クラウドストレージサービスのBackblazeが、2025年通年のハードディスクドライブ(HDD)故障率統計を発表した。運用中のドライブ総数は34万台を超え、その膨大なデータセットは、エンタープライズストレージの信頼性を測る上で極めて重要なベンチマークとなっている。

2025年の全体的な年間故障率(AFR: Annualized Failure Rate)は1.36%となり、前年の1.55%から明確な改善を見せた。この数値は2022年と同等の水準であり、容量増大と信頼性確保という、相反しがちな課題をハードウェアベンダーが着実にクリアしている現状を示唆している。本記事では、この膨大なデータから読み取れるトレンド、特に大容量モデルの信頼性と、一部のモデルで見られた課題の背景を分析する。

AD

信頼性向上の全体像:数字が語る「成熟」

2025年末時点で、Backblazeが監視対象としたデータドライブは344,196台に達した。これら全ドライブのAFRが1.36%に低下したことは、単なる統計上の誤差ではなく、運用体制とハードウェア品質の双方における成熟を示している。

特筆すべきは、故障率の季節変動や四半期ごとのブレを乗り越え、年間を通じて安定した信頼性が確保されている点だ。2023年の1.70%、2024年の1.55%と比較しても、その改善傾向は明らかだ。データセンターにおける温度管理や振動対策といった運用ノウハウの蓄積に加え、各メーカーの製造プロセスにおける品質管理が、ペタバイトクラスの運用環境において実を結んでいると言える。

大容量化の波と「鉄板」モデルの台頭

現在のフリート(全運用ドライブ群)の構成を容量別に見ると、14TB16TBモデルが全体の過半数(52.06%)を占め、20TB以上のモデルも約23%に達している。「大容量=壊れやすい」というかつての懸念は、最新のデータを見る限り過去のものとなりつつある。

16TBクラスの圧倒的な安定感

現在の主力を担う16TBクラスでは、SeagateとWDCが極めて優秀な数値を残している。

  • Seagate ST16000NM001G (16TB): 34,000台以上が稼働し、AFRはわずか0.54%である。
  • WDC WUH721816ALE6L4 (16TB): 26,000台以上で、AFRは0.66%を記録した。

これらのモデルは、大量導入されても故障が少ない「鉄板」モデルとして、現在のクラウドストレージの信頼性を底支えしている。

20TB超クラスへのスムーズな移行

さらに大容量の22TB26TBモデルへの移行も順調だ。

  • WDC 22TB (WUH722222ALE6L4): 44,000台以上という大規模展開にもかかわらず、AFRは0.47%という驚異的な低さを記録した。
  • WDC 26TB (WUH722626ALE6L4): 新規導入されたばかりのモデルだが、AFRは0.40%と非常に良好なスタートを切っている。

これらのデータは、ヘリウム充填技術などの高密度化技術が完全に成熟し、20TB超の超大容量ドライブであっても、従来の小容量モデル以上の信頼性を実現できることを証明している。

AD

局所的な課題:振動とファームウェアの壁

全体的な傾向は良好だが、特定のモデルにおいては課題も浮き彫りになった。ここから見えてくるのは、データセンター特有の物理的要因の複雑さである。

HGST 8TBに見る「老兵」の限界と振動問題

かつての名機であるHGST 8TB (HUH728080ALE600) は、2025年第4四半期に10.29%という高いAFRを記録した。平均運用期間が7.5年を超える「老兵」だが、この急激な故障率上昇の原因として、Backblazeは「振動」の可能性を指摘している。

1,000台規模のドライブが密に配置された環境では、隣接するドライブの回転振動(RV: Rotational Vibration)が互いに干渉し、パフォーマンス低下や故障を引き起こすことがある。温度要因は排除されており、経年劣化したドライブが物理的な振動に対して脆弱になった可能性が考えられる。これらのドライブは、是正措置ではなく退役(マイグレーション)の対象となった。

東芝16TBのファームウェア問題

一方、東芝16TB (MG08ACA16TEY) は、前四半期に16.95%という異常なAFRを記録したが、第4四半期には4.14%まで改善した。これはToshibaとの協力によるファームウェアの更新が奏功した形だが、依然として平均より高い水準にある。ハードウェア自体の欠陥でなくとも、制御ソフトウェア(ファームウェア)の挙動一つで信頼性が大きく揺らぐという、現代のHDDの複雑さを象徴する事例である。

ストレージ運用の未来への示唆

Backblazeの2025年レポートは、HDDが依然としてデータセンターの主役であり、かつ進化を続けていることを示している。SSDのコスト低下が進む中にあっても、TB単価と信頼性のバランスにおいて、大容量エンタープライズHDDの優位性は揺らいでいない。

特にSeagateの24TBモデルやWDCの26TBモデルが初期から安定稼働している事実は、今後到来する30TB40TB時代への明るい材料だ。一方で、高密度実装が進むほど、振動や熱といった物理環境の影響はシビアになる。単にドライブを並べるだけでなく、筐体設計や配置を含めたトータルな運用設計が、今まで以上に重要になってくるだろう。

データストレージの世界において、「枯れた技術」と思われがちなHDDは、実は最先端の物理制御と製造技術の塊として、今もなお信頼性の限界を押し広げ続けている。


Sources