AMDはGamescom 2025で、次世代アップスケーリング技術「FidelityFX Super Resolution 4 (FSR 4)」を正式に発表した。機械学習(ML)を全面的に採用し、RDNA 4アーキテクチャに最適化されたこの新技術は、NVIDIAの牙城であるAIアップスケーリング市場にAMDが投じる、極めて戦略的な一手と言えるだろう。
Gamescomの衝撃、AMDが描くAIレンダリング新時代
ドイツ・ケルンで開催中の世界最大級のゲームイベント「Gamescom 2025」。その熱気の中、AMDは開発者向けプラットフォーム「GPUOpen」を通じて、ゲーミンググラフィックスの未来を大きく左右する発表を行った。FidelityFX SDKのメジャーアップデートとなる「FidelityFX SDK 2.0」のリリース、そしてその中核をなす「FSR 4.0.2」の提供開始である。
これは従来のアルゴリズムベースのアップスケーリングから、機械学習を駆使した「ニューラルレンダリング」へと、AMDが技術の舵を大きく切ったことを意味する。NVIDIAがDLSSで先行するこの領域に、AMDは満を持して本格参入を果たす。その第一弾がFSR 4であり、これは将来の包括的なAI技術群「FSR Redstone」への重要な布石となる。
FSR 4の心臓部:機械学習がもたらす「画質の飛躍」
FSR 4がFSR 3.1から最も大きく進化した点は、その根幹に機械学習(ML)ベースのアルゴリズムを採用したことだ。AMDによれば、このAIモデルは同社のデータセンター向けGPU「AMD Instinct」を使用し、高品質なゲームデータを基にトレーニングされたという。この”賢い”アルゴリズムが、従来の技術では到達し得なかったレベルの画質改善を実現する。
具体的に、どのような進化を遂げたのか。公式発表から読み取れる改善点は、主に3つに集約される。
ゴーストの撲滅とディテールの再構築
従来のテンポラル(時間的)アップスケーリング技術では、動きの速いオブジェクトの周囲にうっすらとした残像、いわゆる「ゴースト」が発生することが課題だった。FSR 4では、MLアルゴリズムが物体の動きをより正確に予測・補間することで、このゴースティングを大幅に低減。さらに、オブジェクトが別のオブジェクトに隠れた後、再び現れる際(ディスオクルージョン)のアーティファクトも排除し、クリアで自然な映像を実現するという。
煙や爆発も鮮明に。パーティクルエフェクトの劇的改善
ゲームの臨場感を高める煙、炎、爆発といったパーティクルエフェクトは、各粒子が複雑に動くため、アップスケーリング処理が特に難しい領域だった。FSR 3.1では、開発者がマスク情報を提供しても、ディテールが失われがちだった。
しかしFSR 4のMLアルゴリズムは、これらのマスク情報なしで、動きのあるパーティクルシステムの細部を見事に維持する。公式に公開された『Horizon Forbidden West』の比較画像では、滝のしぶきのような細かい粒子の描写力が格段に向上しているのが見て取れる。これは、映像全体のリアリティを一段階引き上げる、特筆すべき進化だ。


ちらつきを抑え、安定した映像へ。時間的安定性の向上
遠景の細いオブジェクトや、光を強く反射する水面などがちらついて見える「フリッカー」現象も、ゲーマーを悩ませる問題の一つだった。FSR 4は、画像の細部をより精細に抽出し、時間的な安定性を高めることで、これらのちらつきを抑制。より没入感の高い、安定したゲーム体験を提供する。
RDNA 4専用という「選択と集中」の戦略
FSR 4がもたらす恩恵は大きいが、その代償として要求されるスペックも明確に示された。FSR 4の利用には、最新の「AMD Radeon RX 9000シリーズ」グラフィックスカード、つまりRDNA 4アーキテクチャが必須となる。対応OSはWindows 10または11、APIはDirectX 12に限定される。
これはAMDの明確な「選択と集中」戦略の表れだ。FSR 4のMLアルゴリズムは、RDNA 4アーキテクチャに搭載されるであろうハードウェアアクセラレーション機能(AI処理に特化したコアなど)を最大限に活用するよう設計されていると考えられる。最高の品質とパフォーマンスを提供するためには、最新ハードウェアとの密な連携が不可欠という判断だろう。
もちろん、AMDは既存ユーザーを切り捨てるわけではない。RDNA 4以前のGPU(Radeon RX 7000シリーズなど)でFSR 4を有効にしようとした場合、APIは自動的に「FSR 3.1.5」にフォールバックする。これにより、幅広いハードウェアで一定水準のアップスケーリングとフレーム生成の恩恵を受けられる仕組みは維持される。
SDK 2.0の構造変化と「オープンソース騒動」の舞台裏
今回の発表で技術的に注目すべきもう一つの点は、FidelityFX SDK 2.0における開発者向け提供形態の変更だ。AMDは今後、開発者に対し、事前ビルドされ、デジタル署名されたDLL(amd_fidelityfx_loader.dll)の使用を求める。
この変更は、開発者にとってはいくつかのメリットがある。APIの互換性が保たれ、FSR 3.1からのアップグレードパスが容易になる。また、Unreal Engine 5.1から5.6までをサポートする専用プラグインも用意されており、導入のハードルは低い。
さらに、このDLL形式は、プレイヤーにとっても画期的な機能をもたらす可能性がある。AMDは、将来のグラフィックスドライバー「AMD Software: Adrenalin Edition」を通じて、ゲーム内のFSR 4のバージョンを自動的に更新できるようにする計画を明らかにした。これが実現すれば、ユーザーはゲームデベロッパーによる個別のパッチを待つことなく、常に最新・最高のアップスケーリング品質を享受できるようになる。NVIDIAが「NVIDIA App」で提供するグローバルなDLSSオーバーライド機能に似た、非常にユーザーフレンドリーなアプローチだ。
一方で、この変更はAMDのオープンソース戦略からの転換を示唆するものでもある。事実、今回の発表直後、GitHub上でFSR 4の完全なソースコードが一時的に公開され、その後すぐにリポジトリごと削除されるという「事件」があった。一部メディア(VideoCardz)が捕捉したそのコードには、RDNA 3(Radeon RX 7000シリーズ)でも利用可能なINT8演算のライブラリが含まれていたとの指摘もあり、当初は旧世代GPUへの対応も検討されていた可能性が伺える。
この一件は、AMDが最終的に、品質管理と将来のアップデートの柔軟性を優先し、クローズドなDLL形式での配布を選択したことの裏付けと言えるかもしれない。オープンソースであることの透明性やコミュニティによる改良の可能性と引き換えに、安定性とエコシステム全体のコントロールを取った形だ。
最終目標「FSR Redstone」へ、AMDが描くAIの未来図
FSR 4とFidelityFX SDK 2.0の登場は、単なるアップスケーリング技術のアップデートに留まらない。これは、AMDがNVIDIAのDLSSが築き上げた「AIによるレンダリング革命」に本格的に挑むための、壮大な計画の序章である。
AMDが最終目標として掲げる「FSR Redstone」は、単なる超解像技術やフレーム生成だけでなく、AIを活用したレイトレーシングのノイズ除去や、より高度なレンダリング技術を包含する包括的なスイートになると予想される。FSR 4は、そのための強固な土台であり、RDNA 4というハードウェアとの二人三脚で、その性能を最大限に引き出すための最初のステップだ。
アップスケーリング技術の競争は、NVIDIA DLSS、Intel XeSS、そしてAMD FSRがしのぎを削る時代から、各社がAIを駆使して「いかに美しく、かつ高速に映像を生成するか」を競う、新たなフェーズへと突入した。FSR 4の登場は、その戦いの火蓋が切って落とされたことを告げるものだ。
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