方で、高度なAIを搭載したロボットが社会に普及する上での懸念、すなわちプライバシー保護にも言及している。XPengは、SF作家アイザック・アシモフの「ロボット三原則」に加え、独自の「第4法則」として「プライベートデータはロボットから離れない(Privacy data does not leave the robot)」を掲げた。 これは、ユーザーデータを最大限保護するという企業姿勢を示すものであり、今後の社会実装において重要な要素となるだろう。
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