月々の分割払いで最新のiPhoneに乗り換えたいが、審査の厳しさや総支払額の見えにくさに二の足を踏んできた読者は多いはずだ。Appleは2026年7月28日、Klarna Inc.と提携した新端末リース「Apple Upgrade」を米国で開始し、2015年9月の開始から10年余り続いた「iPhone Upgrade Program」の新規受付を終了した。同じ日、iOS 27ベータのコード解析で見つかり物議を醸していた「支払い滞納時にアプリ機能を制限する仕組み」について、Apple広報はこのリースには適用しないとThe Vergeに説明している。だがその一言が名指しで否定しているのは、あくまで「Restricted Mode」という一つの仕組みに限られる。
Klarnaとのリースが「買うためのプログラム」に取って代わった
Apple Upgradeは米国限定で、Klarnaが与信・回収を担う形でiPhone、Apple Watch、Mac、iPadを対象にする。契約期間はiPhoneとApple Watchが12カ月または24カ月、MacとiPadが24カ月または36カ月で、価格は最安値ベースでiPhone 17eが月17.99ドルから、iPad miniが月11.99ドルから(36カ月)、iPad Airが月15.99ドルから、MacBook Airが月24.99ドルから(36カ月)、Apple Watch Series 11が月11.99ドルから(24カ月)と設定されている。円換算では17.99ドルが約2950円、11.99ドルが約1970円に相当する(2026年7月28日時点のレート1ドル164円で概算)。
対象外の端末も明確に決められている。iPhone 16と16 Plus、Apple Watch SE、無印iPad(A16搭載モデル)、Mac mini、Studio Displayはリースの対象にならず、教育機関向け割引価格も本プログラムの適用外だ。支払い手段はデビットカードと大半のクレジットカードで、AmEx・UnionPay・Chase・Capital Oneなど一部のカード会社は対象外になり、プリペイドカードも使えない。トレードインは契約開始時にのみ適用され、月々の支払いに分割される仕組みで、契約途中で新機種にアップグレードする際には使えない。
契約終了時の選択肢は「新機種へアップグレード」「支払済み額と定価の差額を払って買い取る」「返却する」の3つで、返却時は端末が良好な状態であることが条件になり、損傷があれば損傷料が、いずれの選択肢にも税金や手数料が別途発生し得る。与信審査はソフト与信照会と説明されており、信用スコアには影響しないという。ここまでは旧iPhone Upgrade Programと似た体験に見えるが、決定的な違いが一つある。旧iPhone Upgrade ProgramはCitizens One Bank原資の分割払いによる購入であり、規約上ユーザーは契約時点から端末を所有していた——アップグレードでトレードインする場合に限り、その時点で所有権がAppleまたはトレードイン業者に移る仕組みだった。Apple Upgradeではこの起点が逆転しており、買い取りを選んで一括決済しない限り、端末の所有権は最初からKlarna側にある。
Restricted Modeとは何か、Appleは何を否定したのか
iOS 27ベータのコード解析からは、appmanagedfeaturesdというデーモンを含む「App Managed Features」というシステムが見つかっていた。金融事業者のアプリが端末を登録し、支払いが遅延すると電話、App Store、時計、設定、Walletといった基本機能だけを残して他の機能を止める仕組みで、Restricted Modeと呼ばれている。iOS 27ベータの発見以降、この機能がApple Upgradeのようなリースプログラムに使われるのではないかという懸念が広がっていた。
Apple広報のBrian Bumberyは7月28日、The Vergeの取材に対し「制限モードは存在せず、Apple Upgradeプログラムでの支払い遅延や債務不履行を理由に端末機能を制限することもない」と述べた(原文: "There will be no restricted mode and/or there will be no limitations put on device functionality due to missed payments or default with the Apple Upgrade program")。文言はApple Upgradeの契約とRestricted Modeを名指しで結びつけ、その適用を明確に否定する内容だ。ただしBumberyは、Restricted Modeが本来何のために設計されたのかについては説明していない。
Appleが触れなかったもう一つのロック、Partner Finance Lock
iOS 27にはRestricted Modeとは別に、端末を初期化しても金融ロック情報を保持し続ける「Partner Finance Lock」という認証機構が存在することが確認されている。本誌が7月23日に報じた通り、この仕組みは端末の機能を絞る代わりに、初期化後も再アクティベーションを妨げて転売や部品取りを防ぐ、Restricted Modeとは方式の異なる統制手段だ。Bumberyの発言はApple Upgrade契約全体を対象にした広い文言で機能制限を否定しているが、初期化後も端末を識別し再アクティベーションを妨げるPartner Finance Lockという名称そのものには一度も触れていない。
Restricted Modeが適用されないという説明自体は具体的で、報道各社もそのまま伝えている。その内容が誤りだという話ではない。だがApple自身のプレスリリースも今回の広報コメントも、リースの利点を説明する一方でPartner Finance Lockの扱いには一切言及していない。支払い滞納時の端末制御という論点で、Appleが公に否定したのは名指しされた「Restricted Mode」であり、初期化後の再利用を防ぐもう一つの仕組みがこのリースにどう関わるのかは公表資料からは読み取れない。
表示価格32.99ドルの裏にあるAppleCare+分離という代償
Macworldが指摘する具体例では、256GBのiPhone 17をApple Upgradeでリースする場合、月額料金は12カ月契約で32.99ドルだが、これはAppleCare+を含まない金額だ。AppleCare+を別途契約すると月額11.99ドルが加算され、実際の総支払額は44.98ドルになる。Macworldは、旧iPhone Upgrade ProgramがAppleCare+相当の保証を月額料金に含んでいたのに対し、新プログラムでこの2つを切り離した結果、「ほとんどの重複するケースで、同等のサービスに対しわずかに高い支払いになる」と指摘している。
旧プログラムでは保証コストが月額表示の中に組み込まれていたため、契約者は総支払額を一目で把握しにくかった。Apple Upgradeは表示価格を32.99ドルまで下げ、AppleCare+を任意の別契約に切り離したことで、見かけ上の安さと実際の総支払額の間にずれが生じる構造になっている。AppleCare+を契約しない選択肢も残るが、その場合は旧プログラムより保証範囲が狭い状態でリースを組むことになる。
AppleCare+を重視しない利用者や、すでに家財保険やクレジットカード付帯保証で端末を保護している利用者にとっては、表示価格32.99ドルがそのまま実質コストに近くなる。逆にAppleCare+込みの安心感を前提にしていた旧プログラムの利用者は、Apple Upgradeへの移行時にこの分離コストを見落とすと、想定より高い支払いに気づかないまま契約することになる。この分離自体は必要な保証だけを選べる自由度でもあるが、旧プログラムでは意識せずに済んでいた比較検討の手間が新たに生じる。
キャリア分割の締め付けとApple Upgradeの「制限なし」、その先にあるもの
Appleは2026年7月15日ごろ、T-MobileとVerizonの分割払いで購入したiPhoneについて、完済するまでキャリアロックをかける方針に変更したと報じられている。従来AT&T分割のみが対象だったこの制限を他の2社にも広げた形で、Appleはこの変更理由を公式には説明していない。支払いが終わるまで端末の機能や利用範囲を制御するという同じテーマで、Appleは一方でキャリア分割のロックを強化し、もう一方ではKlarnaが提供するApple UpgradeへのRestricted Mode適用を否定するという、対照的な対応を同じ月に見せたことになる。
Restricted Modeへの否定声明は、Apple Upgrade発表と同じ7月28日、iOS 27ベータのコード発見から批判が続いていた時期に出た。Apple自身はこのタイミングについて説明していない。Apple Upgrade自体が現時点で米国限定のプログラムであるため、同様の仕組みが日本に来るかどうか、来るとすればいつかは未定だ。
Appleが2022年に検討し2024年12月に凍結したと報じられる自社ハード・サブスク構想は、外部の与信事業者を介さない形での毎年アップグレードモデルだった。今回Klarnaという外部パートナーを介して類似の発想を再起動した背景には、規制上の懸念を自社単独で抱え込まずに済むという計算があったとみられる。Partner Finance Lockが適用されるかどうかは、広報コメントではなくKlarnaとの正式なリース契約書に明記されるべき事項だ。Apple UpgradeはすでにApple公式サイトで契約手続きが始まっており、その契約書の文面を確認することが、今回の説明が埋めなかった空白を埋める最も具体的な手段になる。
