2026年8月18日、技術観測者tphuangがXUANTIE表記のスライドを共有した。玄鉄(XuanTie)C950を64コアで構成したターゲットで、Qwen3.8-27Bのデコード性能が30 tokens/s以上、最初のトークンを返すまでの時間(TTFT)が1.9秒になったという内容だ。独立した再現結果ではない。
3月に示された「Qwen3とDeepSeek V3級をネイティブに支える」という互換性の説明に、今回は現行モデル名と待ち時間・生成速度が加わった。C950のAI推論では、CPUのピーク性能に加え、モデルの演算子をどう実装し、メモリー上の中間データをどう減らすかが競争を左右する。
測定条件には空白も多い。今回の数字が製品の性能やGPUとの優劣をどこまで語れるのかは、ライブラリ、モデル、プロセッサIP、そして実システムの境界を分けて読む必要がある。
64コア構成で30 tokens/s、資料が示した二つの測定値
スライドが掲げるQwen3.8-27Bは、64コアのC950ターゲット構成でデコード30 tokens/s以上、TTFT 1.9秒で動作したという。デコードは生成を始めた後に毎秒何トークンを出せるかを示す指標だ。TTFTは入力を受けて最初の出力を返すまでの時間を表す。会話型の推論では前者が応答の流れを、後者が最初の待ち時間を左右する。
同じスライドには、Qwen3.8-2.4T-A95Bでデコード7.2 tokens/s、TTFT 8.5秒という値もある。両モデルは規模が異なるうえ、精度、入力、メモリー条件も不明なため、数字の差を規模だけでは説明できない。確認できるのは、XUANTIE資料がC950向け最適化の対象として27Bと2.4T-A95Bの双方を挙げたことまでである。
スライドはこれを「C950 target configuration」と呼ぶにとどめる。ボード、メモリーの種類・容量・帯域、数値精度や量子化、バッチサイズ、プロンプトとコンテキスト長、消費電力、サンプリング設定は明かしていない。したがって30 tokens/sや1.9秒を、他のCPU、Mac、GPUの公表値と直接並べることはできない。
速さを作るSHLとVector/Matrix
数値の背景にあるのは、XuanTieのヘテロジニアス・ニューラルネットワーク・ライブラリSHLによる多層の最適化だ。資料によれば、SHLはMatMulとLinearで精度と計算形状に応じて行列カーネルを選び、SoftmaxとRMSNormには専用実装を使う。大規模言語モデルの推論では、こうした演算子ごとの差が実行時間に積み上がる。
さらにスライドは、処理順の組み替え、前処理、バッファ再利用、演算子融合によって、形式変換、メモリー確保、中間データの読み書きを減らすとしている。計算器を速くしても、データ移動が残れば推論の待ち時間は縮まらない。今回の資料が示す中心は、C950のコア数そのものより、演算とメモリー処理をモデル実行へつなぐソフトウェアである。
C950はクラウドとデータセンター、AIエージェントサーバー、高性能ロボティクス向けのサーバークラスRISC-VプロセッサIPとして公開されている。公式ページは8命令デコードとアウト・オブ・オーダー実行、ベクトル計算を挙げる。Matrix AIアクセラレーション、RVA23 Profile、CoVEも備える。3月のAlibabaによる発表も、RISC-V CPUにVectorとMatrixの加速エンジンを組み合わせ、Qwen3とDeepSeek V3級のモデルをネイティブに支えると説明していた。
SHLの公開リポジトリは、CPUアセンブリ最適化、8ビット・16ビット・f16のサポート、対称・非対称量子化、ヘテロジニアス・スケジューリング、最適化済みバイナリを掲げる。もっとも、C950はMatrix AIアクセラレーションも備えるため、今回の推論経路がCPUだけで完結したとは言えない。接続されたアクセラレーターやオフロード経路も未開示である。
Qwen3.8-27Bの重さと測定の空白
Qwenの公式モデルカードでは、Qwen3.8-27Bは270億パラメーターの稠密な視覚言語因果モデルで、言語モデル層は64層である。ネイティブのコンテキスト長は262,144トークンで、1,000,000トークンまで拡張できる。入力の長さはTTFTに強く関わるため、1.9秒という値を読むには、どの長さのプロンプトを使ったかが欠かせない。
公式ファイルは8月12日から14日にアップロードされており、18日のC950資料はオープンモデル公開から数日後に出た。モデルの登場に合わせてライブラリ側の対応を見せた点は、3月の広い互換性主張より具体的だ。とはいえ、公開直後のモデルを動かせたことと、幅広い利用条件で安定して動かせることは別である。
精度と量子化、バッチの設定が分からなければ、速度と効率のどちらをどの程度優先した測定かも定まらない。メモリー帯域も明かされていない。電力がないため、性能当たりの消費電力も評価できない。今回の値はC950とSHLの組み合わせが到達したとするベンダー側の指標として扱うのが妥当であり、効率の比較表を作る根拠にはまだ足りない。
IP、ターゲット構成、量産を混同しない
C950は顧客が構成して統合できるプロセッサIPである。そのため、64コアのターゲット構成で得たベンチマークは、量産チップの出荷、システムの提供、価格、歩留まり、データセンターへの導入を確定するものではない。モデルからライブラリ、プロセッサ機能へ最適化をつないだ後も、商用システムとして届けるには量産設計や検証が残る。
製造については、Nikkei AsiaがC950は5nmプロセスで検証され、TSMC生産の可能性を情報源が示したと報じた。Alibabaは製造委託先を公表していないため、TSMC製は確認済みの事実ではない。C950が5nmで量産されるという断定もできない。
Wccftechは8月18日の資料を「day-zero support」として伝えた。実装の速さを裏づけるには、同一条件で再現できる測定に加え、精度とコンテキスト長を明かす必要がある。メモリー構成と電力も必要になる。C950を積んだ製品がいつ、どの構成で出るかが分かれば、今回の最適化が実運用に届くかを判断できる。



