Nintendo Switch 2が59,980円、PlayStation 5が97,980円——2026年に相次いだゲーム機の値上げを、多くの人は関税や円安の影響として受け取っただろう。しかし本当の震源地は別にある。MicrosoftやGoogleといったビッグテックが、AIインフラに向けて歴史上類を見ない規模の資本を投じており、その余波がゲーム機・電気代・建設コストにまで及んでいるのだ。コロンビア大学の経済学者Stijn Van Nieuwerburgh氏は、AIインフラ支出が2032年までの累計で約8兆ドル(約800兆円)に達すると推計している。この数字を年間投資額と混同してはならない——8年間の累計値だ。それでも、足元の投資ペースは産業の常識を覆すほどの規模に達している。

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約7000億ドル——1年間の設備投資が映し出す規模感

2025年、ビッグテック主要5社がAI設備投資に充てる金額の合計は約7000億ドルを超える見通しだ。前年比では約77%増という急増ぶりで、1年足らずで積み上がる金額としては世界的にも前例がない水準に近い。

各社の投資額を見ると、Amazonが約2000億ドルと最大で、Alphabet(Google)が1750〜1850億ドル、Microsoftが1200〜1900億ドル、Metaが1150〜1350億ドルと続く。これらの数値は各社の公式ガイダンスやアナリスト試算に基づくものだが、独立したソースによって幅があるため、合計は「約7000億ドル超」として扱うのが適切だ。

Apple CEOのTim Cook氏は「40年以上の経験の中で、どの分野においても今回のコスト上昇は見たことがない」と明言している。それほど需要が集中していることを、業界の最前線にいる経営者自身が認めた発言として重い。

各社が争奪するのは半導体・土地・電力

各社の投資が向かう先は共通している。データセンターの新設・拡張、GPU(画像処理装置)や特化型AIチップの大量調達、そして電力インフラの整備の3本柱だ。

データセンター1施設を稼働させるには、高密度な半導体クラスター、大規模な冷却設備、光ファイバー網、バックアップ電源と、複数の産業にまたがるリソースを同時に必要とする。これまでAI投資は「ソフトウェアの話」として語られることが多かったが、実態は極めて物理的な問題だ。Van Nieuwerburgh氏自身、このインフラ整備を「驚くほど物理的(strikingly physical)」と表現している。

電力面では、Goldman Sachsのレポートが米国の電力需要増加の約半分を2030年までにデータセンターが牽引すると予測している(この数値は旧推計に基づくレポートのため、現時点では実態がさらに上振れしている可能性がある)。電力グリッドの整備だけで2030年までに約7200億ドルの投資が必要とされ、消費者向けの電力料金は近い将来、年間約6%の上昇が見込まれる。

電気工事・配線工事の請負業者の賃金は2026年4月時点で前年比6.5%増と、民間全体の3.6%増を大きく上回る。施工人材の争奪が始まっており、デジタルインフラの整備がこれほど物理的な労働力を消費する産業に変容していることを端的に示す数字だ。

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なぜAI投資はこれほどの資本を必要とするのか

ChatGPTやGeminiといった生成AIモデルを1回動かすには、従来の検索クエリ処理と比べて桁違いの計算資源を消費する。モデルを学習させる「トレーニング」と、ユーザーの質問に答え続ける「推論」の両フェーズで、GPU群を長期間フル稼働させ続ける必要があるためだ。

GPUは半導体の中でも特に製造難易度が高い。NVIDIAのH100やBlackwellシリーズといった最先端AIチップは、熟練したサプライチェーンを持つTSMCが高度な製造プロセスで量産しており、供給量は本質的に限られる。ビッグテック各社がこの限られた供給を一斉に争奪することで、半導体全体の需給バランスが崩れていく。

DRAMはその典型だ。32GB DDR5メモリの価格は2025年9月の約94ドルから2026年第1四半期には約282ドルへと約200%高騰した。AIサーバーが大量のDRAMを積むためであり、不足は2026年全体から2027年にかけても継続する見通しだ。

さらに電力についても、学習用の大型データセンターは数百メガワット規模の電力を恒常的に消費する。これは中規模の工業都市が必要とする電力量に相当する水準で、既存のグリッドインフラでは対応しきれないケースが出ている。

ゲーム機の値上げはAI投資の「見える化」

ゲーム産業がAIブームの影響を最もわかりやすく体現している。Nintendo Switch 2は499.99ドル、PlayStation 5は649.99ドル、Xbox Series Xは649ドル、Steam Deck OLEDは789ドルへとそれぞれ値上がりしており、いずれのプラットフォームも同じDRAMサプライチェーンを共有している。

コンソールゲーム機の出荷数量は年間数千万台規模で、AIサーバー1台分のGPU需要とは比べ物にならない。しかしAIデータセンターが優先的に半導体調達を行うことで、ゲーム機向けの割り当てが後回しになり、価格交渉力も失われる。

消費者物価への波及はすでに数字に表れている。米国でのパソコンソフト・アクセサリのCPIは2026年5月時点で前年比15%上昇、電子部品・アクセサリの卸売価格は同27%上昇を記録した。全米企業経済学会(NABE)の調査でも、回答者の81%が「AIインフラ整備が今後1年のインフレに寄与する」と回答している。

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「投資バブル」か「産業転換」か?経済学者の見方は割れる

EY-ParthennonのGregory Daco主席エコノミスト氏は「主要技術革命の第1フェーズでは、限られた資源への圧力から価格上昇圧力が生じる。お馴染みのパターン」と語る。産業革命、鉄道ブーム、インターネット普及期——いずれも初期の設備投資段階では資源の奪い合いがインフレを引き起こし、のちに生産性の向上で緩和されてきた。

米連邦準備制度(Fed)議長のKevin Warsh氏は長期的にAIが生産性向上を通じて「重要なディスインフレ力」になり得ると主張する。一方、Fed理事のLisa Cook氏は、発表済みのデータセンター投資のうち実際に設置が完了した割合はまだ「わずか」だと指摘しており、今後の圧力はさらに大きくなる可能性を示唆している。

市場では、OpenAIやAnthropicのIPOが視野に入るにつれ、さらなる資本がこのサイクルに流入するとの観測もある。2032年までの累計8兆ドルという推計は壮大に見えるが、現在の投資ペースから外挿すれば、むしろ保守的な数字に収まる可能性さえある。

Van Nieuwerburgh氏の試算では、2025年第4四半期においてAI関連インフラ投資が米GDP成長のほぼ全てを占めたとされる。一産業への集中としては歴史的な水準であり、その波紋が今後どこまで広がるかを把握することが、テクノロジーの動向を理解する上で不可欠になっている。