2026年2月27日(米国東部時間)、Donald Trump大統領はTruth Socialで全連邦機関に対しAnthropicの技術の即時使用停止を命じた。その直後、Pete Hegseth国防長官はXへの投稿でAnthropicを「サプライチェーンリスク」に指定すると発表した。これは通常、Huaweiのような敵対国の企業に適用される措置であり、米国企業に対して公的に適用されるのは初めてである。

Anthropicは同日夜に声明を出し、この指定は「法的に根拠がなく、政府と交渉するすべての米国企業にとって危険な前例を作る」と反論し、法廷で争う姿勢を明確にした。

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交渉決裂に至る経緯

事の発端は2024年6月に遡る。Anthropicは国防総省と2億ドル規模のAI契約を締結し、機密ネットワーク上でClaudeを運用する初のフロンティアAI企業となった。Claudeは2026年2月のNicolás Maduro拘束作戦にも使用されたとWall Street Journalが報じており、米軍の実戦運用において同モデルが果たす役割は極めて大きかった。

問題が表面化したのは2026年1月、Reutersが国防総省とAnthropicの間でClaudeの安全ガードレールをめぐる摩擦を報じたときである。Anthropicの利用規約は、米国市民に対する大規模な国内監視と、人間の関与なしに発砲する完全自律型兵器の二つの用途を明確に禁止している。国防総省はこれに反発し、「すべての合法的な目的」にClaudeを利用できるよう要求した。

今週に入り、事態は急加速する。Hegseth長官はAnthropicのDario Amodei CEOをPentagonに召喚し、2月27日午後5時01分(東部時間)を期限としてポリシーの撤回を迫った。Axiosの報道によると、Emil Michael国防次官はこの直前まで電話でAnthropicに妥協案を提示していたが、その内容は位置情報やWeb閲覧履歴、データブローカーから購入した個人金融情報など、米国民のデータ収集・分析を許容するものだった。

国防総省は「倫理審査委員会への招待」や「一定の譲歩」を申し出たと主張したが、Anthropicは「妥協として提示された新たな文言には、それらのセーフガードを恣意的に無効化できる法的条項が組み込まれていた」と反論した。交渉は平行線をたどり、期限切れを迎えた。

Amodeiの決断と政府の報復

期限の前日、Amodei CEOは公開声明を発表し、「我々は良心にかけて彼らの要求を受け入れることができない」と述べた。この声明に対し、Emil Michael国防次官はXで即座にAmodeiを「嘘つき」「神コンプレックスの持ち主」と呼び、「米軍をコントロールしようとしている」と非難した。

Trump大統領のTruth Social投稿には、Anthropicを左派の過激派と呼び、「国防省に利用規約を押し付けて憲法を無視させようとした」と断じる激しい言葉が並んだ。大統領は「すべての連邦機関に対しAnthropicの技術の即時使用停止を命じる」と宣言し、国防省など既にClaudeを組み込んでいる機関には6か月の移行期間を設けた。移行期間中にAnthropicが協力しなければ「大統領権限の全力を行使し、重大な民事・刑事上の結果が伴う」と警告した。

Hegseth長官はXの投稿で「Anthropicの姿勢は米国の原則と根本的に相容れない」と断じ、「米軍の請負業者、下請業者、パートナーはAnthropicとのいかなる商取引も禁じられる」と付け加えた。

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「サプライチェーンリスク」指定の法的意味

10 USC 3252に基づくサプライチェーンリスク指定は、対象企業の製品を国防総省の契約業務に使用することを禁止するものである。Anthropicはこの点について「Hegseth長官は指定の範囲を軍事請負業者のあらゆる商取引に拡大しようとしているが、長官にはその法的権限がない」と反論した。

Anthropicの法的解釈によれば、指定の効力が及ぶのは国防総省の契約業務におけるClaudeの使用のみであり、請負業者が他の顧客向けにClaudeを利用することには影響しない。個人ユーザーや商用契約の顧客がAPI、claude.ai、その他の製品を通じてClaudeにアクセスすることも「完全に影響を受けない」と同社は声明で明言した。

とはいえ、米軍最大のAIソフトウェア・パートナーの一つであるPalantirにとって、この指定は深刻な問題を突きつける。PalantirはClaudeを最も機密性の高い軍事業務に使用しており、今後はAnthropicの競合他社との契約に切り替える必要が生じる可能性が高い。

業界を揺るがす波紋

この事態が特に異例なのは、Claudeが現時点で米軍の機密システムに導入されている唯一のAIモデルであるという事実による。ある国防当局者はAxiosに対し、Claudeを切り離すのは「とんでもなく厄介な作業」になると認めた。

Anthropicの最大のライバルであるOpenAISam Altman CEOは、CNBCのインタビューで「AIを大規模監視や自律型致死兵器に使用すべきでないし、高リスクの自動化された意思決定には人間が関与し続けるべきだと長年信じてきた」と述べ、OpenAIもAnthropicと同じ「レッドライン」を持っていることを明らかにした。OpenAIは国防総省と同額の2億ドル規模の契約を結んでいるが、こちらは非機密用途に限定されている。

GoogleとOpenAIの従業員数百人も24時間以内にAnthropicの立場を支持する書簡に署名したGoogle DeepMindのJeff Dean主任科学者は「大規模監視は合衆国憲法修正第4条に違反し、表現の自由に萎縮効果をもたらす。監視システムは政治的・差別的目的に悪用されやすい」とコメントした。

退役空軍大将のJack Shanahan氏は「Anthropicに標的を描くことは刺激的な見出しを生むが、最終的には全員が損をする」とLinkedInに投稿した。Shanahanは、大規模言語モデルは「国家安全保障の場面、特に完全自律型兵器にはまだ実戦投入できる段階にない」と指摘し、Anthropicのレッドラインは「合理的」だと評価した。

ヴァージニア州の民主党上院議員Mark Warnerは、Trump大統領の決定を厳しく批判した。「主要な米国AI企業の利用停止と、その企業に対する攻撃的な言辞を組み合わせることで、国家安全保障上の決定が慎重な分析ではなく政治的考慮に基づいているのではないかという深刻な懸念が生じる」と声明を出した。Warnerはさらに、「優先する業者への契約誘導の口実として」Anthropicを攻撃している可能性にも言及した。

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Elon Muskの影とxAIの台頭

この構図において無視できないのがElon Musk氏の存在である。Musk氏は2024年大統領選でTrumpの最大の資金提供者であり、Anthropicの直接的な競合であるxAIを所有する。Musk氏はここ数週間、Xで繰り返しAnthropicを攻撃しており、27日には「Anthropicは西洋文明を憎んでいる」と投稿した。

xAIのGrokは最近、国防総省の機密ネットワークでの使用契約を締結した。ただし、複数の連邦機関がGrokの信頼性、安全性、セキュリティに懸念を示しており、AIの性能面ではOpenAI、Anthropic、Googleに大きく後れを取っているとの評価が広がっている。国防総省がAnthropicを排除しxAIを推進する動きには、政策的合理性と政治的動機が複雑に絡み合っている。

GoogleのGeminiとOpenAIのChatGPTはいずれも非機密システムで利用可能であり、国防総省はこれらを機密領域に導入する協議を加速させている。

AIガバナンスの分岐点

この対立は、単なる一企業と政府の契約紛争を超えた構造的な問題を提起している。AI技術が国家安全保障の中枢に組み込まれるなか、その利用条件を誰が設定し、どのような倫理的境界線が維持されるべきかという問いが、初めて大統領レベルの政治的対決として顕在化した。

国防総省の立場は明快である。「軍がツールを購入したなら、その使い方は軍自身の基準と手続きに基づいて決定すべきであり、個々のケースを民間企業と交渉すべきではない」というものだ。この論理には一定の合理性がある。軍事作戦においてAI企業の利用規約が法的拘束力を持つ状況は、確かに運用上の柔軟性を著しく制限する。

一方、Anthropicが固守する二つの例外――大規模国内監視と完全自律型兵器――は、現時点ではいかなる政府ミッションにも影響を与えていないと同社は述べている。Anthropicの論拠は二つある。第一に、現在のフロンティアAIモデルは完全自律型兵器に使用できるほど信頼性が高くなく、そのような使用は米軍の兵士と民間人を危険にさらす。第二に、米国市民への大規模国内監視は基本的権利の侵害にあたるというものだ。

OpenAIが同じレッドラインを持つことを明らかにした今、国防総省が次にOpenAIに対しても同様の要求を突きつけるかどうかが問われている。Axiosによれば、国防総省はすでにOpenAIとの交渉を急速に進めているが、個人情報の合法的な収集についてOpenAIにも同じ条件を求めているかは不明である。

Anthropicは急成長の途上にあり、エンタープライズ向けAIの主要な用途で支配的地位を確立しつつある。Amodeiと同僚たちはこの24時間で広範な称賛を受けたが、この原則的立場がどれほどの経済的代償を伴うかはまだ見えていない。政府との対立が長期化すれば、同社の企業価値と事業基盤に重大な影響を及ぼす可能性がある。同時に、原則を貫いたことが企業としてのブランド価値と人材獲得力を高める効果も否定できない。

AIと国家安全保障の交差点における最も重大かつ論争的な政策決定として、この事件の帰結は今後のAI産業の政府との関係を根本的に規定することになる。


Sources