欧州の研究チームが2026年10月に公開した査読前論文で、ChatGPT広告とGoogle検索広告の販売実績を比較した結果、米国からの1訪問あたり売上はChatGPT広告が0.89ドル、Google検索広告が2.45ドルとなり、約64%の差が確認された。ChatGPT広告では平均注文額が高かったものの、購入率が低く、訪問あたり売上ではGoogle検索広告を大きく下回った。
OpenAIは2026年2月に米国でChatGPTへの広告導入を開始し、6月には日本と韓国にも展開している。ただし、広告主が出稿先を判断するには、売上だけでなく広告費も考慮する必要がある。研究チームの分析と別の広告運用会社が公開した実績を組み合わせると、ChatGPT広告がGoogle検索広告と同等の費用対効果を得るために必要な売上水準も見えてくる。
ChatGPT広告の購入率は0.37%、Google検索広告は1.17%
研究を実施したのは、ウィーン経済大学のMaximilian Kaiser(マクシミリアン・カイザー)氏と、フランクフルト・スクール・オブ・ファイナンス&マネジメントのChristian Schulz(クリスチャン・シュルツ)氏だ。2025年6月29日から2026年8月22日までの60週間を対象に、ChatGPT広告経由の訪問が約45万件あった387サイトを分析した。このうち、売上を完全に追跡できた102サイトのデータを使って、広告経由の訪問と購入実績を比較している。
米国からの訪問を集計すると、ChatGPT広告経由の購入率は0.37%、Google検索広告経由は1.17%だった。一方、平均注文額はChatGPT広告が240ドル、Google検索広告が209ドルで、ChatGPT広告の方が高かった。しかし、購入率と平均注文額を掛けて求める1訪問あたり売上は、ChatGPT広告が0.89ドル、Google検索広告が2.45ドルとなった。ChatGPT広告は注文1件あたりの金額では上回ったものの、購入につながる訪問の割合が低く、結果として訪問あたり売上は約64%少なかった。
ただし、平均注文額の比較には注意が必要だ。研究チームが全市場のデータを使い、サイト、端末、週ごとの違いを統計的に調整すると、ChatGPT広告経由の平均注文額はGoogle検索広告より74ドル低いと推定された。米国の訪問を単純に合算した240ドル対209ドルという結果とは、対象地域も集計時の重み付けも異なる。高額商品を扱う一部のサイトに注文が集中していれば、全体の単純平均とサイトごとの条件を調整した推定結果が逆転することもある。
米国で両方の広告から訪問を獲得した87サイトを個別に比較しても、97%のサイトでChatGPT広告の訪問あたり売上が低かった。さらに、87サイトの84%ではChatGPT広告経由の購入が1件も記録されず、観測された570件の購入は残る14サイトに集中していた。全体平均だけでなく、サイト単位でも売上に大きな偏りが見られたことになる。
もっとも、今回の研究は広告主が自ら選択した出稿先の実績を観察したもので、広告接触による売上の増分を直接測定したものではない。分析では、サイトに訪問する直前の流入経路と、その訪問中に発生した購入を記録している。そのため、広告を見た後に別の経路から購入したケースや、広告がなくても購入した可能性のあるケースを区別できない。
研究データと計算資源は、Webトラフィック分析企業のGrips Intelligenceが無償で提供した。Kaiser氏は同社の元従業員で、現在は科学顧問を務めている。ただし著者らによれば、同社は研究設計、分析、結果の解釈には関与せず、論文の公開を承認する権限も持たなかったという。
Google検索広告と同じ費用対効果を得るには、クリック単価0.26ドルが目安
広告の費用対効果を比較するには、訪問あたり売上に加え、クリック単価を考慮する必要がある。今回のデータでは広告費がアカウント単位で記録されており、訪問者の国別には分けられていなかった。そこで研究チームは、Google広告費の記録を結び付けられた31サイトから、検索広告費と米国からの訪問割合について条件を満たす16アカウントを抽出した。
各アカウントの期間中の広告費を検索広告のクリック数で割ったところ、クリック単価の中央値は0.72ドルだった。研究チームは1クリックが1訪問に相当すると仮定し、米国で観測されたGoogle検索広告の訪問あたり売上2.45ドルを基準に、ChatGPT広告が同等の広告費対効果を得られるクリック単価を計算した。
計算結果は次のとおりだ。
0.72ドル ×(0.89ドル ÷ 2.45ドル)≒ 0.26ドル
つまり、観測された訪問あたり売上が変わらない場合、ChatGPT広告のクリック単価が約0.26ドルであれば、Google検索広告と同程度の広告費あたり売上を得られる計算になる。
研究チームはサイト単位のデータを復元抽出する方法で、この試算の不確実性も評価した。Google検索広告のクリック単価を0.72ドルに固定した場合、ChatGPT広告の同等水準となるクリック単価について、試算結果の中央95%は0.05〜0.57ドルだった。詳細は論文の付録J・Kに示されている。ただし、この比較はクリックと訪問をほぼ同じものとして扱い、両広告経由の売上に対する利益率も同程度と仮定している。
一方、広告運用会社Opascopeが2026年6月15日に公開した事例では、拡大対象に選んだChatGPT広告キャンペーンについて、15日間の平均クリック単価は1.72ドルだった。広告費は約6万ドル、計測された売上は約8万9000ドルで、広告費1ドルあたりの売上は1.49ドル、購入率は2.35%と報告されている。ただし、これは特定のアカウントで成果を踏まえて拡大したキャンペーンの実績であり、ChatGPT広告全体の平均を示すものではない。
この1.72ドルをChatGPT広告のクリック単価として固定し、Google検索広告と同じ広告費あたり売上を得るために必要な売上を逆算すると、次のようになる。
1.72ドル ×(2.45ドル ÷ 0.72ドル)≒ 5.85ドル
ChatGPT広告がクリック単価1.72ドルでGoogle検索広告と同等の費用対効果を達成するには、1訪問あたり約5.85ドルの売上が必要になる。これは今回の研究で観測された0.89ドルの約6.6倍に相当する。
ただし、この5.85ドルは研究で観測された売上と、別の広告運用会社が報告したクリック単価を組み合わせた試算値だ。異なる広告主やキャンペーンの数字を使用しているため、ChatGPT広告全体の実際の損益分岐点を示すものではない。計算の基礎となったデータは、論文の付録Jの表J.1、付録L、およびOpascopeの公開事例に基づく。
ChatGPTへの広告導入で自然流入は減少したのか
研究チームは広告経由の売上に加え、ChatGPTへの広告導入が、回答内のリンクを経由して外部サイトに訪れる自然流入に影響したかどうかも分析した。この分析では広告の売上比較とは別に1,898サイトを対象とし、60週間で全経路から約100億件の訪問を観測した。そのうち約2,240万件が、ChatGPTの回答内のリンクをクリックして発生した自然流入だった。
ChatGPT広告は米国で2026年2月9日に始まり、日本と韓国では6月19日に導入された。一方、EUでは観測期間中に広告が導入されなかった。研究チームはこの導入時期の違いを利用し、広告導入地域と未導入地域の自然流入の変化を比較した。
分析では、同じサイトへのGoogle自然検索からの訪問も比較対象として使用した。サイト自体の人気が高まれば、Google検索からもChatGPTからも訪問が増える可能性があるためだ。サイト、訪問元の国、端末ごとに両経路の動きを週単位で比較し、広告未導入のEUを基準に、導入地域でChatGPTからの自然流入がどの程度変化したかを推定している。また、広告導入済みの地域を別の地域の未導入時の対照として扱わないようにした。
ただし、導入時期が遅い地域ほど導入後の観測期間が短く、そのまま平均すると地域ごとの重みが導入前後で変わる。この影響を調べた付録Fの表F.1では、導入後最長13週間の同じデータについて、地域の重み付けを変えた推定を示している。
| 推定方法 | ChatGPT自然流入の変化 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 元の推定 | −5.9% | −12.6%〜+1.2% |
| 地域の重みを導入前後で統一 | −3.9% | −10.4%〜+3.0% |
地域の重みをそろえると、自然流入の推定減少幅は5.9%から3.9%へと2.0ポイント縮小した。ただし、どちらの推定でも95%信頼区間にゼロが含まれているため、広告導入によって自然流入が減少したと統計的に断定することはできない。また、この2.0ポイントの差自体が統計的に有意かどうかも、表の数字だけでは判断できない。
この分析には、広告が導入されなければ、Google自然検索を基準としたChatGPTからの自然流入が、導入地域とEUで同じように推移していたという前提がある。仮に広告導入地域でChatGPT自体の利用がEUより速く伸びていれば、広告による自然流入の減少を過小評価する可能性がある。
そこで研究チームは、北米と欧州のChatGPT利用の伸びの違いを参考に、広告導入地域の利用が年6%、または12%速く増える条件でも計算した。その結果、自然流入の変化はそれぞれ−7.2%、−8.4%と推定された。広告導入の影響を評価する際には、地域ごとの利用拡大ペースをどう仮定するかによっても結果が変わる。
日本と韓国の広告導入後9週間に限ると、自然流入の推定変化は+13.6%だった。ただし、95%信頼区間は−6.1%〜+37.5%と広く、増加したと断定できる結果ではない。また、広告導入地域全体では、ChatGPT自然流入の購入率からGoogle自然検索の購入率を引いた差が、導入後に0.024ポイント低下したと推定された。ChatGPT側の導入前の購入率は2.21%で、この変化も統計的に明瞭ではなかった。
したがって、今回の分析から、広告の導入がChatGPTの自然流入や購入率に明確な悪影響を与えたとは結論付けられない。研究チームが把握できたのは、広告導入地域における訪問数や購入率の変化であり、個々の利用者が広告を見たか、回答をどう受け止めたか、ChatGPTへの信頼が変化したかまでは追跡していない。
ChatGPT広告で無料利用を支えるには、収益性の改善が課題
OpenAIは2026年8月31日、ChatGPT広告の売上が年換算で10億ドルのペースに達し、ChatGPTの週間利用者数が10億人を超えたと公表した。研究チームは、この広告収入で無料利用者の推論コストをどこまで賄えるかについても試算している。
試算では週間利用者を10億人、無料利用者の割合を95%と仮定した。年換算の広告売上10億ドルを無料利用者約9億5,000万人で割ると、1人あたり年間約1ドルとなる。ただし、これは特定時点の広告収入ペースを年換算し、仮定した無料利用者数で割った数字であり、実際の年間収入を示すものではない。
研究チームは付録Pで、外部報道に基づき無料利用者1人あたりの年間推論コストを約5ドルと仮定した。さらに、広告表示回数を増やすことで収益を補えるかについて、次の条件で計算している。
- 無料利用者1人が、購入につながりうる質問を年間511件行う
- 対象となる質問1件につき広告を1枠表示する
- 広告のクリック率は0.50%
- クリック単価は、研究で求めた同等水準の0.262ドル
この条件では、無料利用者1人あたりの年間広告売上は次のようになる。
511回 × 0.50% × 0.262ドル ≒ 0.67ドル
推論コストとして仮定した年間5ドルを広告収入だけで賄うには、クリック率と単価が変わらないとすると、購入につながりうる質問1件あたり平均約7.5枠の広告表示が必要になる。ただし、広告枠を増やしてもクリック率が維持されるとは限らず、この数字は収益構造を考えるための単純化した試算である。
OpenAIも広告の収益性を改善するため、新たな表示方法や効果測定を検討している。2026年10月5日には、画像生成中に広告を表示する試験を公表した。また、広告によって売上などがどれだけ増加したかを測定するため、計測事業者と協力して地域単位の実験を模索する方針も示している。10月21日には、会話の複数のやり取りから文脈を把握して広告を選択する仕組みについて、回答生成の処理とは分離していると説明した。
今後、広告を表示する場面やターゲティングの仕組みが変われば、クリック率や購入率も変化する可能性がある。ただし、広告主にとって重要なのは、クリック直後の購入だけでなく、広告を見た後に別の経路から購入したケースも含めて、広告が実際に売上をどれだけ押し上げたかを把握することだ。
今回の研究は、初期のChatGPT広告がGoogle検索広告に比べて訪問あたり売上で劣っていたことを明らかにした一方、その差が広告そのものの効果によるのか、広告主や商品、利用者の違いによるのかまでは特定できていない。地域単位の比較実験などによって広告の純粋な売上増加効果が測定されれば、広告主は費用対効果をより正確に判断できるようになる。OpenAIにとっても、利用者あたりの広告収入と推論コストを比較することで、広告事業が無料版ChatGPTの運営をどこまで支えられるかを見極める重要な材料となる。



