Deep Fissionは2026年10月20日、米カンザス州の工業団地を所有するGreat Plains Development Authority(GPDA)と、地下原子炉で発電した電力を対象とする25年間の基本電力購入契約を締結したと発表した。2025年12月の意向書から法的拘束力のある正式契約へ進展したが、購入量は入居企業の需要に応じて決まり、最低購入義務は設けられていない。初期段階で最大150MW、その後は需要の拡大に合わせて最大2GWまで供給能力を増やす計画だ。一方、同日公表された量産段階の経済モデルは、想定発電量の全量を販売することを前提としている。今回の契約がどの程度の継続収益につながるかを判断するには、契約期間や供給容量だけでなく、実際の購入量や販売価格を見極める必要がある。
25年間の電力購入契約、購入量は入居企業の需要次第
GPDAが所有するGreat Plains Industrial Parkは、カンザス州パーソンズにある旧米陸軍弾薬工場の跡地を利用した工業団地で、敷地面積は1万4000エーカーを超える。鉄道などの既存インフラを備えており、GPDAは安定した電力供給を企業誘致につなげたい考えだ。今回の契約により、発電設備を開発するDeep Fissionと、電力を利用する企業の誘致を担うGPDAとの間で、長期的な電力供給の枠組みが正式に整った。Deep Fissionの発表によると、契約は同工業団地で計画されている商用プロジェクトを対象としている。
契約では、Deep Fissionが所定の条件に従って開発を進め、必要な認可を取得して運転を開始した後、電力を供給する。一方、GPDAは入居企業の需要を満たすため、供給可能になった電力を契約容量の範囲内で購入する。また、一定の条件を満たす入居企業に電力購入義務を譲渡することも認められている。ただし、購入量は工業団地の実際の需要に左右され、最低購入義務は設けられていない。したがって、契約期間が25年であっても、その間に一定量の電力が継続して購入される保証があるわけではない。
初期段階の供給容量は最大150MWで、商業運転の開始目標は2028年9月30日とされている。発表資料の副題では2031年までに最大2GWへの拡張を掲げており、本文でも需要の増加に応じて合計2000MWまで段階的に供給能力を増やす計画が示されている。ただし、これらは今後整備する発電設備の容量目標であり、すでに稼働している設備の出力や、入居企業が購入を確約した電力量を示すものではない。
なお、同日公表された事業説明資料の12ページには、基本電力購入契約の締結日が10月16日と記されている。10月20日は契約の発表日であり、両者は区別する必要がある。意向書から正式契約へ移行したことは事業化に向けた明確な進展だが、収益の見通しを評価するには、実際の購入量と販売単価をさらに確認する必要がある。
110ドル/MWh、稼働率93%を想定する量産モデルとの違い
Deep Fissionが同日に公表した事業説明資料の16ページには、量産段階の原子炉を対象とした経済モデルが掲載されている。これは初号機の具体的な収支予測ではなく、設計の標準化や施工の反復によって効率化が進んだ段階を想定した試算だ。原子炉の設計寿命を40年、目標出力を15MWe、構成によっては8MWeとするほか、電力の販売価格や販売量についても一定の条件を設けている。
モデルが想定する初期販売価格は110ドル/MWhで、発電原価を示す数字ではない。また、この価格設定に関する説明は2024年の経済条件に基づいている。稼働率は約93%と仮定されているが、これはモデル上の運転時間の割合であり、完成した地下原子炉で実証された運転実績ではない。今回のGPDAとの契約条件と比較すると、特に電力の購入量に関する前提が異なっている。
| 比較項目 | 今回のGPDA契約 | 量産段階の例示モデル(事業説明資料16ページ) |
|---|---|---|
| 電力購入量 | 入居企業の需要に応じて契約容量まで購入。最低購入義務なし | 想定出力の全量を購入する契約を仮定 |
| 販売価格 | 発表に記載なし | 初期110ドル/MWhを仮定。価格の説明は2024年の経済条件に基づく |
| 稼働率 | 運転実績を示すものではない | 約93%を仮定 |
今回の契約には最低購入義務がない一方、量産段階の経済モデルは想定出力の全量を販売することを前提としている。また、モデル上の110ドル/MWhという価格が、今回の契約に適用される販売単価であることも確認できない。原子炉が想定どおりの稼働率を達成したとしても、発電した電力をすべて販売できるとは限らない。25年間という契約期間と最大供給容量だけでは、経済モデルが想定する販売量や売上を裏付けることはできない。
もっとも、契約発表には契約総額の記載がなく、すべての取引条件が明らかになっているわけではない。最低購入義務がなくても、入居企業の需要が十分に増えれば、継続的な電力販売につながる可能性はある。そのため、今回の契約だけを根拠に量産モデルの収益目標が達成できないと断定することも適切ではない。同様に、150MWや2GWという設備容量にモデル上の販売単価を掛け合わせ、今回の契約総額として扱うこともできない。
地下約1マイルに原子炉を設置する構想、実証試験は深さ30mまで
Deep Fissionが開発するのは、標準的な低濃縮ウランを燃料とする加圧水型原子炉を、地下約1マイルに設置する構想だ。事業説明資料の7ページによると、地下へ続く水柱と原子炉内部の圧力をともに約160気圧とし、3つの独立した閉ループを通じて熱を地上へ運ぶ設計となっている。地質や水柱を圧力の維持、遮蔽、冷却などに活用することで、地上に必要な設備を減らすことを目指している。地下への設置によって建設費用を削減できるという同社の説明も、この設計上の特徴に基づくものだ。ただし、実際の商用運転によって経済性が確認されたわけではない。
設置技術については、同社が9月3日に実物大の容器を使った試験を実施し、9月10日に結果を発表している。試験では、全長20フィート(約6.1m)の容器を、直径34インチ(約86cm)の掘削孔から深さ100フィート(約30m)まで下ろした。その後、容器の位置を調整し、地表へ引き上げる作業まで実施している。既存の商用掘削装置を使い、容器の設置から回収までの一連の工程を確認した点に意味がある。ただし、使用した容器は核燃料を含まない非核の実物大模擬容器であり、地下約1マイルで核反応を起こし、熱を取り出して発電する試験ではない。
原子炉の許認可についても、複数の段階を経る必要がある。Deep Fissionが9月15日に公表した安全設計合意に関する発表によると、米エネルギー省(DOE)による承認は、パイロット炉の安全審査における初期段階の手続きに当たる。DOEから運転許可を得るには追加の文書提出と審査が必要であり、商用化に向けては米原子力規制委員会(NRC)の認可も取得しなければならない。同社が公開している規制対応計画では、DOEの下で実証を進めた後、NRCによる商用認可を取得する道筋が示されている。また、実証に使った原子炉をそのまま商用運転へ移行させる方針も掲げている。
容器を地下へ設置・回収する技術と、地下深部で核反応を維持して発電する技術、さらに商用供給に必要な許認可は、それぞれ別の検証課題である。現時点の設置試験で確認された成果を、地下原子炉による商用発電の実証と同一視することはできない。また、需要に応じて購入量が決まる契約と、全量販売を前提とした経済モデルを比較する際には、発電設備の容量だけでなく、実際に運転して販売できる電力量まで確認する必要がある。
150MWの商業運転開始から継続収益につなげるための条件
2028年9月30日という商業運転開始目標を達成するには、NRCの認可に加え、カンザス州の承認や電力の引き渡しに必要な手配など、複数の条件を満たさなければならない。また、最大2GWへの拡張は工業団地の電力需要が増えることを前提としており、初期設備の運転開始と、その後の原子炉増設による供給拡大は別の段階となる。工業団地への企業誘致がどこまで進み、どれほどの電力需要が生まれるかが、設備の増設計画と実際の販売量の双方を左右する。
需要面では、入居企業が継続的に購入する電力量と実際の販売価格が、量産モデルの収益性を評価する重要な材料となる。供給面では、地下深部での熱回収と発電を含む統合的な実証を進め、必要な認可を取得できるかが焦点だ。経済モデルが想定する約93%の稼働率についても、容器の設置試験だけでは判断できず、実際の原子炉運転を通じた検証が必要になる。
今回の25年間の基本電力購入契約は、Deep Fissionの商用化計画を前進させるものだが、それ自体が長期にわたる一定の売上を保証するわけではない。入居企業の需要が継続的な電力購入につながり、地下深部での安定運転と商用認可が実現して初めて、長期契約の枠組みを実際の電力供給事業へと発展させられる。
