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Tesla「Optimus」ロボットの生産に暗雲、中国レアアース規制の影響

Y Kobayashi

2025年4月24日

Teslaのヒューマノイドロボット「Optimus」の生産が、中国政府による新たなレアアース輸出規制によって予期せぬ壁に直面していることが明らかになった。Elon Musk CEO自身が決算説明会でこの「磁石の問題」に言及し、同社の未来の柱と位置づけるロボット事業の先行きに不透明感が漂っている。Teslaは現在、事業継続に必要な重要物資の確保のため、中国当局との間で輸出ライセンス取得に向けた協議を進めている状況である。

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中国政府の輸出規制がOptimusを直撃

TeslaのElon Musk CEOは、2025年第1四半期の決算説明会において、ヒューマノイドロボット「Optimus」の生産が、中国からのレアアース磁石の供給問題によって影響を受けていることを認めた。「我々はその件について中国側と協議を進めている」とMusk氏は述べ、「レアアース磁石を使用するためのライセンスを取得できることを期待している」と語った。

この問題の背景には、中国政府が4月初旬に施行した新たな輸出管理措置がある。これは、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムを含む7種類のレアアース(希土類)元素および関連磁石製品を対象とするものである。これらの素材は、ロボット工学のみならず、防衛、エネルギー、自動車技術、さらには半導体製造、レーザー、レーダー、ジェットエンジンなど、多岐にわたるハイテク産業にとって不可欠な要素なのだ。

新たな規制下では、これらのレアアースおよび関連製品を輸出しようとする企業は、中国商務省から事前に輸出ライセンスを取得する必要がある。報道によれば、この措置は、米国のTrump政権による中国製品への関税引き上げに対する報復措置と見られている。

Musk氏によると、中国政府がライセンス発行の条件として求めているのは、「これらの(レアアース)磁石が軍事目的で使用されないという保証」であるという。「もちろん、それらは軍事目的ではない。単にヒューマノイドロボットに使われるだけだ」とMusk氏は説明し、「これは兵器システムではない」と付け加えた。

しかし、Optimusが家庭用として設計されているとしても、その人型デザインは他の用途への転用可能性を内包しており、中国側が「軍事用途」と見なす可能性がある。さらに、Musk氏が率いるSpaceXが米軍と契約を結んでいることや、Musk氏自身がDOGE(Department of Government Efficiency、政府効率化省)を通じてTrump大統領と直接連携しているとされる関係性が、中国当局の判断に影響を与える可能性も否定できない。

Optimus生産計画への影響とTeslaの対応

今回の供給問題は、Teslaが大きな期待を寄せるOptimusの生産計画に影を落としている。Musk氏は以前、Optimusを年内に約5,000台生産し、自社の電気自動車(EV)工場に導入する計画を発表していた。

決算説明会でMusk氏は、この「磁石の問題」が生産の遅延要因となっていることを示唆した。「新しい複雑な製造製品は、全体の中で最も遅く、最も運の悪い部品の速度でしか進まない」と、サプライチェーンの複雑さと生産立ち上げの難しさを説明した。Optimusには約1万点のユニークな部品があるとされ、モーター、ギアボックス、電子部品、アクチュエーターなど、AIコンピュータを除くほとんどの部品で既存のサプライチェーンが存在しないという。

それにもかかわらず、Musk氏は投資家に対し、年内に数千台のOptimusを生産し、同様に数千台をTeslaの工場に配備する計画は維持していると強調した。しかし、当初の「5,000台」という具体的な数字から「数千台」へとトーンダウンした感は否めない。生産立ち上げの予測について、Musk氏は「本当に新しい製品の生産立ち上げを正確に予測できると言う者は、自分が何を話しているのか分かっていない」とも述べている。

Teslaは現在、ライセンス取得に向けて中国当局との協議を継続しているが、その結果は不透明だ。この問題が、当初計画されていた生産規模や、2026年に予定されているかもしれない外部顧客への販売開始時期にどの程度影響を与えるかは、現時点では明らかになっていない。

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レアアース市場における中国の支配力と代替の難しさ

今回の問題がTeslaにとって深刻なのは、ロボットの性能を左右する強力な磁石に不可欠なレアアースの供給を、中国がほぼ独占しているという現実があるためだ。Center for Strategic & International Studies (CSIS) によると、米国には中国からの供給不足を補う準備が整っていない。

中国は2023年に世界のレアアース生産量の約70%を占め、特にパワーチップに重要なガリウムに至っては世界供給量の94%を中国が供給している。長年にわたる採掘と精製への投資により、中国はコストと品質の両面で他国の追随を許さない地位を築いている。そのため、Teslaや他の企業が代替供給源を見つけることは極めて困難な状況だ。

中国が国内のレアアース資源に対する国家管理を強めていることも、状況をさらに複雑にしている。今回の輸出規制強化は、多くの輸出業者にとって遅延をもたらすと予想されていたが、Teslaは計画と生産への具体的な影響を公に認めた最初の主要企業の1社となった。

Teslaの将来戦略と競争環境への影響

Musk氏は、Optimusと自動運転車がTeslaの将来の基盤であると繰り返し強調してきた。「会社の未来は、根本的に大規模な自動運転車と、大規模・大容量かつ膨大な数の自動運転ヒューマノイドロボットにかかっている」と決算説明会で述べている。長期的には、Optimusの年間生産台数を2029年か2030年までに100万台に到達させたいという野心的な目標も掲げており、将来的には自動車事業よりも大きな収益源になると予測している。

現在、Teslaの主力であるEV事業は、競争激化や需要鈍化により苦戦しており、株価も年初来で約37%下落している。このような状況下で、Optimusは投資家の期待をつなぎとめ、新たな成長エンジンとなることが期待されている重要なプロジェクトである。

しかし、今回のレアアース規制は、Teslaにとって新たな逆風となる可能性がある。特に、中国国内ではUnitree RoboticsやAgiBotといったヒューマノイドロボット開発企業が急速に台頭しており、両社ともに年内の量産開始を目指していると報じられている。輸出規制によって、これらの中国企業が米国企業に対してさらに有利な立場を得る可能性がアナリストから指摘されている。Musk氏自身も、競争相手は主に中国企業になるとの見方を示しており、リーダーボードが中国企業で埋め尽くされることへの懸念を表明している。

さらに、米中間の貿易摩擦は、Teslaの他の事業にも影響を及ぼしている。Musk氏は決算説明会で、Trump政権による関税が、中国からリチウム鉄リン酸(LFP)バッテリーセルを輸入しているTeslaのエネルギー貯蔵事業に「特に大きな影響」を与えていると述べた。これに対応するため、Teslaは米国内でLFPバッテリーセルを製造するための設備の試運転を進めているという。

中国のレアアース輸出規制は、単なる部品供給の問題にとどまらず、米中間の技術覇権争い、サプライチェーンの脆弱性、そしてTesla自身の将来戦略をも左右しかねない複雑な様相を呈している。Optimusが予定通りに生産ラインを稼働させ、Teslaの工場、そしていつかは一般家庭へと導入されるためには、まずこの「磁石の問題」という難関をクリアする必要がある。


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