Anthropicが2026年11月2日に米証券取引委員会(SEC)へ提出した修正目論見書(Form S-1/A)で、2026年第3四半期(7〜9月)の営業損益が5億6700万ドルの赤字だったことが明らかになった。前四半期は9億7400万ドルの黒字だった一方、売上高は169.56億ドルと前年同期の約12倍に拡大している。急成長を続けながら営業赤字に転じた形だが、提出書類の費用内訳を見ると、その背景が浮かび上がる。赤字転落には19.6億ドルの非現金寄付費用が大きく影響しており、50億ドルに上る割高な短期契約による計算資源調達は、主に調整後営業利益率の低下として表れている。

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売上は54億ドル増加した一方、営業損益は15億ドル悪化

提出書類の四半期業績によると、第3四半期の売上高は前四半期の115.55億ドルから54.01億ドル増加した。前年同期の13.82億ドルと比べると約12倍に達する。一方、営業費用は105.81億ドルから175.23億ドルへ69.42億ドル増え、営業損益は15.41億ドル悪化した。ただし、前年同期は30.89億ドルの営業赤字で、営業利益率はマイナス224%だった。今期の営業利益率はマイナス3%であり、前年同期からは大幅に改善している。

営業費用の内訳を見ると、増加の大部分を計算資源・インフラ費とその他の営業・管理費が占めている。計算資源・インフラ費は55.58億ドルから98.63億ドルへ43.05億ドル増加した。その他の営業・管理費も10.31億ドルから35.88億ドルへ25.57億ドル増えている。一方、人件費は1.46億ドル減少し、販売・マーケティング費は2.26億ドル増加した。

営業外損益では、転換社債などの公正価値変動による損失が219.36億ドルに達し、純損失232.91億ドルの大半を占めた。この評価損は金融商品の会計上の再評価によるものであり、AIサービス自体の採算とは区別する必要がある。そのため、事業の収益力を判断するには、巨額の純損失だけでなく、営業損益や調整後の利益指標を確認することが重要だ。

19.6億ドルの寄付費用を除けば営業損益は13.93億ドルの黒字

その他の営業・管理費が急増した主な理由は、四半期業績の脚注に記されている。従業員の寄付マッチング制度に関連する非現金費用が、第2四半期のゼロから第3四半期には19.6億ドルに増加した。この制度では、従業員が株式報酬の一部やその売却代金を寄付することを約束すると、会社がそれに見合う額をClass N普通株式で拠出する。費用は従業員の株式報酬の価値に連動し、その他の営業・管理費に計上される。Anthropicも営業赤字に転じた主な要因として、短期契約で調達した50億ドル分の計算資源と、約20億ドルの非現金寄付費用を挙げている。

第3四半期の営業損失5億6700万ドルから、この寄付費用19.6億ドルを単純に除くと、営業損益は13.93億ドルの黒字となる。これは第2四半期の営業利益9億7400万ドルを上回る水準だ。営業損益の悪化額15.41億ドルよりも寄付費用の増加額19.6億ドルの方が大きく、少なくともこの費用を除けば、第3四半期も営業黒字を維持していたことになる。

この13.93億ドルという数字は、通常の株式報酬費用を除外せずに算出したものである。一方、Anthropicが独自に定義する調整後営業利益は、株式報酬費用と非現金寄付費用などを除外して算出され、第2四半期の22.35億ドルから第3四半期には24.63億ドルへ増加した。つまり、一般会計原則(GAAP)に基づく営業損益は赤字に転じたものの、こうした費用を除いた利益額は前四半期を上回っている。なお、寄付費用19.6億ドルは、1ドル=150円で換算すると約2940億円に相当する。

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50億ドルの短期計算資源調達が利益率を圧迫

寄付費用を除いても営業黒字を維持していたとすれば、もう一つの要因である50億ドルの短期計算資源調達は、業績にどのような影響を与えたのか。Anthropicは計算資源の大半を複数年契約で確保しており、通常は利用開始の12〜18か月前に調達する。しかし、顧客需要や研究開発に必要な計算能力が長期契約で確保した容量を超える場合、短期契約で不足分を補っている。提出書類によると、こうした短期契約の調達費用は、同等の計算資源を複数年契約で確保する場合よりも大幅に高い。

複数年契約の計算資源費は、契約済みの容量が利用可能になるにつれて増加するため、短期的には固定費に近い性質を持つ。Anthropicはこれまで、売上高が固定的な計算資源費を上回るペースで成長することで、収益性を改善してきた。実際、計算資源費が売上高に占める割合は、2025年第1四半期の251%から2026年第2四半期の48%まで低下を続けていた。しかし、第3四半期にはこの改善傾向が途切れ、割高な短期契約による調達が費用比率を押し上げた。

第3四半期の計算資源・インフラ費は98.63億ドルに達し、売上高に占める割合は前四半期の48%から58%へ上昇した。計算資源・インフラ費1ドルあたりの売上高も、約2.08ドルから約1.72ドルに低下している。調整後営業利益率は2026年第1四半期のマイナス13%から第2四半期には19%へ改善したものの、第3四半期は15%に低下した。Anthropicは、この利益率低下の主因を50億ドルに上る短期契約での計算資源調達だと説明している。50億ドルは、1ドル=150円で換算すると約7500億円に相当する。

同社は今後、短期契約による計算資源の利用がさらに増え、営業利益率を押し下げると予想している。ただし、自社専用インフラ基盤「Anthropic Direct」が稼働すれば、需要急増時に短期契約で確保した計算資源を、より費用効率の高い長期契約の計算資源に置き換えられるという。短期契約への依存を減らせるかどうかが、今後の利益率改善を左右することになる。

その一方で、計算資源の確保に伴う長期的な資金負担も膨らんでいる。提出書類によると、計算資源やインフラに関する購入契約・リース契約などの総額は約8954億ドルに達する。このうち約4475億ドルは2030年末までに、残りのほぼ全額は2031〜2045年に発生する見通しだ。ただし、約2138億ドルについては、契約解除権を行使できるものや、取引先による資金調達、施設の確保、規制当局の認可などが契約開始の条件となっているものが含まれる。したがって、契約総額の全てが無条件に確定した支出というわけではない。

寄付費用は今後も発生する可能性、次期決算が重要な判断材料に

今回の赤字を非現金寄付費用の影響として捉えるうえで注意が必要なのは、この費用が必ずしも一度限りではないことだ。寄付マッチング関連費用は2026年第2四半期には発生していなかったが、2026年第1四半期には1.26億ドル、2025年第4四半期には5.41億ドルが計上されている。Anthropic自身も、公益活動に充てる資源の頻度と規模が今後増加すると予想している。2026年1〜9月の寄付マッチング関連費用は21億ドルに達し、営業費用全体の約6%を占めた。非現金費用であっても会計上のコストであることに変わりはなく、将来の株式発行に伴う希薄化にも注意が必要だ。なお、先に算出した13.93億ドルの営業黒字には、10.7億ドルの株式報酬費用が引き続き含まれている。

売上成長の鈍化も懸念材料となる。前四半期比の売上成長率は、2026年第2四半期の約144%から第3四半期には約47%へ低下した。新モデルの投入に伴う価格引き下げと契約割引により、売上高は約6億ドル押し下げられている。ただし、この値下げの影響は、寄付費用を除いた営業利益13.93億ドルにも反映済みだ。また、成長率は鈍化したものの、第3四半期の売上高は前四半期から54.01億ドル増えている。年間10万ドル以上を支払う顧客数も、2025年3月の約400社から2026年9月末には1万1900社を超えた。

今回の業績をどう評価すべきかは、次の四半期決算でより明確になる。寄付費用を除いた営業損益まで赤字に転じれば、計算資源の調達費用などが増大し、通常の事業活動だけでは営業黒字を維持できなくなった可能性が高まる。その場合、今回の赤字転落は主に非現金寄付費用によるものだという見立てを見直す必要がある。

逆に、寄付費用を除いた営業利益が13.93億ドル程度を維持するか、短期契約への依存度が低下して調整後営業利益率が第2四半期の19%に近づけば、収益基盤の改善が続いていると評価しやすくなる。重要なのは、寄付費用の有無だけでなく、急増する計算需要をどの程度のコストで賄えるかだ。Anthropicが売上成長を維持しながら短期調達への依存を減らせるかどうかが、今後の収益性を判断するうえで最大の焦点となる。