BackblazeのHDD統計は、モデルごとの年間故障率(AFR)を追う資料として知られてきた。そこへ、同社が公開する日次データを2013年から2025年第2四半期まで分析した論文が加わった。Christoph Siemroth氏とYeomyung Park氏がIEEE Transactions on Cloud Computingに発表した研究は、ドライブの年齢や容量などをそろえ、メーカー間の故障率を生存時間回帰で比べている。フォームファクターと平均温度も調整した。
結果は、Seagateを基準にするとHGSTが約41%、Western Digital(WD)が約52%、東芝が約107%だった。これは現在販売されている全HDDを横並びにした保証値ではない。それでも、直近の台数だけを集計した順位ではなく、メーカーごとの導入時期の偏りと、故障前にデータから消えるドライブを含めて推定した点に意味がある。
年齢をそろえると、メーカー差は消えなかった
論文が使ったのは、Backblazeが毎日記録した443,156台のHDDである。観測期間が1日以上ある442,998台のうち、温度を報告しない6台を除いた442,992台を主な回帰分析に入れた。合計の観測期間は160万ドライブ年を超え、個々のHDDではまれな故障を、同じデータセンターの大量の履歴から比較できる規模になっている。
メーカー差は、Seagateの故障率を1としたハザード比で表される。ハザード比は、一定期間内に故障する確率そのものではなく、同じ条件に置いたドライブ間の短い期間の故障リスクを比べる値だ。論文の2種類のモデルは、ほぼ同じ順位を出している。
| メーカー | Coxモデル | Weibullモデル | Seagate比の読み方 |
|---|---|---|---|
| HGST | 0.395 | 0.411 | 約4割 |
| WD | 0.514 | 0.520 | 約5割 |
| Seagate | 基準 | 基準 | 比較の基準 |
| Toshiba | 1.070 | 1.073 | 約1.073倍 |
この差は、メーカーごとに違う年齢をそのまま抱えた比較ではない。分析では導入年を使ってドライブの年齢をそろえ、容量とフォームファクター、平均HDD温度も調整した。対象期間は2013〜2025年である。HGSTとWDの差は統計的にも明確で、両者の故障率に差がないという帰無仮説に対するp値は0.001未満だった。ToshibaとSeagateの差は5%水準で有意だが、HGSTやWDとの隔たりほど明瞭ではない。
論文がこの補正を必要とした理由は、メーカーの構成が年ごとに変わるからだ。初期のコホートではHGSTが多く、後年はToshibaやWDの比率が高い。古いHDDが多いメーカーは、世代差を除かなければ不利に見える。逆に、新しいHDDを多く含むメーカーは、世代の改善をメーカーの優位性と取り違えやすい。単純なAFRの割り算では、ここを分離できない。
1.24%というQ1 2026の値と、論文の41%は同じ数字ではない
Backblazeが2026年第1四半期に公表した集計では、監視対象の345,662台から、ブートドライブ3,907台と条件外のHDD492台を除き、341,263台を分析した。対象期間は2026年1月1日から3月31日で、四半期AFRは1.24%だった。これは2025年第4四半期の1.13%から上がった一方、2025年通年の1.36%を下回る。
ただし、Q1の表はメーカー単位の長期推定ではない。掲載条件は、モデルごとに100台超、かつ四半期のドライブ日数が10,000日超であることだ。表には各社のモデルが並び、モデルごとの台数、平均年齢、故障数からAFRを出している。論文の41%や52%は、この表のどれか1機種のAFRを指す数字ではない。
小さなコホートでは、故障数とAFRが簡単に動く。Q1のSeagate ST16000NM000Jは、残っている129台のうち故障が1台だった。それでもAFRは3.61%に達した。故障が少ないことと、推定された年間故障率が低いことは、台数と観測期間をそろえて読まなければ結び付かない。
論文は、この問題を故障したドライブだけの数え上げで処理していない。調査期間の途中で故障せずにデータから外れた146,943台を、「その時点までは生存していたが、その後の故障日は分からない」右打ち切りとして残した。故障しなかった個体を捨てれば、実際より短い期間で故障したドライブだけが残りやすい。持続時間モデルは、故障しなかった履歴も推定に使う。
この違いを押さえると、Q1の1.24%と論文のメーカー比を同じランキングに並べる誤りを避けられる。前者は現在の運用集団を表すスナップショットで、後者は複数世代の履歴から条件をそろえた相対リスクを推定した値だ。
温度と世代が順位の外側にある
メーカー間を比べるときも、HDDの置かれた環境が均一になるわけではない。論文では、平均温度が1度上がると故障率が2.1%上がると推定された。これは2.1ポイントの上昇ではない。10度の差を累積させると、故障率は約23.1%高くなる計算で、冷却や搭載位置の違いがメーカー差と同じくらい実務に効く場面がある。
実際、データセンター内のクラスターを比べると、条件をそろえたうえで最も故障率が高いクラスターは、最も低いクラスターの約2.63倍だった。クラスターを回帰式に加えてもメーカー順位はほとんど変わらないが、メーカーの比較が安定していることと、置き場所の差が小さいことは別の話である。導入後の負荷や保守の違いは、調達時のメーカー名だけでは消えない。
容量にも世代差が混ざる。論文の線形モデルでは、容量が1TB増えると故障率が3.4%下がると推定された。ただし、高容量モデルほど新しい設計である場合が多く、この数字は容量そのものの効果と新しい製造工程の効果を完全には分けない。論文は、製造工程の改善や、空気からヘリウム充填への移行などを説明候補に挙げるが、メーカー差の物理的原因を特定した研究ではない。
BackblazeのQ1 2026データにも、世代交代を読む材料がある。同社は前四半期に10,220台を配備し、そのうち9,404台が20TB超だった。この高容量ドライブ群のAFRは0.85%だが、まだ若い集団である。新しいモデルの初期値を古いモデルの長期実績と比べれば、高容量だから故障しにくいのか、若いから故障が少ないのかを取り違える。
調達で使えるのはメーカー名ではなく比較条件
論文の結論がそのまま個人向けHDDの購入表になるわけではない。Backblazeのデータは主にエンタープライズHDDで、消費者向けドライブの差は別の結果になり得る。さらに、メーカーごとにSMART属性の実装が違うため、読み書きの負荷を全ドライブで一貫して測れていない。クラスターを調整した結果は安心材料になるが、負荷が完全に同じだと証明したわけではない。
HGSTの扱いにも注意が要る。HGSTは2012年にWDが買収し、買収後に独自HDDの製造を停止している。論文のHGST約41%という結果は、過去のHGSTドライブの履歴を分析したものだ。現在買えるHGST製品の優位性を示す数字、ましてや現在のWD製品が同じ故障率になるという保証ではない。
Backblaze自身もQ1 2026報告で、故障の数え方に境界があると説明した。日次プログラムは、前日に存在したドライブが当日に消えた場合を故障として記録する。そのため、データセンターに入った初日に故障したドライブは、この条件だけでは故障として数えられない。後日に同じシリアル番号が戻れば故障扱いを取り消す仕組みもあり、四半期の境界では少数の誤検出が残り得る。Q1報告は、公開ログが初日故障を過少に数えている可能性を認めている。
したがって、実際の調達でメーカー名だけを見て決めるのは難しい。候補モデルの台数と平均年齢、観測されたドライブ日数をそろえる。温度や導入世代、用途に近い負荷も比べたうえで、交換作業と停止時間を含む費用を計算する。論文の試算では、10年使い、交換費用を100ドルと仮定すると、SeagateのAFRを約2%、HGSTをその41%と置いた場合の価格差の上限は11.8ドルになった。これは価格や保証を調べた結果ではなく、故障交換の人件費と物流費を含めた仮想条件から出した目安である。
メーカー差は、HDDを選ぶ材料の一つにはなる。しかし、短い四半期のAFRと、2013年以降の履歴から短・中期の相対故障リスクを推定した結果は、新しいモデルの若い実績と同じ物差しでは測れない。次に確認すべきなのは、2025年第2四半期までの分析で見えた順位が、より新しいモデルの年齢と負荷をそろえた集計でも残るかどうかだ。



