Anthropicは、AIコーディングツール「Claude Code」でClaude Opus 5.5を使用する際の指示に、他者の既存ゲームを再現しないよう求める2文を追加した。同社のAddy Osmani氏が2026年10月30日(日本時間31日)にXへの投稿で明らかにしたもので、知的財産権を侵害する目的でのClaudeの利用を禁じる既存のポリシーを、コード生成時の振る舞いに反映したという。
ただし、これはゲーム開発全般を禁止する変更ではない。Anthropicは、オリジナルのゲームや特定ジャンルに属するゲーム、利用者自身の設計や素材に基づくゲームの開発は、引き続き可能であるべきだと説明している。一方、GitHubでは受託開発中のゲーム関連プロジェクトで作業を拒否されたという報告も寄せられており、制限が意図しない場面に及んでいる可能性がある。今回の変更を理解するには、既存ゲームの再現と独自制作の違いに加え、受託制作における権利関係や、セキュリティ分野のリバースエンジニアリングに適用される別の制度を区別する必要がある。
Claude Codeに追加された2文は、何を制限するのか
AnthropicのOsmani氏は、Claude CodeのOpus 5.5向けプロンプトに2文を追加し、他者の特定ゲームを再現するようなコード生成を避けるようにしたと説明した。同氏によれば、知的財産権を侵害する目的でClaudeを利用することは、従来から同社の利用ポリシーに違反している。今回の変更は、その方針をゲーム開発に関する応答へ具体的に反映したものだ。
一方、Osmani氏は、オリジナルのゲームや既存ジャンルの特徴を取り入れたゲーム、利用者自身が設計・制作した素材を使うゲームは、引き続き開発できる想定だと明言している。例えば、特定ジャンルに共通する仕組みを参考にしながら独自のゲームを作ることと、他者の既存作品そのものを再現することは区別される。今回の指示は「ゲームを作る」という依頼全般を禁止するものではなく、特定作品の再現を避けることを目的としている。
ゲーム開発専門メディアのGame Developerによる報道では、XユーザーのChasm氏が、Claude Codeに追加された新たな指示を発見したと伝えている。指示には、既存ゲームの名称を変更したり、オリジナル作品だと説明したりしても、特定ゲームの再現を行わないという趣旨が含まれていた。Chasm氏によれば、この指示は10月27日ごろに追加されたとみられ、利用者側で無効にする設定も確認できなかったという。Game Developerの取材に対し、Anthropicの広報担当者はOsmani氏の投稿を案内しており、同氏の説明によって変更の存在が確認された。
ただし、Anthropicが説明したのはClaude CodeのOpus 5.5向けプロンプトへの変更であり、Claudeのすべてのモデルや製品に同じ指示が適用されたと発表したわけではない。また、モデル自体を再学習させたという説明でもなく、新しい利用規約の制定を発表したものでもない。あくまで、コード生成時にモデルへ与える指示を変更したという位置づけだ。
今回の変更と、Anthropicが別途提供するセキュリティ分野のアクセス制度を整理すると、次のようになる。
| 用途 | Anthropicの説明 | 対象・条件 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 他者の特定ゲームの再現 | 再現を避けるよう誘導 | Claude CodeのOpus 5.5向け指示 | Claudeの全モデルへの適用が確認されたわけではない |
| オリジナルゲーム、ジャンルに基づくゲーム、自分の設計・素材による制作 | 引き続き開発できる想定 | Osmani氏が継続対象として明示した制作 | 個々の依頼が必ず受け入れられる保証ではない |
| 防御目的のマルウェア解析 | リバースエンジニアリングを対象用途に含める | Cyber Verification ProgramのDefense Access。資格や権限などの条件がある | ゲーム制作に対する例外制度ではない |
この違いは、10月30日のOsmani氏の投稿と、Anthropicが10月6日に発表したCyber Verification Programの拡張から確認できる。同じコード生成や解析の作業でも、対象となるソフトウェア、利用目的、アクセス権限によって適用される条件は異なる。特定の依頼が拒否されたという事実だけで、その作業が違法だと判断されたわけでもない。
受託制作の拒否報告、「ライセンス済み」という説明は訂正されていた
Claude Codeの公式GitHubに投稿されたIssue #106167では、ゲーム関連の受託開発を行っている利用者が、新たな指示によって作業を拒否されるようになったと報告している。投稿者のlerugray氏は、Conflict Simulations LLCという事業を運営し、顧客が所有するボードウォーゲームを、個人利用向けのデジタルモジュールとして有償で制作していると説明した。顧客から提供された素材を基に独自のコードを書き、制作したモジュールを一般向けに販売・配布することはないという。
ただし、この報告には重要な訂正がある。投稿者は10月30日、当初使用していた「licensed(ライセンス済み)」という表現が正確ではなかったと認め、出版社からライセンスを取得して制作しているわけではないことを明記した。顧客がゲームを所有していることを確認し、その顧客から素材の提供を受けているという説明と、著作権者や出版社から複製・翻案などの許諾を得ているという説明は異なる。したがって、この事例を出版社公認の開発まで拒否されたケースとして扱うことはできない。
一方、出版社からのライセンスがないという事実だけで、個々の制作行為が直ちに違法だと確定するわけでもない。問題となる行為や利用される素材、権利関係などによって法的な評価は異なるためだ。今回の報告から確認できるのは、顧客によるゲームの所有を確認して受託制作を行っているという投稿者の説明と、その作業をClaude Codeが拒否するようになったという申告までである。
拒否が始まった経緯にも注意が必要だ。投稿者の続報によると、新しい指示が導入されたとされる10月27日以降も、しばらくは従来どおり作業を続けられていた。しかし、公開された指示についてClaude自身に確認を求めたところ、それ以降は同じ開発作業を拒否するようになったという。複数の端末や、有料のMaxプランとTeamプランでも同様の問題が発生したと報告している。
この説明が正しければ、新しい指示の導入だけで直ちに作業が停止したのではなく、モデルに自身の判断基準を確認させたことが、拒否の発生に関係した可能性がある。ただし、独立した再現試験やAnthropicによる内部原因の説明はなく、追加された2文が個々の拒否を直接引き起こしたと断定することはできない。投稿者は、問題を解決するために、制限内容の明確化や誤判定を申し立てる仕組み、受託制作の権限を確認する制度などを求めている。
Anthropicは以前から、コンテンツフィルタリングによる出力拒否についてのヘルプで、拒否が必ずしもコンテンツの適切性に対する同社の判断を意味するわけではないと説明している。既存の著作物を複製・再出力することを防ぐ仕組みのため、利用者に複製の意図がなくても拒否が発生する場合があるという。もっとも、この一般的な説明だけで、今回の受託制作に対する拒否が誤判定だったと確定することもできない。実際に拒否されたという報告と、その理由が正当だったかどうかは分けて考える必要がある。
リバースエンジニアリングも全面禁止されたのか
ゲームの再現を避ける指示とは別に、Claudeがリバースエンジニアリング全般を扱わなくなったのではないかという懸念もある。しかし、Anthropicは2026年10月6日にCyber Verification Program(CVP)を拡張し、防御目的のリバースエンジニアリングを明示的に対象用途へ含めている。プログラムの仕組みを解析する作業そのものを、Claudeのすべての利用者に対して一律に禁止したわけではない。
CVPは、一定の資格や条件を満たすセキュリティ専門家に対し、高度なサイバーセキュリティ機能や、通常よりも制限を緩和したアクセスを認める制度だ。拡張されたプログラムには複数のアクセス区分が設けられており、このうちDefense Accessでは、マルウェアのリバースエンジニアリング、インシデント対応、脆弱性の分析・検証などが対象となる。企業や大学、政府機関のセキュリティチームだけでなく、一定の実績を持つ個人研究者なども申請対象に含まれる。ただし、利用には資格の確認や必要なセキュリティ管理策などの条件があり、誰でも同じ機能を制限なく利用できるわけではない。
また、Anthropicは通常提供のモデルでも、コードレビュー、既知の問題の修正、自分が所有するソースコードの脆弱性発見、セキュリティ警告の一次分析などは引き続き利用できると説明している。こうした一般的な開発・保守作業に、すべて特別な認証が必要になったわけではない。高度なサイバー機能へのアクセス制御と、通常のコード解析や修正に関する利用条件は区別されている。
ただし、CVPの存在は、ゲーム制作に関する制限の例外が認められることを意味しない。今回のゲーム再現を避けるプロンプト変更と、サイバーセキュリティ用途のアクセス制御やブロック判定が、同じ仕組みで管理されているかも確認されていない。Defense Accessで防御目的のマルウェア解析が認められることを根拠に、ゲームの複製や移植も同じ条件で認められると解釈することはできない。両者は対象となる作業も制度上の位置づけも異なる。
独自ゲームの開発は継続可能、今後は拒否判定の精度が焦点に
AnthropicのOsmani氏は、他者の知的財産権を保護することと、正当なゲーム開発を妨げないことのバランスを取るため、今後も調整を続けると説明している。また、自分自身の作品を開発しているにもかかわらずClaude Codeに拒否された場合は、具体的な事例を知らせてほしいと呼びかけた。オリジナル作品の制作を認めるという方針は明確だが、実際の応答がその意図に沿っているかどうかは、引き続き改善が必要な段階にある。
開発者にとって重要なのは、制作対象と権利関係を明確にしたうえで、拒否が発生した状況を具体的に記録することだ。オリジナル作品なのか、既存ジャンルを参考にした作品なのか、それとも特定ゲームの移植・再現なのかによって、依頼の性質は異なる。受託制作であれば、依頼主が何を所有し、どのような権限や許諾に基づいて素材を使用しているのかも重要になる。拒否を報告する際には、使用したモデルやClaude Codeのバージョン、拒否が始まった操作などを添えることで、開発内容と発生条件を区別しやすくなる。
もっとも、こうした情報を説明すれば必ず制限が解除されるという保証はない。また、ゲーム開発の技術的な内容が同じでも、作品の権利関係や素材の出所によって判断が変わる可能性がある。今回の変更がどの程度正確に既存作品の再現と独自制作を区別できるかは、今後の利用者からの報告とAnthropicによる調整結果を確認する必要がある。
Claude Codeの今回の変更は、AIによるゲーム開発そのものを禁止するものではなく、他者の特定作品の再現を避けるための措置だ。一方、受託制作に対する拒否報告は、利用者の権利関係や制作意図をAIが適切に判断することの難しさも浮き彫りにしている。今後の焦点は、知的財産権の侵害を防ぎながら、独自作品や正当な開発作業を不必要に妨げない仕組みを、Anthropicがどこまで整備できるかにある。



