ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT)は2026年10月30日、固体材料の温度変化を利用する「カロリック冷却」の研究動向を紹介した。同日、学術誌『Nature Energy』にKun Wang氏らによる査読済み総説が公開されたことを受けたもので、新たな冷却装置の開発を発表したものではない。総説では、カロリック冷却の主要な4方式について、材料特性から装置全体の性能まで幅広く比較している。

カロリック冷却は、固体材料に力や磁場などの刺激を加えたときに生じる温度変化を利用し、熱を移動させる技術だ。先行研究では、1kWを超える冷却能力を持つ試作機も登場している。ただし、材料の温度変化が大きいことと、装置が少ないエネルギーで効率よく冷却できることは別の問題だ。実際、先行装置が記録した1,284Wという冷却能力は、低温側と高温側の温度差がゼロという条件で測定されたものである。

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4種類の刺激で固体材料に熱を運ばせる

カロリック冷却では、外部からの刺激によって固体材料の温度を変化させ、熱の吸収と放出を繰り返すことで冷却を行う。冷やしたい対象から熱を受け取り、別の場所へ放出する仕組みで、使用する刺激によって主に4つの方式に分けられる。

方式 材料に与える刺激
磁気熱量 磁場
弾性熱量 引っ張りや圧縮などの機械的な力
電気熱量 電場
圧力熱量 圧力

それぞれ刺激を発生させる装置や材料の形状が異なるため、材料自体の特性だけで冷却システム全体の優劣を判断することは難しい。カロリック冷却には、地球温暖化への影響が大きい従来の冷媒を使わずに済む可能性がある一方、材料に刺激を与える機構や熱を移動させる装置にはエネルギーが必要となる。

Wang氏らの総説では、従来の蒸気圧縮式冷却や熱電冷却も比較対象に含め、エネルギー効率、温度差、冷却能力密度に加え、耐久性やコストを検討している。材料研究の進展として、繰り返し変形による疲労に強い形状記憶合金、多層構造を用いた電気熱量素子、天然ゴムを利用する弾性熱量システムなども取り上げた。ただし、これは既存の研究成果を整理した総説であり、4方式を統一条件で新たに比較実験したものではない。

1,284Wの冷却能力を記録した実験条件

KITによると、磁場を利用する試作機では3kWを超える冷却能力が報告されており、機械的な力を使う方式でも1kWを超える装置が開発されている。これらの数値はいずれも単位時間あたりに移動させられる熱量を表す冷却能力であり、消費電力やエネルギー効率を示すものではない。また、統一された試験条件で測定された数値でもないため、単純に比較して方式の優劣を決めることはできない。

総説が引用する先行研究の一つが、Guoan Zhou氏らによる2025年の査読済み『Nature』論文「Achieving kilowatt-scale elastocaloric cooling by a multi-cell architecture」だ。原著論文の公開要旨によると、研究チームは圧縮によって温度が変化する薄肉のニッケルチタン合金(NiTi)管を使用し、複数の冷却セルを組み合わせた装置を開発した。セルは機械的に直列配置する一方、熱を運ぶ流体は並列に流す構成を採用している。熱交換にはグラフェンを含む流体を利用した。

この装置が記録した1,284Wは、動作周波数3.5Hz、低温側と高温側の温度差ゼロという条件で、最初の50万サイクルにおいて測定された流体側の冷却能力である。実際の装置で得られた実験値であり、論文に補足的に含まれる流体シミュレーションの結果ではない。ただし、温度差がある状態での冷却能力や消費エネルギーを示す数値ではないため、実際の空調用途における効率をこの値だけで判断することはできない。また、50万サイクルは動作の繰り返し回数を指し、試作機の台数や独立した試行回数とは異なる。これらの数については公開要旨から確認できない。

特に重要なのは、温度差ゼロで得られた最大冷却能力を、実際の空調性能と混同しないことだ。室内を屋外より低い温度に保つには、温度差がある状態で継続的に熱を運ぶ必要がある。温度差ゼロで1,284Wを記録したからといって、室内外に温度差がある環境でも同じ冷却能力が得られるわけではない。

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材料の温度変化だけでは冷却装置の効率を評価できない

冷却装置の性能を評価するには、冷却能力とエネルギー効率を区別する必要がある。冷却能力は単位時間あたりに取り除ける熱量を表すのに対し、成績係数(COP)は、取り除いた熱量を投入エネルギーで割った値だ。冷却能力が大きくても、駆動に大量のエネルギーを必要とする装置であれば、COPが高いとは限らない。さらに、測定時の低温側と高温側の温度差をそろえなければ、実際の使用条件を想定した性能比較は難しい。

材料の質量あたりに換算した冷却能力にも注意が必要だ。Zhou氏らは材料質量あたりの冷却能力も報告しているが、実際の装置には冷却材料だけでなく、駆動機構や熱交換器などの部品も必要となる。そのため、材料単体の質量あたりの数値を、そのまま装置全体の質量や体積あたりの冷却能力として扱うことはできない。

KITは、材料の特性と完成した冷却装置の性能に差が生じる主な要因として、熱損失、材料の疲労、冷却サイクルで投入した機械的・電気的な仕事を十分に回収できないことを挙げている。ただし、これらは装置性能に影響する要因として説明されたものであり、それぞれが性能を何%低下させるかを個別に測定した結果ではない。カロリック冷却の実用性を判断するには、材料がどれだけ大きな温度変化を起こすかだけでなく、熱の受け渡し速度や駆動に必要なエネルギー、エネルギー回収の仕組みまで含めて評価する必要がある。

実用化の鍵は耐久性と実際の使用条件での性能

カロリック冷却を長期間にわたって利用するには、材料が数百万回もの繰り返し動作に耐えられることに加え、熱を素早く吸収・放出でき、少ないエネルギーで駆動できることが求められるとKITは説明する。特に機械的な変形を利用する方式では、繰り返し負荷による材料の疲労が重要な課題となる。ただし、数百万回という回数は長期利用に向けて求められる耐久性の目安であり、すべての試作機がその水準を達成したという意味ではない。

総説の責任著者であるJingyuan Xu氏は、カロリック冷却が当初普及する分野として、従来の冷却技術が実用上の制約に直面する用途を挙げている。具体的には、静かな運転が必要な環境や、地球温暖化への影響が大きい冷媒の使用を避けたい用途などが考えられる。もっとも、こうした用途での可能性が示されたことと、既存の冷却システムを全面的に置き換えられることが実証されたことは区別する必要がある。

今回の総説は査読を経ているものの、それによって引用されたすべての装置性能が独立に追試されたわけではない。公開されている要旨からは、総説が対象とした研究の総数や詳しい選定基準、先行装置について同一条件で行われた独立追試の有無までは確認できない。したがって、個々の研究で得られた性能値を、異なる材料や装置、用途にそのまま一般化することはできない。

今後の実用化を見極めるうえで重要なのは、実際の用途に必要な温度差を維持しながら、どれだけの熱を運べるかという点だ。その際には、冷却能力だけでなく、駆動機構を含む装置全体の投入エネルギーや、長期間の繰り返し運転後に性能がどの程度維持されるかも評価する必要がある。標準化された試験条件や実際の用途に近い実証機でこうしたデータが蓄積されれば、材料研究で示された可能性を、実用的な冷却技術として評価するための判断材料がそろうことになる。