台湾のプリント基板大手Unimicron(欣興電子)の簡山傑会長は2026年10月20日、台湾で開催されたプリント基板関連の展示会で、一部の製造装置の納期が30カ月に達していることを明らかにした。経済日報の現地取材によると、AI向け需要の拡大で基板材料の調達が難しくなっているだけでなく、生産能力を増やすための装置も長期間待たなければならない状況にある。ここでいう30カ月は製造装置を発注してから納入されるまでの期間であり、完成した基板が顧客に届くまでの納期ではない。
PCB(プリント基板)は電子部品を実装し、電気的に接続するための基板だ。一方、パッケージ基板は半導体チップを搭載し、外部の基板へ接続する役割を担う。これらの製造に使われる銅張積層板は、絶縁材料に銅箔を貼り合わせた材料であり、プリプレグは樹脂を含浸させた積層用の中間材料を指す。いずれも完成品の基板より上流に位置する材料で、工場に導入する製造装置とは調達条件が異なる。パナソニック インダストリーはこうした電子回路基板材料の価格を15〜30%引き上げており、簡会長も2027年には重要材料の一部で約20%の供給不足が生じる可能性を指摘した。ただし、不足率の予測は今後の需要動向に左右されるものであり、すべての材料が一律に不足するという意味ではない。
問題は、材料の購入費用が上がっていることと、生産量を増やせることが別だという点にある。 AI需要に対応するには、現在の生産に必要な材料を確保するとともに、将来の増産を可能にする装置も調達しなければならない。この二つの制約を分けて見ることで、基板メーカーが需要の急増にすぐ対応できない理由が明らかになる。
増産に必要な製造装置、一部で納期が30カ月に
経済日報が10月20日に報じた簡会長の説明によると、基板材料ではT-glassガラス繊維布、銅張積層板、半導体パッケージ基板に使われる絶縁材料のABFなどが供給制約に直面している。こうした材料の需給は1〜2年前から逼迫しており、AI関連需要の拡大によって調達が難しい状況が続いているという。さらに、メーカーが生産能力を引き上げようとしても、必要な製造装置を迅速に入手できないという問題が加わっている。
簡会長によれば、8割を超える製造装置で納期が長期化しており、特定の機種では納入までに30カ月、つまり2年半を要する。ただし、これはすべての製造装置に共通する納期ではなく、一部の機種で生じている極端な例だ。それでも、増産に不可欠な装置の納入が遅れれば、企業が設備投資を決定しても、計画どおりに生産能力を増やせるとは限らない。投資資金を確保できるかどうかだけでなく、必要な設備がいつ届くかが増産時期を左右することになる。
簡会長はさらに、2027年には一部の重要材料で約20%の供給不足が発生する可能性があると指摘した。ただし、この予測には今後の需要の伸び方によって結果が変わるという条件が付いている。すべての基板材料が20%不足するという見通しではなく、世界全体のPCB供給が20%不足することを意味するわけでもない。完成品PCの出荷が同じ割合で減少するという予測でもなく、特定の重要材料について示された条件付きの需給見通しとして捉える必要がある。
材料価格15〜30%上昇、装置納期30カ月、不足率20%はそれぞれ別の問題
材料の価格については、すでに具体的な引き上げが発表されている。パナソニック インダストリーは8月6日、電子回路基板材料の価格を2026年9月1日出荷分から改定すると発表した。対象となる製造拠点は、日本の郡山と四日市南に加え、中国の広州と蘇州、台湾、タイのアユタヤに及ぶ。価格改定は複数の製品群を対象としており、材料の種類によって引き上げ幅が異なる。
具体的には、一般多層基板向けの銅張積層板とプリプレグを30%、低伝送損失材料のMEGTRON/XPEDIONに使用する銅張積層板とプリプレグを15%引き上げる。サブストレート基板材料のLEXCM GXに使用する銅張積層板とプリプレグは30%の引き上げとなるほか、CEM-3は30%、FCCLは15%の改定となる。つまり、今回の価格改定率は15〜30%の範囲だが、すべての基板材料が同じ割合で値上がりするわけではない。
パナソニックの価格改定率、Unimicronが説明した装置の納期、2027年の材料不足予測は、いずれも基板業界の供給制約に関係する数字だが、それぞれ対象と意味が異なる。公表された内容を整理すると、次のようになる。
| 指標 | 対象 | 時期・期間 | 数値の意味と留意点 |
|---|---|---|---|
| 15〜30% | パナソニックの対象電子回路基板材料 | 2026年9月1日出荷分から | 公表された価格改定率。完成品PCの値上げ率ではない |
| 30カ月 | 一部の特定機種の製造装置 | 2026年10月20日時点の説明 | 装置の納期。すべての製造装置や完成基板の納期ではない |
| 約20% | 一部の重要基板材料 | 2027年の予測 | 需要動向に左右される不足率の見通し。すべての材料や完成品PCに当てはまるわけではない |
このように、15〜30%は材料の価格改定率、30カ月は一部の製造装置の納期、約20%は特定材料の将来的な供給不足率を示している。対象だけでなく、単位や数字の確度も異なるため、これらを直接比較したり、相互の比率から影響を計算したりすることはできない。特に、材料価格の上昇率をそのまま完成品PCの値上げ率に置き換えるのは誤りだ。材料費はPCの製造原価の一部であり、基板材料と完成品では価格を計算する際の対象が異なる。
また、パナソニックが価格改定に踏み切った理由は、AI需要の拡大だけではない。同社は主要原材料の継続的な値上がりに加え、副資材の価格やエネルギー費、物流費などが高止まりしていることを挙げ、自社の合理化努力だけではコスト上昇を吸収することが難しくなったと説明している。つまり、材料メーカーが負担する製造コストの上昇と、基板メーカーが増産装置を調達するまでに必要な時間は、別々の要因によって生じている。基板業界の供給能力を見通すには、価格の動きだけでなく、材料と装置の両方の調達状況を確認する必要がある。
AI向け基板の需要拡大が、産業・自動車向けの材料調達にも影響
AI向け需要の拡大がほかの用途の基板にも影響する仕組みについては、Würth ElektronikとSTARTEAM GLOBALが8月18日に発表した資料でも説明されている。両社によると、AIデータセンターやHPC(高性能コンピューティング)向けの高品質な積層材料の需要が急増し、産業機器や自動車向けに利用できる供給能力が圧迫されている。AIサーバー向けの基板を直接調達していない企業でも、上流の材料を共通して利用していれば、供給不足の影響を受ける可能性がある。AI向けの生産が優先されることで、従来用途の企業が必要な材料を確保しにくくなる構図だ。
同資料では、AIサーバー向け基板の層数は従来の設計と比べて3〜5倍に達すると説明している。これは、高性能なAIシステムでは基板の多層化が進んでいることを示すものだ。ただし、同じ面積や設計条件で材料の使用量を比較した数値ではない。基板の層数が3〜5倍だからといって、材料の消費量や製造原価も一律に3〜5倍になると計算することはできない。
供給への圧力は、銅張積層板や銅箔だけにとどまらない。Würth ElektronikとSTARTEAM GLOBALは、プリプレグのPP1080/PP2116や高性能樹脂に加え、基板加工に使用するドリルやルーター工具の材料となる炭化タングステンも挙げている。ガラス繊維布については、2028年より前に供給状況が大きく改善することは期待しにくいという業界専門家の見方も紹介した。ただし、これは特定の材料に関する見通しであり、2028年になれば基板業界全体の供給不足が解消するという予測ではない。
こうした供給制約によって、基板業界では材料価格の上昇や納期の長期化に加え、顧客ごとの供給数量を厳しく割り当てる動きが強まっている。Würth ElektronikとSTARTEAM GLOBALは、将来の生産能力を長期にわたって確保しようとする動きも指摘している。材料メーカーが限られた供給量を顧客間で配分する場合、購入側が提示価格を受け入れても、希望する数量を確保できるとは限らない。材料をいくらで買えるかだけでなく、必要な数量をいつ受け取れるかが、基板メーカーにとって重要な調達条件になっている。
材料の確保と製造装置の導入時期が、今後の供給能力を左右する
AI向け需要の増加によって材料の割り当てが厳しくなる一方、増産に必要な製造装置も長期間待たなければならない。この二つの制約が重なっている以上、設備投資額や材料価格の動向だけから、実際に供給能力が増える時期を判断するのは難しい。PC関連の調達でも、材料の価格に加え、割り当てによって確保できる数量と、増産装置がいつ導入されるかを分けて確認する必要がある。値上げを受け入れたとしても、それだけで必要な材料を確保できたり、基板の供給量が増えたりするわけではない。
Würth ElektronikとSTARTEAM GLOBALは、こうした状況への対応として、早い段階から需要を予測し、代替材料の認定を進め、調達計画を立てることの重要性を指摘している。必要量を事前に見積もるだけでなく、供給が不足した場合に別の材料へ切り替えられるかを確認しておくことが求められる。代替材料を利用するには、対象製品で必要な品質や性能を満たすかどうかの評価も欠かせない。価格交渉の結果とは別に、どの材料を、いつ、どれだけ受け取れるのかを具体的に詰めることが重要になる。
一方、Unimicronの簡会長は、顧客だけでなく、その先の顧客や供給企業とも生産能力の計画を共有してきたと説明している。経済日報によると、2026年下半期には、こうした取引先も増産に向けて前向きな反応を示し始めたという。サプライチェーン全体で需要や設備投資の計画を共有する動きは進んでいるものの、それだけで材料不足や装置の納入遅延が解消されるとは限らない。増産への意欲が実際の供給能力の拡大につながるかどうかは、必要な材料と装置を予定どおり確保できるかにかかっている。
今後の焦点は、基板メーカーが計画に沿って必要な材料をどれだけ確保できるか、そして増産装置をいつ導入できるかという二つの点にある。材料の供給量が増えても製造装置が間に合わなければ生産能力を十分に引き上げられず、逆に装置がそろっても材料が不足すれば稼働を増やせない。AI需要に伴う基板業界の供給制約がいつ緩和するかは、材料の確保と製造装置の導入がどの程度足並みをそろえて進むかによって決まる。



