NVIDIAのJensen Huang CEOは、2026年9月14日公開のAll-In Podcastで、中国は2030年までに先端露光装置へ「到達する」と予測した。Tom's Hardwareが伝えた発言によれば、Huang氏は中国の大量生産能力を理由に挙げ、「2〜3年はほんの一瞬だ」との見方も示している。だが、公開された質問と回答が指すのは「先端露光装置」であり、液浸深紫外線(DUV)露光か極端紫外線(EUV)露光か、試作機か量産機かは定義されていない。2030年という数字を評価するには、まず「到達」が何を意味するのかを分けて考える必要がある。
2030年に「到達」とは何か
露光装置の開発には、同じ「成功」でも異なる段階がある。EUVを発生させること、ウェハー上に回路を露光すること、同じ性能の装置を繰り返し製造すること、顧客の量産ラインで認定を受けることだ。最初の段階と最後の段階では、技術的な難易度も事業上の意味も大きく異なる。
Huang氏は発言の中で、これらの段階を明確に区別していない。したがって、「2030年までにEUV露光装置の試作機が作動する」という予測と、「2030年までにASMLの代替となる量産能力を持つ」という予測を同じものとして評価することはできない。前者なら1台の実証機が基準になり得るが、後者には複数台の供給、安定稼働、保守まで求められる。
発言者の立場も考慮すべきだろう。NVIDIAは中国市場へのアクセスと米国の半導体輸出政策に事業上の利害を持つ。Huang氏の見方は、中国の製造能力を長期的に評価した戦略的な予測であり、露光装置メーカーが示した開発計画ではない。予測を退ける理由にはならないが、確定したロードマップとして受け取る根拠もない。
液浸DUVとEUVを同じ物差しで測らない
中国政府調達網は2025年12月25日、上海微電子装備(SMEE)製のステップ・アンド・スキャン露光装置「SSC800/10」1台を1億999万9850元で調達したと公示した。型番を持つ国産装置の商取引が成立したことは確認できる。一方、公示には解像度、重ね合わせ精度、処理能力、用途が記載されておらず、先端半導体の量産に使える性能を備えているかまでは判断できない。
上海市の2024年版重要技術装備目録は、300mmウェハー対応のArF露光装置について、光源波長193nm、解像度65nm以下、重ね合わせ精度8nm以下という指標を掲げた。これは製品の実測値ではなく、政策目録で示された要求水準である。SSC800/10の仕様や、報じられた中国製液浸DUV露光装置の実際の性能と同一視することはできない。
液浸DUVとEUVは、どちらか一方がもう一方を完全に置き換える関係でもない。EUVは先端チップの複雑な層を少ない露光回数で形成する一方、量産工程の多くの層では液浸DUVが使われる。中国が液浸DUVを国産化してもEUVの課題は残り、EUV露光装置の試作機が動いても、DUV露光装置の量産能力は引き続き必要になる。
中国の公的資料が示す要素技術の蓄積
上海市科学技術委員会は2023年の回答で、中国が2008年、2012年、2018年にEUV露光関連の国家課題を開始したと説明している。対象はEUV光源と投影光学に加え、磁気浮上式ウェハーステージ、レジスト、計測技術にも広がる。研究プラットフォームや特許も整備されており、中国の取り組みが光源だけに限られていないことは公的資料から読み取れる。
ただし、この回答は完成したEUV露光装置の存在や量産実績を示すものではない。波長13.5nmのEUVは空気や通常のレンズに吸収されるため、装置内部を真空にし、多層反射鏡で光を導く必要がある。光源、反射光学、マスクなど各工程を統合し、ウェハーステージを高速かつ高精度に同期させて初めて露光装置として機能する。個々の要素技術に研究基盤があることと、統合された商用機を完成させることは別の段階である。
Reutersは2025年12月、深圳の機密施設でEUV露光装置の試作機が同年初頭に完成し、EUVを生成したと複数の関係者に基づいて報じた。だが、同機は作動するチップをまだ製造しておらず、装置仕様や第三者による測定値も公開されていないという。中国政府は2028年に作動するチップを得る目標を掲げる一方、計画に近い関係者は2030年がより現実的とみているとReutersは伝えた。ここでいう2030年は、最初の作動チップに関する見通しであり、量産開始やASMLと同等の性能を実現する時期を示すものではない。
試作機から量産まで、2030年までに残る工程
ASMLは2010年のEUV試作機出荷から2013年の生産機出荷を経て、100台目の出荷まで約10年を要した。中国で報じられた試作機が完成した2025年初頭から2030年までは約5年であり、Huang氏の予測が量産能力までを意味するのであれば、ASMLがたどった成熟化の過程をおよそ半分の期間で進める必要がある。ただし、中国は既存の技術知識や人材を利用でき、装置の性能目標も同一とは限らないため、この比較だけで成否を判断することはできない。
ASMLの公式史では、初のEUV試作システムNXE:3100を顧客へ出荷したのが2010年、初のEUV生産システムNXE:3300を出荷したのが2013年である。2020年初頭には累計100台に達した。ASMLは17年間で60億ユーロを超える研究開発費を投じ、EUV露光技術全体の開発には20年以上を要したと説明している。
この時間軸は、中国の完成時期をそのまま予測するための基準ではない。中国は公開済みの技術知識を参照でき、Reutersは元ASML技術者や中古部品も計画に活用されたと報じている。一方、ASMLの100台目の出荷と、中国の最初の作動チップでは到達段階が異なる。比較から言えるのは、中国が2030年までに量産能力へ進む場合、EUVの生成後に残る装置統合、再現性の確保、顧客認定といった工程を短期間でクリアしなければならないということだ。
量産装置を決めるのは解像度だけではない
ASMLが2025年に販売した装置は、EUV露光装置48台、液浸DUV露光装置279台だった。EUV量産機NXE:3800Eは、フル仕様で毎時220枚の処理能力を持ち、既設機も同じ水準へ更新された。ASMLは同機の処理能力を従来機から37%高めたとしている。量産能力は、1枚のウェハーにパターンを描けたかどうかではなく、要求される精度を維持しながら何枚を継続して処理できるかで決まる。
液浸DUV露光装置にも同じことが言える。ASMLのNXT:2100iは、ナノメートル級の重ね合わせ精度を掲げる。位置合わせセンサー、レンズの動的補正、温度制御、計測機能を連動させ、前工程で形成したパターンの上に次の層を正確に重ねる。光源の波長や最小解像度だけを比較しても、歩留まりや稼働率までは分からない。
中国製装置の評価に必要なのは、メーカーが掲げる最小線幅だけではない。ウェハーの毎時処理枚数と重ね合わせ精度を同じ条件で示し、長時間運転時の稼働率や歩留まりを顧客工場で再現できるか。さらに、複数台を納入し、部品交換やソフトウェア更新を支えるサービス網を構築できるか。こうしたデータが公開されて初めて、「量産へ到達した」という主張を検証できる。
輸出管理が強める動機と、残る開発課題
オランダ政府は2024年9月7日から、先端の液浸DUV露光装置の輸出許可対象を拡大した。政府は申請を安全保障上の観点から個別に審査する。全面的な輸出禁止ではないものの、中国の半導体メーカーにとって、先端装置とその保守を海外企業に依存するリスクは高まった。国産装置の開発を急ぐ経済的、政策的な動機は強い。
しかし、必要性が高まったからといって、開発期間が自動的に短くなるわけではない。輸出管理は資金、人材、政策支援を国産化へ集中させる一方、海外製の重要部品や計測機器を入手しにくくする可能性もある。中国が大量生産を得意とするというHuang氏の評価が意味を持つのは、統合設計が固まり、同じ性能の装置を繰り返し製造できる段階に入ってからである。
Huang氏の予測を評価する二つの基準
2030年という予測は、何をもって「到達」とするかによって評価が変わる。Reutersが報じた試作機が実在し、すでにEUVを生成しているのであれば、今後4年ほどでウェハーを露光し、作動するチップを得る可能性は残されている。上海市の公的資料も、長期にわたる要素技術の蓄積を示している。
一方、基準を顧客認定済みの量産装置まで引き上げると、現時点で公開されている証拠は十分ではない。処理能力、重ね合わせ精度、稼働率、歩留まりは公表されておらず、同一性能の装置を複数台納入した実績も確認できない。Huang氏の発言がEUVにも量産にも限定されていない以上、「2030年にASMLへ追いつく」と言い換えるのは、元の発言よりも意味を強めすぎる。
評価を変えるのは、新たな宣言ではなく実際の工程データである。中国製EUV露光装置がウェハー上にパターンを形成し、実用的な毎時処理枚数と重ね合わせ精度を示し、さらに顧客工場で複数台が認定される。その順に証拠がそろえば、2030年という時期は単なる技術的な節目ではなく、産業上の転換点として意味を持つことになる。
