半導体の微細化というと、EUVリソグラフィがどこまで細い線を描けるかという話に関心が向きがちだ。だが描いた通りに材料を削れなければ、その線は意味を持たない。主流のドライエッチング手法であるRIE(反応性イオンエッチング)は、化学反応性の高いプラズマで基板を削るがゆえに基板を傷つけ、削りかすの再堆積やコスト増という副作用を抱えてきた。Samsung ElectronicsのSanghyun Lee氏、HyunWook Ra氏、Keun Hee Bai氏らは『Journal of Vacuum Science & Technology A』誌(JVST A)に、この課題への代替手法である原子層エッチング(ALE)の産業応用を論じた論文を発表した。AIPの公式発表(Scilight、2026年8月28日付)は、この技術が層に「均一な幅を持つ90度の角度」を作れるとBai氏の言葉を伝えている。

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なぜ今「エッチング」が半導体の弱点なのか

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EUVリソグラフィとエッチング工程の対比

RIEの弱点は速度と汎用性の代償として現れる。プラズマ中のイオンを基板にぶつけて削る方式は加工速度こそ速いが、狙った箇所以外にもダメージを与えやすく、削られた材料が再びチップ表面に付着する再堆積という現象も起こる。微細な配線幅がナノメートル単位まで縮んだ現在、この副作用は歩留まりに直結する問題になっている。半導体の性能向上はここ数世代、EUVでどこまで細い線を描けるかという露光側の進歩で語られてきたが、描いた線を材料からどう正確に削り出すかという工程側の限界は、あまり注目されずに残されてきた。

さらにRIEは高コストな装置と消耗品を必要とし、加工対象の材料によっては選択性(狙った層だけを削り、他の層を残す性質)が不十分になる。low-k材料(誘電率の低い絶縁材料。配線間の寄生容量やクロストーク、信号遅延を抑えるために使われる)のような壊れやすい材料では、この弱点がより顕著に出る。EUVがいくら微細なパターンを描いても、その通りに削れなければ設計通りのチップはできない。エッチング工程は長らく地味な脇役として扱われてきたが、微細化の限界を押し上げる主戦場の一つになりつつある。

原子を1層ずつ削るALEの仕組み

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ALEがRIEと決定的に違うのは、材料を一気に削らず、表面改質と選択的除去という2つの工程を交互に繰り返す点にある。理想的には、まず反応性ガスやプラズマで基板の最表面だけを化学的に変質(あるいは薄く堆積)させ、次にその層だけをエネルギーの低いイオンや別の反応で選択的に除去する。変質していない下地には反応が及びにくいため、1サイクルで削れる厚みは原子数層分に留まりやすい。この「自己律速」に近い性質が、RIEより低ダメージかつ高選択性を実現しやすい理由とされる。ただし今回の論文が扱うフルオロカーボン系のALEのような実際のプロセスでは、この理想的な自己律速は完全には成立せず、堆積量が処理時間やパターンの縦横比(アスペクト比)に応じて変わる、より複雑な挙動を示すことが知られている。

Bai氏はAIPの発表で「多くの研究がALEの低ダメージ・高選択性・精密な制御という利点を指摘してきたが、私たちはそこに、ALEが層に均一な幅を持つ90度の角度を作れるという、より垂直なプロファイルの利点を加える」と述べている。論文によれば、この垂直性はパターン形状に応じて堆積の挙動が変わる性質を積極的に利用して引き出されている。RIEでは削る速度や角度がプラズマの状態に左右され、側壁が斜めに傾いたり幅がばらついたりしやすいのに対し、この制御によってALEは深さ方向にほぼ垂直な壁を均一に作りやすくなる。この精密さこそが微細な配線間隔を保ちたい先端プロセスでALEが注目される理由だ。

一方でこの方式には代償もある。1サイクルで削れる量が少ないため、同じ深さを削るのに必要なサイクル数が増え、装置構成も複雑になりやすい。従来のALEが低スループットで複雑な工程という欠点を抱えてきたのはこのためだ。時間で削る量を制御するRIEに対し、ALEは化学反応の自己律速で削る量を決める。速さより精密さを優先する設計思想の違いが、そのまま両者の得手不得手を分けている。

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Samsung論文が示した産業化への壁と前進

今回の論文"Current status of atomic layer etching and its adoption to low-k fine patterning: An industrial perspective"は、JVST A誌の第44巻5号に論文番号058501(DOI: 10.1116/6.0005592)として掲載された。著者はSanghyun Lee氏、HyunWook Ra氏、Keun Hee Bai氏で、AIPは2026年8月28日付のScilightでこの内容を紹介している。論文によれば、Samsungは2017年からロジック・DRAMの量産ラインで2つの工程にALEを適用しており、2021年には3つ目の適用工程を追加したという。ALEそのものはSamsungにとって既に実績のある量産技術であり、今回の論文が焦点を当てるのは、その実績をlow-k材料の微細加工という新しい適用領域にどう広げるかという課題だ。

論文はlow-k材料の微細加工に用いるO2系ALEについて、イオン由来の損傷を抑えてプロファイル制御(削った形状の精度)を改善できたと報告する一方、酸素ラジカルによる化学的な損傷と誘電率の劣化(容量劣化)は依然として防げていないとしている。低ダメージと高い垂直性を同時に実現したとは言えず、量産実績のある既存の適用領域とは異なる新たな課題が残っている。具体的な低減率や対象プロセスノードは公表資料に示されていない。それでも研究チームは、スループットや粒子・安定性といった課題の多くは注意深いプロセス設計の最適化とアーキテクチャの簡素化で解決できるとの見方を示す一方、酸素ラジカルによる化学的損傷については、材料条件の最適化とO2を使わない化学系への転換が必要だとしている。low-k材料へのこの拡張について、量産投入やブレークスルーを宣言する段階には至っていない。

なおBai氏らは、高密度low-k材料の垂直トレンチ制御を扱った先行論文(JVST A 43巻6号062603)も発表している。今回の論文はこの先行研究の延長線上にあり、個別技術の実験結果から一歩引いて、ALEが産業界にどう受け入れられるかという視点でまとめ直したものだ。2つの論文は主題が異なるため、混同せず読む必要がある。

一度見捨てられた技術の復権

ALEという発想自体は新しくない。半導体産業誌JVST Aに掲載された技術史レビューによれば、確認できる最初期の報告は1988年のYoder氏によるダイヤモンド膜への応用研究だとされる。ALEの原型となる特許は1981年にIwamatsu氏が出願していたことも、後年の調査で明らかになっている。1990年代には表面改質と除去を交互に行う逐次的な自己律速プロセスとして提案されたが、当時は削る速度が遅すぎるとして軽視され、量産技術としては本流に乗らなかったという。

この経緯は、同じ原子層単位のプロセスであるALD(原子層堆積)がたどった道と重なる。ALDも登場当初は成膜速度の遅さから敬遠されていたが、後に微細化が進んで薄膜の均一性が量産上の課題になると、その精密さが評価されて産業標準の技術に定着した。ALEが2020年代に入り改めて注目を集めている背景にも、同様の力学が働いていると考えられる。加工対象の寸法が縮むほど、多少遅くても精密に削れる技術の価値が相対的に高まるからだ。

この再評価の広がりは市場推計にも表れている。単一の市場調査会社(GM Insights)の推計によれば、ALE装置市場は2025年の12億ドルから2034年には25億ドルへ拡大するとされ、2024年時点ではLam Research31.4%Applied Materials29.5%のシェアで上位2社を占めるという。同じ推計では上位5社(Tokyo Electron19.6%、Oxford Instruments3.1%、サムコ1.7%を含む)が装置市場全体の85.3%を占めるとされる。1ドル=159.38円(2026年8月27日時点)で換算すると、12億ドルは約1913億円、25億ドルは約3985億円に相当する。

ただしこの数字は業界全体から見ればまだ小さい。別の調査会社(Precedence Research)の予測では、半導体エッチング装置市場全体は同じ2034年に561億ドル(約8兆9000億円)規模へ拡大するという。調査元が異なるため単純な比較はできないが、桁で見ればALE市場(25億ドル)はその5%に満たない規模にとどまり、エッチング市場全体の中では今なおニッチな存在だとうかがえる。

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サムコの先行商用化と、Samsungの前に残る壁

ALEの商用化は理論の段階を超えて、すでに一部で市場に出ている。京都のサムコは2025年12月17日、GaN/SiC向けのALE装置として、研究用の4インチ機「RIE-400iP-ALE」と量産用の8インチ機「RIE-800iPC-ALE」の本格販売を発表した。GaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)はパワー半導体に使われる材料で、電気自動車や産業機器向けの需要が伸びている分野だ。

ただしサムコの装置とSamsungが論文で扱う対象は、同じALEでも用途が別だ。サムコの装置はパワー半導体向けのGaN/SiC加工を主眼にしており、Samsungが2017年から量産投入してきたロジック・DRAM向けALEや、今回の論文が扱う配線工程のlow-k材料加工とは加工対象も要求精度も異なる。日本企業が量産機を商用化した領域と、Samsungが自社の量産ラインで実績を積んできた領域は、同じ技術系統の別の応用先だと理解した方が実態に近い。Samsungにとってlow-k材料への拡張は、量産実績のある技術を新しい壁の前に立たせる作業だという構図が浮かぶ。

Samsung側の論文が語らない部分もはっきりしている。low-k材料への適用でいつ量産投入するのか、酸素ラジカルによる化学的損傷や容量劣化をどう解決するのか、対象となる具体的なプロセスノードは何か、そしてTSMCなど競合ファウンドリがどう対応するのかは、今回の発表からは読み取れない。研究チームが示した道筋、すなわち注意深いプロセス設計と最適化、そしてアーキテクチャの簡素化によって課題の多くを解決できるという見立てが、これらの空白を埋める具体的な作業として次に問われることになる。