TikTokの親会社ByteDanceが、約36,000枚のNvidia Blackwell B200チップに相当する規模のAIコンピューティングクラスターを、マレーシア拠点のクラウド事業者Aolani Cloudを通じて利用しようとしていることが、Wall Street Journalの報道で明らかになった。

総額25億ドル超とされるこの調達は、Blackwell世代のチップが中国向け輸出を明示的に禁じられた中で行われる。しかしNVIDIAは「輸出規制の設計上、合法だ」と言い切っている。この一件は、米国の対中AI規制が抱える根本的な矛盾を突くものだ。

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「壁」に開けられた穴:Aolani Cloudという経路

取引の構造はこうだ。ByteDanceが直接Blackwellチップを購入することは、米国の輸出規制によって禁じられている。2023年に施行された輸出管理規則は、高性能AIアクセラレータの中国向け出荷を制限するが、その制約は「チップがどこに物理的に設置されるか」を基準にしており、「誰がそのコンピューティング能力を利用するか」には直接言及していない。

マレーシアはその「隙間」に位置する。Aolani Cloudは2023年末にシンガポール系ベンチャーキャピタルK3 Venturesなどの出資により設立された企業で、Cayman Islands持株会社を持つNVIDIA のTier-1クラウドパートナーだ。Tier-1認定は、NVIDIA から最新チップを優先的に直接受け取れる地位を意味する。Aolaniは2025年2月からマレーシアでH100チップを搭載したAIサーバーをByteDanceに貸し出しており、今回の計画はその延長線上にある。

計画によれば、500台のNVL72 GB200ラック規模システム(合計約36,000枚のB200)で構成されるクラスターをマレーシアで整備し、ByteDanceはそこで国際市場向けのAI研究開発および顧客需要への対応を行う。チップの所有権はAolaniが保持し、ByteDanceはコンピューティング能力をクラウドサービスとして利用する形態を取る。

NVIDIA の広報担当者は公式見解として「輸出規制は、設計の段階から、管理対象国以外でのクラウド構築・運用を認めている。こうしたクラウドのビジネスを獲得することで、数百億ドルと高賃金の雇用が米国にもたらされる」と説明し、すべてのクラウドパートナーはNVIDIA の現地オペレーション、財務、コンプライアンスチームによる審査をパスしていると付け加えた。

Aolaniも「適用されるすべての輸出規制を完全に遵守している。顧客はチップを所有せず、請求権もない」と声明を出しており、法的に問題がないことを強調している。

Blackwellは「別格」:H200とは異なる位置づけ

重要なのは、今回の取引が対象とするBlackwellチップが、他の規制緩和の流れから明確に切り離されていることだ。

2026年1月、中国はNVIDIA のH200チップをByteDance、Alibaba、Tencentに対して40万枚以上輸入許可した。しかしこの同じ時期に、よりハイエンドのBlackwell(B200やB30A)については輸出禁止を維持しており、2025年11月にワシントンはNVIDIA が中国向けに計画した性能制限版B30Aの輸出さえも阻止した。

Blackwellアーキテクチャを搭載したB200は、前世代のH100やH200と比べ、NVLink接続による大規模クラスター構成での性能伸長が著しく、LLMの大規模学習において質的に異なる能力を持つとされる。Trump政権が最近施行したAIチップ輸出規則の緩和措置も、Blackwellは明示的に除外している。

このギャップが、今回のマレーシア経由アクセスが持つ意味を際立たせる。ByteDanceはH200を中国国内に正規輸入できる可能性がありながら、Blackwellはその道が閉じているため、第三国のクラウドインフラを介した利用という迂回路を選んでいるのだ。

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マレーシアの地政学的ポジション:密輸拠点から合法トレーニング地帯へ

マレーシアは米中チップ競争の交差点として、ここ数年で急速に存在感を高めてきた。世界最速で成長するデータセンター市場の一つとなる一方、2025年3月に米国がNVIDIA の高性能チップのマレーシア向け出荷の厳格な監視を要求した段階で、密輸拠点としても指摘を受けていた。

その懸念は現実化した。2025年後半、DeepSeekが東南アジアのデータセンターから中国国内に物理的に持ち込まれたNvidiaチップを不法にAI学習に使用していたことが報じられた。この事態を受け、マレーシアは2025年7月に米国の高性能チップに対する許可制度を導入し、第三国への転送を防ぐ措置を講じた。

ByteDanceが取っているアプローチは、密輸とは異なる。チップはマレーシアに留まり、コンピューティング能力だけを遠隔利用する。これはワシントンが2024年にUAEのAI企業G42に対して要求した関係整理——G42がByteDanceを含む中国企業への出資を引き揚げることで、NvidiaチップへのアクセスとMicrosoftからの15億ドル投資を維持する——とは異なる構造の問題提起だ。当時の懸念は、「チップが中国の土を踏まなくても、中国企業が制裁対象ハードウェアにアクセスできる」という事態だった。今まさに、その形が実現しつつある。

NVIDIA が「失いたくないアジア市場」

NVIDIA の声明には、コンプライアンスの説明を超えた含意がある。「輸出規制は世界第二位の商業市場を外国の競合に明け渡してしまった。アジア全体を失うわけにはいかない」という言葉は、Huawei Ascendシリーズや中国国産AIチップの台頭を意識したものだ。

NVIDIA の直近の財務では、連結トレイリング売上高は2,159億ドルに達し、営業利益率は55.6%という水準にある。同社はQ1 FY2027ガイダンスにおいて中国のデータセンター向けコンピューティング収益を織り込んでいないが、ByteDanceがAolaniを通じてBlackwellの利用料を支払う構造であれば、その支出はNVIDIAにとって「ガイダンス外の上振れ要素」となり得る。

ByteDanceはすでに世界の消費者向けAIアプリTop50のうち5本を擁し(Andreessen Horowitz調べ)、チャットボット「Dola」、動画生成「Dreamina」、動画特化モデル「Seedance」などを展開している。同社の売上の約25%はすでに中国外から生まれており、シンガポール、サンノゼ、シアトルに大規模なAIチームを持つ。インドネシアでもB200を7,000枚以上収容するデータセンターの利用について折衝中との報道もある。この規模のグローバル展開を支えるには、Blackwellクラスの演算力が不可欠であり、ByteDanceが迂回路を探す動機は明確だ。

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「合法の抜け穴」か「制度の設計通り」か

ByteDanceは米国の商務省産業安全保障局(BIS)のエンティティリストにも軍事最終用途(MEU)リストにも掲載されておらず、したがってAolaniやNVIDIAにとって自動的に取引禁止を示すフラグは点灯しない。2023年の輸出規制の枠組みは、あくまでもチップの物理的な出荷先を規制するものであり、クラウド経由での演算アクセスを中国企業が行うことは「適法」の範疇に収まる。

しかしこの解釈に対し、米国議会では不満が高まっている。物理的にマレーシアに置かれたクラスターで、中国の企業がAI基盤モデルの学習を行う——規制の文面上は問題なくとも、政策意図として「中国のAI能力の向上を抑制する」という目標が達成されているかどうかは、別の問いだ。

商務長官Howard Lutnick氏は別の文脈で「NVIDIAはH200の中国向け販売において厳しい条件を守らなければならない」と述べており、ライセンス条件の厳格化への意欲を示している。しかし現行の規制体系の下では、Aolani-ByteDanceの構図を直接止める法的根拠は存在しない。

今後の展開として注目されるのは、BISが「クラウド経由利用」に対応した規制を追加するかどうかだ。そのような措置が講じられれば、SEA(東南アジア)のデータセンター市場全体の利用形態に大きな影響を与える。マレーシアが「合法的なトレーニンググラウンド」であり続けられるかどうかは、ワシントンの次の一手にかかっている。


Sources