UCLAのRobert FairlieとJane Wuが、AIの普及によって米国の新卒雇用が悪化したのかを、失業率のデータから検証した。2026年9月15日付のCESifo Working Paper No. 12994(査読前のワーキングペーパー)は、Current Population Survey(CPS、米国の月次労働力調査)の個票データを使って22〜25歳の大卒者を分析し、2026年6〜8月の失業率を7.3%と報告した。

2022〜2025年の各夏はそれぞれ7.1%、6.3%、7.8%、7.2%で、2026年の7.3%は過去4年間の範囲内に収まる。

さらに、職業ごとのAI露出度と2026年夏を組み合わせた交差項は、8通りの推定すべてで統計的に有意ではなかった。一方、明確な差が出たのは、その職業が在宅勤務に適しているかどうかだった。

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「エントリーレベルのホワイトカラー職の半分が消えうる」発言から16か月

この論文が検証対象とした背景には、AIと新卒雇用をめぐる経営者らの相次ぐ発言がある。

AnthropicのDario Amodeiは2025年5月28日、AIによってエントリーレベルのホワイトカラー職の半分が失われる可能性があると警告し、Fortuneがこれを報じた。それ以降、新卒雇用への影響は経営者や投資家の間で大きな論点となった。

2026年3月18日には、BlackRockのLarry Finkが、今年の大卒者が労働市場へ入る際、景気後退がなくても近年で最も高い失業率に直面する可能性があると述べたと報じられた。一方、同年3月31日にはMarc Andreessenが、少なくとも2025年12月までは、企業が実際に削減していた仕事をAIがこなせる水準には達していなかったと語っている。

その後も見方は割れた。

5月26日にはOpenAIのSam Altmanが、現時点ではもっと大きな雇用喪失が起きていると予想していたと述べたと報じられた。6月2日にはNVIDIAのJensen Huangが、AIによって雇用が減るという見方を「完全なナンセンス」と否定したと伝えられている。8月26日にはBill Gatesが、エントリーレベルの求人が減っている労働市場へ入る若者を特に懸念していると述べたと報じられた。

2025年5月のAmodeiの警告から今回の論文が出た2026年9月までの約16か月、経営者の発言は警告と否定に分かれ、実証研究も異なる結果を示してきた。

論文の著者2人はいずれもUCLAに所属し、FairlieはNBERとIZAにも所属している。CESifoはこのワーキングペーパーの発行元だ。

その間、企業でのAI利用そのものは急速に拡大していた。

論文は付録Bで、2026年夏を検証時点に選んだ理由を示している。約7万社をカバーするRampのパネルデータでは、従業員1人当たりの月間AI支出の中央値が、2025年12月から2026年7月までに2倍以上へ増えた。ただし、このデータはVCから出資を受けた企業に偏っている。

また、ChatGPT Enterpriseの出力トークン量は、2025年6月から2026年3月までに7倍になったという(Chatterji et al. 2026)。

企業調査の数字については、何を分母にしているかにも注意が必要だ。

米国勢調査局のBTOS(Business Trends and Outlook Survey)が2025年11月17日から2026年2月8日に実施したAI補足調査では、11万7,000件を超える回答のうち、「多数のタスクをAIで置き換えた」と回答した割合が、2024年初めの補足調査における2.5%から7.0%へ上昇した。

ただし、この割合の分母は、すでにAIによって従業員のタスクを置き換えている企業に限られる。

全回答企業のうち、何らかのタスクをAIで置き換えた企業そのものの割合は増えていない。つまり、AIによる置き換えを始める企業が広く増えたというより、すでに導入している企業の中で置き換える業務の範囲が広がったことを示している。

同じような差は職業単位でも見られる。

著者らはAnthropicのデータ(Massenkoff and McCrory, 2026年3月)を引用し、computer and mathematical職種では理論上94%のタスクをAIで実行できる可能性がある一方、実際のAI利用は33%にとどまると指摘する。

現在進んでいるのは、この「できること」と「実際に使われていること」の差が縮まる過程だと考えられる。

なぜ前年同月比ではなく「夏どうし」を比較したのか

分析に使ったのは、CPSの基本月次個票データの2022年1月から2026年8月までだ。

CPSは毎月13万人以上を対象に調査している。論文では、その中から22〜25歳で、最終学歴が学士号、現在は在学していない人に対象を絞った。修士、専門職学位、博士号の取得者は含めていない。

主な回帰分析の標本サイズは45,816〜46,734。年長の大卒者との比較では350,187〜355,101、非大卒者との比較では150,488〜155,408となる。

2025年10月は連邦政府機関の閉鎖によってCPS自体が実施されず、後から遡って調査することもなかったため、データが存在しない。

この条件で対象を絞ると、分析に含まれない層も明確になる。

22〜25歳で学士号を最終学歴とする人のうち22.5%は在学中のため除外される。また、非在学者のうち7.1%は非労働力人口として分析対象から外れる。

2022年1月〜2026年8月の分析期間全体で見ると、残った標本の5.7%が失業者だった。また、1.9%は非労働力人口だが仕事を望んでいた。

著者らは、通常の失業者に「現在は求職活動をしていないものの仕事を望んでいる人」を加えた独自の指標も作り、これを拡張失業率としている。この値は7.6%だった。

さらに、週10時間未満しか働いていない人を含めた不完全就業は6.8%、大学卒業資格を必要としない職業に就いている人を含めた学歴ミスマッチは14.8%だった。

失業の中身にも、新卒特有の特徴がある。

失業している新卒のうち、レイオフなどによる非自発的な離職者は17%未満で、大半は卒業後に就職先を見つけられていない人だった。

新卒雇用を分析するなら、まさにこの層が重要になる。

著者らは、給与記録や失業保険の申請データでは、新たに労働市場へ入ってくる人を十分に把握しにくいとも指摘している。特に失業保険は、基本的に一定の職歴を持ち、受給資格のある人を対象とするためだ。

分析設計で重要なのが季節性である。

若年大卒者の失業率は毎年6〜8月に上昇し、それ以外の月の平均約5%に比べて約2ポイント高くなる。卒業した若者が一斉に求職活動を始めるためで、このピークは毎年ほぼ同じ時期に現れる。

そのため、2026年6月の失業率を同年5月や別の季節と単純比較しても、新卒市場が悪化したかどうかは分からない。

論文では同じ「夏」どうしを比較し、差分の差分法とイベントスタディの両方を使って推定している。

差分の差分法は、ある時期の前後で起きた変化を、影響を受けにくい別の集団で同じ時期に起きた変化と比較する手法だ。イベントスタディでは基準年と各年の違いを見る。基準年は2022年とした。

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2026年夏の失業率は7.3%、過去4年の範囲内

2026年の月次失業率を見ると、5月の5.4%から6月には7.8%へ上昇し、7月は7.4%、8月は6.8%へ下がった。

6〜8月平均は7.3%だった。

これを過去と並べると、2022年7.1%、2023年6.3%、2024年7.8%、2025年7.2%となる。2026年は2024年より低く、2022年、2023年、2025年より高い。

一方、1〜5月の失業率は2026年が5.3%、2025年が5.7%で、むしろ前年を下回っていた。

著者らは、2026年夏の失業率について、2022年以降に観測された範囲内だと評価している。

この論文を紹介した英語記事の中には、6.3%を2022年の失業率としているものもあった。確認した2記事のうち1記事はもう1記事を参照しており、独立して同じ誤りをしたとは限らない。

論文本文では、6.3%は2023年、2022年は7.1%である。

年と値の対応を取り違えると、2026年の7.3%が過去最高に近い数字なのか、過去数年の範囲内なのかという印象そのものが変わってしまう。

  • 公式失業率
  • 拡張失業率
22〜25歳大卒者の6〜8月平均失業率横棒グラフ。カテゴリ 5 件、系列: 公式失業率, 拡張失業率(単位: %)2022年2022年2022年 — 公式失業率: 7.1%7.12022年 — 拡張失業率: 9.4%9.42023年2023年2023年 — 公式失業率: 6.3%6.32023年 — 拡張失業率: 9.3%9.32024年2024年2024年 — 公式失業率: 7.8%7.82024年 — 拡張失業率: 10.1%10.12025年2025年2025年 — 公式失業率: 7.2%7.22025年 — 拡張失業率: 9.4%9.42026年2026年2026年 — 公式失業率: 7.3%7.32026年 — 拡張失業率: 10.4%10.4単位: %
データを表で見る
公式失業率 (%)拡張失業率 (%)
2022年7.19.4
2023年6.39.3
2024年7.810.1
2025年7.29.4
2026年7.310.4
22〜25歳大卒者の6〜8月平均失業率拡張失業率は求職活動をしていないが仕事を望む層を加えた著者独自の指標出典: CESifo Working Paper No. 12994

通常の失業率は5年間の夏で大きく変わっていない。一方、拡張失業率は2026年が10.4%となり、この5年間では最も高かった。

ただし、これまで最も高かった2024年の10.1%との差は0.3ポイントにすぎず、回帰分析では統計的に有意な差ではなかった。

通常の失業率に、仕事を望んでいるものの積極的な求職活動をしていない人を加えた際の上乗せ幅は、2025年の2.2ポイントに対して2026年は3.1ポイントだった。

つまり、2026年には「働きたいが、現在は積極的に仕事を探していない」と答えた新卒者の割合が、前年より高かったことになる。

回帰分析でも、2026年夏に特別な悪化があったことを示す有意な差は出ていない。

夏2026ダミーの係数は、通常の失業率で-0.008(標準誤差0.007)、拡張失業率で0.001(0.009)。イベントスタディ型ではそれぞれ0.001(0.008)、0.008(0.010)だった。

2025年を分析から除いた場合、時間トレンドを外した場合、年齢範囲を22〜27歳まで広げた場合という3つの頑健性チェックでも、統計的に有意な結果は出なかった。

年長の大卒者を対照群とした推定でも同じ傾向だった。

30〜49歳の大卒者と比べた「若年×2026年夏」の交差項は、-0.007(0.008)から0.004(0.010)の範囲で、すべて統計的に有意ではなかった。

一方、「若年×夏」という季節要因そのものは0.014〜0.030で、1%水準で有意だった。つまり、夏に失業率が上昇する傾向は、年長大卒者より若年大卒者で明確に強い。

実際の値でも、30〜49歳大卒者の失業率は2025年夏の2.7%から2026年夏には2.8%へ、若年大卒者は7.2%から7.3%へ上昇した。両者の差は4.5ポイントのまま変わっていない。

ただし、拡張失業率では少し違う動きが見える。

若年大卒者は9.4%から10.4%へ、年長大卒者は4.1%から4.2%へ上昇し、両者の差は5.3ポイントから6.2ポイントへ広がった。

著者らも、拡張失業率で見ると若年大卒者の相対的な状況が悪化した可能性があると留保している。

22〜25歳の非大卒者との比較では、「大卒×2026年夏」の交差項は0.002(0.009)〜0.013(0.011)で、すべて正の値だったものの統計的に有意ではなかった。

実際の失業率を見ると、非大卒者は2025年夏の7.5%から2026年夏には6.8%へ低下した一方、大卒者は7.2%から7.3%へ上昇した。その結果、2025年には大卒者の方が0.3ポイント低かった失業率が、2026年には逆に0.5ポイント高くなった。

拡張失業率でも、大卒者が非大卒者より低いという差は2.2ポイントから0.3ポイントへ縮小し、過去5年間の夏で最も小さくなった。

一方、米国全体の雇用環境が急激に悪化していたわけではない。

BLSの2026年8月雇用統計では、非農業部門の雇用者数が16万2,000人増加し、失業率は4.1%で横ばいだった。雇用増加数は直前12か月の月平均3万1,000人を大きく上回った。

AIへの露出度では差が出ず、在宅勤務しやすい職種では差が出た

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ここまでの分析は、新卒者全体の平均を見たものだ。

AIの影響を検証するには、AIによる影響を受けやすい職業と、そうでない職業で失業率の動きが違ったかを見る必要がある。

論文では、職業ごとのAI露出度を測る指標を2種類使った。

一つは、Claudeが実際にどのような仕事で使われているかを基にしたAnthropic Economic Index(Massenkoff et al. 2026)で、現実の利用状況を反映する。

もう一つは、GPT-4にO*NETの職業タスクを分類させたEloundou et al. 2024の指標で、理論上AIがどこまで仕事をこなせるかを測る。

前者は「実際にどれだけ使われているか」、後者は「どれだけ使える可能性があるか」を表す指標と考えられる。

そのうえで、2026年夏と各指標を組み合わせた交差項を推定した。

交差させた職業属性の指標 交差項の係数(4仕様) 標準誤差 有意性
観測ベースのAI露出度(Anthropic Economic Index) +0.006〜+0.009(0.6〜0.9ポイント) 0.007〜0.008 4仕様すべて非有意
理論ベースのAI露出度(Eloundou et al. 2024) +0.008〜+0.012(0.8〜1.2ポイント) 0.008〜0.009 4仕様すべて非有意
在宅勤務可能性(Dingel and Neiman 2020) +0.028〜+0.040(2.8〜4.0ポイント) 0.015〜0.018 10%水準2仕様、5%水準2仕様

係数は線形確率モデルによる推定値で、例えば0.028は失業率で2.8ポイントの差に相当する。

AI露出度については、観測ベースと理論ベースを合わせた8通りの推定すべてで、2026年夏との交差項が統計的に有意ではなかった。

一方、在宅勤務のしやすさとの交差項は4通りすべてで有意となり、2.8〜4.0ポイントの差が推定された。2仕様は10%水準、残る2仕様は5%水準で有意だった。

AI露出度の係数自体はいずれも正だったが、標準誤差に対して十分に大きくなく、統計的に有意と判断できる水準には達していない。また、時間トレンドや基準年の設定によって推定値が変化する。

なお、この分析は職業コードを報告している回答者だけを対象としている。通常の失業指標では失業者の15.5%、拡張失業指標では35.8%が職業別分析から除外されている。この点は後で触れる。

在宅勤務可能性とは、「実際にその人が在宅勤務をしていたか」ではなく、その職業が在宅勤務でも成り立ちやすいかを示す指標だ(Dingel and Neiman 2020)。

経理、事務、ソフトウェア開発などは在宅勤務が可能な職種に分類され、看護、調理、建設などはそうではない。

興味深いのは、在宅勤務可能性との交差項が正で有意だった一方、同じ推定における「2026年夏」そのものの係数、つまり在宅勤務に適さない職種の変化は、すべて-0.024〜-0.017と負だったことだ。

2026年夏には、在宅勤務に向く職種の新卒者では失業率が相対的に高く、在宅勤務に向かない職種では低いという逆の傾向が見られた。

ただし、これを「AIの影響は否定され、在宅勤務が原因だと分かった」と解釈することはできない。

AIの影響を受けやすい仕事は、同時にパソコンだけで完結しやすく、在宅勤務に向いている仕事でもあるためだ。

論文によると、観測ベースのAI露出度と在宅勤務可能性の相関係数は0.58、理論ベースのAI露出度とは0.66ある。

これほど指標同士が重なっていると、失業率の変化をAIと在宅勤務のどちらに帰すべきかを明確に切り分けるのは難しい。著者らも、この二つの説明を分離することは困難だと明記している。

統計的有意性についても慎重に読む必要がある。

在宅勤務可能性について有意だった4通りの推定は、10%水準と5%水準が混在しており、1%水準で有意なものはない。

また、「統計的に有意ではない」という結果は、「効果が存在しない」ことの証明ではない。この標本と推定方法では、明確な効果を検出できなかったという意味である。

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19%、64%、7.3%はそれぞれ何を測っているのか

数字だけを見ると、AIと新卒雇用をめぐる研究は互いに矛盾しているようにも見える。しかし、実際にはそれぞれ異なるものを測っている。

研究 データ源 母集団 測っているもの 対象期間 主な結果
Stanford Digital Economy Lab(Brynjolfsson, Chandar, Chen) 給与計算代行企業ADPの給与記録 22〜25歳のAI露出度上位職種 AI露出度の低い同年代と同じ成長率だった場合と比べた雇用水準の差 2026年6月まで 約19%低い(2025年7月時点データでは15%)
CESifo WP 12994(Fairlie and Wu) CPS個票 22〜25歳、最終学歴が学士、非在学 通常の失業率と拡張失業率 2026年6〜8月 7.3%、過去4年間の夏の範囲内
NY連銀 Liberty Street Economics(Emanuel, Harrington, Pallais) CPS個票 若年大卒者 失業率上昇のうち在宅勤務で説明できる割合 2017〜19年と2022〜24年の比較 64%

Stanfordの19%は、AIへの露出度が高い職種の雇用水準が、別の職種と同じ成長を続けていた場合の水準をどれだけ下回ったかを示す。

CESifoの7.3%は、若年大卒者の失業率そのものだ。

NY連銀の64%は、別の期間に起きた若年大卒者の失業率上昇のうち、在宅勤務の広がりによって説明できると推定された割合である。

単位も、母集団も、対象期間も異なるため、これらの数字をそのまま大小比較したり、差を計算したりすることはできない。

結論も、見出しで受ける印象ほど対立してはいない。

Stanfordのレポートは、AIによって経済全体で広範な雇用置換が起きている証拠は見つけていないと明記している。また、変化は既存社員の離職増ではなく、新規採用の減少を通じて起きているとする。

FairlieとWuも、新卒者について、絶対的にも相対的にも、広範な雇用置換や採用減少を示す統計的に有意な証拠は見つからなかったとしている。

どちらの研究も因果関係を証明したものではなく、観測されたパターンを記述した分析だと断っている。

そのため、「AIへの露出度が高い職種では雇用の伸びが弱い」と「新卒全体の失業率は過去数年の範囲内」という二つの結果は、同時に成立し得る。

NY連銀の在宅勤務説と、CESifo論文で在宅勤務可能性の交差項が有意だった結果についても、対象期間を混同しないことが重要だ。

Emanuel、Harrington、Pallaisは2026年6月1日のLiberty Street Economicsで、2017〜2019年と2022〜2024年の間に起きた若年大卒者の失業率上昇の64%を、在宅勤務の広がりで説明できると推計した。

その理由として、対面で働く若手ほど上司からフィードバックや指導を受けやすく、分散した職場では企業が経験の浅い人材の採用に慎重になる可能性を挙げている。

この分析には2026年のデータは含まれていない。

FairlieとWuが推定した+2.8〜+4.0ポイントは、2026年夏を対象とする別の分析である。そのため、NY連銀の「64%」を2026年の状況を説明する数字として使うことはできない。

言えるのは、異なる時期を異なる方法で分析した二つの研究が、在宅勤務に適した職種ほど若年大卒者の雇用が弱いという同じ方向の結果を示していることまでだ。

「新卒の労働市場」という同じ言葉で紹介される数字の中にも、定義が異なるものがある。

NY連銀が公開する新卒労働市場の分析では、22〜27歳で学士以上を持つ人を対象とし、2026年第2四半期の失業率を5.6%、不完全就業率を約42%としている。

同ページは、これらがニューヨーク連銀、総裁、連邦準備制度、FOMCの公式推計ではないことも明記している。分析を担当しているのはJaison R. AbelとRichard Deitzの2人のエコノミストだ。

対象年齢も学歴条件も、不完全就業の定義もFairlieとWuの研究とは異なる。そのため、5.6%と7.3%を直接比較することには意味がない。

職業コードを持たない失業者という分析上の弱点

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「AI露出度との交差項が統計的に有意ではなかった」という結果には、著者ら自身が重要な限界として挙げている問題がある。

CPSで職業コードが付くのは、現在働いているか、直近の仕事について回答できる人だ。

卒業後に一度も就職先を見つけられていない新卒者は職歴が乏しく、職業コードを持たないことがある。

その結果、通常の失業指標では失業者の15.5%、拡張失業指標では35.8%が職業別分析から除外される。

これは、AI露出度を職業ごとに割り当てる分析では特に重要な問題になる。

仮に、AIの影響を受けやすい職業を目指していた新卒者が、その職種で一度も仕事を得られなかったとする。その人を「どの職業の失業者」として数えるべきなのか。

CPSの職業コードだけを使う方法では、その人を目的の職業に割り当てることができない。

著者らは、最も影響を懸念すべき層の一部が分析から抜け落ちる可能性があると指摘している。

この問題は、職業別の雇用統計、求人データ、失業保険申請などを使う研究ではさらに大きくなる可能性がある。

求人が減った場合、その求人が存在している間は募集職種として分類できる。しかし、そもそも求人自体がなくなれば、その仕事を希望していた人がどの職種の統計にも現れないことがある。

著者らはほかにも分析上の限界を挙げている。

この研究は因果関係を特定したものではなく、理想的な対照群も存在しない。また、AIの影響がいつ始まったのかを明確に特定することもできない。

そのうえで論文の結論では、今後さらに大きな影響が現れる可能性を否定していない。

職場でAIを使う範囲や頻度が今後も高まれば、2027年以降の卒業者は2026年卒より大きな影響を受ける可能性がある。そのため、影響の有無をより明確に判断するには、今後の年次データを追加して検証する必要があるとしている。

また、この研究が査読前のワーキングペーパーであることも、結果を読む際の重要な前提になる。

日本の読者が、この数字をそのまま国内の新卒市場へ当てはめることもできない。

米国では大学卒業後に個人で就職活動をする人が多く、夏になると新規の求職者が一斉に労働市場へ入る。そのため失業率にも毎年夏のピークが現れる。

一方、日本では新卒一括採用の慣行が残っており、2026年3月卒の大学生の就職率は98.0%と高い水準にある。

米国で見られる夏の失業率上昇や、在宅勤務に向いた職種での雇用の弱さを、そのまま日本の新卒採用へ置き換えることはできない。

この論文自身が、次に何を確かめるべきかも示している。

2027年以降に卒業する世代の夏をCPSで追跡すること。AI露出度と在宅勤務可能性の相関が0.58〜0.66ある問題を、より明確に切り分けられる分析方法を用意すること。そして、職業コードを持たない失業者を分析へ取り込む方法を考えることだ。

こうした条件が整えば、AIと在宅勤務のどちらが新卒者の就職機会にどの程度影響しているのかを、経営者の発言ではなく実際のデータから、より明確に判断できるようになる。