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驚異的な導電性を持つカーボンナノチューブの開発に成功、エネルギー貯蔵に大きな進展

Y Kobayashi

2024年8月5日

中国の研究者らが、驚異的な導電性を持つカーボンナノチューブ(CNT)ワイヤーの開発に成功した。瀋陽材料科学国家研究所のチームによって開発されたこの新素材は、銅の86%に匹敵する導電性を示し、CNT技術における重要な飛躍を象徴している。この画期的な発見は、長年の課題であった高性能CNT繊維の実用化に向けて、大きな一歩を踏み出すものだ。

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革新的な製造プロセスがもたらす卓越した性能

研究チームは「ドライジェットウェットスピニング」と呼ばれる改良製造方法を用いて、二重壁カーボンナノチューブ繊維(DWCNTF)を作製した。この技術の核心は、CNTの配列と密度の大幅な向上にある。従来のウェットスピニング法では、高い導電性と適度な強度は得られるものの、個々のCNTが持つ優れた特性を十分に活かしきれないという問題があった。これは、CNT間の接触抵抗や弱い相互作用が原因であった。

新たに開発された方法では、長鎖で高分子量のDWCNTを安定した気相で紡糸することに成功し、優れた配向性と高密度を実現した。具体的には、0.994という高い配向係数と1.96 g/cm³の密度を持つDWCNTFsの製造に成功している。この結果、電気伝導度は1.1 × 10⁷ S/mという記録的な値を達成し、8.0 × 10⁸ A/m²という高い電流密度も実現した。

さらに、この新素材は機械的特性においても優れた性能を示している。引張強度は1.65 GPaに達し、靭性は130.9 MJ/m³を記録した。これらの値は、同じ製法で作られたCNT繊維の中でも最高水準に位置づけられる。耐久性についても、5,000回以上の屈曲サイクル後も導電性と完全性を維持できることが確認されており、実用化に向けた重要な特性を備えていると言える。

この技術的ブレークスルーの背景には、研究チームが独自に設計・製作した新しい装置の存在がある。この装置により、ナノチューブをより精密に配置し、密度を高めることが可能になった。従来の製造プロセスでは、不均一な拡散によって生じる亀裂が性能低下の原因となっていたが、新しい方法ではこの問題も解決されている。

研究成果は科学誌『Advanced Functional Materials』に掲載された。この新素材は、現在航空宇宙産業で標準となっている炭素繊維強化複合材料をはるかに凌ぐ性能を示しており、エアバスやボーイングなどの航空機メーカーにとって大きな関心事となっている。

さらに、このCNT技術の応用範囲は航空宇宙産業にとどまらない。エネルギー貯蔵システムや、これまで実現が困難とされてきた宇宙エレベーターなど、革新的な分野への応用も期待されている。特に、エネルギー貯蔵分野での活用は、再生可能エネルギーの普及や電気自動車の性能向上にも寄与する可能性があり、環境技術の発展にも貢献すると考えられる。しかし、この画期的な技術を実用化し、経済的に競争力のある商業製品に発展させるには、まだ多くの課題が残されている。

国際的にも、CNT技術の発展に向けた取り組みが活発化している。米国、欧州、アジアの大学からなる国際研究チームは、CNT合成の理解を深め、より持続可能な産業材料の生産を実現するために、400万ドル以上の研究資金を獲得している。テキサス州のライス大学のMatteo Pasquali教授は、「我々はすでに適切な特性を持つ材料の作り方を知っています。しかし、効率的かつ持続可能な方法でそれらを製造するには、根本的なプロセスについて全く異なるレベルの理解が必要です」と述べ、実用化に向けた課題を指摘している。


論文

参考文献

研究の要旨

カーボンナノチューブファイバー(CNTF)は、その高い導電性と低密度により、次世代導電ワイヤーとして理想的な候補と考えられている。 しかし、CNTF中のナノチューブの配向と圧縮をさらに改善することで、さらに高い導電性と電流容量を達成する必要がある。 ここでは、カーボンナノチューブ(CNT)の配向と圧縮を大幅に改善するドライジェット湿式紡糸法による二重壁CNTF(DWCNTF)の作製について報告する。 その結果、得られたDWCNTFは、1.1 × 10⁷ S m-¹および8.0 × 10⁸ A m-²という記録的な高い電気伝導度を有する。 この繊維はまた、1.65 GPaの高い引張強度と130.9 MJ m-³の靭性を持ち、湿式紡糸CNTFとしては最高レベルである。 DWCNTFは、5000回以上の曲げサイクルの後でも、その完全性と導電性を維持している。 理論計算から、ドライジェット湿式紡糸プロセスでは、重力が繊維の軸方向に沿ってCNTの配向を促進することが示された。

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