ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)のMarius Millotら8人は、ダイヤモンドを1兆パスカル級の圧力で衝撃圧縮し、原子配列を追いながら融解させた。約7,300K付近で結晶の回折信号は弱まり、融解が終わるまで観測されたピークは通常の立方晶ダイヤモンドと整合した。理論が予測してきた高圧炭素相「BC8」の明瞭な信号は出ていない。
研究成果は2026年8月13日、査読済み論文として『Nature Physics』に掲載された(DOI: 10.1038/s41567-026-03413-1)。新しい温度測定は量子力学に基づく計算と一致し、約20年前の衝撃実験が残した温度差を解消した。ただし、BC8が一切生じなかったと断定できる測定ではない。今回見えたものと検出限界を分けると、極端な圧力下で物質の「安定相」と「実際に現れる相」がなぜ食い違うのかが分かる。
1兆パスカルでも回折に残った立方晶
実験は、ロチェスター大学のOMEGA EPレーザー施設で3回のキャンペーンに分けて行われた。研究チームは、化学気相成長で作った厚さ約100マイクロメートル、直径2ミリメートルの微結晶ダイヤモンド円盤を使用した。定常衝撃12ショットと減衰衝撃7実験を組み合わせ、光学速度計と放射温度計で衝撃速度、温度、反射率を追い、X線回折で原子配列を記録した。
定常衝撃のレーザーは波長351ナノメートルだった。通常は約10ナノ秒、総エネルギー約2,000~5,500ジュールのパルス1本で試料を圧縮した。温度と圧力をそろって数値化できた9ショットは、656±32ギガパスカル、7,404±370Kから、1,269±20ギガパスカル、11,999±600Kまでに及ぶ。減衰衝撃7実験のうち、状態方程式の4測定点は1,281±11~1,743±9ギガパスカルだった。すべてのショットで全診断が使えたわけではない。窓のない2件と強い光電離が生じた1件では、定常衝撃の温度表を得ていない。
融解境界は約7,300K付近にあり、圧力が高くなるにつれて融点がわずかに下がる傾向を示した。高圧では液体炭素が固体ダイヤモンドより高密度になるという状態方程式と整合するため、固体ダイヤモンドが液体炭素に浮く領域があり得る。これは温度、反射率、回折強度を合わせた実験上の証拠であり、液体の原子配列を直接撮影した結果ではない。
12ショットが捉えた固体から液体への移行
X線回折の積分時間は約1ナノ秒だった。圧力を上げると、試料に由来する立方晶ダイヤモンドの111回折線とみられる信号は、衝撃速度が毎秒21キロメートルから24キロメートルへ上がる間に約10分の1まで弱くなった。さらに強い衝撃では回折線が消え、光学測定も流体化と整合した。結晶の割合が減る一方で液体の割合が増え、最後に結晶信号が失われたと研究チームは解釈している。
従来の温度測定と理論計算は、同じ1兆パスカル付近で一致していなかった。今回の光学診断は試料内の空間差と時間変化を取り込み、X線で結晶割合の低下も照合した。その結果、約7,300Kという融解温度は量子力学ベースの計算とほぼ一致した。旧実験の「融けた」という判断自体はX線回折で支持されたが、温度の校正は更新されたことになる。
一方、圧縮試料から明確に観測できた回折ピークは1本だけである。1本のピークから結晶構造を一意には決められないため、研究チームはピークを複数の構造へ割り当て、得られる密度を過去の測定と比較した。立方晶ダイヤモンドの111線とした場合は従来の密度と整合したのに対し、BC8の002線または112線とすると密度は従来値より約30%高い、または約30%低い値になった。BC8では説明しにくいという判断は、この突き合わせに基づく。
BC8を遠ざけたのは圧力より時間か
密度汎関数理論は、炭素のBC8相が約1兆パスカルを超えると立方晶ダイヤモンドより熱力学的に安定になると予測してきた。2023年の『Physical Review Letters』と2024年の『Journal of Physical Chemistry Letters』に掲載されたシミュレーション研究は、強い炭素結合を組み替えてBC8を核生成するには、二重衝撃や限られた圧力・温度経路が必要になり得るとした。これらは計算結果であり、BC8生成を観測した実験ではない。
多くの試料領域は、X線スナップショットを撮るまでにピーク圧力を2ナノ秒超経験した。既存の分子動力学・メタダイナミクス計算は、安定領域でBC8がいったん核生成すれば、1ナノ秒未満で立方晶を置き換えると予測する。それでもBC8線が見えなかったため、著者らは単一衝撃では核生成が始まる前にダイヤモンドが溶けた可能性を挙げた。実験が直接捉えたのは回折信号の推移であり、結合の組み替えを阻む速度論的過程はシミュレーションを踏まえた説明である。
検出限界も残る。最高圧力でも信号対雑音比は約10あり、結晶粒が十分大きければ、試料の約1%がBC8へ変わった場合に回折線を検出できるとチームは見積もった。だが、直径約1ナノメートル未満の結晶が作る幅広い弱いピークは背景に埋もれ得る。したがって結論は「まとまったBC8相の証拠がない」であって、「BC8が存在しない」ではない。
3倍の核融合利得はまだモデルの中
ダイヤモンドは、国立点火施設(NIF)の慣性閉じ込め核融合で重水素・三重水素燃料を包むアブレーターに使われる。最初の衝撃でアブレーターを均一に溶かせれば、表面の乱れが燃料圧縮を崩すのを抑えられる。従来設計は確実な融解のため、約1.2兆パスカルの強い第1衝撃を使ってきた。
今回の測定を使うと、ダイヤモンド中の衝撃速度は毎秒24.5キロメートルでも完全融解に届くと研究チームは見積もる。流体重水素中へ伝わる速度に直すと、現行設計の毎秒33~34キロメートルから28キロメートルへ下げられる計算だ。補足資料は既存の衝撃タイミング測定とスケーリングを使い、この変更でピーク圧縮時の燃料エントロピーが13%下がり、最小ショック断熱度は1.56から1.36へ低下すると見積もった。
「核融合利得3倍」は、この先の推定である。既存研究のスケーリングでは、飛行中の断熱度を10%下げると核融合反応の放出エネルギーが3倍になる関係が得られている。今回のOMEGA実験は核融合燃料を燃やして利得を測ったものではない。1次元計算に入らない不安定性などの劣化要因を制御できることが、その前提になる。
純炭素から惑星内部へ残る距離
天王星と海王星の内部では、炭素が高温高圧下で結晶化し、いわゆる「ダイヤモンドの雨」を作る可能性が研究されている。新しい融解曲線は惑星内部モデルの基準値になるが、実験試料は純粋な微結晶炭素であり、水素や酸素などを含む実際の惑星組成とは異なる。固体が液体に浮くという性質も、惑星内部で浮遊するダイヤモンドを直接観測したことを意味しない。
『Nature Physics』の論文は査読を通過しているものの、公開直後の単一研究である。LLNLは次にNIFを使い、より高い圧力と一連の多重衝撃でダイヤモンド構造の限界を調べる計画を示した。そこでBC8の有無と毎秒24.5キロメートルでの完全融解が再現されれば、惑星モデルの更新と低断熱度の核融合設計を、同じ実験データから一段具体化できる。
