ガリウム・ゲルマニウム・リチウム——これらの金属なしに、現代の半導体もEVも成り立たない。中国はその世界供給の大部分を握り、2024年末には対米禁輸を発動した。代替供給源を探す米国と同盟国が苦慮する中、中国が次の手として整備しているのが採掘ゼロの生産モデルだ。石炭の燃焼後に残るフライアッシュや炭鉱廃石に、これらの金属が高濃度で含まれており、既存の石炭インフラをそのまま転用してゲルマニウムを90%の効率で回収する実証が内モンゴルですでに進んでいる。
石炭廃棄物が半導体・EVの原料に:フライアッシュに眠る金属の正体
中国の石炭火力発電所が年間排出するフライアッシュは数億トンに及ぶ。この灰の大部分はこれまで埋立処分されてきたが、近年の分析でゲルマニウム・ガリウム・リチウム・アルミニウムといった金属が濃縮されていることが明らかになっている。ゲルマニウムは光ファイバーケーブルや赤外線光学系、半導体デバイスに使われ、ガリウムは化合物半導体(GaAsやGaN)の基幹材料だ。リチウムはEVバッテリーの主要素材、アルミニウムは軽量合金として自動車・航空産業に広く使われる。
中国科学院院士で中国鉱業大学北京校教授のDai Shifengは「炭鉱廃棄物にはさまざまな金属元素が含まれており、重要金属の重要な供給源となり得る」と述べている。これは学術的な可能性の指摘にとどまらず、すでに実証段階に入っている。内モンゴル自治区の Mengtai Group は、フライアッシュと炭鉱廃石からアルミシリコン合金を製造し、エアコンや自動車部品向けに供給しているとされる。同社は2024年に1万トンのパイロット生産に成功し、現在は Jungar banner(准格爾旗)で100万トン規模の生産ラインを建設中とされる。規模の桁が1桁変わることで、石炭廃棄物の処理は「廃棄物管理」から「鉱物生産」へと性格が変わる。
なぜ石炭に金属が含まれるのか?億年単位の地質プロセス
石炭盆地の周囲には標高の高い地形が存在することが多く、そこに降った雨や河川が長期間にわたってゲルマニウム・リチウムといった微量金属を溶解し、盆地の湿地帯に流し込んできた。植物が堆積して石炭化する過程で、これらの金属も有機物と結合した状態で取り込まれる。
別のルートも存在する。火山活動で噴出した火山灰が風で石炭盆地に運ばれると、ニオブ・ジルコニウム・ガリウムといった金属が石炭層に混入する。石炭が発電所で燃焼すると有機物は二酸化炭素として放出されるが、金属は揮発せずフライアッシュとして残留する。燃焼過程での濃縮効果も加わり、フライアッシュ中のゲルマニウム含有量は原料炭の10〜数十倍に達することが学術研究で確認されている。億年かけて自然が濃縮した金属を、既存の発電所インフラの「後処理工程」として回収する——これが石炭廃棄物鉱物化の基本的な発想だ。
2016年には山西省寧武炭田で世界初とされる石炭伴産リチウムの大鉱床が発見された。この発見が、フライアッシュにとどまらず炭鉱廃石全体を資源として見直すきっかけになったとされる。

中国が持つ既存インフラの強み:90%回収率の実証
回収技術の核心は湿式製錬(ハイドロメタラジー)だ。フライアッシュを酸またはアルカリ溶液に溶解し、沈殿・溶媒抽出・イオン交換といった工程で目的金属を分離・精製する。学術文献では最適条件下でゲルマニウムの回収率が90%を超えることが報告されており、中国能源集団(China Energy Group)が内モンゴル自治区・錫林郭勒盟(Xilingol league)で90%の回収率を達成したとされる。
この数値が持つ意味は単純な技術指標を超えている。石炭火力発電所はすでに大規模な化学処理設備・輸送インフラ・人員体制を備えている。そこに湿式製錬の後処理工程を接続するだけで、追加的な採掘・粉砕・選鉱コストなしに重要鉱物を回収できる。採掘コストが主な障壁となる通常の鉱山開発とは、経済構造がまったく異なる。
南中国海報道(SCMP)によれば、山西省の Wintime Energy は2026年1月、省内の炭鉱で784万トンのボーキサイトと470トンのガリウムを確認したと報じられている。470トンという数値はガリウムの埋蔵量としては中規模鉱床に相当するが、この報道は現時点でSCMPのみが伝えており、独立した確認は取れていない。ただし数値の桁感は、フライアッシュ由来ガリウムの学術的な推計値と矛盾しない。
最大の壁は「石炭の混合問題」商業化への課題
発電所には複数の産地から石炭が混合投入されるため、フライアッシュの組成が炉ごと・日ごとに変動する。ゲルマニウムが豊富な石炭と貧しい石炭が同一炉で燃やされると、フライアッシュ全体の品位が希釈され、抽出プロセスの設計が困難になる。
湿式製錬の各工程は対象金属の濃度・共存元素の種類に応じて最適化されており、原料の変動は収率と純度の両方に影響する。現実の発電所では石炭の調達先が電力需要・価格・輸送コストによって日常的に変わるため、原料の均一化は容易ではない。この問題は中国だけの課題ではなく、米国・オーストラリア・ロシアも石炭廃棄物からの重要鉱物抽出を研究しているが、商業規模での解決には至っていない。
中国が他国と異なるのは、複数の金属を同時に抽出する多金属回収の実証が進んでいる点とされる。ゲルマニウム単体の回収ではなく、アルミニウム・ガリウム・ゲルマニウムを並列で回収する工程設計が経済合理性を高める。単一金属では採算が合わなくても、副産物として複数の金属が取れれば全体の収支が変わる。この発想は、廃棄物処理コストを「重要鉱物の製造コスト」に転換するという経済モデルの根幹でもある。
歴史的には、第二次世界大戦後に米国・ソ連が核産業向けのウランを石炭から抽出した時期があった。その技術は後に廃れたが、重要鉱物の需要構造が変化した現在、石炭廃棄物を資源として見直す動きは一種の「再発見」でもある。
重要鉱物サプライチェーンを変える潜在力——対米文脈での意味
中国は2014年以降、世界のガリウム一次生産の90%超を担ってきた。2023年から段階的に強化された輸出規制は、2024年12月の対米禁輸発動で頂点に達した。現在は2025年11月から2026年11月まで一時停止しているが、この猶予の間に中国が国内供給基盤を拡充しているという構図は見逃せない。
フライアッシュからの重要鉱物回収が商業スケールで定着すれば、中国のガリウム・ゲルマニウム生産は採掘依存から廃棄物依存へと重心が移る。廃棄物処理は環境規制上の義務でもあるため、生産コストの一部が社会的コストとして相殺される。言い換えると、重要鉱物の生産が採算悪化に強くなる。
米国が代替供給源の確保を急ぐ間、中国はすでに稼働中の石炭インフラをベースに、採掘コストゼロの鉱物供給路を静かに整備している。Mengtai Group の100万トン生産ラインが軌道に乗る時期は、対米禁輸の交渉カードの重さが変わる転換点になる可能性がある。石炭廃棄物という「ゴミの山」が戦略資産になるかどうかは、混合問題の克服と生産規模の拡大にかかっている。