Alphabetの2026年7〜9月期決算では、フリーキャッシュフロー(FCF)が90.7億ドルの赤字となった。営業キャッシュフローは422.9億ドルだったが、設備投資が513.6億ドルに達し、支出を賄いきれなかったためだ。ただし、営業キャッシュフローを押し下げた要因には、欧州委員会(EC)の制裁金の納付と、TPUシステム販売に備えた在庫の積み増しがある。この2つによる現金流出は合計約84億ドルに上り、機械的に足し戻すと営業キャッシュフローは約507億ドルとなり、設備投資とほぼ釣り合う。一方、通期の設備投資計画から逆算すると、第4四半期の投資額は約630億〜730億ドルに達する見通しだ。FCF赤字が今期の90.7億ドルを超えて拡大するのは、この第4四半期になると考えられる。
EPS低下の主因は株式評価損、営業利益は30%増
Alphabetの7〜9月期の売上高は1275.8億ドルで、前年同期比25%増加した。営業利益も前年同期の312.3億ドルから405.8億ドルへ30%増え、営業利益率は31.8%となった。特に好調だったのがGoogle Cloudで、売上高は前年同期比103%増の307.1億ドル、営業利益は35.9億ドルから111.2億ドルへ3倍以上に拡大した。営業利益率も23.7%から36.2%へ上昇している。ただし、クラウドの売上にはTPUシステムの販売が含まれており、同社はこれを大幅な増収を支えた要因の一つとして挙げている。
こうした営業面の好調さとは対照的に、希薄化後1株当たり利益(EPS)は前年同期の2.87ドルから2.12ドルへ低下した。主な原因は営業外損益の悪化で、前年同期の127.6億ドルの利益から、今期は82.2億ドルの損失に転じている。なかでも株式関連の損益は、前年同期の107.3億ドルの利益から86.6億ドルの損失へと大きく悪化した。Alphabetは決算リリースで、この損失によってEPSが0.55ドル押し下げられたと説明している。決算説明会では、CFOのAnat Ashkenaziが、SpaceX株の価値下落に伴う含み損が主因だったと明らかにした。
重要なのは、この評価損が直接的な現金流出を伴わないことだ。実際、キャッシュフロー計算書では、有価証券の損失90.5億ドルが営業キャッシュフローの計算上、足し戻されている。つまり、今回のEPS低下は本業の収益力が衰えたためではなく、主に保有株式の評価損による会計上の影響である。一方、実際の現金収支には別の問題が生じており、それがFCFの大幅な赤字に表れている。
FCF赤字90.7億ドルを分解する
FCFは、営業活動で得た現金から設備投資を差し引いた指標だ。今期の営業キャッシュフローは422.9億ドルで、前年同期の484.1億ドルから61.2億ドル減少した。一方、設備投資は前年同期の239.5億ドルから513.6億ドルへと約2.1倍に拡大している。その結果、FCFは前年同期の244.6億ドルの黒字から90.7億ドルの赤字へ転落した。前年差335.3億ドルのうち、約274億ドルは設備投資の増加によるものであり、赤字転落の最大の要因は投資の急拡大にある。
ただし、営業キャッシュフローも一時的な支出によって押し下げられていた。Ashkenazi CFOによると、その一つが2018年に欧州委員会から科された制裁金の納付である。上訴手続きの終結を受けて支払った金額は約52億ドルに上る。もう一つは、TPUシステムの販売拡大に備えた在庫の積み増しだ。キャッシュフロー計算書によると、在庫増加に伴う現金流出は前年同期の5.3億ドルから32.2億ドルへ拡大し、貸借対照表上の在庫残高も2025年12月末の24.4億ドルから2026年9月末には133.1億ドルまで増えている。
制裁金の約52億ドルと在庫増加による32.2億ドルを営業キャッシュフローに足し戻すと、約507億ドルになる。設備投資513.6億ドルとの差は約6億ドルとなり、この2つの支出を除けば、今期のFCFはほぼ均衡していた計算だ。ただし、制裁金の支払額は決算説明会で示された概数であり、在庫増加額もTPU向けに限らず全在庫の変動を含んでいる。TPUシステム向け在庫だけの金額は開示されていないため、この計算はFCF赤字の要因を整理するためのものであり、継続的な現金創出力を示す指標ではない。
実際、今回の計算で調整していない運転資本の悪化もある。同じ四半期には、その他資産の増加が78.1億ドルの現金減少要因となり、前年同期の7.7億ドルから大幅に拡大した。売掛金の増加による現金減少も39.2億ドルあり、法人税等の純額による影響も37.0億ドルの現金減少となっている。したがって、制裁金と在庫増加を除けば設備投資とほぼ釣り合うという計算は、Alphabetの営業キャッシュフローが構造的に設備投資を賄える水準に達したことを意味しない。
FCFの推移をみると、悪化は今期に突然始まったわけではない。2026年第1四半期は101.2億ドルの黒字だったが、第2四半期には58.6億ドルの赤字となり、第3四半期には赤字幅が90.7億ドルへ拡大した。制裁金の納付は今期だけの支出なので、第2四半期の赤字を同じ理由で説明することはできない。また、在庫増加に伴う現金流出は9カ月累計で109.6億ドルに上り、そのうち約77.4億ドルは第1〜第2四半期に発生していた。なお、直近12カ月のFCFは197.5億ドルの黒字を維持している。
こうした在庫の先行的な積み増しには、TPUシステムの販売形態が関係している。TPUシステムは、Googleが設計したAI向けチップにネットワークやソフトウェアを組み合わせた製品で、顧客との契約後、部品の調達やシステムの製造・納品を経て、代金を回収する。Google CloudのCEOであるThomas Kurianは、TPUシステム向けに確保している在庫はすべて契約済みの案件に紐づいていると説明した。つまり、将来の売上に対応する製品を準備するため、売上計上や代金回収に先立って現金が流出している構図だ。なお、1ドル=157円で換算すると、今期のFCF赤字は約1兆4200億円、設備投資は約8兆600億円に相当する。
第4四半期に膨らむ設備投資と、見立てが崩れる条件
Alphabetは2026年通期の設備投資見通しを1950億〜2050億ドルとしており、Ashkenazi CFOは今回の決算説明会で、この計画を据え置くと明言した。9カ月累計の設備投資は1319.5億ドルなので、計画通りなら第4四半期だけで約630億〜730億ドルを投じることになる。今期の営業キャッシュフローから制裁金と在庫増加の影響を足し戻した約507億ドルを基準にすると、第4四半期の現金不足額は約123億〜223億ドルに達する計算だ。これは、営業キャッシュフローが同じ水準で推移すると仮定した試算であり、会社側のFCF予想ではない。
もっとも、第4四半期には営業キャッシュフローが増える可能性もある。前年の第4四半期は524.0億ドルで、第3四半期の484.1億ドルを約40億ドル上回っていた。今回も同程度の増加が生じると仮定すれば、現金不足額は約83億〜183億ドルに縮小する。設備投資が計画の下限に近ければ、FCF赤字は今期の90.7億ドルを下回る可能性がある。したがって、赤字が今期を超えて拡大するという見立ては、設備投資が計画の中心から上限に近い水準となり、営業キャッシュフローの改善がそれに追いつかない場合に成り立つ。
この見立てに対する有力な反論は、現在のFCF赤字が一時的なものにすぎないという考え方だ。TPUシステム向けの在庫は契約済み案件に対応しているため、納品と代金回収が進めば、先行して流出した現金が戻ってくる。Google Cloudの受注残は5610億ドルに達しており、同社はその55%超を今後24カ月で売上として認識すると見込んでいる。加えて、Alphabetは現金と有価証券を2651億ドル保有しており、当面の投資を賄うだけの資金余力もある。
それでも筆者が第4四半期の赤字拡大を予想するのは、TPUシステムの販売拡大と設備投資の増加に時間差があるためだ。Ashkenazi CFOは、TPUシステムの売上は第4四半期も増えるものの、本格的な収益拡大は2027年になると説明している。また、インフラ投資とTPU向け在庫の積み増しが、今後もFCFを圧迫するとの見通しを示した。売上の本格的な拡大が2027年になるのであれば、第4四半期中に在庫の積み増しを補うほど現金回収が進むとは限らない。さらに、外部の計算資源の利用も第4四半期に増える見通しで、クラウド事業の利益率には下押し圧力がかかるという。
一方、現時点で資金繰りが問題になっているわけではない。今期の債務による資金調達290.0億ドルと株式発行による収入124億ドルを合わせると約414億ドルとなり、FCF赤字90.7億ドルの約4.6倍に相当する。また、前年同期には115億ドルを投じていた自社株買いも、今期はゼロとなった。長期債務は2025年12月末の465.5億ドルから2026年9月末には1251.0億ドルへ増加したが、現金と有価証券も1268.4億ドルから2651.0億ドルへ積み上がっている。Alphabetは負債と手元資金の両方を増やしながら、巨額のインフラ投資を進めている。
焦点は、投資資金が足りるかどうかではなく、営業キャッシュフローが設備投資に追いつく時期にある。Alphabetは2027年の設備投資額がさらに大幅に増加するとの見通しを示しており、将来の購入コミットメントも最大9240億ドルに達する。ただし、これらの契約には価格や数量を変更できる余地があるため、全額がそのまま現金支出になるとは限らない。いずれにしても、TPUシステムの販売拡大による資金回収と、AIインフラへの新規投資のどちらが速く進むかが、今後のFCFを左右する。
この見立てが正しいかどうかは、第4四半期決算で検証できる。FCF赤字が今期の90.7億ドル以下にとどまれば、設備投資の増加に対して営業キャッシュフローが想定以上に改善したことになり、筆者の予想は外れる。TPU在庫の代金回収が早く進んだ可能性もあるが、その判断には在庫や売掛金など運転資本の変化を確認する必要がある。反対に、赤字が90.7億ドルを超えて拡大すれば、今期の赤字は、さらに大きな現金流出が続く過程の一段階だったことになる。
Alphabetの営業利益は大きく伸びており、AIインフラへの巨額投資を続ける財務余力もある。しかし、利益の拡大と現金の創出は同じではない。第4四半期に設備投資が一段と増えるなか、TPUシステムの販売による資金回収がどこまで進むかが、2027年以降の投資拡大を支える現金創出力を見極める重要な手掛かりとなる。



